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どうして女系天皇がいけないのか  5

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 山背大兄王VS田村皇子 

  上宮王家の華麗なる血筋

 推古天皇の末期に蘇我氏に小さな波風が吹き始めます。

それは政治に対する考え方の違いとか、馬子の強引な手法に対する反対勢力とか。

厩戸皇子は元々蘇我の血を濃く受けている人で、後継ぎを産んだのも蘇我氏。

思えば最も蘇我氏に推されていい、庇護されていい一族だった筈なんです。

ところが、厩戸皇子は段々馬子の政治に嫌気がさしてきたというか、理想と現実の違いに悩むようになり、斑鳩に引きこもります。

当然妻達も一緒に斑鳩へ行くのです。

その後、厩戸皇子は亡くなり、長男である山背大兄王が当主となるのですが、彼が娶ったのは異母妹の舂米女王。

父と同じ気持ちだったからなのか自分の中の蘇我の血筋を消したかったのか、彼の婚姻にはそんなアンチテーゼが含まれていたような気がします。自らの配偶者に皇族を選ぶことで「皇族としての優位性」を示そうとしたのかもしれませんよね。

 

 

 蘇我本家と上宮王家の仲が微妙になるに従って、刀自古郎女もまた本家の出でありながら蘇我から離れようとします。

そこに分家の境部摩理勢が近づきます。

つまり

 蘇我蝦夷・入鹿 → 古人大兄王子推し(押坂彦人大兄王子と法提郎女の子)

 境部摩理勢 → 山背大兄王推し

この境部は馬子の弟になる人です。

ところで、この頃、天皇を決めるにあたっては朝廷の合議制が取られていました。

つまり長子だから、血筋がいいからなれるというものではなく、朝廷全体が認める人でないと天皇になれなかったのです。

馬子の死後、朝廷には「もう蘇我系の天皇はうんざり!」の空気が流れに流れていました。何事も永遠に続かないということでしょうか。その空気に蝦夷も入鹿も逆らえなかったということは

 穴穂部皇子暗殺

 崇峻天皇暗殺

 物部氏滅亡

 推古天皇擁立

という数々の悪行が尾を引いていたからではないでしょうか。

そこでダークホースのごとく現れたのが田村皇子、後の舒明天皇です。

彼は押坂彦人大兄王子と息長氏の間に出来た皇室的サラブレッドです。

血筋がよく年齢的にも最適だった父が皇位継承から外れ、息子がリベンジを果たしたという感じですね。

朝廷はいわゆる原点に戻って天皇を選んだのです。

蘇我系皇族のサラブレッド山背大兄王と息長系皇族のサラブレッド田村皇子の皇位継承争いは「空気」で決まった感じでしょうかね。

舒明天皇(田村皇子)時代には

 皇后を異母妹の宝皇女に決定

 630年 遣唐使派遣

 新羅・百済から使節がやって来る

など穏やかな外交が繰り広げられていたのですが、実は朝鮮半島では新羅・百済・高句麗が覇権争いをしており、大和朝廷にとっても他人事ではありませんでした。

21世紀の現代から見ると、新羅が最も強かった・・・という話になるのですが、一時は高句麗が領土を広げ、そこに新羅が高句麗を騙して百済を乗っ取り・・みたいな韓流史劇そのものが繰り広げられていたんですね。

そんな時、日本は隋に代わって中国を統一した唐に遣唐使を派遣します。

さて。舒明天皇の皇后が宝皇女で、即位と同時に決められたようなんですけど、この宝皇女という人はなかなか謎めいた女性なんです。

そもそも彼女のお父さんである茅渟王って誰?って感じですけど、

彼は押坂彦人大兄王子と大俣王の子です。大俣王のお父さんは漢王というので渡来系の王族だったかもしれません。

そしてさらに不思議なのはこの宝皇女は一度結婚しているんですね。

お相手は高向王という人で間には漢王という息子までいた。高向王が誰なのかは不明ですけど多分に渡来系と思われます。

ただ、皇后になる女性の出自がはっきりしないというか、母方が3代前まで遡れないというのはこの時代としては珍しいのではないかと思うんです。

無論、この当時はわかっていたかもしれないけど、歴史書や系図にその名が載らないということがね。

結婚歴があって子供もいる女性を即位と同時に皇后にたてるというのは結構異常事態だと思うのですが・・・そこで出てくる宝皇女と舒明天皇の「同母」説。

これはあくまで一つの学説に他ならないのですが、舒明天皇と宝皇女は実は同母だったのではないのかというもの。あの時代でもさすがに同母同士が結婚するのはタブーでした。もしどうしてもそうしたいなら、女性側の出自を曖昧にするしかないというか歴史書から削除する必要があったのかも・・・っていう、途方もない話。

でも後に中大兄皇子と間人皇女が同母ながら愛し合うという話が公然と出てくると「この両親にしてこの兄妹」とも言えなくもない?

 宝皇女は舒明天皇の死後、すんなりと女帝に即位

 同母弟で2歳しか違わない軽皇子は皇位継承者から外れていた

宝皇女は舒明天皇の大后となり、舒明天皇が641年に死去すると翌年天皇になります。

 山背大兄王VS古人大兄王子 

私達は教科書で皇極天皇について

 天皇として初めて譲位した人

という風に習っています。「ふーんそっか」くらいにしか思っていなかったけど、平成の「譲位物語」と比較してみると「譲位する」っていうのは相当な覚悟が必要であるし、この時代の普通の天皇なら絶対に譲位なんかしたくない筈ですよね。でも皇極天皇はいともあっさりと譲位しちゃうわけで。このあたりがやっぱり女性だからというか、母であり女性であったがゆえと思うんです。

 

では、舒明天皇の死後、なぜ皇極天皇が即位したのでしょうか?

皇極天皇が即位したのは49歳の時です。この時皇位継承者の有力候補は

・軽皇子47歳ぐらい

・中大兄皇子17歳くらい

なので山背大兄王と古人大兄王子は軽皇子と同世代、中大兄皇子と大海人皇子は近い年齢だったでしょう。

山背大兄王と古人大兄王子は共に蘇我系サラブレッドで、軽皇子は蘇我系ではないので最初から皇位継承者から外されていました。

野心満々な中大兄皇子はまだ17歳。

またも皇位継承争いが勃発か!それも蘇我同士で!ということで「とりあえず」皇極天皇が即位したのだろうと思います。

 643年 上宮王家滅亡

 645年 乙巳の変

皇極天皇が皇位についていたのはたったの2年なんですけど、この2年の間に2つの大きな事件が起きてしまいます。

この時代、マスコミなんかいないんですけど、「〇〇から山背大兄王が謀反を企んでいると聞きました」というだけで立派に「犯罪」として立証されちゃうんですね。

嘘でも真実になるあたりは21世紀の日本とよく似ています。

蘇我系サラブレッドで、聖徳太子を祖とし上宮王家と尊ばれていた一家が、たった1日でぐるりと兵士に取り囲まれ、自害に追い詰められてしまうのです。

この首謀者は蘇我入鹿であるというのは教科書。

でも、蘇我氏が蘇我系を滅ぼすでしょうか。入鹿にとって山背大兄王は従兄弟だし、刀自古郎女は叔母さん。古人大兄王子は義理の息子。どっちが天皇になってもそんなに悪い目は見ないような気がします。

だから現在では、入鹿首謀者説は緩んできています。

入鹿が上宮王家を滅ぼした理由として「山背大兄王が即位したら分家の境部氏が栄えてしまう」というのがあったようです。

でもそれでも理由として弱いような気がするんですけどね。そもそも上宮王家にそんな野心があったかな?とも思いますし、聖徳太子亡き上宮王家の権威ってなあにって私は思ってしまうんですよ。

 

じゃあ、影の首謀者は誰だったのか?

いわゆる蘇我氏の血を引かない皇族達だったのではないかと・・・私は思うんです。わずか17歳の皇子にそんな策略をめぐらすことなんて出来る?でも、ここに蘇我氏に代わって権力を握りたい中臣鎌足がついていたら可能だったかも。

そして中大兄皇子の母、皇極天皇にとっても、上宮王家が滅びるということは息子の即位が1歩近づくことになるわけですから、悪い話ではない。

長い間、蘇我氏が支配してきた朝廷。

それを天皇を中心とする「皇親政治」の芽はここからすでに出ていたんでしょう。

 

結果的に上宮王家を滅ぼしたことが蘇我氏にとって致命的になったことは事実です。

山背大兄王が死んで古人大兄王子が喜んだか?いやーーむしろ震え始めたのではないでしょうか。次は自分かも・・・と。

そして645年に乙巳の変が起きます。

いわゆる大極殿にて蘇我入鹿が中大兄皇子と中臣鎌足によって殺されるという事件です。

皇極天皇にとっては寝耳に水。まさか息子が自分の目の前で人殺しをするとは思わなかったでしょう。

皇極天皇にとって蘇我氏は自分の手足のようなものでしたでしょうし、うざいなと思っても殺そうとまではしたくなかったと。

しかも、中大兄皇子の言い訳がすごい。

「蘇我氏は上宮王家を滅ぼした大罪人だから」って。

最近の学説では蘇我入鹿極悪人説は嘘っぽいというのが定説になっています。

なぜって、蝦夷と入鹿亡きあとでも蘇我氏は朝廷の重鎮であり続けたし、後々は「石川」を名乗り皇妃を出す家柄となっているからです。

ともあれ

「こんなこともういやっ!私、天皇やめるから!なりたい人がなればいいでしょ」とばかり皇位をなげうったのが皇極天皇でした。

史上初の「譲位」と言えばカッコいいけど、要するに残酷なシーンを見せつけられて絶望したのと、そんなことをやってのけた不肖の息子の責任を取る形でお母さまは譲位されたのでございます。

 

 

 

 

 

 


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