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韓国史劇風小説「天皇の母」103(頑張るフィクション)

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「アキシノノミヤ晩さん会を休んでタイに行く」

「アキシノノミヤ、タイに愛人 隠し子も」

こんなセンセーショナルな記事が週刊誌を飾ったのは春の事だった。

それは些細な一件だった。少なくともアキシノノミヤ家にとっては。

そもそも小さい頃から動物が好きだったアキシノノミヤ。本当は理科系の大学に入りたかったのに

学習院にはそういう科はなく、仕方なく法学部に入る。

でも自然文化研究会というサークルを立ち上げ。他の大学などと交流をし、イギリス留学で

初めて専門分野を極める事が出来た。

当時はナマズの生態を研究していたので「ナマズの宮様」と言われた事もある。

けれど、本来は家禽・・・つまりニワトリが野生から家畜になっていく過程を勉強したかったのだ。

ニワトリの生態を研究するにおいて、もっとも適した国はタイだった。

タイにはまだ半野生のニワトリがいるし、飼い方も大昔のそれと変わっていない。

また闘鶏も行われており、非常に鶏との関わりが深い国だ。

タイ王室と日本の皇室の繋がりも深く、天皇はかつてタイに新種の魚を送って食糧事情の改善に

尽くしたこともある。またシリントン王女とアキシノノミヤは非常に仲が良く、本当の姉弟のようだった。

タイ国民にもアキシノノミヤの存在は深く浸透している。

そういう中で、今までにも何度もタイへは行っている。

今回はその時期がたまたまクリントン大統領来日と重なっただけだ。アキシノノミヤとしては日程を調整したが

タイの都合がつかず、やむなく天皇に相談した所、タイ行きを優先してもよいという許しが出たので

晩さん会には出ずタイへ飛んだのだった。

ところが・・・どういうわけかその事が週刊誌にすっぱ抜かれ「公務より趣味を優先したアキシノノミヤ」と

大々的に報じられたのだ。

「そもそも昔から自分勝手な傾向があった宮。結婚の時も先帝の喪中であり、皇太子の結婚が

決まっていなかったのにほぼ無理やり自分の意見を押し通した。そんな宮に陛下はいつも頭を

痛めていたのだ。結婚して落ち着くかと思われたが、趣味の研究に没頭するあまり、回りが見えなく

なっているのではないか。今回のクリントン大統領の来日は国家にとって重要な案件だ。

それなのにアキシノノミヤは大事な大統領との晩さん会をすっぽかしてタイを訪問。公務より私的な趣味を

優先した宮に宮内庁も困惑している」

「何なんだこれは!」

週刊誌をばさっとテーブルに置いて宮は怒鳴った。侍女も事務官も無言で嵐が通り過ぎるのを待つしかなかった。

「一体誰がこんな事を雑誌にリークした?」

宮の導火線はぱちぱちと音を立てて燃え上がり今にも爆発寸前だった。

雑誌の記事はそれだけにとどまらなかった。

何と「タイに隠し子がいる。陛下も知っている。アキシノノミヤのやり方に両陛下は体調を崩すほどに

悩まれている」といった記事が出たのだ。

これにはさすがの宮も怒りを爆発させ、宮邸に激震が走った。

無論、夫が浮気しているとは思いたくないが、何と言っても宮はもてる。その容姿も性格も愛されキャラ全開で

特にタイでは本家本元の皇太子をさしおいて宮の方が親しまれているくらいだ。

そういう素敵な夫を持った事を誇りにすればいいだけの話なのだが、宮の愛だけを頼りに入内したキコとしては

なかなか複雑な気持ちだった。 

「お静かになさいませ」

キコがなだめる。例の子供を云々以来、夫婦の間には微妙な空気が流れつつあった。

どんなに未来志向のキコでも、あからさまにプライベートな子づくりに口を出された事や、両親に口答え

出来ない夫に失望していたのだ。

今回の記事も出るべくして出たのでは?などといじわるな事を考えてしまう。

「みなが見ております。興奮なさらないで」

「君は平気なのか?こんな事を書かれて。皇族が表だって反論できないのをいいことになんだ?

この書き方は。晩さん会を欠席した事は陛下の了承を得ている事だ。勝手な事をしたわけじゃない。

タイに愛人って誰の事だ?隠し子ってどこにいるんだよ。そんなものがあるなら見せてもらいたい」

「本当に心当たりはないとおっしゃるのね?」

キコの鋭い視線が宮を射抜く。

宮はますます怒って「キコ!」と怒鳴った。

「君・・・君まで疑うのか?何を考えているんだよ。今まで何度もタイには行ってるけど一度も浮気なんて

した事ないのはよく知っているだろう」

「そうですわね。愛人なる人を見た事もありませんし。でもだからって全くそういう事がなかったとは・・・・」

「いい加減にしないか。大切な学問の話に浮気なんて下世話な事を持ち込むとは。君がそういう人間だったとは

ね。ああもう!!」

「そうやって興奮なさると、余計に疑いが本物ではないかと憶測を産むのですわ。落ち着いて下さい」

キコは侍女にお茶を持ってくるように言いつけた。宮がタバコに火をつけようとするのをぴしゃりと落とす。

「タバコはいけません。不整脈があるんですのよ。宮様の体はあなただけのものではありません」

「口うるさいったら・・・・じゃあウイスキー」

「いけません。昼間から何をおっしゃってるの。お茶で我慢して下さい」

「本当に口うるさい。こういうストレスがかかっている時くらい好きにさせてくれてもいいじゃないか」

「口うるさくて悪うございましたね。だったらもっと優しくて甘やかしてくれる方の元へお行きになったら?」

「なんだと?いるならとっくにそうしてるよ!キコは融通が利かな過ぎる・。それでも妻か?」

「妻です。残念ながらあなたの妻です」

勇敢な侍女が暖かいジャスミンティーを持ってきて、その場は一瞬静かになった。

事務官が恐る恐るいう。

「あの・・・雑誌社に抗議いたしますか?宮内庁を通して抗議を?」

やっと宮が冷静になった。

「ああ・・・事実でない事には全て抗議するように伝えてくれ。まず、クリントン大統領晩さん会を欠席

した事は陛下も了承済みである事。タイに愛人なんかいないし、カワシマ教授が皇居に直談判に行った

なんて嘘だから」

事務官は一礼して去って行った。

宮はふうっとため息をついてお茶を飲む。知らないうちに雨が降り出していたのか、ぴちゃぴちゃという

音が屋敷の屋根にかかっている。

「悪かったよ・・・興奮して」

「はい。私も」

「でも信じて欲しい。浮気なんかしてないから。僕はキコだけが好きなんだから」

「鶏とどっちが?」

その言葉に思わず宮は大笑いしてキコを抱き寄せた。

「鶏にやきもちをやくなんて・・・・君は最高の尾長鶏だな」

それを聞いてキコはちょっと顔をあからめた。

「それなら・・・まあ、許して差し上げても。殿下を信じますわ」

「よかった。でも、どうにもひっかかる」

「何がですの?」

「なぜ突如、こんな話が出て来たかという事だ。我々は何もしていないのに。今までだってタイには行ってる。

晩さん会欠席などという事がこんな大事になる事もなかった」

「誰かが仕組んだとでも?」

「うん・・・・」

だとしたら一体誰が何の為に?夫婦には全く心あたりがなかった。

 

宮内庁からは即刻抗議が上がった。

晩さん会欠席は両陛下の了承済みであった事。別にアキシノノミヤの行動を問題視してはいない事。

そしてタイに愛人を囲っているという記事・・・その事に対してキコの父であるカワシマ教授が皇居に

乗り込んで陛下に直談判して事の真偽を確かめた事・・・についても、そのような事実はないとした。

それでも雑誌社は謝罪しなかった。

全てにおいて「取材した結果に基づいている」と言い張った。

あまりに何度も抗議をすれば余計に大騒ぎになるとの判断から、宮内庁は何をどう書かれても対処せずの

立場を貫くことになった。

けれど、一度「アキシノノミヤはタイに愛人を持っている」「皇太子に比べて問題児のアキシノノミヤ」というレッテルは

そうそうはがれることもなく都市伝説化していく。

 

いつまでたってもタイに愛人がいるという話が収まらず、さらにタイの大学から名誉博士号を貰うに至っては

「変な大学」というタイトルで記事になる始末。

中傷記事はアキシノノミヤにとどまらず、キコにまで及ぶ。

普通に公務をしても「目立ちすぎる」とか「次男の嫁は気楽」などという失礼千万な記事ばかり。

誰かがアキシノノミヤ家を貶めようとしている。それはわかったが、誰が何の為に・・・という所までは

誰も考えが至らなかった。

仕方ないので宮家では行動を控えめにすることにした。

つまりマスコミ取材を最低限にして控え、露出を減らす事にしたのだ。

どのような時も皇太子家をたて、自らは控える。長い忍従の日々の始まりだった。

 


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