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韓国史劇風小説「天皇の母」46 (ふぃっくしょん!)

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「カワシマさんは身分が低すぎてお妃候補にもなりません。

また、兄上様がご結婚されていないのに、弟宮が先に・・というのは皇室の伝統と

してもありえません」

東宮職にそう言われた時、アヤノミヤは頭の中が怒りで一杯になるのを感じた。

「身分がってどういう意味なの?兄は今の所結婚の予定がないよね?

兄が結婚するまで僕は結婚できないの?」

皇族って何なんだろうと思う。

東宮家の2男に生まれるってどういう事なんだろうと思う。

ヒロノミヤは将来天皇になる人で、自分はそれを支える立場になるのだと

言い聞かされて来た。

「血のスペア」とも。

叔父や叔母達は皆、そういう立場をわきまえて粛々と生きている。

時に、ミカサノミヤの人達が暴走したりするけど、それでも枠をはみ出る事はない。

みんな本当は自由のない生活に不満を持っている事は明らか。

東宮家には男子が2人もいる。天皇の弟宮の子供達は「血のスペア」に

なる必要もない。子供がいない宮家も多いし、トモヒト叔父様の所は女子ばかり。

一番新しく出来たタカマドノミヤケも3人女子が続いている。

もはや宮家の跡継ぎすらない。

それでいいのだと思う。

皇族は税金で暮らしているのだし、体面を保つ為に支給される額を思えば

宮家は少なくていい。天皇になる人の元にきちんと跡継ぎが生まれれば。

でもそれじゃあ、自分の存在意義って何なんだろう。

ヒロノミヤ付きのハマオ侍従は昔からあからさまな人だった。

「ヒロノミヤ様は将来天皇になられる方で性格は温厚、公正無私。成績も優秀。

それに比べると次男坊殿下はやんちゃで学校でも度々問題行動を起こす」

という印象を広く国民に植え付けた。

そういうのに反発して、金のブレスレットをしてみたり、ヒゲをはやしてみたり

したけど、ちっともすっきりする事はなかった。

大学だって本当は学習院を選びたくはなかった。

自分はどうみたって理系でしかも動物が大好きだから、そっちの勉強をしたいと

言ったのに、皇族は学習院でなければだめだというし。

仕方ないから政治学を選んだ。

その代わりに自然文化史サークルを作って学友達をいれ、

色々な活動を楽しむ事は出来たけど、やっぱりそれは学問のほんの一部で、

自分は本当に動物学をやりたいのだと思う。

皇位継承者以外の皇族の義務。

それは「学問」だ。

好きか嫌いかに関わらず、学問で身を立てる事を暗黙の了解にされている。

学問に没頭する事で、政治に関わったり野心を起こさない為だ。

そういう意味で、自分は学問が好きでよかったと思う。

でも・・・本当に好きな学問が出来ないのは不公平だ。

という事で、イギリス留学を決めた。

今度こそイギリスで本格的な研究をする。だからその前にキコちゃんとの

婚約をはっきりさせたい。

だって、キコちゃんはあんなに可愛いんだもの。

誰かに奪われてしまったら元も子もない。自分が皇族であるがゆえに逃げられる

可能性は十分にあるのだ。

プロポーズした時、キコちゃんははにかみながら「はい」と頷いてくれた。

それからは自分の妃としてふさわしい行動をとろうと一生懸命になってくれている。

両親にも何度か会わせた。

「キコちゃんって素敵な方ね」と母は言ってくれたけど・・・だからって結婚を

許してくれているわけじゃない。

あまり長く待たせると本当に横から誰かが・・・・

 

「カワシマさんのお父上は学習院の教授でございますが、官舎に住んでいる

一般人です。皇室に入るにはそれなりの財力が必要です。

皇太子妃殿下がお妃になられた時、ショウダケがどれほど援助なさったか。

やはり内廷費だけで体面を保つのは大変なんです。お妃の実家がある程度

お金持ちで援助がないと。

それに今はヒロノミヤ様のお妃問題の方が先です。

弟宮の方が先に結婚なんかしたら世間からどれだけ非難されるか。

皇室では長幼の序が最も大事にされているのですから」

「兄が今すぐ誰かと結婚する予定があるというなら待てる。

でもそんな人いるの?オワダマサコとかいう人とはダメになったじゃないか。

兄はそれでもまだ彼女に拘って、他の話を全部拒否している。

こんなんじゃ、いつまでたっても僕は結婚できない。

それに、カワシマ家は官舎に住んでいるからダメとかいうけど、それは理屈に

合わない。教授は高潔で立派な人だ。キコ嬢だって学問に熱心で性格がよい。

はっきりいって質素を旨とする皇室に一番似合っている家族だと思う」

アヤノミヤは必死に訴えた。

 

結果的に何も決まらないまま、イギリス留学が決まってしまった。

「離れ離れになるんですね。一緒に行きたい」

とキコちゃんは泣いてくれたけど・・・

「絶対に、他の人と付き合ったりしないでね。約束だよ」

「殿下は私の事、そんな風に思っていらっしゃるの?」

「そんな事ないよ。でもキコは可愛いから絶対色々な男が寄ってくるって」

「そんなわけないじゃないの」

とうとうキコは泣き出してしまった。アヤノミヤは自分も泣きたいと思った。

生まれて初めて好きになった女性。

せめて婚約だけでも・・・・はっきりさせておきたかったのに。

「殿下こそ、イギリスでもっと素敵な女性と会うかもしれないじゃない」

「絶対にそんな事ないから」

堂々巡りのやりとりは続く。キコはきっと不安なのだ。

自分と付き合い始めて以来、大学の面々は思いやりをもってみてくれたけど

マスコミや外部に知られてはいけないと、隠れるように付き合ってきた。

特にカワシマ家はマスコミに悟られないように細心の注意を払ってくれている。

キコ自身、立ち居振る舞いにも気を遣うようになったし、とにかく目立ってはいけないと

そればかり。

普通の恋人同士のように、堂々と一緒に歩けたらどんなに素敵だろう。

 

「ため息かい。アーヤ」

天皇は深いため息をつく孫にそっと言った。

「もうすぐ留学。やっと好きな勉強が出来るね。頑張って欲しいね」

「ありがとうございます。おじじさま。でも・・・」

「ヒオウギアヤメね」

何の脈路もないのに天皇は不意に口にした。

「あれね・・・よく見てて欲しいね。ヒオウギアヤメ」

アヤノミヤは頷いた。

 

そして何も進展しないまま、アヤノミヤはイギリスい旅立ったのだった。

 


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