今回は山岸凉子です。
彼女のすごい所は今もって新作を発表し続けている事でしょうか。
まず一作目は
「天人唐草」(1979 少女コミック)
天人唐草というのは植物の名前で、「イヌフグリ」というのが正式名称だそうです。
そしてこの話は、よくネットで「外に出せない状態の雅子妃」を形容するときに出てきます。
ヒロインがラスト、気が狂ってしまい「キェーッ」と奇声を発しながら歩く姿。
これが「雅子妃」だっていうわけで、それを知った時は爆笑してしまったんですが。
ヒロインの響子は厳格すぎる父親と絶対服従の母親の一人娘として育った。
「女性はしとやかに」の父の下、自分を出せずだんだん萎縮していく響子。
ある日、「イヌフグリ」という植物を知り、母に尋ねると、代わって父が
「女の子が軽々しくそんな言葉を話すな」と叱る。母はみかねて
「別名は天人唐草だからそう呼びなさい」という。
「イヌフグリ」というのが性器を意味する言葉であり、それがきっかけで響子は
「性」というものに異常に潔癖になっていく。
あまりに父が厳格すぎて、響子は本来の明るさをなくし、自分に自信がなくなっていく。
母もなくなり、父と二人暮らしをするようになると余計に父の影響を受ける。
従順でありすぎた為、お見合いをしても断られるばかり。そんな時、父が突然亡くなった。
厳格で清潔な父と思っていたのに、実は愛人がいた。
響子は知らない男にレイプされ、自分が壊れてしまう。
山岸凉子は「親の支配」をテーマに描くことが多いですよね。
例えば「スフィンクス」などが代表的でしょうか。前回紹介した
「パイドパイパー」なども、一連の流れであるといえます。
人の性格や考え方は、育った環境による影響が大きいという事。
親や身内のエゴや自己愛が子供の個性を殺していく・・・そういう心理描写に
長けている人です。
響子のような、引っ込み思案で個性を発揮できない女の子はたくさんいます。
自分の前に立ちはだかっている壁を壁とも知らず、ゆえに乗り越えなかった結果が
「キェーッ」なわけで。とっても気の毒な話だと思います。
ラストシーンは背筋が凍りつくようで、子育て世代は心して読むべき作品ですね。
「鬼」1997年 月間コミックトム
これを読んだときは涙が止まらず、あまりのショックで放心状態でした。
大学のサークル7人組が旅行した場所は「イゴク寺」と呼ばれる場所。
脱サラして住職さんになった人を訪ねて行ったのですが、そこで不思議な現象が。
実は、その辺りは江戸時代の飢饉で子供達が多数「間引き」された場所なのです。
家族の中で、どうして自分が選ばれ穴の中に落とされたのか。
空腹と悲しみで一杯の子供達の思い。
そして最後に、激しい飢えの為にとうとう、友人の肉を食べてしまった子供。
その子がいわゆる「祟り」を起こすのですが、彼は祟りを起こそうとして起こしているのではなく
ただただ、なぜ今こんな姿になってさまよっているのかわからないだけなのです。
サークルの学生達は菩薩さまに祈る事でその子を極楽へ導いていく。
その一連のストーリーが本当に悲しくて切なくて。
ぜひぜひおすすめの一作です。
山岸凉子と言えば最近、「レべレーション(啓示)」という新作を書きました。
ジャンヌ・ダルクのお話です。
大昔、美内すずえが描いた「白ゆりの騎士」と合わせて読むと面白いかもしれませんね。