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韓国史劇風小説「天皇の母」207(予兆のフィクション)

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「本当に城に泊まれるの?2週間も」

受話器を持ちながらマサコは興奮を隠しきれなかった。

「ああ、本当だ」

ヒサシの声もなかなか元気だった。

「アベルドールン城のヘッドアウデロー宮殿はオランダ王室の別荘だ。そこを2週間貸切った。

私達やセツコもレイコも呼んで大いに楽しもうじゃないか」

「よく貸してくれたわね」

「お前の父親を誰だと思っている」

ヒサシは形だけ怒って見せた。

「所詮はヨーロッパの小国にすぎん。そして、王室の存続には金が必要。

日本はそれを持っているという事さ」

「楽しみだわ。買い物にも行けるかしら。観光もしたいし。出来ればパリにも

ロンドンにも行きたいわ」

「おいおい、今回はオランダだけにしてくれよ。そもそもお前は病気なんだから」

「日本にいたら狂いそうよ。何もかもつまらないし」

「ナルヒト君はどうしているんだね」

「さあ・・・皇居に行ってるわよ。どうせまた陛下達に叱られているんじゃないの?」

「・・・さすがに今回はやりすぎの感はあるな。マサコ、少し機嫌をとれ。

静養に合流するとか」

「えーー堅苦しいじゃないの」

「ほんの数日だ。アイコの顔を見せてやれば喜ぶんだから」

「わかったわ」

マサコは渋々答えて電話を切ったが、心はすでに別の所に行っていた。

明るいヨーロッパ、オランダの木靴とチューリップの元に。

そしてデパートへ行って思い切り買い物をするのだ。

「その前にウエスティンホテルに予約を入れなくちゃ。今日は豪華なディナーよ」

この瞬間だけが幸せと思える。

 

「聞いたことがありません。皇族が完全にプライベートに外国旅行をするなんて」

アキシノノミヤは珍しく声を荒げていた。

「お前の所のマコちゃんだって8月にオーストリアに行くんじゃないか」

「あれはホームステイです。殿下だって経験されたじゃありませんか」

「ホームステイも静養も同じじゃないか」

その言葉の重さに天皇は思わず咳ばらいをした。

「ナルちゃん。ホームステイと今回のオランダ行きは違いますよ」

皇后はやんわりとほほ笑みながら訂正する。

ドアがノックされ、侍従に案内されてきたのは東宮大夫だった。

尊大な、どこまでも強気の東宮大夫を天皇も皇后も好きではなかったが

今回の事に関しては話を聞かないわけには行かなかった。

なにせ、天皇と皇后がタイの国王在位60周年記念行事に参加している間に

さらりと皇太子一家のオランダ静養が決まってしまったのだから。

夏休みの2週間をオランダの城で過ごしてはどうかと、正式に王室から

誘いの手紙が来て、そしてそれを受けてしまったのだから。

「女王陛下は本当に了承されたのか」

天皇の問いに、大夫は無表情で答えた。

「はい。女王陛下のご夫君は長らくうつ病で苦しまれた経緯があり、こたびの

妃殿下のご病気にはいたくご同情遊ばされ、ぜひともオランダの城にお招きし

親しく悩みを打ち明けられたいと」

「クラウス殿下がうつ病だったのか知っている。しかし、それは殿下の出身が

ナチスに関係があった事で国内で色々言われたからだろう」

「妃殿下も同じでございます。皇后陛下と同じ民間ご出身であるというだけで

口さがないものはあれこれ申します。妃殿下は傷ついておられるのです」

「マサコの病気が悪くなったのはアキシノノミヤのせいだよ」

皇太子は弟をにらみつけた。

「え」

宮は兄の物言いに愕然として言葉が出なかった。

「皇太子たるものが何という事を」

天皇の恐ろしい顔にも皇太子はひるまなかった。

「陛下にお尋ねします。後継ぎの男子を得られない僕達は存在価値がない

のでしょうか」

「何を・・・」

「巷のうわさではアキシノノミヤに生まれるのは男子と決まっているとか。

二人ともそうなるように色々努力してきたとか、お医者はもう知っているとか。

本当なの?生まれるのは男の子なのかい?二人で男子が生まれるように

したっていうのかい」

「いくら皇太子殿下でもおっしゃっていい事と悪い事がございましょう」

アキシノノミヤは殊更に丁寧なものいいで言い返した。

「人の閨をを心配なさる暇がございましたら、お二人で努力されれば」

「何だって?僕達はね、諦めたんだよ」

「いい加減にしないか。兄弟で何という言い争いをするのだ」

まるで・・・・壬申の乱ではないか。

「宮家にはまだ子供が生まれていない。早合点して疑うとは」

「僕は巷の噂を言っただけです。そういう話が出てくるという事は、男子がいない僕達には

存在価値がないという事なのですかと」

「そんな事言ってない」

「じゃあ、なぜアイコではだめなんですか」

今更な事を平気で言う皇太子に天皇はあきれ果て、頭を抱え込んだ。

「皇室典範が作られた時は、日本がこんなに少子化になるとは思っていなかった

でしょう。だけど今は時代が違いますよ」

皇太子は、近代天皇が後継ぎ問題でどれだけ心を痛めて来たかまるっきり

知らないかのように言った。

「天皇は男系男子で125代繋がって来た。これを覆す事は出来ない」

「じゃあ、もしアキシノノミヤに男子が生まれなかったらどうするんですか。

天皇家は終わりですか」

「その時は・・・・・」

今、もっとも質問されたくない内容だ。そこまで言うならなぜ皇太子は

もっと早く多産系の女性と結婚しなかったのだ?と東宮大夫は半ば

馬鹿にしたように思っていた。

外務省一の切れ者で通っているオワダヒサシの娘というだけの価値しかない

マサコを選んだのは外ならぬ皇太子だ。

(私なら選ばないな。双子の姉妹を持ち、母親は一人っ子で、しかもチッソだ。

世間体ってものがある。だが、まあこれが宮仕えの悲しい性だな。

心の中でどんなにさげすんでいても、表向きは持ち上げ、彼らの為に働き

最善の判断をする・・・それが官僚というものなのだ)

東宮大夫は、いかにも思わずというように

「東宮様、そんな事をおしゃってはいけません」と言った。

「戦後の日本は男女平等になり、ヨーロッパの国々の王位継承権も

男女平等になりつつあります。もし、宮様に男子がお生まれにならなくても

その時はアイコ様がいらっしゃいます。

アイコ様が天皇となられるのに、反対する国民はおりません」

アキシノノミヤの顔色が変わった。

「不遜ではないか。東宮大夫」

「いや、大夫は国民の声を代弁してくれたんだ」

皇太子は大夫を庇った。

「小賢しい策を弄して男子を得ようとするよりよっぽど忠実だよ」

「兄様!」

アキシノノミヤは立ち上がった。

「私達に子供が出来た事がそんなにお気に召しませんか?新しい命を

愛おしむお気持ちはないのですか。あなたの甥か姪でしょう」

「姪なら二人もいる。甥なんか欲しくない。そもそも懐妊などしなかったら

皇室典範改正が終わっていた筈じゃないか。それを覆したのは

どこの誰だい?」

「オワダ家みたいだ」

ぼそっと呟いた宮の言葉を東宮大夫は聞き逃さなかった。

「宮様。お気を付け遊ばして」

気を付ける・・・・宮はわけがわからないような顔で大夫を見つめた。

そのただならぬ雰囲気に皇后が口を挟む。

「妃だけならまだしも一家を招待とは・・・親戚でもないのにそこまでして

頂いてよろしいものでしょうか。かといって断るのもどうかと」

「オランダ王室は国際司法裁判所長官であるオワダ閣下に親しみを感じて

おられるのです。ゆえに妃殿下にも格別の思し召しがあるのではないでしょうか。

ここで無下に断ってはかえって失礼と存じます。

これを機会に、オランダ王室とわが皇室がより一層の友好を深める事が

肝要かと。宮内庁長官もそうもうしておりました」

「・・・・・・」

天皇は無言だった。

東宮大夫も宮内庁長官も同じ穴のむじなだという事は十分にわかっていた。

もう決まってしまったのであれば、それを最大限に活用するしかない。

皇后はあっさりとしきたりを捨てた。

今もまだ悩む天皇の背中を押す。

「お断りは出来ませんわ。そうでしょう。陛下」

「そうだね」

天皇も折れた。そう、もう決まってしまった事なのだ。

「皇太子妃には出発まで体調を整えるように。余計な心配をしていけなくなったら

困りますよ。アキシノノミヤも皇太子と同等に自分を考えてはいけません。

生まれる子は宮家の3人目である事に変わりはないのですから」

皇后の微妙な言い方に皇太子は納得し、宮はその真意を慮って

心が暗くなるばかりだった。

まるで皇太子は人が変わってしまった。もう「兄」はいないのだ。

 

「失礼いたします」

突如、女官長が部屋に飛び込んで来た。

「お話し中、大変申し訳ございません。しかしながら今、アキシノノミヤ邸

から急ぎのお知らせがあって」

「何かあったのか」

宮がすっくとたちあがった。

女官はためらって黙った。さすがにこの部屋の微妙な空気はわかったようだ。

「構いません。おっしゃい」

皇后が促す。その恐ろしくも厳しい目つきに女官は震え上がっていたが

こうなっては言わざるを得ない。

平身低頭しながら女官が言った。

「はい。あの。宮家の事務官より知らせがあり。妃殿下が・・・・」

この日はキコの定期健診だった。

 


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