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韓国史劇風小説「天皇の母」166(進撃のフィクション)

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「一体どういう事だ」

部屋に珍しく怒鳴り声が響いた。

そこにいた侍従も女官も震え上がり、ただひたすら平伏する。

「落ち着き遊ばして」

やっとの事で皇后が言ったが、自らもショックのあまり、女官の支えなしでは

立っていられないようだった。

「皇后陛下。少しお休みに」

女官長の勧めに、皇后はとりあえず椅子に座ったものの、水を飲む気力すらない。

「なぜ。こんな。誰が皇太子妃の人格を否定したというのだ。

しかも公の記者会見で話すとは。これではまるで宣戦布告じゃないか」

天皇の怒りはとどまる所を知らず、かろうじての理性でものを壊さないでいる・・といった具合だ。

「東宮大夫」

東宮大夫は天皇の怒りに触れて、さすがに歯がガチガチ鳴っている。

官公庁を経て宮内庁に入り、東宮大夫としての責務を負っているが、戦前のように

天皇を神格化した事は一度もない。

皇太子夫妻に関しても同じだ。そこらへんはやはり現代人なのだと思う。

しかし、現実に今、こうして怒りをむきだしにされると・・・とても怖い。

「私が事前に読ませて頂いた原稿とは違っておりました。どうしてそのような事になったのか

私にはわかりかねます」

「皇太子が自分で違う原稿を渡したというのか」

「・・・・・」

「逆に、皇太子が渡された文書があれだったとは考えられませんか」

皇后が言った。

「皇太子は回りに従順な人です。誰かを名指しで陥れるような事は言いません。

あの文章はどうみても皇太子が書いたとは思えませんもの。誰かが仕組んだのでは」

「皇太子がワナにはまったと」

東宮大夫は何と答えたらいいのかわからない。

皇后の意見は「ありうる」事かもしれないが、誰が何の為に皇太子を陥れ、目に見えない

誰かを責め立てるような皇族らしくない振舞をさせる?

そんな・・・まるで時代劇のような事があったとでもいうのだろうか。

むしろ、皇太子が自分であの文書を用意したとみる方が自然だ。

何と言っても皇太子は、結婚前、宮内庁の護衛を騙して鴨場に行ったくらいなのだから。

いや、まてよ。あの時も誰かが知恵をつけたと言われていた筈。

こういっては何だが、皇太子は自分で物事を判断する能力が全くない。

だから回りに影響されやすいし、騙されやすいし・・・・

皇后が「わなにはめられたのだ」と言い出したのも、要するに息子の判断力を信じていないからだ。

「馬鹿を言ってはいけない。皇太子はもう40を超えた大人だぞ。

こんな単純に騙されて、粛々とあの文章を読むなんてありえないだろう」

「途中で記者会見をやめたらそちらの方が大問題になります。それに優しい皇太子は

心のそこから妃の身を案じています。自分の本意と多少違っていても、あれだけ妃を

擁護する文章がちりばめられていたら読んでしまうのでは」

皇后は意見を曲げなかった。

天皇はため息をついて椅子の背に背中をつける。

普段は本当に姿勢のいい人だけに、側近は「どこか具合が悪いのでは」と心配した。

「しかも、いい逃げだ・・・・」

「それは公務ですから」

「なぜ、このタイミングでこんな事を言い出したのかが問題だと言っているんだよ。

ミー、息子を庇いたい気持ちはわかるが、今回の事はどうみても皇太子が悪い」

皇后は黙ってうつむく。

「一体誰が東宮妃のキャリアや人格を否定したというんだ?東宮大夫」

「わかりません。本当に。申し訳ございません」

とりあえず謝るしかないと判断した東宮大夫は深々と頭を下げた。

「宮内庁長官がこちらに」

通されて入って来たのはユアサ長官だった。

彼は深刻な顔で入ってくると一礼する。

「陛下・・・」

「ユアサ、これは一体どうしう事なのか」

「私が思いますに。皇太子妃殿下は数々のストレスを感じてこられたという事だと思います。

ハヤシダ東宮大夫、そうではありませんか」

「それは・・・」

「どんなストレスなのか」

「お世継ぎを期待されるストレスと、外国訪問がかなわなかったストレスです」

「世継ぎはわかるとしても、なぜ外国訪問出来ない事がストレスなのか?そんなに海外に行きたかった

のか」

「妃殿下は外務省育ちでございますから、いわゆる言語が御得意で・・・」

「私から見ると決して社交的には見えないがね」

「妃殿下は社交をしたいのではなく、外交をなさりたいとお考えだったようです。

それで皇室に入られたと。しかし、お世継ぎを期待され、私達宮内庁が外国訪問を制限した為に

ストレスを抱え、さらにトシノミヤ様が内親王であらせられたことで猶更、達成感を持てなくなった

といいますか、皇室にいる事自体にストレスを感じてしまったというか。

皇太子殿下は、妃殿下にこのようなプレッシャーを与える皇室の存在が間違っていると

お考えなのです」

一同は言葉も出なかった。

皇后はめまいを訴えて水を飲み、コップを口に運ぶ動き以外はまるでストップモーションの

ように全員の動きが止まったかのようで。

「私もキコ妃も働いた事がないし・・・子供にもすぐに恵まれたし。そう思うと東宮妃には

可哀想な事をしたかもしれません」

皇后はやっとそう言った。

マサコの上昇思考(あくまで皇后の印象なのであるが)は理解出来た。

結婚というのは、ディズニーのお話のように、「王子様と結婚しました。めでたしめでたし」で

終わるものではない。

「恋愛」以上の何か・・・「野心」がなければ結婚生活は出来ない。

皇后が若かった頃、ほとんどの女性は20代前半で誰かと結婚し、

専業主婦になったものだ。

「誰かの色に染まる」「苗字が変わる」事が女性の最大の幸せであると教えられた。

しかし、一方で、皇后のように「女性としてより一人の人間として自己実現したい」と

思う派もいた事は確かだ。

皇后が、あの時代にしては晩婚だったのも、

どこかにそんな「自己実現」の根が生えていないかと

探していたからだったかもしれない。

皇太子からの求婚は、そういう意味では渡りに船だった。

そういうものだと思っていた。

アキシノノミヤ妃が登場するまでは。

キコは最初から「自己」というものがないように見えた。

それは妃としては普通の生き方ではあったが、時々勘に障る事もある。

それに比べると、マサコの「自我」はわがままではあるけど、どこか共感できる。

「ユアサ、皇太子夫妻は確かに外国訪問が少ないとは思う。

しかし、それは

世継ぎ云々だけではない事は、ユアサもわかっているだろう」

「はい。それはもう。しかし、皇太子ご夫妻にはおわかりにならないのでございます。

いや、お認めになりたくなかったのかも」

単純に「海外行きが少ない」といっても、先帝の時代とは違い、皇太子夫妻が結婚した頃は

戦争やテロが頻発し、世界中の王室が徐々に「王室外交」を狭めていく時期だった。

そもそも、外国要人が来てもまともに会話一つ出来ず、

相手を不愉快にさせてしまうのはマサコの方だった。

震災があったにも関わらず中東へ行ったかと思えば、なかなか被災地に慰問に行かず

それゆえにあのダイアナ元妃が被災地訪問出来なかった経緯もある。

ベルギーへ行けば皇室の悪口を言い触らし、挙句の果てに流産して、あちらの王室に

謝られる始末。

このような状況下で、下手に海外に出せば、それこそ大恥をかいてしまう。

そもそも、そんなに外国へ行きたければ、今回のように軽井沢に逃げたりしなければよかった。

「それでも、私達の頃に比べたら・・・少ないかもしれません」

また皇后が言った。

「私達は、皇太子妃とは異なる環境で過ごしてきたのです。だから気持ちがわからなかったのかも

しれません。知らずに辛い思いをさせていたとしたら、申し訳ない事ですわ」

「だからといって記者会見であんなことを言っていいというのかね」

天皇が反論した。

「先ほどから聞いていると皇后は随分と皇太子夫妻に甘いようだ」

「そのような事は。だったらもう何も申しませんけど」

場の空気が悪くなる。

「ただ・・・私達が当たり前に感じている事が東宮妃はそうでないというのは理解できます。

世の中の常識と皇室のしきたりの間には隔たりがあるとも言えますし。

頭ごなしに否定するのではなく、寛容に見守る事が必要です」

「頭ごなしに否定したのはむしろ、あちらだと思うがね」

「とりあえず、私が皇太子殿下のご真意をお聞きし、報告いたします」

ユアサが言った。

「ここで陛下が直接真意をおただしになる事は得策とは申せません」

「その通りです。私も何とかお聞きします」

ハヤシダも頷く。

「皇太子妃の様子はどうなのだ。一体、どう疲れ切っているのか。最近では公務もほとんど

出てこないし、祭祀だって・・・そんなに具合が悪いのか。医師には見せたのか」

「妃殿下の・・病気というんでしょうか。心の在り方は医師の力ではなんとも。精神科医が

おりませんので」

「精神科医」

天皇は驚いて体を浮かせた。

「精神病なのか」

ハヤシダは答えに窮する。心の病についての知識はないし、本当になんと言っていいのか

わからない状態なのである。

「トシノミヤ様があのような状態とわかってからの妃殿下は、どこか投げやりであらせられ、

朝は起きてこられず、夜はお休みにならない。気まぐれで機嫌がよい時と悪い時があり

特に軽井沢から戻られてからは、ろくに女官や侍従と会話をされなくなり、部屋に閉じこもって

おられます。みな、心配して侍医にお見せした方がいいと申しますが、妃殿下がご承知下さらず。

どうにも回りが信用できないとおっしゃって。

毒を盛られるとか、東宮御所から追い出すつもりかとか、私達からみて、尋常ではないのです。

しかし、皇太子殿下が妃殿下の嫌がる事は極力しないようにとおおせで。仕方ないので

みなでお見守りしているような状況でして」

ハヤシダの告白に、天皇も皇后も顔色を変えた。

まさか、そこまでの状態になっているとは。

「トシノミヤの事はショックだったろうと思う。だから早く療育するべきではないのか。

正直、東宮妃にこれ以上、子供を産んで欲しいとは思わないが」

「そこが問題なのでございます。妃殿下はトシノミヤ様の事は絶対にお認めに成りません。

そうかと言って、お世継ぎ問題から外されるのもお嫌なのです。と、私が見ております」

「つまりどうしたいと」

「・・・・・・私の口からは」

「これは東宮妃の・・・いや、皇太子夫妻の独自の考えではないだろう」

「・・・・私もそう思います」

ユアサも同意した。

皇室の根源にかかわる事に手を出そうとしているのだ。皇太子夫妻は。

その「根源」が皇太子妃を苦しめているとは・・・・

皇室としての存在を否定されているようなものだった。

とても理解できる筈がない。

ユアサもハヤシダも裏に皇太子妃の実家がいると、喉まで出かかっている。

でもそれは言えなかった。

そんな、あまりにも小説じみた陰謀を口にするには、天皇は清らかすぎたのだ。

 

そうこうしている間にも、事はどんどん進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 


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