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韓国史劇風小説「天皇の母」213(孤独のフィクション)

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その日の朝、キコは努めて微笑んでいた。

「行ってらっしゃい。お母様」

オーストリアから帰国したマコやカコもまた明るくふるまっている。

「カコちゃん。宿題はきちんとしましょうね。それから予習と復習は

しなくちゃだめよ。お弁当は残さず食べる事。それから」

「お母様、どうして私にだけおっしゃるの」

カコはほっぺを膨らませる。その様子を見てマコは思わず笑った。

「だって、心配なんだもの」

「お姉さまの事は心配じゃないの?」

「マコちゃんは大丈夫。こういう事はね。マコちゃん。カコちゃんの事を

お願いね。何かあればねえねに相談して」

「はい。任せて」

マコはどんと胸を張って答えた。

本当は母に思い切り甘えたいところだけど、母にとって頼れるのは

自分だけだと思うと我慢できた。

「カコちゃんにはお父様の事をお願いするわ。お酒を飲みすぎたり

タバコを吸ったりしたら厳しく注意してね」

役目を与えられたカコは得意そうに「はい」と言った。

「じゃあ、行こうか」

宮が珍しく優しく言う。

キコは素直に宮の後に続いて車に乗り込んだ。

いつもは見えない多数のマスコミが取材に来ている。

今回の出産への関心度は見えない所で高いのだ。

明日からは皇太子一家がオランダへ行く。

そちらの取材の方がよほど多いだろうに。

宮務員達が一斉に頭を下げる。

「よろしくね」

キコは手を振りながらそういった。

 

過去2回の出産で不安を覚えた事などなかった。

あの頃はまだ20代であったし、健康だけが取り柄だと思っていたから。

そういえばマコがお腹にいた時、猛吹雪の中で公務をした事があった。

後からみんなに青ざめられたけど、本人的には全く平気だったっけ。

(あの頃は若かったんだなあ)とつくづく思う。

カコがお腹に入って、色々回りからバッシングされたりして

結構泣いた事もあったけど、でも、決して自分はまけないと思った。

どんな事があっても絶対に私は負けないのだという自信があった。

ところが今はどうだろう・・・・・・

この胸の中にうずく不安。緊張。そしてけだるさ。

もうあの頃のように元気にはなれないかもしれない。

正直、今回ほど「回りの空気」を敏感に感じる事はない。

マコの時だってカコの時だって、ここまで反目される事はなかった。

だけど今は。

目に入れたくなくても新聞を開けば飛び込んでくる見出しや記事。

「どうしてそこまでして男子を産む必要があるのか」

「同じ女性として素直にお祝いできない」

「アイコ様は女帝になれないのか。マサコさまは・・・・」

そして入院が決まった時も

「どうしてマサコさま達がオランダへ行く前日に入院するのか。

これではマサコさまは心置きなく飛行機に乗れないではないか。

配慮がなさすぎる」

正直、この記事にはキコもマコもカコも傷ついている。

誰でもいいから庇ってほしい。

宮内庁の誰かがオフレコでもいいから反論してくれないかと思った。

でも、誰も何も言わなかった。

傷つくのは皇太子妃だけじゃない。この私だって生身の人間だ。

しかも妊娠中で感情の浮き沈みも激しい・・・・

自分でコントロールしたくでも出来ない事だってある。

だけど、宮は勿論、誰も何も言ってくれなかった。

「言いたい奴には言わせておけばいい」というのが宮のスタンス。

例のタイの愛人騒動の時、下手に反論したら結構後々まで

週刊誌等に書かれて辟易した宮は、それからは一切何も言わない。

皇后からは(だから言ったじゃない)とでも言いそうな視線を感じる。

だからこそキコは歯を食いしばって平気な顔をしている。

どんな時も笑うしかない。

車窓に見えるキコはうっすらとほほ笑みを浮かべていたが、実際は

心が張り裂けそうだった。

 

病院に到着すると院長らが出迎える。

通された部屋は個室。清潔な白い部屋。

そして多分に高級感のただよう。

宮家には健康保険がない。

だから医療費は全て10割負担だ。

差額ベッド代も同様に全て負担。だから内廷皇族以外は

あまり長期間の入院は控える癖がついていた。

これから半月も入院するのか・・・・

宮内庁の助けがあるとしても、家計を預かる身としてはちょっと怖い。

「妃殿下。今日からご出産の日までは安静になさって下さい。

お手洗い以外はお部屋をお出になりませんように」

「はい」

キコは答えた。

「身の回りの事は全て侍女にお任せ下さい。妃殿下はとにかく

静かにその日をお迎え頂きますように」

出産は帝王切開で。9月6日の朝と決められた。

この日の為に持ち込んだのは沢山の本や書類。

「ご本や書類を見るのも時間を決めて下さい。お疲れになる事が

もっともいけない事なのです」

そうはいっても、今まで一度も「何もしない」事などなく、忙しい毎日を

送って来たのだ。

急にそんな事を言われても。

「あの。子供達の事がちょっと心配で・・・・」

と言いかけるのを侍女が止める。

「それは私共にお任せ下さいませ」と。

仕方なくキコはすごすごと病衣に着替え、ベッドに入った。

窓から見える景色。

暫くはこれが唯一の心の支えになるのだろうか。

「こっちの事は心配せずにゆっくりしてなさい」

宮はそういって慰めてくれたが、キコはどうにも気分がふさぐのだった。

 

そっと昔を思い出してみる。

両親と別れの握手をしたあの日の朝。

「純愛に殉じるあなたの思いを尊重しよう」と言ってくれた父。

「殿下のよき伴侶となるのですよ」と力づけてくれた母。

「恋」それは恋だった。

宮を慕う思いが全ての困難をも乗り越えさせたのだ。

実際の結婚生活は国民の多くが考えるような「シンデレラ」

などではなく、無我夢中で即位の大礼を迎え、外国に訪問し

子供を産んで育てて。

本当は大学卒業後は留学しようと思っていた。

海外で自分の力を試したいと思っていたのだ。

だけど、「結婚」を選んだ自分の選択を間違ったものだとは思っていない。

後悔などしていない。

宮を愛しているし家族は大事。

 

病室の日々は静かだった。

テレビをつけると、オランダに出発する皇太子一家の姿が

映しだされていた。

本当に病気なのかと思う程元気なマサコ妃。

ああ、この人はそんなにも外国へ行きたかったのか・・・・・・

キコはそのあまりにも嬉しそうにお辞儀をする東宮妃を見て

ふと涙がこぼれてしまった。

この人は日本にいては幸せになれないのだ。

家庭の中ででも、外に出てもいつも不幸なのだ。

でも、飛行機に乗って外国へ行くときはこんなにも笑顔が。

横ではほっとして笑っている皇太子もいる。

どんなに苦労が多いだろうと察する。

この先もずっとずっとこの人は妻を庇い、娘を庇護し

家庭の体面を守る為に必死に笑い続けるのだろう。

それを考えると、やっぱり涙がこぼれてしまう。

そして、自分が今どこに行こうとしているのか、何をしようとしているのか

さっぱりわからず母親に引きずられるようにしている内親王。

まだ歩くのがそんなに上手ではないようだ。

きちんとしつけられていないし、挨拶の「あ」の字も教わってない。

それだけに無垢で野生的な魅力を振りまいている内親王。

この子の行く末を考えるとやっぱり涙がこぼれてしまう。

傲慢かもしれないがそう思ってしまうのだ。

 

「妃殿下、お顔の色が」

キコの涙を見てとった侍女はつとめて顔を見ない様にしたが

キコは涙をぬぐわずに言った。

「ちょっと辛いの」

「ではお医者様をお呼びしますか?」

「いいえ。出血があるわけでもないから。少しお腹が張るだけ」

キコはお腹をさすった。

早く、そして無事に生まれていらっしゃい。

家族みんながあなたを待っている。

そしておそらく国民みながあなたを待っているのだ。

あなたの誕生が、皇室を救う事になるかもしれない。

私は粛々とその役目を果たすのみ。

もし、この出産で命を失おうとも、それは運命であり自分の役割が

尽きた事に他ならない。

でも、あなたを育てる事を許して頂いたら・・・・・・

ああ、そうしたら精一杯の愛ではぐくもう。

どんな子でも。

お姉さまたちが待っているわ。二人とも優しくて元気。

沢山遊んでもらいなさいな。

そしてお父様も待ちわびているわよ。

どんなお顔かしらね。殿下に似ているかしら。それとも私?

宮様も私も、出来るだけ若々しくすると約束するわ。

だから・・・・

 

「お母様!」

ドアが開いて飛び込んできたのはカコ。

その後ろからマコと宮が入って来た。

「ご機嫌はいかが?私の声は聞こえる?」

カコは早速お腹に耳をあてて話しかける。

「今日は宿題をするのよ。教えてあげるわね」

「まあ、カコったら、わからない所をお母様に聞くんでしょう?」

病室に笑い声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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