どんな偉大なトップスターであろうとも退団していく。
これが宝塚歌劇団の宿命です。
とはいえ、柚希礼音がいない宝塚を想像すると背筋が寒くなるのも事実で。
大型すぎる新人時代
私は新人公演を見る事が出来ないので、いわゆる「新人」にはうといです。
本公演で重用されるようになるまで、名前と顔が一致しない。
それは今も同じ。ゆえに大きな事が言えた義理ではないんですけど。
ただ、85期に関しては、下級生の頃、ちょこっと関わった事があり
入り待ちや出待ちを続けていたこともあったので、他の下級生よりは
素顔を見ていた・・・かもしれませんね。
柚希礼音の名前を最初に知ったのは石井徹也氏の本の中です。
彼は新人公演も音楽学校文化祭も見ている人でした。
彼がその著書の中で
「今年の文化祭は柚希礼音による柚希礼音の為の文化祭のようだった」と
書いていました。
音楽学校の文化祭というのに、マスコミ関係者まで駆けつけて非常に
大がかりであったと。それだけ柚希への期待が大きいのだろうという話でした。
無論、その頃の私は彼女の顔も名前も知りませんでしたから
「ふーん」と思った程度で
85期のお披露目、1999年の雪組「ノバ・ボサ・ノバ」も見ているけど
正直、ロケットには興味なかったし。
ただ、2000年の稔幸主演「Love Insurance」を見た時
2幕目の終わりごろに出てきた柚希礼音の体の大きさと
目の大きさだけは覚えています。
「あれが、有名な柚希礼音だ」と友人に聞いた覚えも。
でも、その時は「へえ、ガタイのいい子なんだなあ」くらしか。
1999年ー2000年、2001年と宝塚は大きな変革の波に呑まれていました。
組子の増加による高学年化
阪神大震災の影響
それを打破する為に「宙組」を発足させ、5組化します。
一人トップスターの枠が増えた事で、今まで埋もれたスター達を発掘できると
思っていたのです。
でも現実は何も変わりませんでした。
実力のあるスターが報われない原因は組子やトップの数ではなく
適材適所に人を生かす事が出来ない「作品」にありました。
90年代に登場した演出家達の力量不足が、多くのスターを埋もれさせ
退団へ導いてしまったのです。
しかし、歌劇団はそれを認めず、さらに「リストラ」政策を打ち出します。
それが1999年の「新専科制度」です
いきなり、2番手3番手のスターを全員「専科」入りさせ、外部出演をさせたり
あっちこっちの公演に出したのですが、そうなると「組内2番手」の地位が
下がる事になり、結果的に専科は邪魔な存在になります。
「新専科制度」は多くのスターとファンを傷つけ、泣かせ、それが今の
宝塚不信につながっているのだと思います。
柚希がデビューを飾った雪組公演「再会」「ノバ・ボサ・ノバ」では
当時4番手だった生え抜きの安蘭けいの元に、宙組から朝海ひかると
月組から成瀬こうきがやってきて同期3人の「3兄弟」がしのぎを削る事に。
さらに新専科制度発足で、香寿たつきが星へ異動、星組から絵麻緒ゆうが
やってくるという納得のいかない人事がなされ、また雪の生え抜きだった
安蘭けいが星へ異動するという事態に。
私はいつも、この頃の宝塚を思い出すのは嫌だし、苦しいです
あまりにも激しい人の異動で何組を見ているのかわからない気分になる。
それが当時の宝塚でした。
2001年。たまたま大劇場へ行き、星組の「花の業平」を見ました。
その時、まさに「柚希礼音の為の和物ロケット」を目にしたのです。
本筋とは全く関係ない「繋ぎ」の舞。ここで柚希はど真ん中で愛らしい
柚希礼音を見ました。
当時、夢輝のあのファンだった私は、「イーハトーブ夢」を3回見て
感動に打ちふるえていたものですが、10も学年が離れている
ねったんジョバンニと柚希ザネリが対等にやっている事に大いに驚きました。
「イーハトーブ夢」はあらゆる意味で宝塚の枠を離れた、意欲作であり
七色の声を使い分けた夢輝の演技力もさることながら、
意地悪なザネリを演じた柚希礼音の素直ないじめっ子な姿が印象的でした。
特に2幕目ラストでザネリが「俺は悪くないんだよ」と泣き伏すシーン、
ジョバンニに手を取られてひっくひっくべそかきながら歌うシーンが
本当に素晴らしく、あの作品の成功は柚希ザネリがいてこそだったんだなあと
思ったものです。
とはいえ、私の中で「柚希礼音」はまだまだ男役として認識されてはいませんでした。
非常に体が大きな、すくすく伸びるタケノコのような・・・ダンスが上手な・・・・・でも
男役とはちょっと違う・・・みたいな感じの人でした。
当時の事で覚えているのは「ベルサイユのばら」を見に大劇場まで行って
友人と劇場付近を散策している時、本屋さんで文化祭のパンフレットを見せられ
「これがちえちゃんの本名」と教えられたこととかーー
色々85期のファンクラブについて聞いた話とか。
冬の頃、柚希が颯爽と劇場に入ったのですが、その時、長いマフラー
(道路までつきそうな)をしていた事とか。その目立つ事と言ったら。
香寿たつきさよなら公演「バビロン」のオープニング、陽月華と怪しく
踊る柚希、中詰め近くに見事なダンスを披露する柚希、どれも印象的でした。
この頃は本当に陽月華との相性がぴったりで。
二人ともダンスが上手だし、陽月の演技力は抜群だったし、二人とも目が大きくて
綺麗だったし、将来が楽しみなカップルだと思った記憶があります。
だけど、「ちえちゃんのダンスは上手だけど、男役のダンスじゃないのよね」と
言われていたのも事実。
言われてみればそうだと思いました。
足は90度に上がるし、バレリーナみたいにしなやかでかっこいい。
だけど、そのかっこよさは男役というより普通のダンサーとしてのもの。
以後、そういうイメージがついて回った事も事実ですよね。
新人公演の重要な役に抜擢される事も多々あり。
実際に見た「ガラスの風景」とかビデオで見た「王家に捧ぐ歌」とか
見た目の華やかさに実力がついていけてないなというのは感じました。
だけど。新人公演主役を張った時の「あいさつ」が面白くて。
すくすく育ちつつあるタケノコは、たどたどしくごあいさつをする。
上級生に突っこまれたりしながら、一生懸命に話す。
それが誠に子供っぽくて「ほら、しっかり」と母のように叱咤激励したくなる。
まさに柚希礼音の新人時代というのはこの一言に尽きます。