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韓国史劇風小説「天皇の母83(フィクションさっ)

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人は人生の中で「自分が主役」である時が何度あるだろう。

生まれた時、結婚する時、そして死ぬ時くらいか。

マサコは人生でもっとも晴れやかな華やかな舞台に立つ喜びに得意満面になっていた。

「ハーバード大の卒、外務省の才媛が仕事をけって皇太子妃に」という見出しはどこまでも

自尊心をくすぐるものだったし、マスコミの持ち上げ方もそれなりに気にいった。

誰かにあう度に「おめでとうございます」と言われるのは気分がよかった。

 

けれど。

皇居内に入った途端、そこは彼女にとって理解不能の世界である事をしった。

「お洋服を全てお脱ぎ遊ばして。それから潔斎し、唐衣・裳にお着替え遊ばします」

え?服を脱げ?

「わかりました。じゃあ・・・」

でも誰もそばを離れない。

「あの・・・着替えますから」

「はい。どうぞ。お手伝いいたしますので」

「着替えは自分で出来ますが」

「潔斎はおひとりではできません」

「何でですか?」

思わずマサコはムキになって言い返した。

女官は有に10人は控えている。この人たちの前で裸になれというのか?

「それがしきたりですので」

「それって人権侵害じゃないんですか?服を置いておいてください。自分でやりますから」

「着付けは一人で出来るもんやありません」

突如、ぴしゃりという声が聞こえた。入ってきたのは老女風の女官だった。

「お初におめもじいたします。本日、おすべらかし、唐衣、ローブデコルテ担当になりましたもんです。

京都からまいりました。本日は女官長はんのご指導により、着付けの方は全て私が担当いたします。

ところで、本日は目出度い日にあらしゃります。姫さんが皇祖の神様の前で東宮はんのお妃になられる

大事な日や。神様の前に出るんは皇室にとってとても大事な事や。それゆえ潔斎を行います」

「知ってます。習いました。でも全身をみんなに見られて入浴するなんて聞いてません」

するとその女官はコロコロと笑い出した。

「何を恥ずかしがる事がおありになるんやろ。神様の前ではみな裸同然や。姫さんは今、人であって人ならぬもの。

ゆえに恥ずかしさなどという感情は持ってはならんもんなんや。おわかりになりますか?それよりも大事なんは

神様の前に出るにふさわしく体を隅々まで清める事。私共はそのお手伝いにここにいるんどす。どうかおむずかり

遊ばしませんとおするするにお脱ぎ遊ばせ」

「女官長はじめ、私共も同じように潔斎して今日を迎えております。どうぞご理解下さいませ」

女官たちの悲鳴のような声を聴き、マサコは仕方なくなされるがままにされるしかなかった。

しかしこれは屈辱だった。

この私が第三者の前で裸になるなんて・・・・こんな侮辱は初めてだ。二度とこんな事は嫌だ。

こんな事を強要されるなら結婚をやめたい。

「お父様に相談させて下さい」

「お時間がありません」

マサコの言葉は父には届かなかった。

 

皇族方始め、式の列席者は雨の中、テントを張った賢所内の椅子に順番に座っていく。

アキシノノミヤ夫妻とノリノミヤはどこか厳しい顔つきで真一文字に唇を結んでいた。

オワダ夫妻とセツコ・レイコ達も親族席に座るために賢所の門をくぐるが、彼らは一礼しなかった。

その事を皇族方は眉をひそめて見守ったが「常識を知らないのだから」という諦めの気持ちで

何も言わなかった。

 

確かに十二単衣は一人では着付けなんかできる代物ではなかった。

というより、こんなに髪の毛を引っ張られビン付油で固められ、かつらを乗せられる事が苦しいとは

想像外だった。さらに幾重にもかさなっていく装束の重い事と言ったら。

これが地位の重み・・・と感じる筈などマサコにはなかった。

ただた合理的でもないし、華やかでもないと感じた。

「ご出発のお時間です。おするするさんと」

女官の言葉で女官長達に先導され、扇を持ち歩き出す。うまく歩けない。

まるで自分が2歳の幼児になったような気分だ。

それでも歩けないなどとはいわせたくなかった・・・・・ゆえに挑むように前かがみになって歩く。

雨がしのつく賢所。音一つない世界。その廊下を前かがみになって歩く女性の姿は

初々しさよりも「戦」に出る兵士のよう。

途中で黄色の装束を着た皇太子に会った。

彼は嬉しそうにこっちをみて笑った。でも言葉はない。彼も緊張しているらしい。

やがて外宮から内宮へ入る。

あまりにも質素で簡素で狭い部屋。

その中に装束を着て入るというのはとにかく大変で、女官たちがしきりに裾を持って歩きやすいように配慮する。

キコ妃の時は萌黄の夏装束だったが、今回は緋色の美しい装束だった。

皇太子が告文を読み酒に口をつけて終わり。

指輪交換も誓いのキスもない、何ともあっさりとした式だ。これで皇太子妃になったというのだろうか。

 

しかし、一歩外宮を出て廊下を歩くときには「オワダマサコ」ではなく「皇太子妃マサコ妃殿下」になっていた。

記念撮影をする。

「綺麗ですよ」皇太子に言われて、マサコもちょっと心に余裕が出来た。

「歩きにくいし、大変ですね」

「そうでしょう?でも本当によくお似合いですよ」

 

「さあ、次は朝見の儀や。さっさと髪をといて」

厳しい声が飛ぶ。

あれよあれよという間におすべらかしは外され、髪はとかれ、結い上げられてティアラをかぶせられる。

重い装束の次はローブデコルテだった。

モリハナエ作のローブデコルテは、美しい地紋が入ったアイボリーシルクで出来ており、首回りに薔薇の花のような

飾りがびっしりとついていた。

実はこのデザインについてももめた。

マサコはどうしても首を出すのが嫌だったのである。

アトピーで首回りが美しくない事を知っていたからである。

「でも、ローブデコルテですから肩を出さないといけませんし。首全体を覆ってしまいますとモンタントになりますし」

というデザイナーの話を一蹴し「何が何でも肩と首を隠せ」と厳命したのだ。

モリハナエ側では仕方なく、通常のデコルテの上にマフラーのように花をあしらい、袖をつけた。

まるで小さな女の子のドレスのような仕上がりで、マサコ本人は大満足したが、回りは何となく不安だった。

「早くお着替えあそばせ」

女官が叱り飛ばす。

「申し訳ありません。今、チャックを・・・・」

どうやらマサコは少し太ったらしい。採寸の度にサイズが変わるのでデザイナーを始め、縫製係は難儀に難儀を重ねた。

「コルセットをもっとしめて」

また厳しい声が飛ぶ。ギュギュっとしめつけられるコルセットにマサコは悲鳴を上げそうになった。

「お許しあらしゃりませ」

とは言われても頭痛がひどくなってきたマサコはひどく不機嫌になってきた。

朝から緊張のしっぱなし・・・・・さらにこれから緊張しなければならないのだ。

朝見の儀は皇太子夫妻が両陛下の前に出て結婚の挨拶をし、固めの杯を交わす儀式である。

何歩歩いて立ち止まり、どの程度腰をかがめねばならないかなど入念にリハーサルを繰り返して

来たのだが、それでも緊張し、震えてしまう。

可愛らしいローブデコルテにティアラ、キク君から拝領の「先々帝の妃」の扇を持って鏡の前に立つと

そこにいるのは今朝までの自分ではなかった。

少なくとも回りはそう見ている筈。

けれど、朝と今と自分の何が変わったのか、マサコ自身は何一つわかっていなかった。

ただ急に回りがうやうやしく自分に接するのを見て、ちょっと嬉しくなっただけだった。

 

ぶるぶる震えるような緊張感の中で朝見の儀が終了。

ここまでは失敗はない。

それを祝福するかのように、じょじょに雨がやみ始め・・・・やがてパレードの頃には夕焼け空が広がった。

パレード・・・・皇居から東宮御所へロールスロイスのオープンカーに乗り、滑るように沿道の人々を眺めつつ

滑るさまはマサコにとって人生最高の瞬間だった。

一体、どれだけの人がいるのだろうか。まるで虫のように群がる人々がみな自分たちを見て拍手し、手を振り

笑っている。

「ねえ、あれ。あれみてください。あんな所に人が」

マサコは夢中でしゃべり続けた。マサコは左側に、皇太子は右側に手を振っていたのだが、たびたび

マサコが話しかけるものだから、そのたびに皇太子はそっちに振り向いた。

「すごい。あんな所にあがって落ちたら怖そう」

「みんな私の名前を呼んでる。すごい」

もう何を見ても「すごい」としか言いようがなかった。

そしてそれが「皇太子妃」というものなのだ。

始終聞こえる「マサコさまあ」という声。国旗に交じってソウカの旗も翻っていた。

自分が予想以上に興奮している事は確かだ。そして気分が高揚してくると、しらずに

しゃべり続けてしまう。

「見てみて」

というたびに振り返る皇太子。早くもマサコのペースになっている。

ああ、何て素晴らしいんだろう。

朝の屈辱的な出来事は頭からさっぱり抜け落ちていた。

今のマサコはどこの国のプリンセスよりも美しく輝いている筈だ・・・と思った。

ふっと父の顔が浮かぶ。満足そうな顔。

人生で最高の日だ。かつてない程父は自分を誇りに思っているだろう。

 

やがて車は東宮御所についた。職員が迎える中、

皇太子が先に降り、次にマサコが降りた。その時、立ち位置が逆になってしまった。

この映像は未来永劫残るのだが、序列を重んじる皇室の中で妃が皇太子よりも上座に

立った瞬間だった。

そしてそれはこの先の二人の関係を象徴しているかのような姿だった。

 

 

 


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