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韓国史劇風小説「天皇の母」201 (バッシングフィクション)

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キコはだるさに耐えていた。

懐妊して以来というもの、前2回に比べて体が言う事をきかないのだ。

「妃殿下。正直、これは高齢出産でございますから。ご自分の体力を過信せず

十分にお休みにならなければいけません」

医師からはそう言われているので、多少は公務を休む事はある。

皇太子の誕生日食事会も休んだ。

というか「懐妊中のキコが食事会に来ては、マサコが傷つく」という

東宮からの暗黙の圧力があったため、遠慮したというのが現状だ。

宮邸ではすでに春が来たかのような明るい風が吹いている。

マコもカコも「赤ちゃんが生まれるの?」と言って大はしゃぎ。

カコはちょっとだけ「お姉さまになったら甘えられないわね」と愚痴を言ったが

「私に甘えていいわよ」というマコの言葉にすぐ笑顔になった。

「じゃあ、赤ちゃんのお世話は私がするわ。私、得意よ。きっと」とカコは早速

あれこれ計画を立てようとする。

ベビー服はどんなのを着せたらいいかとか、オムツはどうしようとか。

まるで人形遊びの延長のようだったが、それでも家族はみな笑いさんざめきあった。

 

元々は丈夫なたちのキコである。

つわりに悩まされることもあまりなかったし、むくんだりもしなかった。

今までは。

でも今回は何となく体が重い。毎日すっきりしないし、食欲もあまりない。

眠いし気分は落ち込むし。

どうにもならなかった。

「今時は40代で産む方はたくさんいますけどね。昔と違ってみなさん、若いというか。

でもそれでも20代で産むのとはわけが違う。運動は大事です。しかし余計なストレスは

極力避けて、ゆったりとお過ごし下さい」

と医師は言うのだが。

 

懐妊を報告した時、天皇は素直に喜びの表情を見せてくれた。

「孫が3人では寂しいと思っていたんだよ。この歳でもう一人恵まれるとは」と。

皇后も「おめでとう。体を大事に」と労わってくれた。

「今回の事は本当に喜ばしい事ね。思いがけない慶事に

歓びもひとしおでしょうね。でも、世の中にはそうではない人達も沢山いるのだから

自慢気な顔をしたり誇らしげに歩いたりはしないように。

キコちゃん。私は心配なのよ。

いまだに信じられないわ。

私達の若い頃には考えられない事でしたものね。

高齢出産という事はリスクも覚悟しておかなくてはね」

「無論、どのような子供も受け入れます」

それに答えたのは宮だった。

「せっかく両陛下からお許しを頂いたので」

天皇はうんうんと頷いて笑っていたが、皇后の方はやはりうかない顔で

キコをみつめていた。

「サーヤにもこんな慶事があったら」

呟くような一言が、かなりキコの胸に突き刺さった。

 

マコを懐妊した時は、誰もが手放しで喜んだものだった。

マコを見つめる世間の目はやさしさにあふれていた。

だが、カコを懐妊した時は、それが皇太子妃ではなかったという事で

随分とバッシングされた。

あの時は皇后に泣いて訴えたこともある。

「宮家に子供が増える事の何がいけないのでしょうか」と。

皇后は優しく慰めつつも、「東宮妃も気の毒なの」とおっしゃった。

皇太子妃が入内してからというもの、「ご懐妊」の話題は常に妃に集中しており

誰も宮家の事など考えていなかったのだ。

先を越した形になったキコに対する風当たりは強かった。

皇后はそれを「気の毒な皇太子妃の為に我慢してね」と言った。

悪い事をしたわけではないのだが・・・・マコの時とは違う空気に戸惑いつつも

キコはただただ母としての歓びを享受しようとした。

生まれたのが内親王であった事が、刺々しい空気を変えてくれたのだったが。

「そういえば、夏にマコちゃんがホームステイをするんですって?」

「はい」

「オーストリアでしたか?」

「はい。私の古い友人がおりまして。そこに滞在させようと思っています」

「そう。キコちゃんは長い事オーストリアに住んでいたのだったわね。

よろしいわね。広い交友関係があるというのは」

「ありがとうございます」

「サーヤにも留学を勧めたかったけれど、本人は行きたくないというし

当時は皇位継承権のない内親王が留学することに意味がないと思われていた

から。サーヤも今10代だったら」

「なるべく目立たぬように行かせますので」

「マコちゃんは幸せね」

皇后の何気ない言葉にとげがあると感じるのは、きっと自分が今妊娠中で

ホルモンバランスが崩れているせいなのだ。

 

キコは気持ちをふるいたたせた。

今はお腹の子を大事に産むことが最優先だ。

何を言われても何をされても耐えるしかない。

とはいえ、懐妊発覚直後から始まった雑誌のバッシングには

さすがのキコも傷つかずにはいられなかった。

「キコさま満願の懐妊と皇太子妃マサコさまの心情」

「そこまでして男子」

「時期が時期だけに素直に喜べません」

「きっと皇室典範改正もキコさまの出産まで延びますよね。

いろんな思惑が交錯して嫌な感じ」

「何だか釈然としません。マサコさまの心情を考えると素直に喜べない。

結局女は「後継ぎを産んでなんぼ」なんでしょうか」

「素直に喜べません「作為的な何か」を感じるから」

「女は生まれちゃいけないんですか?がっかりされるんですか?」

「皇太子殿下はアイコ様に聞こえないようにそっとマサコさまにキコさまの

ご懐妊をお話になったそうです。マサコさまは「え」と一言おっしゃって

大変驚かれたそうです」

「皇太子と宮 壬申の乱は起こるのか」

妊娠が明らかになってたった一月や二月でこのような見出しや記事が踊り

まるでキコの妊娠が

「作為的」で「わざわざ仕組んで」「男子を産むことに必死」

「時代錯誤な女性蔑視」というようなムードであった。

東宮が何もしなくても、マサコが何も言わなくても、世間の同情は

「男子を得られなかった事によって「長男の嫁」の役割を果たせない可哀想な

嫁の立場であるマサコさま」に集まってしまった。

元より覚悟していた筈なのに、心が次第にささくれだっていくのを

止められずにいる。

このお腹の中にいる子が女であるか男であるか・・・それが皇室の未来を

変えることになるのだ。

 

「雑誌や新聞は読まない方がいい」

すっと宮が新聞を取り上げた。

「目に悪い。僕も最近は目が近くてね」

「殿下、お帰りでしたか。研究会はいかがでした?」

「うん。君の懐妊をお祝いされたよ」

「そうですか。嬉しいですわ」

と言いつつ、涙が頬を伝うのを感じて、キコは慌てて顔をそむけた。

どうして不意にこんな事が起こるのだろうか。

自分では決して泣くつもりなどないのに。

「今、お茶を・・・・」

立ち上がろうとしたキコを宮はそっととめた。

「いい。自分で呼ぶから」

宮は侍女にお茶をいいつけると、キコの目の前に座った。

「体の調子はどうだい」

「ええ。大丈夫です。まだ目立ちませんもの」

「男の僕にはどんな風に体が変わっていくかわからないけどね。

きっと辛いだろうね。わかってあげられずに申し訳ないと思ってるよ」

「そんな事は・・・・」

「今年は弟のシュウ君の結婚式が夏にある。マコのホームステイも夏だ。

今より大変だろうなと思うけど」

「大丈夫です。私、丈夫なのが取り柄なので」

「・・・・思えば、結婚してから苦労ばかりだね」

「そんな事」

「また泣かせた」

「泣いてなんかいません」

「泣いてるよ」

宮はそっとキコを抱きしめた。

「今回の事は何も間違ってない。絶対に間違っていないから。

だから何をどういわれても我慢するしかない」

「はい。わかっております」

キコは宮の広い胸に顔をうずめた。

ぶっきらぼうで粋な言葉が出てこない・・・こんな宮を私は好きなのだ。

だからこそ、今の自分があるのだ。

キコは心が少し明るくなるのを感じた。

春はそこまで来ているのだった。

 

 

 


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