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韓国史劇風小説「天皇の母」185(失墜のフィクション)

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「あんた達のせいよ。どうしてくれるの」

マサコは思いきり壁にグラスを叩きつけた。

それは割れて粉々になり床に散らばった。

女官達は怯えて言葉も出ない。

「私達のせい・・・・・とは」

さすがの女官長も気色ばんで口答えをする。

割れる音に気付いた侍従や女儒達も駆けつけてきた。

「あんた達のせいだって言ってるの。私に恥をかかせて」

「何の事か」

「着物のことよ。私一人だけドレスだったじゃない」

「あれは妃殿下がご自分で」

「本当にみんなが着物を着てくるというなら教えてくれたって

よかったでしょ。全員着物だって。そう言ってくれたら私だって

着物にしたわよ。一人だけあんな恰好で出る事はなかったのに」

さすがに披露宴での自分の浮きっぷりは自覚していたらしい。

横に座った天皇に話しかけても、天皇はさりげなく皇后の方を向き、

同じテーブルの誰一人として、マサコとまともに目を合わせようとしなかった。

言葉をかけようとすらしなかった。

それはそもそもサヤコが主役の披露宴なのだから、当たり前の事であったが

そういう無視が一番耐えられない事だった。

みながそっぽを向く。自分が主役であるかないかなど関係ない。

無視されるのが一番怖いのだった。

「私は妃殿下に、披露宴の御召し物は着物でございますと申し上げました」

女官長が果敢に戦いを挑んだ。

「宮様が皇后陛下おさげ渡しの着物を着用される為、女性の出席者は全員着物だと」

それはマサコも聞いていたのだ。

しかし、本当に全員が着物だとは思わなかった・・・・というのが心情だ。

全員が着物を持っているとは限らないし、全員が着物好きとは限らない。

(そもそもプロトコルに好みはないのだが)

まして自分は「病気」で着物が負担だと言っているのだから、誰か一人くらいは

ドレスで・・・と思っていたのに。

本当に全員が着物だったのだ。

「だから、そうならそれで私に着物を着せるべきだったでしょ」

「妃殿下は着物を見ると具合が悪くなるとおっしゃいました。この件は

皇后陛下にもご相談申し上げ、それなら仕方ないとのお言葉も頂戴しました」

「それがひどいっていうのよ。まるで嫌がらせじゃない。いいわよーって言って

おきながら全員が着物で私をのけものにして」

何でそういう発想になるんだろう・・・・・女官長はうんざりして黙った。

「いたたまれなかった。傷ついたわよ。だからろくに食べる事も出来なかったじゃない」

さすがのマサコも自分一人だけ洋装である異常さに気づき、

立食パーティの時は控室にこもっていたのだ。

普通なら皇太子も一緒に・・・・という筈なのに、この日ばかりは皇太子は

妻を気遣う暇もなかった。

たった一人で控室にこもった彼女は、ただただ止まらない涙を拭きつつ

屈辱に耐えていたのだった。

「とりあえず、床をはきますので・・・・」

女官長は落ち着いてそういい、女儒に掃除を命じた。

それに向かって、マサコはなおも、手当たり次第のものを投げつける。

雑誌、新聞、灰皿。

灰皿は高級なガラス製で重い。きゃあっとみな、避ける。

しかし、女官長は避けなかった。

幸い、灰皿は彼女にあたらず、壁にぶつかってごとんと落ちた。

マサコの顔は涙でぐちゃぐちゃになっており、頬は紅潮し、目は完全に

正気を失っている。

「オーノ先生を・・・・」侍従長がこっそりつぶやき、聞いた侍従が走って出て行く。

「妃殿下。もう終わった事でございます。誰も気にしておりません」

「気にしてない」というのがさらに怒りを煽った。

「気にしてないってどういう事?誰も私の事なんかどうでもいいって事?

みんな無視?皇太子妃の私を無視するわけ?私がどう思うかとか私が

どう感じるかとか、そういう事がどうでもいいって事?みんなそう思ってるの?

一体、誰の使用人なのよ」

支離滅裂な言葉だった。

こうなると、もう手がつけられない。女官達は怯えきって今にも泣きだしそうだし

掃除をする女儒達も震えている。

女官長は・・・・・ここは納めなくてはならない。何が何でも。

彼女はその場に跪いた。

「申し訳ございません。全て私の落ち度でございます。

どうぞお許し下さいませ。この責任はいかようにもとりますので」

全員驚いて固まった。

「私に恥をかかせた事は認めるのね」

「はい。妃殿下が何とおっしゃろうと着物を用意すべきでございました。

途中でお着替えになる事も出来たのに、私共が気が利かなかったばかりに

本当に申し訳ございません」

「それ、皇居に行って言える?」

「はい。千代田の女官長を通し、皇后陛下にお詫び申しあげます」

マサコはつかつかと女官長に歩み寄り、それkらばしっと頬をひっぱたいた。

皆、思わず叫び声をあげた。

「妃殿下、いくらなんでもやりすぎでは」

と、侍従長が庇ったが、マサコはきっと目をむけ

「ここの主は誰なの?」と言った。

誰も答えられなかった。

「宮内庁なんて馬鹿ばっかし。所詮ははきだめよ。それでいい給料貰ってる

んだもの。他の省庁が可哀想だわ」

全員、固まってしまった。

その時、「殿下のお帰りです」と声がした。

「こ・・皇太子殿下がお帰りです」

侍従長は聞こえなかったふりをして、出迎えに走って行った。

しかし、他の職員達はその場に微動だにせず突っ立っている。

「どうしたの」

女官長は土下座して頬を真っ赤にしている。

床にキラキラ光るガラスが散乱し、灰皿の後がくっきりと壁についている。

誰もが動かない中、マサコだけが目をらんらんと輝かせて君臨している。

皇太子はその異様な光景に言葉が出なかったようだった。

皇太子はたった今、皇居の夕食会から帰って来たのだった。

披露宴や記者会見等が全て終わって、皇居で「家族」だけで夕食会をした。

そこにマサコは行かなかった。

表向きは「アイコの看病」であったが、それが嘘である事は誰もが知っていた。

それでも、結婚式での純白のドレスと披露宴での真っ赤なドレスのインパクトは

大きかったのか、食事会ではあまり会話がはずまず、みな、心のどこかに

重しをのっけたような気分で箸を進めていったのだった。

皇太子一人だけが、その場の空気が読めず、にこにこと祝いの酒を飲んでいたのだが。

 

いい気分で帰って来たというのにこの光景。

さすの皇太子もちょっと不愉快になって眉をひそめた。

「マサコ、アイコの熱はどうなの」

「アイコなんてどうだっていいわよ。あなたは楽しかったんでしょうね。

娘の看病もせずに一人でおいしいものを食べて来て。いつだってアイコの事は

私に任せきりじゃない。おまけに私は職員に裏切られて」

「裏切った?ってどういう事?」

「みんなが私にドレスを着せて恥をかかせたって事よ。これは女官長が仕組んだの」

話がどんどん大きくなっている事に職員達は内心驚き、そして本当にやっていられないと

思っていた。

「両陛下が今度、みんなで食事会をしようとおっしゃってたよ。アイコの幼稚園合格を

祝って」

皇太子は話をそらそうとした。

「みんな、マサコがアイコの看病で来られないのを残念だって言ってた。

サーヤ達はあさって挨拶に来るっていうから、その時は」

「どうだっていいって言ってるでしょ!私は恥をかかされた事に腹を立ててるの。

男のあなたにはわからないかもしれないけど、みんな着物を着ている中で

一人だけドレスって本当にひどい事だったのよ」

「わかるよ。それは本当に。だけどマサコは病気なんだから仕方ないじゃない。

他の人間ならそんな事許されないけど、マサコだからいいって事なんだよ。

だからそんなに言わなくてもいいんだ。みんなわかっていたから」

「嘘よ。みんな心の中では私を笑っているんだわ」

「笑ってなんかないって」

「笑ってるって言ったら笑ってるのよっ!」

もう何をどう言っても無駄な感じがして、早く時が過ぎないかと思い始めた時だった。

「オーノ先生がいらっしゃいました」

女官に案内されて入って来たオーノは、普段着のセーターを着ていた。

背広に着替える暇も惜しんで来たらしい。

皇太子がきちんとした服装で、主治医がセーター姿というのはどう見ても

順序が違うような気がしたが、みな、そんな事を考えている余裕もなかった。

ぶしつけに部屋に入ってきたオーノは、いきなりマサコの手を取ると

「大丈夫です。妃殿下。さあ、お泣きください」と言った。

マサコはそう言われると、いきなり子供のように泣き始める。

「大丈夫ですよ。妃殿下。大丈夫。話は私が聞きますからね。誰か、

温かい飲み物を持ってきて下さい」

夫の目の前で妻の手を取る主治医。しかし、皇太子はそれに怒るというより

むしろほっとしてしまった。

女官長が立ち上がり、ホットコーヒーを持ってくるように命じ、

全員が部屋を出た。

背後で

「妃殿下は悪くありません。悪いのは回りです。だから妃殿下はちっとも

悪くないんです」

という声が聞こえた。

女官長は唇をぎゅっと噛みしめ、無表情で部屋の扉をしめた。

「ここはお医者様にお任せしましょう。それより殿下、お召し替えを」と

侍従長がいうので、皇太子は言われた通りに部屋に帰った。

今日は一日色々あって疲れていた。

任せる相手がいるならその方がいいと・・・・・皇太子は思ったのだった。

 

 

 

 


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