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今時の子に読ませたい漫画 風と木の詩

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お待たせしました。

 竹宮恵子 「風と木の詩」(小学館)

                    1976-1982年 全17巻

 

表紙の上がジルベール・コクトー、下がセルジュ・バトゥールです。

 

高校の時に友達に「すごい漫画があるよ・・・ごにょごにょ」って言われて

手に取った時の衝撃は今も忘れられません

いきなりベッドシーンだよ・・・ ぼかしも何もない。そのまんま。

絵がめちゃ綺麗以外は・・・・・

ええ 私、こんなの読んでいいの?でもR指定じゃないよね。

じゃあ、いいんだよね?読んでも。みたいな

 

BLに免疫がなかったわけではありません(きりっ

当時はBL黎明期 今時の(ごめんっ)ただ受けだの攻めだのって

言ってるBLとは格が違う。やたら高尚な「少年愛」がそこにはあったのです。

かつての「ポーの一族」も「日出づる処の天子」も「摩利と新吾」も

とにかく、どこまでも文学的で高尚な世界を描き出していたのですから。

それまでの「薔薇族」というような概念より、ずっと清潔で若くてかっこいい感に

夢中になる子続出

栗本薫を代表格にした作家による作品も売れに売れまくっていた時代。

「風と木の詩」のヒット後、雑誌「JUNE」が創刊され、一冊丸ごとBLの世界に

はまったなあ私(遠い目)

 

男女の恋愛が生々しく感じる世代にとって、BLはよその国の出来事で

屈託なく、現実をわすれられる「恋愛ごっこ」だったような気がします。

(なんせ男同士は妊娠の危険がないし、実際どんなだか経験ないし)

 

正直、最初に読んだ時から最近に至るまで、この作品の真の価値を

見出す事が出来なかったんです。

表面的なシーンが強烈すぎて、また、ラストがあまりに残酷で

悲しすぎて、そう何度も読みたいとは思わなかったし。

でも、本当に、最近になって、ふと

「風と木の詩」は現代に通じる少年達の「青春」そのものではなかったかと。

青春はいつか終わるもので、いつか大人になっていくもの。

でもジルベールは大人になれなかった。

大きな試練を経てセルジュは大人になっていく・・・というような話ですね。

 

 対照的なセルジュとジルベール

セルジュ・・・父・アスランは清廉潔白な人格。体が弱くて肺結核の療養中に

      ジプシーで高級娼婦のパイヴァに出会い、駆け落ちし、貧しくとも

      幸せな数年を過ごす。

      アスランの病死後、パイヴァは息子の教育の為に彼を祖父である

      子爵に預ける。しかし、そこには意地悪な叔母がいて、虐められる。

      しかしながら、いとこのアンジェリンの存在が心の支えだった。

      そのアンジェリンにやけどをさせてしまった事からセルジュは一人

      ラコンブラート学院へ入る。

      貴族なのに浅黒い肌を持ち、マイノリチィなところに身を置くセルジュ。

      でも彼は人の善意を疑わず、正義感も強い。人気者だ。

ジルベール・・・そもそもは、コクトー家に養子に入ったオーギュストが義兄から

       性的虐待を受けながら育った事。

       それを誰も助けなかった事が心に大きな傷を残す。

       オーギュストは義兄の許嫁をレイプし、生まれたのがジルベール。

       そんなジルベールを愛する人はだれもいず、館でほったらかしに育て

       られてきた。

       そこにオーギュストが登場し、肉体によって彼を支配していく。

 

虐待・・・それが言葉による差別であったり、叩いたりつねったりするようなもの

であっても、性的なものであっても、傷つくのは常に「被虐待者」です。

でもセルジュは叔母に虐められても、回りから「ジプシー」と差別されても

決してひねくれる事はなかった。

その背景にはセルジュがほんの数年だったけれど、両親や近所に愛されて

そだった事や、ピアノの才能という心のよりどころがあったからと思われます。

しかしながらジルベールはネグレクトされて育った為、自分が許容される

体験がなく、ゆえにオーギュストの強引な性的虐待を「愛」と信じ込んで

溺れていくのです。

 

元々は頭が良くて様々な才能にあふれていた筈のジルベールは

セルジュに出あうまで「普通の生活」を知らず、ひたすら肌をくっつけあう事でしか

「安心感」を得られないという・・・今、思えば十分施設入所レベルの被虐待児です。

二人が出会って、恋に落ち、やがて、かつてのアスランのように

手に手をとって駆け落ちするものの、育った環境や過程があまりにも

違いすぎる二人は次第にすれ違い・・・やがてそれがジルベールの「死」に

繋がっていくのです。

その「死」はセルジュにとってまさに「青春の終わり」でした。

ああ、青春の傷というのはこんなに深く突き刺さるものだったか・・・と思うんですが。

でもそんな「傷」を抱えたからこそ「青春」は思い出になりうるんでしょうね。

 

今時はBLは常識。

本屋さんに行けば、それだけのコーナーが溢れかえっています。

今は「少年愛」も多様化し、シチュエーションと快感のみに

焦点をあてている「R指定なしの×××本」かなと思ってしまうほど。

でも、なんだかんだいって「BL」がここまで浸透したのは先達のおかげ。

萩尾望都(彼女は後に「残酷な神が支配する)で性的虐待を正面から

 取り上げますが) 山岸涼子、木原敏江、河惣益巳、そして何より

竹宮恵子の力があったればこそ。

そういう意味では、若い方々にぜひ読んで頂きたい本です。

 

 

 

 


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