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韓国史劇風小説「天皇の母」195(奇跡のフィクション2)

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おふくろ・・・・ではなく

母さん、お元気ですか?

私も元気です。

就職して以来、全然家に帰っていません。

心配かけてすみません。

でも便りがないのは元気な証拠と思ってください。

あれ?じゃあ、今、手紙を書いているという事は

「何かあったのか?」と思われてしまいますね。

大丈夫です。

私は仕事に就いて以来、色々な面で変わったと思います。

言葉遣いも変わりました。

お辞儀の仕方も変わりました。

皇室の警護という、「礼」の末端にいる事で、門前学者のように

変わらざるを得なかったのです。

警察という組織の末端にいる私は、ただただ命令に従うのみです。

 

ところで、最近、皇室典範の改正というのが言われていますが

母さんは知っていますか?

今の皇室典範ではいずれ天皇になる人がいなくなるので、改正をして

皇太子殿下のあとはトシノミヤ様に皇位を渡せるようにしようと

することです。

個人的に私はそれに賛成していました。

今時、男だけが天皇になれないなんて不公平だし、

トシノミヤ様は皇太子殿下のたた一人の子供なのだし、

将来、天皇になっても全然おかしくないと思っていました。

母さんはその点をどう考えるでしょうか?

まあ、日常にはあまり関係ありませんけどね。

私にとってもそうです。

上がどう変わろうがただ務めを果たすにすぎません。

しかし、上つ方はそうでもないようなのです。

宮内庁や皇宮警察は今、2つの派に分かれているようです。

私の上司などはいつも「外務省上がりが大きな顔しやがって」と言います。

警察庁官僚より外務省官僚による宮内庁への配属が多いので。

まるで学校の中にいるようです。

公務員というものは、学校の延長で仕事をしているようなところも

ありまして。

慣れればどうってことありませんが、私には少々きつい職場です。

 

そんなわけで「皇室典範」の改正には賛成派も反対派もおり

私の上司は「男系を守るべき」との意見です。

私は無知で知らなかったのですが、皇室というのは2000年以上

ずっと「男系」で続いて来たそうです。

女帝もいた筈なのにと思ったら「女帝も男系女子である」と教えて

くれました。

要は父方が天皇ではなく、母方が天皇である「女系」というものが

存在しなかったんだそうです。

トシノミヤ様は男系女子だから天皇になってもまあいいけど

トシノミヤ様が結婚する相手が皇族以外だったら、その間に生まれるのは

女系になるので「伝統」を崩すという事らしいです。

私は、トシノミヤ様の普段の姿を結構見ています。

母さんにこっそり言ってしまいます。

でも絶対に他の人に言わないで下さい。

トシノミヤ様は普通ではありません。

天皇になるとかならないとか以前の話だと思います。

末端にいる私ですらそう思うんですから、実際に皇室に深くかかわり

皇統を心配している人達はどんなでしょうか。

それなのに総理大臣は「アイコ様が天皇でもいいじゃないか」と

言ったそうです。

「あいつは女帝と女系の違いも知らないから」と上司が憤慨して

おりました。

それは最側近である官房長官もそう思っているそうです。

官房長官は私達の上司と時々会合を持ちます。

そういう時の警備も私達、末端が務めるわけですが。

酔うとついつい「皇室の伝統を守らなきゃいけない」などと

大声で言い出すので、なだめるのが大変です。

最初は「男女平等の世の中に女帝がいても」と考えていた私ですが

上司や官房長官の切々と訴えるような話を聞き、今ではすっかり

男系支持者です(笑)

確かに2000年以上、忠実に守ってきた制度を覆すのはよくない事です。

無駄に見えるものでも、実は大きな意味があるという事も。

しかしながら、現在、皇太子殿下の後は弟宮しかいず、

このままでは皇統が絶えるというのも必至なのです。

だからこそ、断腸の思いで皇室典範を改正・・・という話とも聞きました。

私的にはあのトシノミヤ様が天皇になるなら

マコ様が天皇になった方がいいなと思う程度ですけどね。

時々、おみかけするマコ様とカコ様はそりゃあ可愛らしい女の子です。

今時、巷にあんな「お姫様」はいないだろうなと思います。

 

正月から皇室はぴりぴりしていました。

警護室の中でも。

それはまたも・・・ご病気の妃殿下が私達を翻弄したからです。

皇族方のスケジュールは1か月前には決まっていて、

どんな些細な移動や行事出席でも、常に綿密な警護の

スケジュールが組まれ、それにそって予行演習があり

当日に備えるのです。

しかし、ご病気の妃殿下はこれを無視されます。

予定を突如キャンセルするのは日常茶飯事。

そうかと思えば「体調がいいから出る」というようなこともあり。

その度に速攻でスケジュールを変更し、全部にそれを伝え・・・と

とにかく毎日がへとへとなんです。

同僚も上司も正月以来、ほとんど寝てないんじゃないかなと。

かくいう私も・・・・いや、私は若いので大丈夫です。

 

歌会始の儀の警備は大変でした。

外からの賓客が来るので、厳重な仕事が求められます。

皇太子妃はまたも欠席でした。

でも次の日、東宮御所では華やかな宴会が開かれて

両殿下、とりわけ妃殿下は上機嫌でいらっしゃいました。

なぜ、それが分かったかと言うと、私のような末端の者にも

「ご苦労様でした」と声をかけて下さったからです。

多分、もうすぐトシノミヤ様の皇位継承が確定するのでご機嫌

なんだろうとみんなで話し合っていました。

皇室では皇位継承権があるのとないのとでは待遇が違います。

将来、皇太子になり、さらに天皇になるとなれば、この先、さらに

予算も増えるでしょうね。

今は適応障害で苦しんでいらっしゃる妃殿下ですが、

トシノミヤ様の皇位継承権が認められれば元気になるでしょう。

私達は「どうでもいいから時間を守るようになってほしい」と

願っていますが。

 

1月20日に総理大臣が「皇室典範改正」について明言し

「長子継承」「女帝を認める」という事がほぼ決まりました。

あとは3月の閣議を経れば終わりです。

 

実は。母さん。

ここから先は本当に母さんにだけ話します。

絶対に他言しないで下さい。

なぜそんな事をわざわざ手紙に書くのか。

検閲制度がない現在がありがたいと心から思います。

この事は私の胸一つにおさめておくにはあまりに重いのです。

そしてこの事は、なんというか人知の及ばない所で

静かに静かに進んでいた・・・・としか思えないのです。

私は無神論者です。

皇室の警護を任されながらも、本当は「神様」なんかいないと

思っていました。

正月に神社へ行くのも、実家の法事も、それは信仰というより

ただの「行事」でしかないと思っていました。

だけど。今、私は。

心からこの日本には「神様」が存在していると感じるのです。

 

2月7日の事です。

私は上司に呼ばれました。

「今すぐ、制服ではなく平服に着替えてアキシノノミヤ家へいけ」と。

何だろうと思いました。

え?だって私は東宮御所の警護についているのに。

上司は声を潜めました。

「あちらは人手がないのだ。付き添いが必要だ」

付き添い?誰の?

しかし私にものを尋ねている時間は許されませんでした。

私は平服に着替え、赤坂御用地の宮邸に向かったのです。

上司からの命令はさらにありました。

「妃殿下は本日、受診される。病院には宮内庁の医務主管もいる。

彼からメッセージを受け取り、それを官房長官に直接伝える」

私は全身が震えるような気がしました。

もしかして妃殿下がとんでもない病気にかかられ、その事が政治的に

大きな問題になるかもしれない。

伝染する病気だろうか?それともガン?

皇族が大病にかかるというのは、大きな事です。

まして宮家は筆頭の立場です。今後の公務にも差し障りがあるでしょう。

宮家贔屓の官房長官に病状を伝えようというのでしょうか。

でもなぜ私が。

「お前はただのメッセンジャーだ。深く考える必要はない」

メッセンジャー?この時代に?電話もメールもあるのに?

不思議そうな私に上司が言いました。

「絶対に知られてはいけない事がある。盗聴されてもいけない、

ハッキングされてもいけない。だから、もっとも関係のない

お前に託す。今回の受診の話を知っているのは

宮家と私とお前。そして医務主管のみ」

なんという話でしょうか。

私はたぶんひどく青ざめていたことでしょう。

「そんな緊張した顔をするな。悟られるだろうが」

厳しく言われて私ははっとしました。

「小さなことだ。しかし大きな意義がある。極めて重要。

さりげなく、警護課からの出張で・・といえ」

有無を言わせない雰囲気に私は、すぐに踵を返して

自分のロッカーに戻り、着替えました。

ああもう・・制服を脱ぐのももどかしいくらいな感じで。

大急ぎで私は赤坂御用地を抜けて宮邸に駆けつけました。

 

一台のバンが用意されていました。

宮邸はあまり広くはないのですが、いつも花が咲き乱れて

明るい印象です。

今は2月でマラコイデスの鉢が目にしみました。

私は宮邸のSPにあいさつし、身分証を見せて車の助手席を

点検し、乗り込みました。

宮邸の警護についている人達は表情一つ変わっていません。

病状を知っているのか知らないのか・・・完璧なSPはここまで

無表情を貫くことが出来るのですね。

私もまた務めて平静を装い、無表情になり、ひたすら待ちました。

ほどなく、妃殿下が宮邸から出てこられました。

質素なスーツ姿でした。

皇族というのはこんな時でもきちんとした格好をしなくてはいけないのか。

いつもパンツスーツばかり見ている私には衝撃的でした。

妃殿下は優しく微笑んで「よろしく」とおっしゃいました。

顔は陶器のように白く、これを顔色が悪いととるのかななどと

考えつつ、私はドアを閉め、もう一度助手席に乗り込みました。

 

車は信号操作をするでもなく、病院に走りました。

これまた衝撃的でした。

なんせ東宮一家は、どこへ行くにもノンストップですし、先導車が

つくし。

筆頭宮家とはいえ、内廷外皇族の立場とはこのようなものなのでしょうか。

そんなことを考えている間に車は病院の裏手に着きました。

救急外来の真横です。

そこにはすでに医師が待ち受けていました。

妃殿下はそのまま、すっと院内に入っていかれました。

誰も宮妃が病院に来ていることなど、気づかないでしょう。

それだけ自然なしぐさでした。

どれくらいの時間が経った事でしょう。

きっとそんなでもなかったかもしれません。

でも私は、その後の事を考え、心臓がドクドク言い、

耳がじんじんしておりました。

やがて、見慣れた医務主管が一人で出てきました。

私をみつけると

「話は聞いているか」というので「はい」と答えると

一枚のメモを私に渡したのです。

「すぐに官房長官に。君が行く事はあちらに伝えているから。

電車で行けよ」

私は頷き、早歩きで地下鉄の駅へ急ぎました。

駅ではたくさんの人が縦横無尽に歩いています。

私もその一人なのだ。私は・・・・・

誰かに見られているのではないかと、ちらっと後ろを振り返ったりしました。

そんな筈、あるわけないのに。

このメモに何が書かれているか、私は知りませんでした。

知りたくもなかった。

ただ、早く任務を終了したかったのです。

 

やがて電車は永田町に到着し、私ははやる気持ちで階段を駆け上がり。

2月なのに汗びっしょりの状態で国会に到着したのでした。

国会開催中という事で、随分と待たされましたし、また本人確認も

されました。

いくら話が通っているとはいえ、私のような者が官房長官に会うのは

難しいのです。

私は流れ出る汗をハンカチでぬぐいつつ、待ちました。

思えば就職して以来、私の人生は待ってばかりです。

 

そうこうしているうちに、秘書らしき男性が現れ、

私は長い廊下を渡って、こっそりと小さな部屋に通されました。

ほどなく官房長官が。

私の顔を見るなり

「ご苦労様。大変だが頑張れよ」と言ってくださいました。

私は「はいっ」と言って、預かったメモを渡しました。

長官はそれを開くなり、「おおっ」と声をあげ、それから

目を見開いてじっと・・じっとメモを見ていました。

私は「妃殿下の病状は相当悪いらしい」と思いました。

けれど、長官の顔はぱっと明るくなり、いきなり私の手をぎゅっと

つかんで「ありがとう」と言ったのです。

「ありがとう!ありがとう!君!ありがとう!」

私は何のことやらわからず、ただただ手を上下に強く振られて

転びそうになりました。

「すぐにこれをNHKへ。テロップが流れたら総理へ」

長官は確かにそういいました。

ええ、確かに。

 

任務を終えた私はさりげなく持ち場に戻りました。

末端の私が席を外した事など、どうってことない事件です。

上司は、私にそっと目くばせをしたきり、あの話題には

触れようともしませんでした。

が。

やがて私は事実を知ったのです。

午後3時すぎ。

何やら同僚や先輩方がざわざわとしだしたからです。

「何かあったんですか?」と私が訪ねると

みな「いや・・・」と言います。

でも「これは荒れるな」とも言いました。

荒れる・・・・何が?いや、誰が。

私達の間でそれが東宮妃殿下を示す事は暗黙の了解でした。

「休憩室のテレビを見てこい」

と言われて私は走りました。

そこでは・・・まさにNHKが「キコ様ご懐妊」のテロップを

流していたのです。

え・・・・ご懐妊?

じゃあ、あの時の妃殿下は・・・・そして私がもらったメモは。

私は呆気に取られてその場に立ち尽くしました。

 

そして場面は国会に切り替わり、メモを受けり呆然とする

総理大臣の姿が映し出されていました。

「総理・・・総理大臣、聞いているんですか?」

呆然自失の総理に容赦なく降る質問者の声。

でも総理自身、国会の質問や討議などどうでもいいというような

顔になりました。

 

夕方には宮内庁長官が正式発表をしました。

私の上司は「してやったり」という顔でしたが、その理由を

知るのは私しかいません。

長官すら知らなかった事実に、宮内庁は騒然としたようです。

当たり前です。

順番が違うんですから。

天下の宮内庁が、テレビのテロップで事実を知り、後追いで発表する。

そうでもしないといけなかった事情があるんだと思います。

なぜなら、この時より、長官を始め東宮職らと宮家側の間に

大きな溝が出来、マスコミ、とりわけ週刊誌などが激しく宮家に

バッシングを始めたからです。

私は男ですが、女性が妊娠する事は(しかもキコさまは39歳ですよ)

非常にめでたく、しかも心を穏やかにその時を迎えなくては

ならないものと思っておりました。

しかし、一部の国会議員以外はキコ妃殿下のご懐妊を喜ぶ事は

ありませんでした。

特にシャミン党党首のフクシマとかいう女性は

恐れ多くも妃殿下に対し

「妃殿下の妊娠はおめでたいが、それと皇室典範改正は別の事と

思っております」と発言しました。

小説家もエッセイストもこぞって、それも女性が

「なぜこの時期に懐妊されたのか」

「仕組んだのではないか。なんと計算高い」と

聞くに堪えないような言葉を浴びせ続けます。

最終地点はいつも

「マサコさまがお可哀想。マサコさまは第二子懐妊を

あきらめたのに。弟宮妃の分際で、皇室典範改正の

直前に懐妊するとは。

あのコウノトリの歌はきっと策略の一つだったに違いない。

きっとキコ妃は産み分けもやってのけるかもしれない。

したたかで計算高くていい子ぶりっ子の宮妃」

私は本当に心が折れそうになります。

私が垣間見た妃殿下は春の日差しのような方です。

冷静で穏やかで、そして美しい人です。

なのに、なぜここまで言われてしまうのか。

女性の体の神秘は男の私には分かりません。

妊娠しようとすればいつでも出来るのか、そうでないのか。

けれど、今回限りは私は、これは神の意志であると思います。

なぜなら皇室典範改正は棚上げになったからです。

全てはご出産される秋まで・・・・・

女性が女性の妊娠を喜べない、情けない国になったなと思います。

ここ、東宮御所にも嵐が吹き荒れています。

年明けの上機嫌な妃殿下はどこへやら。

東宮御所自体が腫れ物に触るような状態になってしまいました。

 

母さん。

この秘密を抱えた私の取るべき道は何のか。

私もまた神の采配を望むだけです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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