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Channel: ふぶきの部屋
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韓国史劇風小説「天皇の母」101(新たなるフィクション)

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「何でこんなに頭にくるのかしら」

マサコは部屋にひきこもったまま、延々と考え続けていた。

皇室に入ってからぐっすりと眠れた日は数日しかなかったように思う。

これはもう価値観の違いというより、日本と外国、いや、地球と宇宙の差くらい世界が違う。

皇室における何もかもがマサコには理解できなかった。

理解できないから注意されると心に剣が突き刺さる。プライドがむくむくと頭をもたげてきて怒りに変る。

四六時中回りに目があるのも嫌だった。

まるで監視されているみたいに。

大昔、経験したことのある視線だ。あれは・・・外交官夫人達のパーティだろうか?

誰かが自分達を冷めた目でみつめていた。

「あの人は・・・チッソの・・・オワダの・・」という目。それがどんな意味なのかわからなかった。

自分にとって両親は常に「正義」である。でもそう思わない連中もいるのだ。そう思う事にした。

侍従や女官達の顔を見ると、そんな小さい頃から経験してきた嫌な印象が蘇ってくるふぁのだ。

「嫌な気持ち」は体を緊張させry。もうそんな気持ちになりたくないという意識からか。

マサコは人前に出るのが嫌になった。

しかし、「キャリアウーマン」の印象は残したい。だから公務には出てけれど、

CWA版画レセプションで単独でスピーチを任された時は「しばらく一人にして」と頼み込み、原稿を手に

部屋でぶつぶつ練習をしたのだが、いくら練習しても緊張感はとれないし、それが本番になると余計に

冷や汗が出てきて驚いた。

注意されると冷や汗が出て、それから自分がひどく落ち込んでいる事に気づいた。

落ち込んだというか、「傷ついた」というべきか。

例えば、

年末の鴨場接待は外国人としゃべる事が出来て楽しかったが、「妃殿下はおもてなしする側ですので」と

注意をされて傷ついた。

言われた通りに鴨を放しただけだ。まさか鴨の羽根が折れてしまうなんて思わなかった。

へこへこ飛ぼうとする姿が面白くてきゃぴきゃぴ笑ったら回りがシーンとしてしまい、皇太子まで

まずそうな顔をしている。

マサコが白人とばかり接したがるという事で不評を買った事もあった。

自分としては顔見知りだったり英語が通じる相手でなければ会話する気にならない。

ゆえにそうしただけだが「誰にでも平等に接して頂きたい」と言われて傷ついた。

傷つけられる正当な理由がないのに苛められている自分。

きっと故意にそういう事をしているのだ。皇室に外務省や父の力は及ばないと思っているのだろうか。

 

歌会始めの歌もそうだ。

「もろ手もちてひたすら花の苗植うる知恵おそき子らまなこ輝く」

自分としては非常にいい出来だと思ったのに、添削の師から

それなのに、「知恵おそき子はちょっと・・・・」とケチをつけられたのだ。

公務と関係がある歌をと言われたので、障碍者施設を訪問した時の光景を詠んだ。

子供達が花の苗を馬鹿の一つ覚えのように植えている光景が浮かんだから・・・・でも問題は

植えていた子が「知恵おそき子」だったからという話。

和歌の世界で「知恵おそき」と使うのは決して悪い事ではないし、障碍者を歌ったうたは多々ある。

自分の歌だけが特別ではない。

それなのに「どこか差別的な表現にみえかねないので・・・お直し下さい」と言われたのである。

「何で?どこが差別的なんですか?だってあの施設にいるのは知的障碍児ではないですか。

事実を詠んだだけです。それに知恵おそき子という表現は過去にもいろいろな人が使っていると

聞きました。私の歌だけがおかしいわけないでしょう?」

「それはその通りです」

そう言われたら教師は何も言い返せなかった。

結果的にそのまま提出され、詠みあげられたが、、この歌は後に「差別的」と言われる。

傷つく心を抱えては生きていけない。

どんなに皇太子に訴えても「おいおいやればいい。そんなに頑張りすぎないで」と言われて終わる。

回りはそう思っていないのに。

 

世継ぎを期待されることも(毎日のように週刊誌には「ご懐妊はいつ?」と書かれる事が不満)

歌を詠む事も、会う人を限定しないことも・・もう何もかもマサコの価値観にはあわない。

気が狂いそうな時にようやく父から連絡があった。

「心配しないで好きなように暮らせばいい」と。

それは一体どういう意味なのか?

 

前年の秋、突如「ノリノミヤ婚約」の怪文書がマスコミに流れて、みなざわめきたった。

お相手は、華族出身で歌会始めの重要な読み手を務めているボウジョウ氏だった。

ボウジョウ家は皇室とゆかりが深く、若いトシナルは非常にハンサムでノリノミヤとも年齢的に

つり合いがとれていた。

何よりノリノミヤ自身が気に入って、このまま話が進むかと思われた。

しかし、ボウジョウ家では内親王を嫁に迎える気はさらさらなかった。

旧皇族、旧華族は回りが見る程「伝統と格式」を大切にしているわけではない。

ボウジョウ家のように皇居での行事に「仕事」として携わるのは仕方ないとしても、21世紀を

担うだろう若い当主たちはみな、「もっと気楽に生きたい」と思う人達ばかり。

なにせ「自由」を手にしてまだ半世紀。

うるさい親世代の「家柄自慢」を聞くのは面倒だ。家の為に頑張ろうとか家の為に結婚とか・・・・

そんな堅苦しい事は御免だ。

まして内親王なんか嫁にもらったら大変。そんな意識があったのかもしれない。

そんな若い世代でも、今上の結婚の時にどんな騒動が起きたかは知っている。

国民はみな祝福したし「開かれた皇室」として皇后の人気は絶大だ。

でも彼らの親達がそうだとは限らない。

あの当時の皇太子の結婚は、日本から明確に身分制度が消えた事を象徴する出来事だったし

それによって伝統も格式も崩れ去った瞬間ととらえたむきも少なくなかったのだ。

そういう時代に適応してきたのだ。今さら後戻りする必要があるだろうか。

 

怪文書が出た途端、淡雪のようにノリノミヤの結婚話は消えた。

宮内庁が話をする前に「お断り」が入ってしまったのだ。

「よろしいのよ」

ノリノミヤは笑った。

「まだ私、お仕事がしたいもの。おたあさまのお体も心配。ここでこうして御役目を果たしながら

あたあさまやおもうさまの傍にいるのがいいの」

天皇も皇后も娘の結婚話が一向に進まない事に悩んでいたが、失声症を患って以来、体調不良が続く

皇后にとって娘は最後の心のよりどころ。

年齢が上がっていくのはわかってはいたが、早々たやすくは手放す事が出来なかった。

それを知りつつ、兄たちはどうにもできなかった。

「東宮のお兄様」は自分の生活で精一杯。妹には無関心。

アキシノノミヤは「こっちの集まりに来てこらん」と「サンマの会」に誘ってみるものの、

「そうね・・そのうち。私、あまりテニスはしないし」

となかなか乗り気にならない。今の皇后に、変わっていく皇室に自分がなくてはならない存在だと

いう事を宮はちゃんと知っているのだった。

アニメと時代劇が大好きで、ヤマシナ鳥類研究所で総裁を務める兄と共に仕事をしながら

バードウォッチングにいそしみ、おしゃれや化粧には全く興味のない、どこまでもおしるしの

「羊草」のような姫宮は27歳になろうとしていた。


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