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韓国史劇風小説「天皇の母」196(仕返しのフィクション1)

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皇太子は受話器を握りしめていた。汗でぐっしょりとなってもかまわなかった。

とにかく早く電話に出てほしい。その一身だったのだ。

「もしもし」

出たのは遠いオランダの義父。

「あの!もう僕はどうしたらいいかわからなくて」

挨拶もなしにいきなりである。電話の向こうではため息と共に

「とにかく落ち着いてください。殿下」という声が聞こえた。

「落ち着いてはいられません。弟の妃が・・・妊娠したんです」

「ええ。存じておりますよ」

「それでマサコが。マサコが荒れて」

第一報を聞いた時、信じられない思いと怒りで我を忘れてしまった彼は

思わず「嘘だ!」と叫んでしまった。

伝えに来た侍従も内舎人達もその声にひどく驚いて、固まってしまった。

彼らとしては、どんなに聞きにくい話でも、とりあえずは

「おめでとう」というものだと思っていたのだ。

しかし、皇太子の言葉は違った。

怒りを込めての「嘘だ!」だったのだ。

「どうして?どうしてそんな事が。妃はいくつ?」

「さあ・・・よくは」

さすがに女性の年齢をはっきりは言えない。

皇太子は弟の歳を考えてみた。自分より6歳年下。さらに1歳下。

3・・39歳ではないか?

マサコがアイコを産んだ時よりも年上だ。

あの時だって十分に「高齢出産」と言われたのだし。当然のごとく弟一家は

カコで終わりと思っていたのに。

「殿下。お祝いの言葉を」

侍従長が促した。

一報を聞いた皇太子が怒り心頭であったなどという事がよそにばれたら大変な事だ。

しかし、皇太子はいきなり椅子に座り込むと頭を抱え込む。

「どうしよう」

「殿下。アキシノノミヤ家の慶事は皇室にとっての慶事でございますぞ」

「なんで今更・・・うちのアイコはどうなる」

そして、最近、やっと落ち着いてきたマサコはどうなる。

「ちょっと・・・」

自分の部屋から寝間着姿で出てきたマサコは、幽霊でもみたかのような表情で

ゆらゆらと近寄ってきた。

「ま・・・マサコ」

皇太子は何をどう言ったらいいのかわからなくて、ただ蒼白になっている妻の顔を見つめた。

「今、ニュース速報が。キコ妃が妊娠って本当なの」

「・・・・」

「本当なのか聞いてるの!」

マサコはテーブルをばん!と叩いた。びくっとした皇太子は慌てて頷く。

「なんで最初に聞くのが私達じゃなくてマスコミなの!」

「さ・・・さあ」

「仕組んだわね。これは仕組んだのよ。虎視眈々と狙ってたの!」

「マサコ。まだ男子が生まれると決まったわけじゃ」

「そんな事、どうだっていいの!妊娠したって事が許せないの!私があきらめたのに。

泣く泣く二番目をあきらめたのに。なんでアキシノノミヤ家だけいつもこうなの!」

マサコはわっと泣き出した。

自ら「二番目はいらない」と言ったことなどすっかり忘れていた。

たった一人の娘の状態は日々、悪くなる一方のようで、何をどうしても隠しおおせるものではない。

そのうち、国民にばれてしまうかもしれない。

毎日が薄氷を踏む思いなのに。

ほのぼのとした宮家にまた一人、健常児が生まれるというのだろうか。

「お・・・お義父さんに連絡して、何とかするよ」

「何とかって?」

「よくわからないけど。とにかく電話してみる」

皇太子はその場から逃げた。

 

そして今、受話器を握りしめているというわけだった。

正直、ヒサシに電話をしたからって何が変わるわけでもない。

でもヒサシなら、今すぐ総理に働きかけて「女帝容認」の皇室典範を

作ってくれるのではないか。そんな希望があったのだ。

「油断してましたな。殿下」

ヒサシの声はばかに冷静だった。

「まあ、宮妃の年齢を考えれば、今更妊娠など・・・思いもしなかったですがね。

誰がそれを許したんでしょうか」

「それは・・・」

何とも答えようがなかった。

長官の「第3子発言」以来、マスコミはこぞって彼を「悪者」にした。

子供を産むことが「后の条件」である事自体が女性差別だというわけである。

しかし、子供が生まれなければどこの家も続かず、次世代が育たなければ

天皇家といえども絶えるのだ。

そしたら権力も権威もへったくれもない。

だから子供を産んでくれるという事はとてもありがたい事の筈。

しかし、ヒサシの言葉はそんな空気をあからさまに壊すものだった。

「誰が許そうが許すまいが関係ないか。殿下の弟君は策士ですな。

まあ、殿下はお優しくていらっしゃるから、したたかな弟君にしてやられたんですよ。

兄弟の情なんて役にも立たないという事が証明されましたな」」

そうか。

皇太子はそこで納得した。

何という事だろう。あんなに可愛がって来た弟だというのに。

しかし、いつも長幼の序を無視する弟でもあった。

それが「やんちゃ」で済んでいたころとはわけがちがう。

「しかし殿下、まあ慌てず。宮家には型通りのお祝いをおっしゃって。

祝いに東宮御所で食事会などなさっては」

「え?」

予想もしない言葉に思わず受話器を持ち変える。

「弟君のお祝いに料理を出すんですよ。ナツメを使った料理。

ああ、パセリやアロエなどもいいんじゃないですかね。

そうなると中華でしょうか」

「それって・・・・」

よくわからない。アロエをどうやって食べるんだろう。

「アロエは絞ってジュースに出来ますよ。杏仁豆腐には

ナツメを入れればいいですし、サラダにはパセリが合うでしょうし」

電話の向こうの声が笑った。

「殿下。マサコだって一度は流産しているんですよ。高齢妊娠が

そうそううまくいくと思いますか?

流産の危険性も高いし、かりにそうなっても誰も残念に思いません。

やっぱりなと思う程度でしょう。

古来より望まれない妊娠には、色々あったという事は殿下だって

ご存じではありませんか」

ヒサシの言葉はさらに畳かける。

「高齢出産になればダウン症のリスクも高くなりますしね」

「祝いだといって呼べばいいんでしょうか」

言ってから皇太子ははっとした。

これは・・・もしわかってしまったら大変なことになるかもしれない。

いや、しかし、普通の食事が妊婦の体に障るなどとは誰も思わないし。

「兄が弟夫婦を食事に誘うのに何を遠慮することがありましょうか」

「弟は来ないかもしれません。そうなったらどうしましょう」

「あのね、殿下。大事なのは宮妃が産む子供が男か女かではない。

天皇家で最も力があるのは誰かという事ですよ」

天皇家で最も力がある。

「そう。力です。必要なのは。回りに有無をいわさない力がある。

それが重要なんですよ。それが確立すれば、法律の一つや二つ変えられます。

それだけじゃない。庶民が味方をしてくれます」

「僕にそんな力は」

「ありますよ。ご安心ください。殿下こそ日本の頂点に立つべきお方です。

まあ、見ていて下さい。今に国民はそれを思い知ることになりましょうから」

「マサコにはなんと言ったら」

「そうですね。夏にオランダで会おうとでも」

「オランダ?」

オランダって・・・ヒサシがいるオランダへ行けるのか?

しかし、今の所、オランダから招へいがあったとは聞いていない。

外務省の力でそれが出来るのだろうか。

皇太子は少し安堵して受話器を置いたのだった。

 


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