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韓国史劇風小説「天皇の母」184(華燭のフィクション3)

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その日の朝、北海道でマグニチュード6の地震が起きた。

幸いにして何の被害もなかったのでニュースにすらならなかったけど。

それは姫の降嫁を嘆く地の神の怒りだったのか悲しみだったのか。

それとも、これから起こる様々な不愉快な事を予兆しての事だったのか。

 

住み慣れた皇居からノリノミヤは御料車で帝国ホテルに向かった。

御料車は本来、天皇しか使う事の出来ない車である。

それを特別に嫁ぎ行く娘の為に使用許可を与えたのは天皇だった。

宮は静かに手を振りながら沿道で見送る人々に「皇族」として別れを告げた。

慌ただしく朝食をとり、出発の準備をする娘を父は黙って見つめた。

母は抱きしめて「大丈夫」と言った。

「ええ、ドンマーインよね」と娘は答えた。

宮内庁の職員はみな宮の事が大好きだった。

だから見送る時は誰もが涙を流した。

古くからの職員も呼ばれて見送りを許されたので、車寄せは人でいっぱいになった。

「降嫁」と一口に言うけれど、その環境の激変は想像を絶するものだろう。

身分が皇族から平民になるだけではない。

生活環境が変わる。

今までは女官がいて全てを仕切ってくれていた。

「殿下」と敬称を付けて呼ばれていた。

自分の事はなんでも自分で出来る宮ではあったけど、そののんびりとした

性格が世の中に出てうまく機能するのか、それが一番不安だった。

「可哀想に」

ぽつりと皇后が口にした事がある。

平民から皇族に登るのは大変ではあるが、一つの「シンデレラストーリー」だろう。

しかしその逆は・・・・

自分の娘がそうなる事に一抹の理不尽さを感じているらしい。

宮はそれを一蹴しただ、「ドンマーイン」と言った。

そして全てのものを自分のかつての部屋に残して行った。

「これくらいは・・・」と言われたものまでおいて行った。

それが内親王としてのプライドであった。

 

時刻通り帝国ホテルに到着したノリノミヤは早速、おろしたてのドレスに

身を包んだ。

それは小石丸で作られた極上のシルク。

純白というより黄金色に見える上質のもの。

そのデザインはいたってシンプルで、どこにもなにも飾のない。

「クラリスのドレス」と宮は呼んでいたが、実際にクラリスよりは袖の

ふくらみはなかった。

無論、花嫁のベールすらない。

「神式の結婚式なのにどうして十二単とか白無垢じゃないのかしら」

などとひそひそ女官達は話していたが、お構いなしだった。

ティアラすらない、内親王の格式に果たしてそれがふさわしいかどうかは

別にして。紀宮自身が望んだ結婚式だった。

 

式には天皇と皇后も出席。異例の事だった。

皇族の冠婚葬祭には出席しないのが慣例だからである。

平等性や穢れを嫌う性質だからではないかと思える。

皇太子夫妻もホテルに着く。マサコは例の純白のドレスだった。

それはフラッシュの光でまばゆいばかりに輝いた。

記者達はさすがに唖然としたが、それを言葉にする事は許されない。

アキシノノミヤ達も出席。キコは地味なブルーグレイのドレスに身を包んでいた。

神式の結婚式は身内以外出席は許されない。

どのような雰囲気で行われたのか、誰も知らないのである。

神の前で告げるとはそういう事だのだ。

ただ、ノリノミヤからクロダサヤコになった女性はとても美しく幸せそうだった。

式後に行われた記者会見では先にヨシキが

「本日に至るまで、様々な方々に支えて頂きながら

よき日を迎える事が出来ました。

両陛下を始め、皇族方のご出席を頂き、滞りなく式が行われた事を

心より感謝いたしております」と言えば横からサヤコが

「両陛下、そして、黒田の母に見守って頂きながらとどこおりなく

式が執り行われた事を安堵しております。

婚約を発表しました日より多くの方々に、お祝い頂き

支えて頂きながら今日を迎えられましたことを深く感謝いたしております」

と答える。

夫唱婦随のよい例になりそうな会見だった。

「互いの考えを尊重しつつ、心安らぐ静かな家庭を築いていきたいと

存じております。新しい生活を始めて間もない頃は

慣れない事も多かろうと存じますし、また、予期せぬことも

あろうかとは存じますが二人で力を合わせて一歩一歩進んで

参りたいと思います」

それはヨシキの本音だったろうと思う。しかし、この先、そのような

穏やかな生活が来るとは決していえない状況ではあったのだ。

 

披露宴は引き続き、帝国ホテルで行われた。

男性はモーニング。女性は着物とされた。

通常は新婚の二人の親達は末席に座るものであるが、皇室であり

天皇と皇后は誰よりも各上なので、それに連なる皇族方が上座になった。

ここでも、取材の記者達が一瞬、ぎょっとなった。

女性達が全員、あでやかな着物なのに、一人だけ真っ赤なドレスで

登場したのが皇太子妃だったからである。

しかもバックストラップの靴まではいて。

その堂々とした登場ぶりに「さすがマサコ様」と思う向きもあったが

浮き上がっている事だけは確かだった。

これが10年前なら「着物を着るとは知らされていなかった」とか言いそうなもの。

しかし、今回ははっきりと何か月も前から披露宴は「着物」と決まっていたわけだし

その知らせも東宮職は受けていた。

その上で尚且つ、マサコはベルベッド地の赤いドレスを着たのだ。

「着物を着ると気持ち悪くなる」という理由で。

しょうがないので、雑誌は「着物はご負担なので特別にお許しを頂いた」と書くしかなかった。

しかし、隣に座った天皇がさりげなく目をそらすに至って、さすがのマサコも

自分が回りからかなり浮いている事に気づかないわけにはいかなかった。

最初こそ笑顔で座っていたのものの、しまいにはいたたまれず

披露宴の立食式パーティが始まると、姿を消した。

 

それで皆は安心して心行くまで降嫁した内親王に祝辞を贈った。

母から贈られた着物に身を包み、だれよりもしとやかに歩く姿は

どこからみても「クロダ家の妻」であった。

しかし、皇后はそんな娘から目を離さずじっと見つめ続けていた。

例え、今日この日から皇族でなくなったとしても「娘」である事に

違いはないのだからというように。

 

その日の夜、皇居では改めて「家族」だけの食事会が行われた。

天皇・皇后・アキシノノミヤ夫妻に皇太子が出席しての小さな小さな

夕食会だった。

この時もマサコは「アイコの具合が悪い」と言って姿を見せなかった。

 


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