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韓国史劇風小説「天皇の母」111(決意のフィクション)

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皇后はこの所、体調がすぐれなかった。

咳が止まらなくなるのだ。

侍医は「少し御風邪のようで」といい、薬を処方してくれたが、それでもなかなか治らない。

「年齢的に色々と不都合が出てくるのは当然でございます。少し休養をとられては」

「わかっているけど、陛下がお休みにならないのに私だけが休むなんて出来ないわ」

そう言われたら侍医も何ともいえない。

夫唱婦随でやってきた年月を大事にしているのだ・・・と誰もが思っている。

けれど、皇后の心の中にあるのはそれだけではない。

心の片隅にある「引け目」なのだ。

自分は民間出身で、旧皇族でも華族でもない。

そんな自分が陛下に望まれて入内し、世継ぎをもうけ、この地位を不動のものにした。

この40年、いつも心がけていたのは「より皇族らしく、妃らしく」「完璧な皇后であるべき」という思いだ。

はからずも数年前のバッシング報道で感情的になり、声を失うというアクシデントがあったが、

それ以降は、どんな時も、何があっても冷静でいようと心に決めている。

 

しかし。

皇太子夫妻が結婚3年を超えても、なんら懐妊の気配がなく、対策も取らない事に対して

驚きと同時に衝撃を受けてしまったのである。

最近のマサコは、東宮御所で犬を飼い始めたらしい・・・ピッピとマリという犬は東宮御所に紛れ込んだ犬が

産んだ子犬だ。どうやら雑種のようだ。

大層可愛がられ、子犬が車にひかれたりしないようにと、東宮御所の一部を通行止めにしたりして、回りを混乱させた。

他にもたぬきをみつけたり。

つまり、散歩の時間が真夜中なのだと暗に言っている。

「真夜中に一体何をしているのかしら」

皇后はいぶかしんだ。

ああ・・マサコに関しては全てが理解不能である。

フランス行きがダメになってから、仕返しのように公務を休むようになった。

いくら東宮に注意をしても、一向に改める気配がない。

「東宮御所は雰囲気がまるで違っています。まるで・・・・」と女官長がひっそりと話す。

そんな事は話半分で聞き流していたけれど、あながちウソではないのかもしれない。

それにしても子供が授からないというのに、あの二人は何もしてないのか。

アキシノノミヤに産児制限をかけている事を思えば、少しでも早く何とかすべきだ。

何でもかんでも「傷ついた」というあの嫁にどこまで気を遣わねばならないのだろう。

それでも言わねばならない。

 

皇后は、皇太子夫妻を呼びだすことにしたのだが、やってきたのは皇太子のみだった。

「マサコは具合が悪くて」と笑いながら言う息子は、今までとちょっと表情が違うような気がする。

自分達が知っていた「ナルちゃん」じゃないような・・・・

それはともかく。

「結婚して3年が過ぎました。でもまだ懐妊の兆候はないわね。皇太子妃は随分と公務を休んでいるけど

どこか悪いのですか?」

「ええ。体が弱くていつも微熱を出すのです」

悪びれもせず、息子はそう答える。

「それならきちんと医師の診察を受けて」

「診察は受けましたし検査もしたけど異常はないようですよ」

「ではどうして、そんなに体調を崩すのですか?」

「マサコは慣れない環境で苦しんでいるんです。皇室は僕たちが考えるよりも大変な場所なんだって。

だからなるべく無理はさせないようにしています」

そんな風に言われたら反論できないではないか。具体的に、何がどう慣れないのか聞きたいが、こちらも

体調が悪い。皇后は少し咳こんだが息子は気遣う様子もない。

「とにかく、3年をすぎても懐妊の兆候がないという事は、医師の判断をあおがないといけません。世継ぎを産む事は

東宮家の最大使命なのですよ」

「でも、自然にしたいと思っています。子供を産むマシーンじゃないとマサコも言ってますし」

「子供を産むマシーンですって?」

皇后はびっくりして、激しく咳をしはじめた。女官があわてて飛んでくる。

「お水を」皇后はやっとそう言った。

「女性が子供を産む事がマシーンのようだというのですか?結婚したら子供が欲しいという感情は自然なことでは

ないのですか?なのに、女性を道具扱いしているというのですか?」

「世継ぎを産むマシーンのように扱われているとマサコは傷ついています。だから、僕としては静かに見守りたいのです」

「見守るって・・・」

これでも夫婦なのだろうか?下世話な話、この二人はちゃんと夫婦なのだろうか?

いや、そんな事を聞くわけにはいかない。思っても言葉に出してはいけない。

「東宮さん。夫としての責任もあるのですよ」

そういうのが精一杯。その言葉の意味を知ってか知らずか皇太子はにっこりと「はい」と答えた。

「僕達で何とかしますから」

 

まてど暮らせど懐妊したという報告はない。

それなのに週刊誌は過熱気味に、マサコが太った、ヒールが低くなった、公務を休んだといっては「ご懐妊か」と

騒ぎ立てる。国民もどこかで不安になっているのではないだろうか。

不妊の二文字は国民にとっても他人事ではないのだ。

 

皇后はたまらず自分のかかりつけ医であり、今は宮内庁御用掛けの立場であるサカモト医師に相談した。

サカモトはキコの出産のときもお世話になっている、絶大なる信頼を置いている人物だ。

サカモトは皇后の悩みに

「私が医師としてお聞きしましょう」と言ってくれた。

ところが、そんなサカモトを皇太子夫妻は門前払いしてしまった。

「皇后の差し金でやってきた医者なんて信用できない」という理由だった。

その言葉を聞いた時、皇后は倒れそうになった。

何という事だろう。世の中に嫁姑の確執は多々ある。皇太后だって自分に優しかったとは言えない。

けれど・・・自分が姑になった時にそのような感情むき出しの言葉をあびせられようとは。

「皇后の差し金」とは一体どういう意味なのだろう。

自分が何をするというのだろう。彼女を貶める?侮辱する?そうではない。これは「協力」であり

最優先事項に対する「アドバイス」である。

普通なら皇后のかかりつけ医を紹介されたら喜ぶのではないか?

それこそ最高の医療を受ける事が出来ると。なのに「差し金」とは。

何かこちらが企んでよからぬ事をすようではないか。

マサコは自分達にそういう感情を持っているという事なのだろうか。そして皇太子はそれをいさめる事もしないと。

「いやー皇太子妃の警戒感たるや半端じゃありません」

サカモトは苦笑しながら答えた。

「非常に怒っておられて。皇太子殿下はおろおろととりなされるので、気の毒で何も言えませんでした。

本当に力不足で申し訳ありません」

「いえ・・こちらこそ。東宮妃が失礼な事を言ったそうですね。ごめんなさいね。嫌な思いをさせて」

「何の。それは構わないのですが、皇太子妃殿下の疑い深さや回りを敵とみなす感情。あれは一種の病気ではないかと

心配しております」

「え?」

皇后は「病気」という言葉に反応した。

「心の病気だと。それは皇室に入ったからというわけではなく、もともと持っている性格のようなもので。

まあ、私は精神科医ではないので詳しい事までは申し上げる事を控えますが、普通はあそこまで人を悪く見たりは

しないと思うのです。皇太子殿下にすら攻撃的になられるので心配ですね」

心の仲が真っ黒になっていく・・・・我が皇太子は何という娘と結婚してしまったのか。

「皇太子は小さい頃から、どこかぼやっとして人に取り込まれやすい子でした。行動も遅く、感情の起伏も少なくて。

やっぱりあの3分間が・・・」

「皇后陛下」

サカモトは首を振った。

「東宮侍医に見せる事に致しましょう。東宮侍医ならマサコ様のお体を見ている筈ですので抵抗も少ないのでは」

皇后はため息をついて頷いた。

 

「基礎体温を測って頂けないでしょうか?」

東宮侍医のこの一言がマサコの怒りに火をつけた。

「基礎体温ですって?あなた、何様なの?何の権利があって私の基礎体温を測るっていうの?

私が頼んでもいない事を先回りしてやろうとするなんて不遜にも程があるわ」

「他人のプライバシーに口を挟むものではない」

マサコの怒りに皇太子も同調したために、東宮侍医は気の毒な程恐縮して引き下がり、

その後は、一切の診察を受けて貰えなくなり、用事がある時はメモを渡され、そうでない時は一切の無視をされ、

精神的にうつ状態に陥った彼はやがて辞表を提出した。

「なぜ、そんな無礼な事をするのですか」

皇后は皇太子を叱りつけた。

しかし、皇太子は「無礼はあちらですよ。基礎体温って女性にとっては微妙なものなんでしょう?」と

くったくなく答える。

皇太子はどうやらマサコの言う事を鵜呑みにしているらしい。

「確かに微妙な体温です。でも女性の体の周期をしる為に必要なものなんですよ。医師の判断に従うべきでは

ありませんか。妻の言いなりになって医師に対してぞんざいな対応をするとは何事ですか」

「言いなりになんてなってません」

口をとがらせて息子は言った。何という幼い態度なのか。本当に親が煙たいという顔をする。

まるで反抗期のようだ。

それ以後、皇太子夫妻はなかなか参内しなくなった。

皇后の不安はますます募り、咳もひどくなっていく。

公務の度に咳をするので、回りはハラハラ状態。それでも皇后は出かける事をやめなかった。

今は粛々と皇后の役割をこなす事が重要。それを皇太子妃に見せる事が大切なのだと。

 

カマクラ長官の申し出によって、「不妊特別プロジェクトチーム」が立ち上がった時、皇后は心から安堵した。

東大で腹腔鏡を使っての不妊治療の権威、ツツミ医師を非常勤に迎え、着々と懐妊に向けて走り出す筈だった。

もはや一刻の猶予もない。

マサコは33歳。これからは一年、一日が懐妊しづらくなっていく日々との戦いになるのだ。

それなのに・・・・・

再度、東宮御所を訪れ、「どうか不妊検査だけでも受けて頂きたい」と決死の覚悟で説得にあたったサカモトに

またも皇太子夫妻は「自分達でちゃんとやるから」と断ったのだった。

皇太子夫妻にとって、今や医師が誰であっても敵だった。無理強い、強制・・・そんな言葉で激しくののしる

皇太子妃を見てサカモトはあんたんたる思いを胸に抱いた。

 

そして、ついに。

春にルクセンブルクからブラジル訪問と、すさまじいスケジュールを強行したせいなのか

皇后は体調を崩し、入院した。

病名は「帯状ヘルペス」

高熱が続き、肋間神経痛のような痛みが体中に広がる、ウイルス性の病気だった。

精神的にボロボロだったのは皇后なのである。


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