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花組 エリザベート  1

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 考えてみると、エリザベートの初演が1996年ですから

あれから18年が経過しているという事になりますね。

初演を見ていない人も多くなりました。

そういう事も踏まえて語って行きたいと思います。

 「エリザベート」の歴史

宝塚は沢山の海外ミュージカルを上演してきました。

ブロードウエイミュージカルに関しては、ほぼアメリカと同じような形で。

でも、ウイーン発「エリザベート」は宝塚で上演するにあたり

小池修一郎氏が直接ウイーンに出向き、ミヒャエル・クンツェ氏や

シルベスター・リーバイ氏と話し合って、「宝塚版」という形を作り上げた

初めての海外作品になります。

ウイーン版の初演が1992年。確か小池氏はこの音楽をCDで

知ったのではなかったでしょうか。

「ロストエンジェル」でエリザベートの曲が使われ、さらに「エキゾティカ」でもキッチュが

使われ、単独の楽曲としては「聞いた事がある」人もいたでしょう。

小池氏は宝塚は女性だけの劇団であり、男役が主役である事を説明し

原作ではエリザベートが主役であるけど、宝塚ではトートを主役にして作り替える事を提案。

それから紆余曲折を経て一路真輝のさよなら公演として上演されました。

 

当時のエピソードとして、楽曲の難しさがよく取り上げられます。

それまで宝塚では、歌でつづるミュージカルの上演経験がなかった為

とにかく四苦八苦ししたと・・・・もし、一路が途中で倒れたら、すぐに役替わり出来るように

そっちの稽古すらしていたという、とにかく気合いの入れ方が全然違っていたのです。

多分、ウイーン版も衝撃的だったと思います。

それまでの普通の「歴史ミュージカル」と違って、ロックスターのいでたちトートが

人間であるエリザベートに恋をするわけですから

主役はあくまでエリザベート。

狂言回しのルキーニ、死であるトート、皇帝フランツ・ヨーゼフ。これらの男性達が

絡んでいくわけですが、宝塚版では「トート」が主役。

そこで、トート用に新しく作られたのが「愛と死の輪舞」です。

 

一路真輝のさよなら公演なのに「死」が主役ってどういう事?と当時のファンは

怒ったとか何とか。

ポスターを見る限り、白いかつらに紫のシャドウ、黒づくめの衣装は決して華やかとは

言い難かったかもしれません

一路は小柄だったので、出来るだけ装飾を避けた衣装で、手袋をして大きく見せました。

「愛と死の輪舞」によって、明確にトートがエリザベートに恋をした・・・という恋愛劇に仕立てました。

この舞台の衝撃度をどのように表現したらいいのかいまだにわかりません。

 

轟悠のルキーニが出てきた瞬間、場の雰囲気が異世界に変わっていくのです。

沢山の死んだ人たちが歌うナンバーに圧倒され、そして可愛いエリザベートの登場。

それからは、まさに自らの人生に重ね合わせるようなエリザベートの姿に

大いに同情し、共感し、共に泣いたりしたものです。

「あんなに素敵な死神がいるのなら、今すぐ死んでもいい」と思う女性も多々いたようで

(それくらい日常では辛い日々を送っていた「嫁」が多かったんです)

それを阻止するために「死は逃げ場ではない」というセリフを加えたとか何とか。

 

一路真輝のトートは圧倒的な歌唱力で、全ての欠点を補いました。

いやもう、歌がうまいとかのレベルではなく、ひとたび歌いだすとその度迫力ったら

なかったのです。

小柄であるとか、無表情であるとか・・・踊れないとか、そんな事はもうどうだっていい。

誰よりも美しく毅然としたトートの響く歌声に酔いしれたと言っていいでしょう。

花總まりのエリザベートは、これまた「本物はかくあったかも」と思うような、氷のような女性でした。

自分にしか興味がない、誰かに思いをかける事が出来ない、でも誰よりも美しくゴージャスな

エリザベート 

彼女の「美」とドレスの美しさは、全ての筋立てを納得させる、疑問の余地を挟まないものでした。

 

轟悠のルキーニは、ドスの聞いた声と男にしか見えないビジュアルで、「あたり役」になりました。

あの黒いジャケットと縞模様のインナーが似合うジェンヌは彼女だけだったかも。

そして高嶺ふぶきのフランツ・ヨーゼフも、本物がいたらかくありきだったろうと思わせました。

上品で優しくてでも厳しさも持っている 高嶺のフランツがあったからこそ、花總のエリザベートに

全ての女性の共感が集まったのだといえます。

ルドルフの香寿たつきは実年齢にふさわしい皇太子。私が東京でみたのは和央ようかで

非常にハンサムで壊れそうな皇太子ぶりに目を見張りました。

小さいルドルフの安蘭けいは、そのエンジェルボイスで観客の目をくぎ付けにしたし、

星奈優里のマデレーネの美しさといったら!

フィナーレの群舞、パレードの華やかさ。まさにこれこそ「宝塚」であると思ったものです。

当時はほとんどのファンが、ビデオを買って擦り切れるほどみて、歌もセリフも全部

覚えたものでした。

 

そんな一路真輝の為の「エリザベート」がなぜ、すぐに星組で上演されたのか。

上演権があるうちにやっちゃえ・・・という事だったろうと思います

でも、それを1996年の東京で「二人だけが悪」を見ながら、聞いた私は絶句してしまいました。

当時はまだにわかヅカファンだったとはいえ、麻路さきが歌唱力に問題を抱えていた事は

わかります。

しかも全部歌っ 一体、何の冗談だろうと。

それは麻路も同じで、珍しく歌劇団に「辞退」を申し入れに行った事は有名です。

しかし、歌劇団は「やりたいとかやりたくないとかいう問題ではなく、もう決まった事」と

言ったそうで

トップスターに合うか合わないかは別として、そういう風に一蹴する所は

今も昔も変わっておらず、大概は失敗するという事を未だ学んでいないようです。

麻路は本当に悩んだようで、あまりに悩むので小池修一郎が麻路の希望は

何でも取り入れたとも言われています。

麻路さきがやった事。それは

 徹底的なボイストレーニング

 一路版を踏襲しないビジュアル作り

 自分なりのトート役の解釈

でした。誰もが銀色のカツラで現れると思っていたら、金髪の白塗りで登場。

「死」というより「黄泉の皇帝」部分を前面に押し出し、大柄な体型をいかした衣装に。

一幕ラスト、銀橋から登場する部分や、衝立からにゅっと手を出すシーン、

エリザベートに拒まれて部屋を出るなり落ち込むシーン、死んだルドルフの棺桶にひょいっと乗るシーン

昇天していく時、さよならだった白城あやかを立たせ「よくみておきなさい」の

メッセージを込めた振り・・・どれをとっても斬新で素晴らしかったと思います。

その後、この「星組版」がベースとなって宙・花・月・雪・・・と続いて来たのです。

 

 トートという役のむずかしさ

私達は宝塚版を見る時、トートが主役である事を当たり前のように見ていますが

果たしてそうでしょうか。

ストーリーはウイーン版と同じようにエリザベート主導で動いていますし、

ラストシーンに至るまで、トートの見せ場というのはあまりないですね。

でも、歴代トップスターはトートを「主役」の格から落とす事はなかった。

一路も麻路も姿月も春野も水も彩輝も瀬奈も・・・です。

無論、その時々のトップに合わせてシーンの改変や衣装の変化などがなされて

来たからです。

しかし、今回の花組を見てつくづくトートを主役にするというのは難しいのだと

思いました。

それを当たり前にやってのけた初演の雪と星は本当にすごい組だったし

それを当たり前のように見ていた私達はなんと幸せ者だったかと思うのです。

 

エリザベート役に関してもそうです。

花總まりが、あのように研ぎ澄まされた美を持ち、自前で豪華なドレスをこれでもかっと

作ってくれたから、私達は酔いしれる事が出来ました。

白城あやかの純白の衣装と、2幕目の「皇后ぶり」に何度涙を流した事でしょうか。

タカラジェンヌというのは「普通」の娘ではない。

その立ち居振る舞いや衣装の着こなし、喋り方に至るまで「上流」でなければいけないのだ。

そんな特別な世界に私達はいるのだと思わせてくれました。

だからこそ、エリザベートの悩みが正当化されるわけで、そうでなければただのわがまま嫁です。

 

 

 


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