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韓国史劇風小説「天皇の母」64(フィクションさ)

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カイフ元首相の息子の結婚式にひときわ目立つ格好で出席した女性が

いた。マスコミは結婚式の主役達より色めき立ち

「捨てがたい美と気品」というフレーズの元、写真をとりまくり、雑誌に載せた。

マサコは有頂天になっていた。

マスコミに注目されるのがこんなに気持ちのいいものだとは思わなかったからだ。

「美と気品」などとキャッチフレーズをつけられ、「皇太子妃候補の本命」と

評される。

それはマサコの外務省勤務において「錦の御旗」になりつつある。

もはや誰も自分に意見しようとは思わないし、ささいなミスに目くじらを

たてられることはない。

 

ノリノミヤは無事に学習院大学を卒業し、ヤマシナ鳥類研究所に職を得た。

今度はノリノミヤの「婿候補」が取りざたされるようになる。

ノリノミヤは自分が母ほど美しくない事は十分に承知してたし、派手な事より

質素を好み、アニメや時代劇が好きな今時の「オタク少女」だという事も

十分に承知している。

だから自分に趣味があう人なんてそうそういるわけない事も。

それでも、ちょっとハンサムなお公家さん出身のボウジョウ氏には熱くなった

事もあるけど・・・所詮は生きる世界が違うなと思った。

 

アキシノノミヤケでは年に数回、学習院出身の友人達を集めて

テニス大会が行われる。

お互いが食べ物を持ち寄り、テニスに興じ友好を温めているのだ。

ノリノミヤの卒業を祝ってのテニス大会が行われたのは4月の

まだちょっと寒いとき。

あまりテニスをしないノリノミヤだったけれど、兄夫婦の思いやりだし

何となくこれは「見合い」風味もあるのかしら?などと思いつつ参加した。

そしてこの会にはさらに珍しく長兄の皇太子も出ていた。

とはいっても、皇太子の場合、テニスよりひたすら日本酒やワインを飲んで

いる方が多かったのだが。

「サーヤも大学を卒業したし、そろそろ結婚を考えないといけないな」

兄宮の言葉に姫宮は笑った。

「私より東宮のお兄様の方が先じゃなくて?」

「男は遅く結婚したっていいさ。でも女性の場合はね。特にサーヤは

自分からは絶対に動かないから心配してやってるのさ」

「余計なお世話だわ」

口をとがらせたノリノミヤにキコはそっと飲み物を差し出した。

「結婚はお互いの価値観が同じでないとなかなかね」

「そうよ。同じ価値観の人なんてそうそういないわ。特に皇族とは。

お兄様がお姉様と結婚できたのは奇跡のようなものだもの。

私なんて・・・美人じゃないし」

「顔なんて関係ないですよ」

と言ったのはアキシノノミヤの学友、ヨシキだった。

背丈はあまり高くなく面長の顔は家柄のよさを感じさせるが、決して

ハンサムとはいえない人物だった。

名門華族の末裔ではあったが本家ではないし、父親を早くなくして

大学卒業後は一旦銀行に就職したものの、実は今、公務員試験を受けようと

している所である。

こんな地味な愛称「クロちゃん」(苗字がクロダなので)がアキシノノミヤと

仲がいいのは、彼の性格がおっとりしてて上品で、決して出過ぎない

部分だったからだろう。

「あら、男性はみな美人がお好みでしょ」

「そうですか?顔なんて歳をとったら誰でも衰えるし、僕は性格の方が

大事だと思うけどな」

「じゃあ、クロちゃんは恋人いるのかい?」

宮の問いかけにヨシキはしどろもどろになって「いたらここにいないでしょ」と

答えたのでみな笑った。

「僕は今の所車とカメラが趣味だし。こういうの、理解してえくれる女性じゃ

ないと結婚なんてなかなか」

「まあ、車とカメラがご趣味なの?」

ノリノミヤは目を丸くした。彼女にとってスポーツカーなど値段もわからない

代物だし、写真は皇太子がよく撮影してはいるけど、そこまで夢中になれるのか

どうかわからなかった。

「普通の人はそれでもいいけど、僕はそうはいかないよ」

皇太子がちょっと赤い顔でちゃちゃをいれた。

「誰だって皇太子なら妃なんて選びたい放題だって思うだろう。

ところが僕ときたら・・たった一つの恋愛でさえ成就できないんだから。

みーんな反対して。家柄も育ちも関係ない。価値観が合えば結婚できるなら

絶対に僕だって結婚出来る筈だ」

「価値観だけじゃないよ。皇室には古くからの伝統やしきたりがある。

そういうものを受け入れてくれるかどうかが大事なんだと思う。

サーヤだって降嫁しても皇室との繋がりが切れるわけじゃない。

サーヤの夫になる人もそれなりの立ち居振る舞いを要求されるし、

慣れてもらわなくちゃいけない。自己主張ばかり強い人では困るでしょ」

アキシノノミヤの言葉にみな頷いた。

「僕ら庶民とは違って、皇室はそういう伝統やしきたりをきっちりと

守っていかなくてはならない使命がありますからね」

「へえ、クロちゃん、たまにはいい事いうね」

「いやーー殿下の学友をやっていればおのずと・・っていうか、ここにいる

みんなそれぞれ「家」を無視する事は出来ない連中ばかりでしょう」

「そうそう。ハイソだのなんだのって言われてもしがらみの多い家ですから」

「そんなもの関係ない」

皇太子は怒鳴った。それでみな、絶句して黙ってしまった。

どうやらかなり酔っ払っているらしく目がすわっている。

「殿下、お水を」

気をきかせてキコ妃がつめたい水を差し出したが、皇太子は受け取ろうと

しなかった。

「僕は別に皇族に生まれたくて生まれたんじゃない。皇族の生活がどれだけ

堅苦しいか知ってるだろう?義務ばかり押し付けられて。

やる事といったら勉強ばかり。鉛筆一本買うのにも皇后陛下のお許しを

貰わなきゃならなかったことを僕は忘れないね。二言目には国民の税金で

暮らしているんだからって・・制服もお下がりならランドセルもそう。

そんな生活のどこがいいのかわからない。

結婚くらい好きにしてもいいじゃないか。僕が天皇になったら・・・」

「にいさま」

宮が途中で言葉を止めた。それ以上言わせるわけにはいかなかった。

「そんな事だからいつまでも結婚できないんですよ」

辛らつな一言に皇太子は顔を真っ赤にして「何!」と怒った。

「いつまでもって何だよ。いつまでもって」

「外務省勤務の彼女はダメだと周りが言っているでしょう?なのに今更

話を蒸し返してどうするんですか?価値観が合わないのは火を見るより

明らかでしょう」

「どこが違うの。え?どこが」

「政治的な癒着を報じられるような人の娘が僕達と同じ世界に生きられると

思いますか?いわば成金主義ですよ。皇室の生活は普通の金持ちの生活

とは無縁です。実は非常に質素でシンプルだという事が彼女には理解

出来ますか?それに、日本一の公害を出した会社の社長の孫です。

国民の賛同を得られるとは思いません」

「もうすぐ21世紀になるのに家柄や血筋で決めるなんてよくない。

それに彼女は聡明で学歴も高い。皇室の生活にはすぐに馴染むさ。

怯えさせているのは宮内庁だ」

「だから・・人を見る目がないって・・・」

アキシノノミヤは悲しそうに言った。

「私もあの人は好きになれないわ。あの方、新人職員はマイカー通勤禁止

なのに堂々と父親の名前で省内の駐車場にマイカー通勤していたんですって。

雑誌に書かれてすぐやめたと言っているけど、そういう「特権」を

ふりかざすような人は」

「彼女は知らなかったんだよ。マイカー通勤が禁止だなんて。知っていたら

やらないさ。彼女の父上が教えなかったんだから知らなくて当然だろう」

「お兄様・・・そういう風にお考えになるのね」

サーヤはため息をついた。

 

ちょうどその頃、千代田区のある有名ホテルの一室で会合が行われていた。

出席は東宮侍従長のヤマシタ、宮内庁長官のフジモリ、外交官のスノベ

法学者のダンドウ、そしてヒサシだった。

「ではオワダさんのお嬢様を皇太子妃候補として決定する事に意義は

ありませんね」

司会役のヤマシタは確認するように回りを見渡した。

全員が黙って頷いた。

「フジモリ長官、根回しをよろしくお願いします」

「わかりました。でもオワダさん・・本当に大丈夫なんですか?」

「何がですか?」

「私の見た所、お嬢様が皇室に馴染むとは思えないのですが。ご優秀で

バリバリのキャリアウーマンが皇室のしきたりを受け入れる事は出来ますか」

「無論です。私がよく言い聞かせます。なに、あれは頭のいい娘です。

自分が何をするべきかくらい出来ますよ。長官はそこに問題があると?」

「いえ・・そういうつもりは。ただ現代的なお嬢様というイメージがあった

ものですし。この縁談を進めるという事は両陛下や他の皇族方を敵に

回しかねない程危険な話です」

「大事なのは東宮殿下のお気持ちです」

ヤマシタは遮るように言った。

「もし、長官が腰がひけて動けないというのであれば・・・・」

「いや、そんな事はないけど」

長官は言葉を濁し、立ち上がった。

「わかりました。出来るだけの事はしましょう」

泥にはまってしまったようだ。宮仕えの悲しさでもある。

時流がこちらに有利になっている以上、従わねばならない。それが権力者に

おもねる国家公務員の使命だ。

しかし・・・この結婚は波乱含みだ。と、フジモリは頭を抱え込んだ。

先帝が生きていた頃、ヒロノミヤとオワダマサコとの結婚意対して

有名政治家のゴトウダはこういった。

「そんな結婚を許したら皇室に筵旗が立つ!絶対に阻止!」と。

あれからほんの数年の間に世の中はすっかり変わって

誰も表立って反対しなくなった。世情が「皇室」から離れつつあることは確かだ。

アキシノノミヤの恋愛結婚が「皇室にも新しい風がふいた」と捉える

国民が多いからだ。

「皇室」=「平民」・・・実はアキシノノミヤの結婚こそ、保守的な面を大いに

持っていた事を国民は知らない。

「キコ様は決して今時の女性ではないしなあ・・・」

フジモリはそれを思うたびに、キコ妃が皇太子妃だったらよかったのにと

思うのだった。


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