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韓国史劇風小説「天皇の母」204(悔しくてフィクション)

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どうしてもぬぐえない敗北感に包まれ、マサコはイライラしていた。

弟の嫁が3人目を妊娠した事がどうしてこんなに気に障るのか。

たかが妊娠ではないか。しかも40歳になろうとしている。

女性の仕事は子供を産むことではない。学歴とキャリアを積み

やりがいのある仕事を一生かけてやる事。

それが「私」にとっての幸せの筈だった。

しかし、回りが結婚していけば何となく負けたような気がするし。

カレシがいるだけじゃ何の自慢にもならないのだと知った時、皇太子と知り合った。

本当に結婚したかったわけじゃないが、それもステイタスの一つだと。

そして、今、娘がいる。

義弟の家よりもうちの娘の方が格上だ。

幼稚園に入るアイコはそろそろ補助輪なしで自転車に乗らなければならない。

教える役をあっちの二人の娘にさせようと思って、宮邸に行ったら

「お手伝いしたのは山々なのですが、うちの娘たちはそんなに自転車には

乗りませんのよ。馬の方は少しいけますけど。なんなら乗馬を?」

などと張り付いた笑顔の妃に言われたし、おじちゃまにも

「さすがに内親王殿下を女官のように扱うのかいかがかと」と注意されたのでやめた。

それにしても、あのキコという妃はなんだっていつも穏やかに笑っているんだか。

女官達がいうには

「お二人の内親王様達の時と違って、今回はそうとうつわりがひどいようです」という事だったが

アポなしでいつ行っても、顔色が悪いわけでもないし、機嫌が悪いわけでもない。

感情の起伏がないのだろうか?

「暫く乗馬もテニスも出来なくて辛いでしょう?」と聞いたら

「そうですね」と笑う。

「お腹が大きくなると外に出るのも大変になるわね」と言ったら

「ええ。でも大きな荷物を持たなければならないわけではありませんし」と笑う。

「我慢すると体に毒じゃない?」って言ったら

「お気遣い頂き、ありがとうございます」と来たもんだ。

一体何様なんだろう?彼女の顔は妊娠する前よりずっと輝いているではないか。

つわりがひどいならひどいって言えばいいのに。娘に女官みたいな役はさせたくないと

思うならそういえばいいのに、何が乗馬だよっ!

荷物を持とうが持つまいがつらいものはつらい筈。

なぜ言葉に出さないの?なんで優等生面してにっこり笑えるの?

ほんと、大嫌い!とマサコは心の中で毒づく。

生まれる子が女でも、こんな風に落ち着いて笑っていられるのか?

鳴り物入りで妊娠しといて、やっぱり女だった・・なんてことになったら

どんだけ笑われるか。

なんたって内閣の閣議を通す寸前に棚上げにしてしまったんだから。

その責任は宮家にあるんだから。

あの余裕の顔は、生まれる子が男だって知ってるの?

巷で言われているように「産み分け」して妊娠したのか?

マサコは思わずぶるぶるっと体を震わせた。

「そんな筈ないわ。私だって失敗したのに・・・・あの時、担当したのは

日本一の不妊治療の権威だったのよ。絶対に成功するって言われたのに

生まれてみたら女だった」

あの時の失望感がよみがえって来て、思わずベッドに突っ伏してしまう。

体中から力が抜けるような敗北感。

小さい頃から度々襲われてきた絶望感。

気まぐれに東宮職員を総動員して勤務時間内いソフトボールをやってみても

真夜中に森を散策してもおさまらない。

悔しさに身もだえしてしまうのだ。

ああ・・・あの女が本当に男子を産んだらどうしよう。 

そんなことを思うといてもたってもいられなくなる。

巷では「もし、キコさまが男子を産んだらマサコさまへのプレッシャーが

軽くなる」と言われている。

冗談じゃない。その男子は「皇太子妃の子」でなくては意味がないのだ。

もし、生まれるのが男の子だったら、自分が子供を産んだ意味がなくなってしまう。

「そんな事にはしない」と父は太鼓判を押してくれたけど。

 

あれやこれや考えると頭が痛くなるので、マサコはとにかく娘の

入園準備に専念することにした。

とはいっても、お道具袋は既製品に女官が刺繍したものだし

制服も女官が容易したものだし、日々のお弁当は大膳が作る。

母であるマサコがするべき事は何もない。

マサコはアイコを連れて出歩く事が「仕事」だと思い込んだ。

3月には幼稚園のひな祭りにアイコと一緒に行き、時間をオーバーして楽しみ

知り合った何人かを東宮御所へ呼んだ。

彼らはひどく恐縮し、そして信じられないというような目で自分を見つめる。

そんな視線が嬉しくて、次々と「お友達候補」の親子を誘った。

通常、親王や内親王の学友は宮内庁が決めるものなのだが、

マサコは思いつくままに誘った。

当然誘われるべきなのに誘われない親子もいるわけで、そういう彼らが

失望したようにうつむく姿が快感だった。

マサコはこの手の快感がたまらなく嬉しいのだ。

テーマパークで長い行列を無視し、特別な入口からアトラクションに乗る時の歓び。

食事だって買い物だって、みなお金の心配をしながらやっているのだろうが

こちらはそんな必要はない。

自分達は特別なのだ・・・・と思える瞬間こそ幸せだった。

 

皇居にはたくさんの馬がいるのに、わざわざ公園のポニーに乗りに

「お友達親子」を引き連れて行く時の快感ったらない。

馬を貸し切りにしておやつも飲み物も全部「東宮家のおごり」

特権にはみな弱いのだから。

 

「アイコの入園式があるので両陛下の結婚記念日の夕食会はキャンセルして頂戴。

それだダメなら前倒しにして」

と言ったら東宮大夫は慌てて千代田に連絡し、記念日の二日前になった。

だから

「入園準備が忙しくて料理を決めたり出来ないからキャンセルした方がいいと思う」

と言ったら、今度は宮家の方から

「それは私達でやりますので」と言ってくる。

優等生はどこまでも優等生。

「いいけど。でも東宮御所には当日まで来ないで欲しい」

と言ったら、キコは電話やメールを駆使し、さらに降嫁したサヤコも巻き込んで

てきぱきと夕食会の準備を始めたではないか。

疲れて流産でもなんでもすればいいわ。

だが、しぶといキコは倒れもせず天皇と皇后の好きな、体によい料理を取りそろえ

さらに子供達にまでデザートを作らせていた。

そういういい子ぶりっこが許せないのに。

結婚記念日の夕食会の主役は、ある意味アイコの筈だった。

何といっても幼稚園に入園するのだから。

皇太子はアイコの話しかしないし、天皇も皇后もアイコが見せる幼稚園の制服などを

楽しそうに見ていた。

「大きくおなりね。頑張って幼稚園に通いましょうね」と皇后はアイコの手を取って

感慨深げに言った。

しかし、食事会の後、天皇と皇后は時間通り席を立ち、その際、天皇が

「宮妃は体を大事にするように。今日は疲れたろうから」と言った時は

ああ、この人達はしれっとした顔しながら、実は宮妃の方を気遣っていたのだと

知り、猛烈に腹が立って来た。

誰かが「夕食会の準備は宮妃とサヤコがした」とチクったのかもしれない。

東宮内はこれだから信用できない。どこにスパイがいるかわかったもんじゃない。

せっかくの記念日なのに、結局、マサコは一度も笑わなかった。

自分に対するねぎらいの言葉がなかったことに腹を立てていたのだ。

「今日はありがとう」とお礼は言われているのに、そんな事はすっかり忘れ去っていた。

 

天皇と皇后の本当の結婚記念日。

マサコは国民的有名デザイナーの展覧会に嬉々として出かけて行った。

 

 

 


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