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韓国史劇風小説「天皇の母」198(逆襲のフィクション2)

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その年の誕生日の内祝にキコは欠席した。

「そんなに体調が悪いのか」と東宮職から質問をさせてみたが

「高齢出産になるので大事をとりました」とのこと。

何が高齢出産だ。マサコだって38で出産しているというのに。

再度「少しの時間でも構わないから出席すべきでは」と言わせたが

今回ばかりは宮の意志が固く

「男にはわからない体調の波があるようで」と返答した。

体調云々を言われたら言い返せない。

こちらも脛に傷を持つ身。これ以上は追及できなかった。

ナツメも役に立たなかったのである。

まさかそんなことを警戒したとでもいうのだろうか?

皇太子は少しいぶかってみたが、本人に言うわけにはいかない。

不機嫌な妻と強気の舅に挟まれて、皇太子はどうしたらいいかわからなくなった。

「妃殿下は高齢出産であられますから、お気をつけないといけませんなあ」

ヒサシが言い、ユミコが

「ほんと。まあ3人目でいらっしゃるから慣れたものでしょうが」というと、

皇族方はみな黙ってしまった。

宮は微笑みながら「ありがとう」と答える。

「それにしても殿下はお元気でいらっしゃる。私など40にもなればいい歳で

とてもとても子をなすなど。東宮様といい、皇室は精力旺盛だからこそ

2000年も続いてきたのでしょう」

ヒサシは多少の酔いもあって、少し気が大きくなったようである。

「殿下はナマズのご研究をされていたんでしたかな。すっぽんではなく?」

などと下品な冗談を言い募る。

宮は「すっぽんも面白そうですね」と相変わらず笑っている。

たまらず皇后が

「東宮妃の体調も上向きでよい事ですね」と話を向けると、ヒサシは

「陛下にはふがいない娘で恐縮しています。なにせ2人目を諦めたと言いましてね。

まあ、年齢からみれば当然ですよ。とても宮様のような勇気はございません。

これからはトシノミヤ様の養育に専念するとおっしゃっています。

それがいいでしょうね」

「そうね」

皇后はそう言うしかなく黙った。

誕生日の宴というのに、どこまでも殺伐としている。

「将来、総理大臣にもなれると言われた娘が、今はこんな有様です。

一体どうしてなのか、私にもわかりません。

娘が得てきた知識も経験も皇室という奥深い場所では何の役にも立たなかった

という事でございましょうなあ」

「お父様のおっしゃる通りにしただけじゃない」

マサコのセリフにヒサシは笑った。

「ほら、いつもこうして私を責めるのです。まるで私が無理に入内を勧めたかのようにね。

私はあの時、もうしたんですよ。

皇室とて、そこにいらっしゃるのは人間であるから理解し合えない筈はないと。

どんな立場の、どんな地位の人間も平等にそこに存在しているんだから

なんでも口にして聞けばいいのだと。そうではありませんか?」

「ええ・・・」

皇后は答えに窮する。ヒサシのいう通りだと信じて入内したあの日を思い出す。

人間みな平等。皇族も人間。現人神ではない。

だからこそ血筋に惑わされるのは間違っている。

人間はその性格や知性によって評価されるべきであると。

そうはいっても、皇太子妃の「適応障害」は少しも成功しているとは思えない。

一部に批判の芽がある事は皇后の耳にも入っている。

かつて葉山にこもった自分が批判された事は一度もなかったのであるが。

「でも皇太子妃としての務めがあります。妃もそのあたりをよく考えているでしょう」

そんな言い方しかできなかった。

この日の宴は完全にヒサシの勝ちだった。

 

いつもいつも「皇室」「自己」の間で葛藤と矛盾を感じる天皇と皇后は

民主主義時代の皇室の在り方について未来を失っていた。

 

数日後、一人で参内した皇太子は、今年の誕生日がとても悲しかったと母に訴えた。

「世間の期待が一気にアキシノノミヤに移ってしまったんでしょうか。

僕は存在してはいけないんでしょうか」

「誰がそんなことをいうのです。あなたは東宮です。将来の陛下なんですよ」

「でもアイコは男の子じゃありません。マサコももう子供を産むのは嫌だと言っているんです。

無理は言えません。もし、宮の所に男子が生まれたらどうなるんでしょうか」

「そうだとしてもあなたは東宮だし、立場は変わりませんよ」

「そうでしょうか。僕なんかいつだって貧乏くじばかり引いてます。昔から

アーヤの方が背が高くて頭がよくて」

「あなたにはあなたのいい所が沢山あるんですよ。それにあなたは陛下の長男。

背の高さだの頭だのって関係ありません」

「僕、結婚に失敗したんでしょうか」

皇太子はしょぼんとして呟く。

「どうしてそんなことを?」

皇后はびっくりして顔を覗き込む。じんわりと皇太子の瞳には涙が浮かんでいる。

「おたあさま」

皇太子は目をこすりながら言った。

「おたあさまやおもうさまがマサコのことを不満に思っている事は知っています。

僕だって時々、堪忍袋の緒が切れそうになります。

結婚する前のマサコは明るくて優しそうだったのに、結婚してからは変わりました。

いつも不満を抱えて、あれが嫌だこれが嫌だと。

最初は僕も怒っていたんです。だけど、マサコの気持ちもわかるような気がしました。

だって、彼女はものすごく優秀で自由自在に世界を飛び回っていたんですから。

皇室という狭い場所に閉じ込めた僕が悪いんです。本当にそうだと思います」

「ナルちゃん。皇太子妃になるという事がどんなことか、妃にもわかっていたでしょう。

その上で結婚を承諾したのですよ。あれからもう10年以上が過ぎました。

子供もなして、夫婦として形が出来ている筈でしょう。今更失敗も何も」

「おたあさまはそんな風に思った事はないのですか」

聞かれて皇后の胸によみがえったのは苦いコーヒーのような日々だった。

戦争時代、こんな窮屈な世界は嫌だと子供心に思っていた。

あの館林の日々。地元の子供達になじめなくて、何もかも違っていた。

しかもお腹がすいていた。

そんな日々を抜け出して戦後の自由を謳歌したいた時に来た入内話。

「民意」を背負っての入内だった。

そう信じている。世間は全て自分の味方だった。

日本中で最も美しく気高い女性、それが「ミチコ妃」だった。

なのに、皇室は私を拒もうとした。「血筋」一つを盾にとって。

皇室の悪しき価値観を50年かけて変えてきた筈だ。

なのに、まだ苦しんでいる女性がいるのも事実。

そして最も大事な息子が翻弄され、傷つけられ悩んでいる。

「私は陛下のお心に従って生きてこられたのよ。どんな時でも陛下の

お導きがあったからあなたを育て、アーヤやサーヤを育て、皇太子妃として

皇后として生きてこられたのです」

「僕にはそんな力はありません。妻を導くなんて」

「ナルちゃん」

「おもうさまみたいに立派じゃありません。僕自身が今の生活が不満でならないのに

妻に我慢しろと言えますか。僕はずっと我慢してきました。

見張られているような自由のない生活を。

だけど仕方ない。だって僕は将来天皇にならないといけないんですから。

そうはいっても、時々やりきれなくなるんです。

せめてマサコがもう少し機嫌がよかったら僕も耐えられるんですけど」

皇后はたまらなくなって、思わず皇太子の両手をぎゅっと握りしめた。

「大変な立場に産んでしまってごめんなさい。でも私はあなたを誇りにしていますよ」

「僕はマサコがいないとダメなんです」

皇太子はしくしくと泣き出した。

「マサコなしでは生きていけない。もう踏み込んでしまったんです。

僕にはマサコと一緒の人生以外、考えられないんです。

僕にはもう、僕には・・・・もう、この道しかないんです」

この道しかない。

あの不出来な皇太子妃と一生をともにするしかない人生・・・・

皇后の頭の中で何かが目まぐるしく動き始めた。

確かに今、離婚しても皇太子にメリットは何一つない。

汚点だけが残る。

アイコの秘密や養育環境を考えると、誰と再婚してもいいというわけではない。

いつの間にか皇室は国民に大きな秘密を抱えている。

望むと望むまいと、抱えてしまった秘密は墓場まで持っていかねば。

それは、かつて「ねむの木」に代表される障害者への「慈愛」をうたった皇后とは

正反対の考えだった。

矛盾している事はわかっている。

しかし、この事は自分の事ではない。

もう歳をとった自分たちが解決する話ではない。

望んだのは子供達夫婦なのだから。

心のどこかで「あの障害者たちと孫は違う」と思っている自分もいる。

優しくできたのは「他人」であったから。

これが身内のこととなると話は別。

裏側のこの気持ちをどう隠して行ったらいいのだろう。

あくまでも望んだのは息子であり、嫁であり・・・・・

 

一方で、自分たちが築き上げた新しい「貴族社会」なら

皇太子とマサコを守ることが出来るのではないかとも考える。

旧皇族を捨て、旧家族を捨て、孤独の中に新しい人脈を築いてきたのだ。

その「壁」なら・・・・

「ナルちゃんの思いのままにすればいいわ。あなたが苦しくない様に。

アイコしかいないのなら、それでいいわ。

世の中が変われば皇統の流れも変わります。それを待ちましょう」

皇后は泣きじゃくる皇太子の肩を抱いて必死に慰めた。

 

 


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