三木章雄 → レビューというよりはショー
1971年入団。直近は雪組「ファンシー・ガイ!」(2015)
三木先生はショー作家として本当に沢山の作品を手掛けているし、「ME AND MY GIRL」の演出もされてます。
三木先生のショーといえば何となく「鳥」のモチーフが多くて、何か飛んでる?鳥?鳩?みたいな印象があります。
私のつたない観劇歴では有名な1993年月組「ミリオン・ドリームズ」や1995年花組「メガ・ヴィジョン」の感想は書けないのですが。
どちらかというと出来不出来がはっきりしていて、近年は冒険のあまり宝塚を忘れているんじゃないか?と思う事もしばしばです。
・パッションブルー → 1997年星組で上演されました。麻路さき&白城あやかコンビのラストのショーになりましたけど、あまりにも芝居の「二人だけが悪」が面白くなくて、ショーで発散していた感じです。
オープニングの総踊り、彩輝直の王子様に白城あやかのお姫様。稔幸と絵麻緒ゆうの双子みたいな男役が、必死にアピールする月影瞳をそでにする・・という気の毒な場面がありました。妖しい仮面の麻路さきと白城あやかの双眼鏡を離せなくなる程の濃厚なダンス、ラスト、ベッドにばたっと倒れたまま姿勢をキープする白城のすごさを感じました。
中詰めの振りは今ならきっと「お客様参加型でどうぞ」だったのでしょうね。
「二人だけが悪」がアルゼンチンタンゴで、こっちのショーもタンゴを使い、メリハリがないとも言われましたが、美しい白城あやかが男役たちを弄んでやがて麻路さきに行きつき、二人のタンゴが始まる時、東京ではいつも「マリコさん!」と掛け声がかかっていました。それくらい色っぽかったです。
フィナーレの羽根の色も鮮やかで一番好きですね。
・ル・ボレロ・ルージュ → 1998年月組で上演されました。風花舞のさよなら公演でした。組替えで月組に来た紫吹淳や初風緑などメンバーも変わりましたが情熱的なラテン音楽が心を揺さぶりました。
紫吹淳と風花舞が演じたユリディスとオルフェでしたっけ?紫吹のかつらが似合わないと笑った記憶がありますが、でも魔王をさせたらナンバーワンの真琴つばさがとてもかっこよかった。
また「情熱の翼」は名曲になりましたよね。
ただ一つ、風花舞の全身入れ墨みたいな衣装は・・・今も見られません。
・グレート・センチュリー → 1999年星組で上演。もうすぐ21世紀だから20世紀を振り返ろうというショーでした。オープニングでいつも稔幸がアドリブをきかせて客席を笑わせてくれるので楽しかったです。
全体的にパステル調のヨーロッパ風のレビューを目指していたんだと思いますが、突如そこにリベルタンゴが出てきたり、ロックが入ったり、ちょっと色々盛り込みすぎたなという感じです。
・ジャズマニア → 2000年月組で上演されました。東京には来なかった作品なのでビデオだけで見たのですが、これはかなり上質なショーだったと思います。その理由は香寿たつきという名歌手がいたからじゃないかなあと思いますし、中詰めの盛り上げ方が上手でした。フィナーレ近くの「シャレード」の衣装が大好きで、本当にあの衣装は使われる度にドキドキします。
一方で東京で見た紫吹淳版・・・は、記憶にないんです。だってあの時、紫吹淳は声を潰していて聞きづらいったらありゃせずでしたから。
・レ・コラージュ → 2003年雪組で上演されました。三木作品としては「パッションブルー」と並ぶ出来ではないかと思います。
特に「さくらんぼ実るころ」で始まるタイタニックの沈没。それから一人になった朝海ひかるがめくるめく照明の下で踊り、そこに回転木馬が一頭。これはなきファミリーランドのものだったとか。この一連の流れが素晴らしかったですし、また樹里咲穂と白羽ゆりが踊る真珠のシーン。黒燕尾に真珠のモールがついているなんて、あまりにかっこよく「あれ欲しい!」と思わず言いそうに。
さらに大階段に人形のような朝海ひかると舞風りらがベールをかぶりながらおりてくる美しさ。秀逸でした。
・タカラヅカ・ドリーム・キンダム → 2004年雪組で上演されました。これは3つに分かれていて最初の「ROSE」を三木先生が担当、次が藤井大介、その次が斎藤吉正が担当しており、全体的にはそんなに面白くなかったのですけど朝海ひかると轟悠のあまりに妖しいダンスは今も見惚れてしまいますよね。
どんなにまー様が頑張ってもあれは無理。あの小悪魔みたいな表情は朝海ひかるにしか出せないです。
・クライマックス → 2012年宙組で上演されました。私には斬新すぎてよくわからなかったです。
1952年生まれ。直近の作品は「パーシャルタイムトラベル 時空の果てに」2017年 宙組桜木みなと主演。
正塚先生はとても人気のある座付き作家ですが、自分が「座付き作家」である事を忘れている事がよくあります。彼が大劇場デビューしたのは1085年花組「テンダーグリーン」で「心の翼」は今も歌い継がれている名曲ですが、内容的な評価はいいとも悪いとも聞こえて来ません。
1980年代の後半から90年代前半にかけて、観客の宝塚への見方が少し変わって来ました。それまでの恋愛を中心とした話から、脚本家が人生訓を語る話を評価するようになったんです。
座付き作家の仕事はその組のカラーやトップスターに合わせて作品を作ります。柴田先生のように同じような展開の話でも組やスターによってそれが復讐物語になったり純朴な青年の恋の話になったりと変えるのに対し、正塚先生以降出て来た作家は、まず「自分が観客に伝えたい事ありき」で作品を作り、それを組に当てはめていくという手法をとるんですね。
この作品を見て観客が喜ぶかどうか、理解するかどうか、面白いかどうかではなくまず主張ありきというか。
そういう意味で正塚先生の主張の一つは「平和主義」で「どんな事があっても義の為に死ぬなんてよくない。生き続ける事が大事」というもので、こういう展開で話を作ると盛り上げ方が難しくなるんですけど、延々とそれをやってるわけです。
何もない場面に人々が歩いている。すれ違っている、交錯している中で物語が始まる。これはスパッと場面を切る大御所たちとはやり方が違います。セットはシンプルで登場人物の何気ない会話の中から展開を生み出す。こういうものが支持された時代が確かにあるのです。芸術として。
結果的に「生きぬく」為には戦場が必要で、主役はいつも不条理だと思いつつも生きる為に戦い続ける・・という展開。
正塚作品に明らかに内戦状態の国でゲリラ戦をやっているような設定が多かったり、スパイだったり、裏稼業だったりというのが多いのは、「生き抜く」「本当は平和が一番」を主張するには絶好の設定だからですよね。
正直正塚作品は説明が難しいですし、ちょっと苦手ですので、主に好評だった大劇場作品を紹介します。
・1991 銀の狼 → 涼風真世主演で上演されたのち、2005年朝海ひかるで再演。大元はとても涼風真世に似合っていた作品だと思いますが、背景が暗すぎたな。
・1993年 メランコリック・ジゴロ → 1993年花組で上演されました。後に全ツで何度も色々な組が再演しています。一定のコメディセンスが光る作品で男役と二番手の仲のよさをアピールするにはもってこいの作品ですが、これは安寿ミラと真矢みきという本当に仲のよい二人によって上演されたからこそ成功したのだと言えます。
1994年 ブラックジャック危険な賭け → 花組、安寿ミラ主演で上演。この時は手塚治虫にちなんだ作品という事でこれが選ばれたんですよね。舞台化したらあの顔はどうなるんだろうと思ったら意外と違和感なく、ストーリーも結構よかったです。
2013年雪組未涼亜希によって再演されましたが、この時のサブタイトルは「許されざる者への挽歌」で全く別物になっていました。
・1995年ハードボイルドエッグ → 月組で上演されましたが、阪神大震災があったので東上していないものです。
さて、そんな正塚先生でも、さよなら公演を担当するにあたってはスタイルを変える事があります。
・1997年 バロンの末裔 → 月組久世星佳のさよなら公演でした。何と設定を落ちぶれた貴族の館で双子の兄弟が一人の女性を好きになり、おっとりした兄は何も知らずに弟に救われ、弟は好きな人も諦め家も立て直して去っていくという話。最初は「貴族?」ってびっくりしたんですけね。
でも正塚先生と久世星佳には特別な絆があり、1990年「BLUFF」と1994年「WANTED」で正塚作品を芸術の域まで高めたと言われましたので、そういう思いをもあったでしょう。
「バロン・・・」での名シーンは「雉撃ちの丘」のシーンで久世と風花が毎回大泣きしながら演じていたのを覚えています。
2002年 追憶のバルセロナ → 雪組絵麻緒ゆうのさよなら公演でした。さすがに絵麻緒のキャラと正塚作品は合わないだ思われ、彼もだいぶ譲歩して華やかなシーンを目いっぱい作ってくれましたが・・成瀬こうきとの「国があって人がいる」「人があって国がある」とい議論は今も釈然としないまま私の心の中に残っています。
逆に大劇場でワーストに入る作品と言えば
1 デパートメントストア(2000年)
3 ラストプレイ(2009年)
3 私立探偵ケイレブハント
正塚先生はどちらかというと小劇場が得意で、こちらは名作がいくつかあります。
・1994年 二人だけの戦場 → 結構面白かったけど正塚作品らしいといえばらしい。
・1998年 ブエノスアイレスの風 → 紫吹淳で上演された時は、難しくもまあまあな出来で・・柚希礼音版がどうかはちょっとわかりません。
・1999年 CROSSROAD → これは名作の一人でしょう。ロマの青年と遊び人のふれあいなんですけど、樹里咲穂の名演もあって心に残るものになりました。
・2000年 LOVE INSURANCE → 星組稔幸で上演されましたが、1幕2幕通してとっても面白かったです。
・2002年 カナリア → 花組匠ひびきの傑作でしょうね。悪魔が人間の悪にしてやられるというコメディでとっても面白かったです。2011年には雪組の壮一帆主演で再演されました。
・2004年 BOXMAN → 宙組和央ようかと花總まりが菊田一夫賞を受賞した作品で、全体的な流れとして傑作だと思います。
一方で近年まれにみる駄作と思ったのが美弥るりか主演の「KINGDOM」思わず眠ってしまいました。
でも正塚先生と言えばやっぱり古くからのヅカファンは「琥珀色の雨にぬれて」をあんなにしちゃった!といって怒る方が多いです。
「琥珀色の雨にぬれて」は柴田作品の傑作と言われ、その昔、高汐巴と若葉ひろみで上演され、好評を博していました。新作を上演するのが当然の宝塚にあって、久しぶりの再演にわくわくした人もいたでしょう。
しかし、当時とはセットがあまりにも違っていた・・・こんなにシンプルにされちゃってーーって感じ。アール・デコな感じが消えちゃっていたらしいです。個人的には地方公演ではセットが左右に動く音がうるさくて前の席にいるとセリフが聞こえない事があり、ちょっとどうかなと思うのですが。
2018年、星組瀬央ゆりやの初単独主演作品「デビュタント」をてがけるようですが、果たしてどうなるか未知数ですね。