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Channel: ふぶきの部屋
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1996年星組エリザベート(麻路さき)

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 DVD収録主要キャスト

トート・・・麻路さき

エリザベート・・・白城あやか

フランツ・ヨーゼフ・・・稔幸

ルキーニ・・・紫吹淳

ゾフィ・・・出雲綾

エルマー・・湖月わたる

ルドルフ・・・絵麻緒ゆう

小ルドルフ・・・月影瞳

 

 まさか星組が再演?なんの冗談?

先日、スカステで放送された「エリザベート20周年記念パーティ」で

稔幸が「当時の星組は歌う事が大変な組だったので・・・・」と言い、思わず

「おいおい」と思ったんですが、確かにそれは事実です。

私が星組再演を知ったのは「二人だけが悪」の東京公演の時。

友人同士で思わず沈黙してしまった事を記憶しています。

私は「剣と恋と虹と」を見て麻路ファンになり、以来、ビデオを買ったり

見せて貰ったりしていたのですが、ヅカ初心者の私からみても

麻路さきがお世辞にも歌が上手とはいえず、彼女の魅力は別の所にあると思っていました。

歌劇団を好きである以上、男役は歌えないと・・・と思う向きもあるでしょうが

私にとって「男役度」のバロメーターは歌のうまさじゃなくて包容力。

一路真輝の「エリザベート」は雪組によって20世紀最後の宝塚大ヒット作品になり

名実ともに一路真輝の代表作。

しかも退団した一路は東宝の初演を務める程なのです。

麻路さきファンであれば、顔面蒼白。

麻路さきの「男役」のキャリアを潰しかねない悪評価を産むかもしれない・・・・

そんな思いだったのです。

後に、様々な雑誌や本人の弁で

誰よりも麻路さき自身が再演には消極的だった事、

ゆえに劇団に辞退しに行った事を知りました。

劇団側からは「もう決まった事だから」と一蹴されたそうです。

まだまだ一路真輝の圧倒的な歌唱力が頭に焼き付いているファンにとって

そして星組生達にとって、大変なプレッシャーになってしまったのです。

当時の星組でまともに歌えるのは稔幸、白城ああやか、出雲綾、千秋慎等。

トップから3番手、4番手くらいまで歌えないのが揃っていました。

白城あやかにとっても、かつて星組の下級生だった花總まりの代表作に

なってしまったタイトルロールを演じるのはプレッシャーだった事でしょう。

私達はとにかく怖くて怖くて。

落ち込んでしまった事を覚えています。

 

 今につながる演出の改変

麻路さきは頭の中で色々考えたそうです。

どうやったら星組らしさを出し、雪組に負けない作品を作る事が出来るか。

星と雪を比較すると、まるで「ガラスの仮面」の「たけくらべ」を思い出します。

「原作から抜け出たような」完璧な美登利を演じた姫川あゆみ。

対してまだ素人の段階だった北島マヤは、全くちがう美登利を作り上げて

観客を魅了するのです。

麻路が考えた事は北島マヤ風であったと言えるでしょう。

「歌唱力」に重きを置いた雪組版。

星組版は「トートの恋」を描く、演劇性に重点を置いたのです。

 歌舞伎のような白塗りに金髪のかつら 

 黄泉の皇帝の「型」を踏まえた振り

 トートの感情表現を豊かにする事によってストーリーをわかりやすく説明

お蔭さまで「エリザベートって本当はこんな話だったんだ」という事がわかりました。

(小池先生は、麻路さんがあんまりぐずぐず言うので、好きにやらせた・・・とも)

 一幕目

 「愛と死のロンド」 → トートがエリザベートを見るなり恋に落ちる

                エリザベートは怖がるのではなくトートに興味津々

 各場面。トートが明確に魔法を使っているように見えること

 「私だけに」で剣をおさめるエリザベートにトートはあごをくいっとあげる

 エルマー達に笑顔で近づき、二面性を見せる

 ♪ エリザベート 泣かないで ♪ のついたてから手が出る迫力の演出

  死の世界へいざなおうとうするトートは嬉しそう。

  断られ、外に出た瞬間、苦しい表情。思わず可哀想になる。

  それが「ミルク」で一変

 1幕最後、エリザベートは肖像画と同じスタイルで登場

   トートは銀橋に寝そべっている。背中で悔しさを表現

雪組版ではエリザベートはずっとトートを恐れて怖がって拒否していますが

星組版ではエリザベートはトートに興味を持っているし、ともすれば同調しそうな

感じです。

子供だったエリザベートが1幕最後で自我を持った一人の女性となる。

そして再び皇帝と向き合ってみよう・・・と前向きな姿勢を持つ、

ここが花總まりと白城あやかの違いです。

星組生は何を演じても濃いというか、一樹千尋のマックスは娘が可愛くて仕方ない

ように見えますし、ゾフィの出雲綾のデフォルメぶりもすごい。

英真なおきのルドヴィカの陽気さとゾフィの対比が面白い。

真中ひかるのラウシャー大司教はよく笑いをとっていました。

そして何より紫吹淳のルキーニの「トート閣下の子分です」ぶりが半端ない

歌唱力でも滑舌でも轟悠には全く劣るのに、存在感があり、トートと息がぴったり。

そして何より素晴らしいのは黒天使達のダンスです。

一幕の「ミルク」は星組最大の見せ場で、テンポがあり、迫力があり・・・

トート閣下の君臨する黄泉の世界の大きさを知る事になるでしょう。

≪稔フランツと紫吹ルキーニ≫

この作品で最も低評価だったのが稔幸です。

元々声が高い上に何となく老け顔が似合わないというか。

マザコンというより、単に「普通にそこらへんにいる旦那」という感じで。

妻に遠慮しいしい生きてる印象が・・・・・

♪ エリザベート 開けておくれ ♪のシーンは女々しすぎると言われましたし。

一方の紫吹淳は組替えして2作目ですっかり星組に馴染み、稔を追い越そうと

しているようでした。

≪白城エリザベート≫

1幕においては、実際の年齢と役柄の年齢が合わず、ちょっと損していました。

「ダイアナ妃みたい」と言われた事があります。

自分の中に感情を閉じ込めるエリザベートというより、まだ成熟してない子供の

お姫様という感じです。

でも、夫に尽くしたいという気持ちは本当に感じられて、ハンガリーへ行った時も

ラストも、よき妻になりつつあるのかなと。

1幕最後の衣装は純白でした。

これは寿退団する白城あやかへのはなむけと言われたものですが、花總まりのに

比べて見劣りがして見えましたね。

 2幕目

 小ルドルフを見るトートの優しい顔

  ♪ 猫を殺した ♪ でトートは驚く

  そしてよく小ルドルフの思いを聞いてくれている

  ハプスブルク家の重臣たちの足をひっかける

 「あなたが本当に死だというなら私の命を奪うがいい。でも愛する事は出来ない」

 でブーツからナイフを出す

 「闇が広がる」 → トートとルドルフのパートは本来と逆

  トートに迫られるルドルフが羨ましい・・・・(泣)

  死ぬ時のキスが羨ましすぎる

 棺桶に座るトートによって死を表現。ひょいっと棺桶に乗る時に

  右足は伸ばしたまま。           

≪病院のシーンの秀逸さ≫

この作品で最も高評価を受けた脇役は陵あきのでしょう。

彼女が演じたヴィンディッシュ嬢の狂気。それを受け止めるエリザベートの

悲しさが場内一杯に広がって行きます。

白城あやかは1幕最後のドレスより、バッスルスタイルの方が似合いますし、

抑制した大人の演技でみなを泣かせますし、ヴィンディシュの「皇后になりきり」度が

さらに悲しさを感じます。

≪絵麻緒ゆうのルドルフ≫

当時、彼女は身も心もルドルフになりきっていたらしく、精神的に不安定だったとか。

香寿たつきの成年ルドルフ、和央ようかのBLルドルフとも違う、どこかはかなげで

トートや母に頼り切って、しかもトートに操られて最期を迎える。

♪ 僕はママの鏡だからママは僕の思い全てわかる筈 ♪という甘え切ってる歌が

こんなに似合う人もいないのです。

それに対するエリザベートは♪わからないわ 久しぶりなのよ ♪ととりあわない。

冷たいというより「こんなに大きくなったのに」という感じ。

ルドルフが無我夢中で訴えれば訴える程エリザベートは冷静になる。

絵麻緒ルドルフといえば、死に方がいいのです。少年のように翻弄された挙句に

ピストルまで用意してもらって撃ち方まで教わってつきっきりで・・おまけにキスされて。

トートの顔の角度とルドルフの顔の角度が少女漫画そのものです。

≪麻路トート≫

懲りないトートだな・・・と今、DVDを見て思います。

何度エリザベートに拒否られてもあきらめず期待しちゃう。

「死は逃げ場ではない」と言い放って銀橋で歌う時には、あまりにも可哀想で

観客が同情して泣いてしまう程。

彼女の言葉に一喜一憂している。

フランツに♪ エリザベートは私の妻だ ♪と言われるとムキになって言い返す。

だからこそ、ラストシーンのラブシーンが生きるというか、ああ、本当によかったねと

思えるのです。

エリザベートに抱き付かれ、はっとして手が震えるトート。やっと思いが通じた

という至福感が何とも嬉しくて。

昇天していくとき、トートがエリザベートに「この世をよくみておきなさい」と

言っているのだとか・・・・わかりやすいですよね。

 フィナーレ

全体的にスピード感があってゴージャスです。

丸々1曲歌わずに銀橋を歩く麻路さきの、カリスマ性ははかりしれません。

「闇が広がる」の群舞も。雪組のは何だったんだ?と思う位テンポがよくて。

でもやっぱり一番の売りはデュエットダンスでしょうね。

今回の宙組さんがカバーした麻路さきと白城あやかのデュエットダンス。

二人の赤い衣装の肩の部分のビーズが光輝いていて、ブルーレイなら

どんなに鮮やかだろうと思います。

ダンスの振付が・・・というか、二人の表情を見ているだけで熱くなります。

あの熱さがまー様とみりおんで再現出来たら素晴らしいですよね。

銀橋でぽーんと飛ぶところ、圧巻です。

そして銀橋でのあいさつで、麻路が白城の手にキスする・・・これもまた

ファンの胸をわしづかみにしてくれました。

 東京でみたとき

とにもかくにも、白城あやかのさよならだし・・・と思っていたんですが

オペラグラスはトートの顔ばかり追いかける始末で。

それくらい所作が完璧、表情が完璧でした。

デュエットダンスが終わると「いよっご両人!」とか「マリコさん!」とか

声がかかっていました。

それが全然違和感なしっていうのは当時の星組だったんですよね。

幕が下りる前、麻路さきは白城あやかを前面に出してお辞儀させていました。

トップスターのこういう心遣いが優しいなと感じたものです。

 

後にも先にもこんなに歌えないトート閣下はいません。

組子達の実力も不完全だったと思います。

それを乗り越える事が出来たのは、麻路さきと白城あやかがしっかり組の

頂点に君臨していた事、組子の一人一人がトップの欠点を補おうとして

体育会系の力を発揮した事だと思います。

全作品を通して星組の「エリザベート」は異質です。今も。

やっぱり基本的には歌中心のミュージカルですから、歌えなきゃ意味がないわけで。

石井徹也氏いわく、「星組のエリザベートは宝塚らしい作品だ」と評しました。

その功績の裏には、麻路さきの男役として培った表現方法や芸の「型」の

集大成であった事だと言います。

私達が宝塚に求めるもの。

それは「愛の物語」ですよね。

高尚なオペラではないという事。わかりやすさや感情移入しやすいという点では

星組版はもっとも優秀と言えるでしょう。

あの当時、本当にひどいプレッシャーの中で、新しい「エリザベート」を

作り上げた星組の伝統は今も息づいていると思います。


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