さてさて。久しぶりに「昭和の少女漫画」を。
今回は非常にマイナーかもしれませんが、大谷博子です。
レディスコミック等で「翔子の事件簿」シリーズを描いているのでご存じの方も
多いと思うのですが、何をかくそう、この方もマーガレット出身。
彼女を一言で表すなら「清く正しく・・・正しいーー漫画家」って所でしょうか。
全て性善説 時々、イラつくんですけど、当時小学生だった私には非常に面白い作品群でした。
「通り過ぎた青空」(昭和49年 別マ)
登場人物・・・直子(表紙左)
晃(表紙右)
ストーリー・・・自殺未遂で病院に入院した晃。回りに当り散らしていたら、
突然直子が病室に入って来て「あなた、命いらないの?だったらあたしに頂戴」と
言う。
実は直子はガンで腕を切り落とさなくてはならない運命。
にも関わらず明るい直子にひかれ、晃は彼女と結婚したいと思うようになった。
しかし、直子は手術してもガンが転移しており余命いくばくもなく・・・・・
赤いシリーズに代表される「余命いくばくもの」というのは、少女漫画の王道中の王道で
今でも「世界の中心で・・・」系に繋がっていますよね。
題材にしやすいと思います。
なかでもこの「通り過ぎた青空」は、主役も相手役も清廉潔白。
直子の明るさや前向き度は今ではありえないーーって感じです。
「青春だから悩みます」(昭和49年 別マ)
登場人物・・・相原真美(表紙右)
一条潤也(表紙左)
ストーリー・・・真美は高校生なのに身長が144センチ。一方の一条潤也は195センチ。
背が低い事がコンプレックスになっている真美はバレー部に入りたいけど
代わりに雑用をやっている。
そんな真美を好きになった潤也は新聞部の同級生に頼んで、校内新聞の
一面に自分と真美のツーショットを撮らせて掲載。
これにはバレー部の先輩でひそかに潤也を慕う京子も面白くない。
それを利用して真美の存在を疎ましく思う不良グループが真美を陥れようと・・・・
実は潤也の妹は脳性まひでそれを苦にした母が心中してしまった過去があり
真美はその妹そっくりなのであった。
要するに健康な体を持っているのなら、背が低いとか高いとか、こだわる必要はない。
今の自分をありのままに受け入れて前向きに生きよう・・・・というお話です。
「この花をください」(49年 別マ)
登場人物・・・奈々(表紙右)
亮 (表紙左)
ストーリー・・・鈴村花園の一人娘、奈々は実は捨て子で養女。
16歳の彼女に叔母は見合い話を持ってくる。
奈々が見合いをすると知り、心ひそかに奈々を好きだった亮が
告白し、いざ結婚?
16歳の花嫁ってのもなんですが、亮って大学生なのよ。
大昔の「大学生」ってどんだけ大人だったんだろう。
奈々の養父母は娘が養女である事を知らないと思い、隠し通そうとします。
でも娘は知っていた。
亮との結婚を反対する理由は・・・・というところでお父さんが倒れちゃって。
つまり、生まれじゃないよ、育ちだよ。って事です。
「だから負けない」(昭和49年 別マ)
登場人物・・・早川めぐみ(表紙)
ストーリー・・・母がおでん屋を経営する家の娘、めぐみは名門高校で成績が
よく、この度、目出度く交換留学生として推薦された。
しかし、それに漏れた生徒の嫉妬がめぐみの出自を問題にする。
母が病気の時に店に出た姿を目撃され、高校生にあるまじき事をしたと
PTAで問題になり、結果的に留学はなしに。
あの当時、母子家庭でお酒を出す店をやってるってだけで「水商売の子」とか
言われて傷ついた人多数。
今や立派な「自営シングルマザー」なのにねーー
めぐみは正攻法で「私の出自がどうのといわれるのは構わないけど
母を悪く言わないで下さい」と言い切るんです。
そのあまりの清々しさに、穢れきった私などはくらくらしますが。
「うわさのあの娘」(昭和48年 別マ)
登場人物・・・三鈴(表紙左)
伸吾(表紙右)
ストーリー・・・16歳の三鈴は、彼氏の一人もいないし子供っぽいし・・・と
思っていたら友達はこっそり髪を染めていたのです。
そこで三鈴も髪を染めたら、真っ赤に。
かつらをかぶって学校へ行くもばれてしまい停学。
そんな時、伸吾が親戚の美容室に連れて行ってくれて
髪を染めなおしたり、色々やってくれて好きになる。
でも、「あいつは不良よ」と回り中から言われ、傷ついた三鈴は
高校を辞めると言い出した。
今時、髪を染めたくらいじゃ不良とは言わないけど、昭和40年代は違ったのです。
そりゃあ大変な騒ぎ。すぐに近所中に噂は広まり「あの子は・・・」とひそひそ声。
男性と二人で歩いてたらもう終わり。
なーんて時代もあったって事です。
伸吾は昔、ちょっとぐれた事がもとで「悪」のレッテルを貼られてしまったけど
本当はいい人。だけど、そのレッテルは「自分がやってしまった事の結果」として
素直に受け入れて前向きに生きてる・・・・そういう事を言いたいお話です。
大谷博子は、ちょっと特殊な別冊マーガレットの中で、唯一、正統派の
「少女漫画」を描く人でした。
しかも完璧に文部省推薦、教科書にも載っていいくらいの「清く正しい」漫画を。
今読んでも、その道徳的な価値は十分にあります。
それにしても16やそこらで「結婚」だの「大人になりたい」だのって・・・あの当時の
女子は偉かったわねーー