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韓国史劇風小説「天皇の母」202(オランダコネクションフィクション1)

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「おじいちゃま、見て。アイコよ」

娘の背中をぐいっとおして、ベッドに横たわる老人によく顔を見せようとする。

老人は目を大きく見開いて、息をぜいぜいと言わせながら力のない手を

4歳の孫の方へ伸ばす。

その娘は怯えてささっと母の背中に隠れ、それを母がまだ押し出そうとした。

ユミコはそんなアイコを抱き上げ、より一層父の顔の前に出す。

「どう?未来の女帝の顔は」

ユミコは自慢げに言い、アイコを下ろした。

アイコはたたたっと病室の隅に走っていくとしゃがみこんで何事かぶつぶつ言いだした。

マサコは女官を呼んで、娘を病室の外に出す。

全く腹立たしい。余命いくばくもない老人に少しは愛想よく出来ないのか。

あの子は本当に可愛げがない。

いつまでこんな生活が続くのだろう。

ハーバードを出た自分の娘がこんな風だなんて、恥ずかしくて誰にも言えやしない。

この先ずっと隠しおおせるのか。それを考えると夜も眠れない。

なのにあのバカは・・・(彼女は自分の夫をそう思っていた)

のんきそうに嬉しそうに娘と遊んでいるばかり。

本来なら学習院ではなく慶応幼稚舎くらいに入れたかった。自分の娘なら

それくらいがふさわしいと思った。

だけど、あれは・・・あの娘は入園試験すらまともにできず、お目こぼしで学習院に

入れて貰えただけ。

マサコはそれが遠い昔の自分の姿だとは思ってもいなかった。

ユミコはこっそりと「まあちゃんそっくりだけど、いずれはハーバードよ」と本気で

考えていた。

「ああ・・・ああ」

祖父が何か言った。

かつて日本一の公害を出した企業の社長。

その公害を告発しようとした記者を半身不随にして死なせてしまった男。

「腐った魚を食べるから悪い」

「この貧乏人どもめ」

と公害訴訟を起こした国民に言い放った男。

しかし、今は富士の裾野の療養所で寂しい最後を迎えようとしていた。

もう誰も見舞いにも来ない。

実の娘も、実の孫達もめったに来ない。

でも彼にとっては幸せだった。

孫娘が皇太子妃になった。いずれ皇后になるのだ。この自分の孫娘が。

すでに黄泉の道を半分歩いている老人の脳裏に浮かぶのは

アイボリーのドレスに身を包み、郷かなティアラを被ってパレードする孫娘の姿。

被差別と呼ばれたところ出身の自分の血筋が、日本最高の家に嫁いだのだ。

あの時の誇らしさはどうだろう。

世界中に「ざまあみろ」と言ってやりたかった。実際テレビの前で言ってやった。

そうだそうだ。

自分達を差別し、貶め、散々悪口を言った連中に目に物見せてくれるのだ。

貧乏人どもよ。お前たちはこんな事はできまい。

結局、運と金がなければ何も出来ない。

貧乏人は一生貧乏なままひがんでいればいい。

俺は皇太子妃の、将来の皇后の祖父として死んで行く身なのだ。

「ひ・・・ひ孫がそく・・即位するまで・・生きたいのお」

やっとのことでそういうとユミコは大声で笑い出した。

「ええええ。長生きして頂戴。そして天皇陛下の曽祖父になって頂戴。

私だって頑張るわよ。でもそれもこれもヒサシさんのお蔭よ。

それを忘れないでね」

「やあね。お母さまったら」

マサコもつい笑った。

「何言ってるの。おじいちゃまがお父様に会わせてくれなかったら

今のあなた達はないんだから。それをよく考えなさいよ」

「それはそうだけど・・・・」

その偉大なる父の手で皇室という日本最高の家に嫁いだ。

しかし、今の自分のみじめったらしさはどうだろうか。

「お母さま、帰りは送るからコンラッドラムゼイでお食事しない?

個室をとってあるのよ。アイコも一緒に」

「あら、いいわね。随分贅沢じゃない?そりゃそうよね。皇太子妃なんだもの」

「あんなところ、そんなにいいとも思わないけど・・・アイコがパスタを

食べたがるから」

「まあ、小さい頃からいい味を知るのはいい事よ。幼稚園の入園式も近いし

そのお祝いもかねて」

「それはそれでまた別よ。その日の夜は中華がいいわよね。だからお母さま

まだオランダへは帰らないでね」

「しょうがないわね。外ならぬまーちゃんの頼みだもの」

ユミコは、マサコの感情が落ち着いていることにほっとした。

高級なレストランへ行ったり、遊園地で遊んだり・・・その程度で病気が治るなら

安いものだと思っているのだった。

 

暫く空位だった東宮大夫に外務省出身のノムラが就任したのは

4月に入ってすぐだった。

このところ、手に負えない状態になってきた娘の欲求を叶える為に

ヒサシが裏で手を回した人事であった。

ノムラは外務省時代からチャイナスクールにおいてヒサシの下で働き

マサコからは「おじちゃま」と呼ばれているほど親しい間柄だった。

オワダ家の娘たちの性格などをよく知る人物であったし、また内実も知っているので

ヒサシとしてはこれ以上の人事はなかった。

またノムラにとっても、最後の宮仕えが宮内庁である事は箔がつくので

快く引き受けた。

厚生省事務次官出身の宮内庁長官もまた、心はヒサシと繋がっていた。

そもそも官僚というのは長いものに巻かれる存在であり、

強いものには従うという習性を持っている。

長官もまた思想的には相当な左巻きであり、宮内庁長官でありながら

心の底では皇室制度に疑問を呈していた。

加えて次長はヒサシとは同郷であり、学会を通じての繋がりが深い。

そういう意味では、皇室そのものがヒサシの手で包囲されているも同然だった。

 

「君の最初の仕事はわかっているだろうね」

東宮大夫就任の電話を受けたヒサシは、ひどく丁寧に礼を述べる

ノムラに向かってにこやかにそう言った。

「私としては君が適任だと思ったから推薦した。あの娘を御す事が出来るのは

君だけだ。だから」

「無論、わかっております。何でもお言いつけ下さい」

ノムラの声は上ずっていた。声からでも内心の恐怖が見て取れる。

逆らったら安泰な老後はないだろうと察しがつく。

「いやいや。私はね。申し訳ないと思ってはいるんだよ。

不肖の娘を押し付けてしまったことにね。本来なら私が傍で目を光らせ

妃殿下の欲求を叶えて差し上げるのがいいと思う。

しかし、オランダにいる身ではなかなかそうはいかなくて」

「ええ。無論でございます。私は身命をかけて妃殿下にお仕え致します。

お小さい頃から妃殿下を知る者として、僭越ながらもう一人の父のような

気持ちでおりますから」

「それを聞いて安心したよ。では頼みを言おうか」

ヒサシは電話を切ってほくそ笑んだ。

それから意を決したように立ち上がると側近を呼んだ。

「外務省に行く。外務大臣に会う」

車はすでに用意されていた。

ここからは国際司法裁判所所長としてのコネを有効に使わねばなるまい。

これから前代未聞の大勝負に出るのだ。

 


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