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韓国史劇風小説「天皇の母」168(哀のフィクション)

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平凡な家の平凡な娘に生まれた。

ただ、人よりちょっと勉強が出来たので、そこそこの大学の英文科に進んだ。

得意科目が英語だったから。

バブルの絶頂期。いつはじけ飛ぶかわからない時代。

ディスコは下火になりつつあったけど、「3高」は健在。

ロレックスの時計をしてソアラでアッシー君が送り迎え。

女が強気の時代だった。

おりしも男女機会均等法時代。

仕事も家庭もと欲張っる人が多かったけど、私はそんな事思ってもみず。

「寿退社」が夢だった。

まさか、それが実現するなんて。

学生時代にたまたま行った合コンで、お互いノリが悪いと回りに言われて

カラオケハウスから出た時、一緒にドアノブに手をかけた彼。

一目ぼれだった。それは多分彼もそうだろうと思う。

東大で外交官志望。

無口だけど、とっても優しい人だったので、

就職2年目で目出度く「寿退社」

彼は外務省に無事入省できて

海外勤務には妻の同伴が必須、じゃあ、すぐ結婚しようって。

誰一人、この結婚に反対する人はいなかった。

平凡なサラリーマン家庭の娘が、そこそこに古い、由緒ある家に嫁いだ。

立派な「玉の輿」

だから結納金は100万と「普通」でも、姑がその姑から受け継いだ指輪をくれたりして。

何となく「選ばれた」自分にうきうきした。

その年は、皇太子妃が内定し6月に結婚するという。

「私達も6月がいいんじゃない」と言ったら、姑が首を振った。

「6月は日本では梅雨時よ。意味ないわ。秋になさい」

「でも皇太子妃殿下と同じ時に結婚出来るなら」

「そういう流行りに乗る人が多いから6月は予約で一杯。悪い事を言わないから

秋になさい」

義母の意見は確かだった。

だってその日、6月9日は豪雨だったんだもの。

「傘をさして、屋根がある所でもドレスが汚れてしまうわ。お気の毒に」

義母はテレビを見ながら言った。

「あのマサコさんって3代前が不詳なんですってね。皇室ともあろうものが

なんだってそんな所から嫁を貰ったのかしら。それに比べてうちは幸せよね。

大した所じゃなくてもちゃんと日本人だしね」

「お母さん」

彼氏が珍しく声を荒げた。

「僕の前でそんな事言わないで。僕は外務省勤務でマサコさんは同僚だったんだから」

「そうは言っても有名な話じゃないの。しかもチッソの孫だし。嫁の出自は大事だわ。

跡取りを産んで貰うんだからね」

彼はあたまをかいて首を振った。

その時は、単純に「人のよしあしは出自ではない」と思っていた。

彼女はハーバード大を卒業して外務省に入省し、父親も外交官と言うエリート一家。

人も羨む家系だもの。

「本当はどうなの?」とちょっと聞いたら彼は

「人のよしあしは出自じゃない。君の家柄がどうであれ、僕は君を選んださ。

ただ、出自は関係ないけど思想は問題だよね。出自に裏付けられた思想がさ」

何を言ってるのかさっぱりわからなかった。

 

秋になって結婚式を挙げた。

神社で式をあげてお色直しは3回。

婚礼セットは桐の箪笥3点と羽毛布団2組。

その程度しか用意できなかったけど、両親の思いに感謝した。

「きっと幸せにするよ」と彼は言ってくれたから。

新居は都内の一戸建て。とはいっても彼の実家の敷地内だったけど。

「スープの冷めない距離」にいる姑。

二世帯住宅だと思えば苦でもない。

そのうち、彼は海外に赴任する事が決まり、私は当然同伴。

外交官の妻というのは大変だった。

奥様同士にも夫の地位がそのまま降りてきて、まるで24時間みはられているよう。

しかもお付き合いを無視はできない。

ホームパーティを開けば「どれだけ自分の手作りでいいものが出来るか」の自慢大会。

本当は料理人に作らせたものでも、しらっとして

「私が作りましたの。料理は趣味です。夫が私の手料理を喜ぶものですから」と笑う。

そんなみえすいた嘘をつかなければならないのが、奥様同士の付き合いだった。

大学時代まで得意だった筈の英語は、実践では何も役に立たなかった。

慌てて英会話を習う始末。

 

そんなこんなで3年の月日が過ぎた。

子供が出来なかった・・・・なぜなのかわからない。

優しかった義母が少しとげとげしくなってくる。

「三年子なきは去れ・・って知ってる?」などと言う。

正直、傷ついた。

病院に行ってみようかと思った。でも恥ずかしい。

もし不妊の原因が自分にあったらどうしよう。

誰にも相談できなかった。外国に行く機会も多かったし、病院にじっくりかかる

時間すらなかった・・・というのは言い訳にすぎないのだけど。

女性週刊誌ではたびたび皇太子妃の不妊が伝えられていた。

「高貴な人ですら、悩むのね」と同情した。

公人の宿命とはいえ可哀想だ。子供を産むとか産まないとかどっちだっていい。

あの人は「自己」を確立しているんだもの。

そこらそんじょの専業主婦とは違うんだもの。

いらいらした。

ある日、とうとう姑にせかされて病院を受診。

原因がはっきりしない不妊だった。

すぐに治療を開始しろと言われて、毎月病院に通うようになった。

費用はばかにならない。体への負担も大きい。

どうして女ばかりこんな目に会うんだろう。

そりゃあ、彼だって大変なのは知ってる。

気分が乗らない日だって・・・そこを踏ん張る彼の姿を見ると

有難くて涙が出ちゃう。

だから、不平不満を言わず、頑張らないと。私が頑張らないと。

でも、いくら外交官とはいっても収入にはキリがある。

6年目・・・ついに貯金が底をつき、諦めようと思ったその時。

思いもかけない「妊娠の兆候」

夢ではないかと思った。

彼も大喜び。「最高だよ。僕らが親になるなんて」といって抱きしめてくれた。

そんなに嬉しかったのか・・・・この人はずっと我慢していたんだなと思ったら

本当に申し訳なかったし、頑張って産もうと思った。

姑も泣きださんばかりに喜んでいる。

「よくやったわ。まあ、一時は本当に心配したけどね」

と。

皆が望んでいる。お腹の子供を。

そんんあ大切な役割を自分が負ってるのだと思ったら誇らしかった。

体を冷やさないように、体に悪いものは何一つとらないようにしよう。

適度に運動をしつつ、お腹の子にクラシック音楽をきかせる。

幸せだった。穏やかに出産を待ち望む生活。

これこそが「幸せ」なんだろうと思った。

ところが・・・・・・その子供はあっという間にお腹の中から消えてしまった。

流産だった。原因はわからない。

天国から地獄へ突き落された瞬間、自分は意識を失って倒れたらしい。

目覚めた時にはすでに全てを失っていた。

傍らには涙を浮かべた彼と、怒り顔の姑。

「だから気をつけないさいって言ったじゃないの。今時の人は妊娠しているのに

薄着をしたり、ハイヒールをはいたり。そんな事をするから」

「お母さん。彼女はそんな事してないよ」

「だったらどうして流産するの?ねえ。気をつけていたならする筈ないでしょ」

「きっと・・・これがこの子の運命だったんだ」

「運命ですって?我が家に跡取りが生まれないのが運命だっていうの?ああ・・・

全く、家柄も血筋も関係なく嫁に貰ってやったのに。子供一人産めないとはね」

胸に突き刺さった。

いつも笑顔で優しかった姑が内心こんな事を考えていたなんて。

ひどい。本当にひどい。

人間ってこういうものなの?

泣いた。彼と一緒に。彼は一晩中抱きしめて一緒に泣いてくれた。

目は腫れあがり、涙も枯れたけど、それでも悲しみはおさまらなかった。

しかし、男というのは「仕事」がある。

目が真っ赤になっても仕事には行かなくてはならない。

環境が変われば・・・との配慮なのか、また海外に赴任。

外国の風景も奥様方との付き合いももうごめんだった。

この傷ついた心をどうやって癒したらいいのか。

多くを望んだわけじゃない。

普通に結婚して普通に子供がいて。そんな生活がどうして許されないの?

私は前世で何か悪い事をしてきたのだろうか。

「そうかもしれないわね」

取りとめのない愚痴に真顔で返事をした人がいた。

彼女は夫の上司の妻だった。

「前世の因縁というのはなかなか断ち切れないものよ。でも、その方法があるの。

一緒に頑張ってみない?

私も色々辛い事があって悩んだり苦しんだりしたのよ。でもそんな時

救ってくれた人がいたの」

彼女はそういって、一冊の本を渡してくれた。

これは・・・あの有名な学会ではないか。

「読んでみなさいよ。感想を聞かせて頂戴」

「でも私、宗教には興味がなくて」

「宗教じゃないわ。まあ、そう思ってもいいけど。でも本を読んで気持ちが楽になるなら

いいんじゃない事?」

押し付けられた本を・・・夫の帰りが遅い日の夜に読んだ。

眼から鱗だった。

そうか・・そうだったのか。私はすっかり目の前が明るくなるような気がした。

彼が帰って来てからすぐにこの話をした。

すると「知ってる。君に話そうかどうか迷っていたけど」

何でも彼は外務省の中にある「オオトリ会」というのに誘われているそうだ。

一つの「信仰」「思想」によってつながった関係は非常に心地いいらしい。

話を聞くうちに、もし「信仰」の中にどっぷりつかっていけば

出世の道が開けるかもしれない。もう一度子供が授かるかもしれない。

そう思えたようだった。

仕事の分野で彼も一つの壁にぶつかりつつあったし、私は私で

一日ごとに妊娠する可能性が低くなっていく事に怯えていた。

私達はもう何も言わなかった。

翌日にはたすきをかけ、長い数珠を持ち、「朝夕のおつとめ」を大声で唱え始めた。

ベニヤ板で作った大きな仏壇。

お題目が書かれた掛け軸を真ん中に置いて、

水が入ったコップを沢山並べて、それから先祖の位牌も。

そこには名前もなく死んでいった私の子供のものも。

「お経を上げる事は先祖へのごはんである」

そんな教えに必死にすがりつく。

先祖にご飯をあげないわけにはいかない。だから必死にお題目を唱える。

 

おりしも、皇太子妃の妊娠の兆候が発表された。

よかった・・・と思ったら、すぐに流産の報道。

私は目の前が真っ暗になった。

ようやく少し楽になった気持ちがまたもどん底に突き落とされたのだから。

皇太子妃の流産はマスコミが勝手にリークして、勝手に報道したせいらしい。

可哀想に!!

なんてお可哀想なんだろう。

「妊娠」というプライベートな事を勝手に報道するなんて。心無いにも程がある。

反論できない弱い皇太子妃に対して、何という不敬。

私は心から同情した。

「本当よね。マサコ様はお可哀想。本来なら女性初の総理大臣って言われたかも

しれないのに。好きでもない皇太子殿下に嫁いで。彼女は私達の為に

人身御供になったようなものよ。

なのに流産まで・・・・お可哀想」

私を学会に誘ってくれた奥様はそう言って大げさに涙を流した。

そして言った。

「知ってる?マサコ様も信者なの。皇太子殿下もなのよ。

皇族だって心の傷には勝てないのよ。私達も祈りましょう。

マサコ様のお幸せの為に」

私は大きく頷き、彼と一緒に朝に夕にお題目を唱え続けた。

隣に住む姑は唖然として、何度も私達に「やめなさい」と言ったが

そんな事言われる筋合いはなかった。

「うちは代々浄土宗ですよ。どうしてそんな新興宗教なんて」

「お母様、法然も親鸞も間違っています。本当に正しいのは日蓮です。

そして法華経こそがもっとも偉大なお経なんです。私が流産の悲しみを乗り越えて

今を生きる事が出来るのは、法華経とイケダ先生のおかげです」

「ああ・・・・」

それっきり姑は私達の家に顔を出そうとはしなくなった。

 

私達は布教をする一方で、仲間内の集まりにもよく顔を出した。

同じ信仰を持つ仲間との語らいは心が休まった。

そんな日々の中、ついに皇太子妃がご懐妊したという知らせが飛び込んできた。

私は婦人会に身を置き、毎日、先祖に妃殿下の無事のご出産を祈った。

そして、私にも素晴らしい事が。

再び妊娠したのである。

これこそ、イケダ先生のおかげだと思った。

それまで、半信半疑な所もあったかもしれない。それは私の至らぬ部分だった。

イケダ先生は、その御業を私にお示し下さったのだ。

彼もまた同じ気持ちだった。

私達は二人で・・本当に二人きりで今度こそ無事に赤ちゃんを産もうと誓い合った。

 

皇太子妃が出産したのは12月1日。土曜日。

内親王誕生だった。

日本中が歓喜にわいた。

トシノミヤアイコ内親王殿下。

そして私が出産したのはそれから半月ほど後。

やっぱり可愛い女の子だった。

内親王には遠く及ばないけれど、幸せに育てたい。

姑は孫の顔を見に来なかった。

きっと女の子だったからだろうと彼は言った。

男女差別だと思った。

今時、跡取りだの家だのって関係ないじゃない。

女の子で何が悪いの。

日々、すくすくと育つ我が子の顔を見る度、幸せに泣きそうになる。

姑は・・赤ちゃんの泣き声くらい聞こえているだろうに。

 

私達の小さな娘は利発だった。

1歳を迎える前に喋りだし、歩くのも早かった。

絵本はうづらちゃんが大好きで、よく読んで聞かせた。

平凡な親子三人の生活。

そこに思いもかけない話が持ち上がった。

「え?うちの子をアイコ様のお友達に?」

「そうだよ。オオトリ会を通じて話が来たんだ」

「まさか。学友は家柄tか血筋で決まるんじゃないの?」

「外務省関係者の子がいいってさ」

程なく私達3人は、本当に東宮御所に呼ばれた。

宮内庁差し回しの車に乗って、まるで夢のお城に行くようだった。

私達は娘が泣いたりぐずったりしない事を祈った。

 

東宮御所の一室で暫く待たされると、そこに・・・・皇太子ご夫妻が。

女官に抱かれたアイコ内親王の顔をみてびっくり。

私達の娘とよく似ている。

恐れ多い事だけど、我が家の娘が似ているなんて光栄だ。

「この度は・・・」

「硬い話は抜きにしましょう。これからアイコをよろしく」

皇太子殿下は柔らかにそうおっしゃってにっこりされた。

マサコ様は「今度、御用邸に招待するわね。そちらの娘さんもご一緒に」と

おっしゃった。

娘はすぐに場の空気になれた。

「うずらちゃん」の絵本を見つけると、とことこと歩いて楽しそうに開く。

それを皇太子殿下は持っていたカメラで撮影し始める。

愛子内親王は隣で、一人絵本を開いたり閉じたりしていた。

本を読むというより、開いたり閉じたりすることに興味があるようだった。

娘は本をさかさまに開いて、いつも私が読み聞かせする言葉を

次々に発して言った。

「もういいかい。まあだだよ」

恐縮する私達を皇太子は「いいんですよ」と言いながらカメラを回していた。

「もういいかい。まあだだよ。もういいかい、まあだだよ。

どこへ行ったのかな・・・その時、風が吹いてきて・・・パパも」

娘は本が読めるわけではない。暗唱しているのだった。

彼が後を続けようとすると、皇太子殿下が

「いくら呼んでも応えはありません」

娘は「おしまい」と言って本を閉じた。恐れ多くも皇太子殿下が

話しかけてくださったのに。

「可愛いわね。アイコのいいお友達になるんじゃない?」

マサコ様は気さくにそうおっしゃって、子供達を皇太子殿下に

お任せになり、私達を隣の部屋に案内し、おいしい紅茶を入れて下さった。

私達はますます恐縮して、冷や汗が出る。

マサコ様は「やあねえ。外務省で一緒だったじゃないの。気楽にして頂戴」

楽しい会話に一時浸ってしまい。

それからどうやって帰ったかもあまり覚えていない。

それからの私達の生活は・・・・全てが変わっていったのだった。

平凡な家の平凡な娘が、たまたま結婚した相手が外務省勤務だった。

たったそれだけの話だったのに。 

 

 


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