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Channel: ふぶきの部屋
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放浪記

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 3時間・・・いやーー長かった。

 

「放浪記」といば、森光子。森光子といえば「放浪記」で、森さんが亡くなった時、

もうしばらくは上演されないだろうなあ・・・と思ってました。

この作品の演出家さんは「林芙美子を演じる事が出来るのは遥くららか若村麻由美のみ」

とおっしゃっていたような気がします。

だからてっきり、若村さんがと思ってたらまさかの仲間由紀恵だったので驚いたのでした。

でもまあ仕方ないんだろうなあ。

仲間ちゃんはNHKさんに気に入られてるし、「花子とアン」では主役を食っちゃったし。

今、話題の人だし、チケット売れるし。

若村麻由美はライバルの日夏京子の方でむしろベストキャスティングなんだろうなと。

 

実は最晩年の森さんの「放浪記」ゲネプロを帝劇で見ました。

元々、芸術座の舞台仕様だったセットを帝劇に移したので、今思えば空間がありすぎた

ような気がします。

出演者もみんな年老いてて、どっちが年上だかわからないよなと思ってみてました。

だって森さん、当時90くらい?で、母親役の方が若かったんですよ。

特にカフェの場面では、回りの若い人たちとは完全にムードが違ってて、動きも当然悪くて

年齢的にちぐはぐだなと思ってました。

相手役の男性陣がみんな年下ですからね。無理があったなと。

そしてこの「放浪記」は場面転換が長いのです

舞台が真っ暗になるたびに眠気が・・・・

休憩時間の森さんは歩くのが辛そうで、ちょっと大丈夫かなと思いました。

セリフも飛んでたし。

だけど、今思えば林芙美子のうらぶれ感は出ていたような気がします。

 

そして仲間由紀恵版について。

3時間とはいえ、メリハリをつける為の役者の努力に感動しましたし

舞台転換もそんなに長くは感じず、ゆえに眠くもならず最後まで見通すことが出来ました。

可もなく不可もない仲間由紀恵の林芙美子なんですが。

全く「不幸」をしょっているようには見えないんですよ

そもそも、最初に登場するシーンからして「主役」オーラがないので、

ワンテンポ遅れて観客が気づいたように拍手。

この作品って、最初から最後まで場面の終わりが「じっと立ち尽くす芙美子」が多い。

要するに「思うようにならない自分の運命に絶望して立ち尽くす芙美子」といった感じですか。

最後の文机で眠るシーンも、一見栄耀栄華を極めたように見える芙美子が

きちんと布団に寝る事も出来ない。

日夏京子に「あんた、不幸だったのね」と言わせてしまう程の幸薄さ。

多分、そういうものを描きたい。

不条理劇の一種なんだろうなと思います。

 

今時、不条理劇は流行らないと個人的には思ってます。

一部の熱烈な新劇ファン、オタクっぽいチェーホフファン、70年代のアングラファンなら

いざ知らず、どうにもならない人生に黙って唇をかみしめる・・・なんて芝居は

見てて面白くないですよね。

そういう不条理は韓国ドラマや中国ドラマで散々見る事が出来るし

わざわざお金払ってまで暗い気分になりたくないよなーーと思ってしまいます。

なのに「放浪記」は上演される。

なのに「放浪記」はチケットが売れる。

何でだろう。3時間も「不幸のてんこ盛り」「貧乏で思い通りにいかないヒロインの嘆き」を

みたいのかしら。

それでも強く生きていくヒロインに共感したいのかしら・・・などとあれこれ考えてみても

さっぱりわけがわからない。

なぜって

仲間由紀恵がまるっきり「不幸」にも「貧乏」にも見えないんですもの。

晩年の森さんもそれは言えたかも。

だけど森さんは文字通り美人ではなかったし、社会的経験を積んで

人生の脇役を演じてきた歴史があった。

そんな脇役人生を歩いてきた森光子が主役に躍り出た作品だからこそ

観客は見たいと思ったろうし、ヒロインと役者を重ねてみる事が出来たんでしょう。

しかし

本当に仲間由紀恵には「貧乏」が見えないの。

チェーホフの「桜の園」を原書で買ってきたシーンを見ても

森さんなら「ああ、どうせ読めないのにカレシの為に高いお金を出して買って」と思う。

でも仲間ちゃんの場合「もしかして自分で読んじゃうのか?」と思ってしまう。

とてもインテリに見えるんですよね。

小さい頃に放浪生活を送って、男性関係が豊富な母親に似てダメンズで

性格がねじ曲がって、親友の原稿を遅れて提出する最大のいやがらせをしておいて

反省の言葉もない。

そんな嫌な人に見えないんです

時代とは恐ろしいもので、こういう林芙美子の行動が本当のことだったとしたら

(っていうか本当のことだったんですけど)

DNAが日本人じゃないんだなと。

 

舞台の上では人間関係に恵まれている林芙美子です。

ゆきちゃんは自分を崇拝し、その為に身売りまでしてくれた。

木賃宿の占い師さんは親切。画家も親切。

大金を預けてもネコババしない日本人的な素質を持っている人達。

一方で実家の母は「因島の元カレに会って、あっちがその気なら二号さんにしてもらって

とにかく生活できるようにして」という。こういう考え方もちょっとあちら風ですよね。

そこにやってきた超貧乏な親子は、飢えているのに礼儀正しくて遠慮深く、最後のプライドは

失っていない。

芙美子はその親子に「自分たちが放浪していたころ」を見るわけですが、観客の私は

別な見方になってしまいましたね。

 

ラスト、芙美子の母親が着慣れない被布を着せられて「林先生のご母堂様」に見えるように

されてしまうあたり。

そもそも考えが成金的だよなーーと思ったり。

慈善団体に寄付を求められると「貧乏人は働くしかない」ときっぱりお断り。

立場が変われば考え方も変わるのか?それじゃまるで・・・・

3時間かけて思った事は、林芙美子の性格の悪さというか、日本人とは相いれない部分があった

という事。仲間ちゃんが演じることで余計に浮彫にされちゃったのかな。

それもこれも「不幸」に見えないから。

仲間ちゃんが立ち尽くしても背中に孤独が見えないし、可愛そうに見えないし

あんなに性格がねじまがってもしょうがないなあと思わせる部分が何一つないです。

 

でも、どっちが幸せなんだろう。

男に恵まれなくても(でも助けてくれる人に恵まれた)作家として大成する人生と

ついに作家として芽が出なかったけど、最後まで気にかけてくれた「夫」がいて

再婚相手まで見つけてくれて安泰な人生と。

自分だったらどっちがいいのかな。

「ふぶきさんは幸せじゃないですか。優しい旦那さんと3人の子供に恵まれて」と

よく言われますが、それが私にとっての本当に望んだ事だったかどうかというのは

わからないものね。

だからってどこかの妃みたいに適応障害になるわけにもいかず、現状維持で

生きているわけですが。

 

今回、一番素晴らしかったのは若村麻由美でしょう。

スタイルがいい、しぐさがいい。演技力が半端じゃない。

でもやっぱり彼女では林芙美子は出来ないかも。

それから安岡さん役の村田雄浩。彼は一人で場をさらっていました。

とにかく面白い。舞台にメリハリを与えてくれました。

白坂役の羽場裕一。彼の演技は癒しでしたね。

さりげなく大人の男性で、若村麻由美ともいいコンビだったし。

ゆきちゃんの福田沙紀はイマイチ。

演技力に疑問。ぷくぷくしすぎ。

藤山の永井大は素晴らしい男っぷり。あんな人が夫だったらいいなと思います。

元カレの佐野圭亮は相変わらず押しの弱さが役柄に似合ってます。

しかし、里見浩太朗の息子なんだし、もうちょっと強い役者になってくれよーー

いつまでも頼りなくて。いい声しているのに。


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