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韓国史劇風小説「天皇の母」85(だってフィクション)

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ヒサシは頭をかかえていた。

自分の娘がここまで皇室に馴染めない人間だとは思わなかったのだ。

結婚前、「まーちゃんは大丈夫かしら?あの子・・・本当に」とユミコが神経質なくらい心配して、

その度に「あの子はハーバードを出ているくらい、頭がいいのだから」と慰めてきた。

ユミコも「そうよね。皇室に入ってしまえば何とでもなるわね」と言っていたが

何ともならないのだ・・・・・

最初の地方公務、岩手で居眠りした写真を見た時は驚きのあまり卒倒しそうだった。

立ち位置が逆などというのは日常茶飯事。

皇太子と一緒に学習院の同窓会に出席した時は途中で「具合が悪い」と言い出して退出した。

「だって知らない人と会話するのって嫌なんですもの。学習院の人達ってやたら身内意識が強くて

私の事をよそ者だと思っているし」

というのがマサコの弁だったが、皇太子の困惑は手に取るようで、妻のいない部屋で学友達に無意味な笑顔を

振りまいていたとか。

それを東宮侍従長から聞かされ「困ったことですな」と間延びしたような事を言われ、立つ瀬がなかった。

寝室を共にしない事も結婚早々から問題になっていた。

生活時間帯が違うという言い訳だったが、当然誰も納得しない。

そのうちに

「妃殿下は皇太子殿下をないがしろにしすぎる」という噂まで立ち始めた。

惚れた弱みなのか、皇太子は朝、妻が起きてこなくても文句も言わず延々とテーブルについている。

起きてくるまで待っているのだ。

女官たちは慌てて何とか早くマサコを起こそうとするし、侍従達は顔色を変えつついたたまれない気持ちで

控えているのだが、皇太子は無表情のまま延々と座っている。

自分が皇太子の立場だったらこんな妻は追い出す所だ。

だから「少しは皇太子に合わせろ」と言ったら

「だって、私、昨日寝たの午前2時よ。起きれるわけないじゃない」との答え。

今の今まで自分の娘がこんなに宵っ張りの朝寝坊だとは思っていなかった。

ヒサシは愕然として言葉を失った。

「だから、朝は自由にしましょうって言ってるのに皇太子殿下はずっと食べないで待ってるの。嫌味よねー

私、食堂へ行く度にあの人がじーっと座ってるのを見るとぞっとするのよ。気持ち悪いって」

「夫になんという事を」

さすがのヒサシも怒るしかない。

「お前は妃殿下なんだぞ。少しは立場をわきまえろ」

「そういう男尊女卑って最低だと思う。お父様はそんな事おっしゃらないと思ったのに」

「そういう問題じゃない。妃の最大の務めは世継ぎを産むことだ。男子を産まないと皇室内での立場が悪い。

そんな事百も承知だろうが」

「3年間子供はいらないって言ったら、それでいいって殿下が言ったもの」

 

マサコは自分が興味がないと思うと、徹底的に排除する性格だった。

とりあえずうまくやろうというのではなく「必要ない」と切り捨てるのだ。

だからいつまでたっても儀礼を覚えないし、気の利いた会話の一つも覚えない。

公務先でのお手ふりは大好きなようで、それだけは欠かさないのだが、会話になると途端に沈黙。

宮中祭祀に関しては「あんな時代錯誤の人権侵害行為はするべきでない」とさえ思っている。

まあ、それはわからないでもないのだが。

最初は誰からもちやほやされて「皇太子妃殿下」と持ち上げられる事にすっかり気をよくし

「こんなに待遇がいいのならもっと早くくればよかった」などとユミコに漏らしていたマサコだったが

ひと月もすると、堅苦しい時間に追われた生活に嫌気がさしてきたらしい。

何より女官や侍従達の目が光っていて、朝から晩まで監視されているような生活が嫌だというのだ。

二言目には「人権侵害」を口にするマサコの姿にヒサシはうんざりした。

 

今はどんな失敗をしても「愛すべき」などという形容詞をつけてくれている週刊誌もいつかバッシングに回るだろう。

夫婦が寝室を共にしない事、微妙な仲であることもばれてしまう。

何とかしなくては。

国民の目をどこかにそらさなくてはならない。

ヒサシはもう一度「あの手」を使う事にした。

外務省の機密費を使ってマスコミを買収するのだ。

 

やがて。

「皇后陛下は皇室の女帝」記事が復活して出るようになった。

「先帝が愛された皇居自然林が丸坊主。かくも深き皇后の恨み」

「皇后が皇太后と同居しないのは確執が深いから」

「皇后は完璧主義で女官の失敗を許さない。何から何まで事細かく指示し、それを守らない、あるいは

失敗するときつい口調で怒鳴りつける」

「今や天皇は皇后のいいなり。皇室の真の天皇は皇后だ」

全て「オオウチタダス」という宮内庁職員の内部告発という事にして。

 

ヒサシの思惑通り、この件は日本中に大きな渦を巻き起こした。

どれもが事実ではない。けれど本当に事実でないといえるか?

皇后は本当に完璧主義である。立ち居振る舞い全てが練に練られたものだ。

一分の隙も見せないその完璧な仮面こそが弱点なのだ。

皇室の中で「平民出身妃」としてプライドをズタズタにされながらも、必死に「最高の妃」になるように

生きぬいてきた皇后。

誰もが認めるその努力が何の役にも立たなかった事を思い知ればいい。

人間というのは努力だけではどうにもならない。

生まれた時から運命は定まっている。

金持ちに生まれたか貧乏に生まれたかで人生が大きく違うのだ。

よそ者が脅かす事を上の人間は嫌う。

皇后はまさに「よそ者」30年経とうが40年経とうがそうに違いないのだ。

国民を味方につけて勝ち誇ってきた皇后。でもマスコミに惑わされやすい国民は

週刊誌の記事を信じるだろう。

結果的には生まれを超えるものは金と権力のみ。

週刊誌で散々「女帝」と語られた所は皇后がもっとも触れて欲しくない部分。

一番の弱点。

それがどんな結果を出すか。

 

「皇后陛下倒れる」の一報があったのは、皇后誕生日の朝だった。

宮中は大騒ぎになった。

 


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