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韓国史劇風小説「天皇の母」112(辛いけどフィクション)

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皇后が入院した事は大きなニュースになった。

皇室全体に不安が広がった。それでなくても失声症の前例もあるし。

今回はただの風邪から来たものなのか、それともストレスか。

今上もひどく心配し、それでも顔に出すわけにはいかず、ただ一人で公務に励むしかなかったのだが。

「何と言っても御歳ですし。そろそろごゆるりとなさるべきでは」

侍従長はそう進言したが、今上はただため息をつくばかり。

ゆっくりとしろ・・という事は公務の委譲を示していた。

先帝の頃に比べて今上の「公務」は増え続けていた。

そもそも今上の公務・・つまり義務は「祭祀」「と「国事行為」のみだ。

国会の開会式出席、全国戦没者慰霊祭、叙勲、国賓・公賓の接待、新年祝賀の儀及び一般参賀。それくらいでいい筈なのだ。

しかし、今上は皇太子時代から公務を「開拓」してきた。

民主主義時代の天皇の在り方とは何か・・・を考え続けて、その結果、障碍者福祉や老人福祉、ハンセン病などの

差別を受けてきた人たちへの慰問。それらを象徴する為にやってきた施設訪問。それに伴い、学術や芸術に秀でた

人へ励ましなど。

「ゆたかな海づくり大会」「学士員」こどもの日や敬老の日にちなんだ施設訪問。今上はさらに中小企業を訪問する。

晩さん会だけでなく、大使らを招いてのお茶会も開く。

本来なら、即位と同時に皇太子に大方譲るべきであったのかもしれない。

しかし、今上はそうはしなかった。

あの頃はまだ皇太子は独身であったし、いつ結婚するかもわからなかった。

結婚したらしたで「世継ぎ」問題が頭をもたげて、委譲は進まない。

今の東宮家は自分達の事で精一杯のような気がする。

現に皇后が入院しても見舞いに来なかった。

皇太子夫妻が来ないのに秋篠宮が来る筈もなく・・・・・結局は「大げさにする必要はない」としたが・・・

付き添ったのはノリノミヤだった。

「いいのよ。東宮のお兄様が来ないのが悪いんですもの。お兄様達はお忙しいのだから」

キコからの電話にノリノミヤはにっこりそう答え、ずっと付添つづけた。

失声症から皇后の看病と付添はノリノミヤの仕事になっている。

天皇も皇后もそれが一番嬉しいし、慰めにもなるのだが、一方で、こんな事を続けていると娘の婚期が遅れると

それはそれで心配になった。

幸いにして皇后の病状は軽く、すぐに退院出来たのだが、その後も咳が続き、「咳喘息」ではないかと言われた。

 

一方、皇太子夫妻の方は春から夏にかけて那須、裏磐梯、須崎と立て続けに静養していた。

なんせ、公務となるとすぐい「微熱」と言い出すマサコに東宮職もどう対処していいかわかりかねた。

地方公務においては、必ず県勢聴取と昼食会が決められていたが

「私に何の関係もない人達としゃべったり食べたりするのは苦痛でとてもやっていけない」と言い出し

そういう時期になると「微熱」が出てくる。それをなだめる為に「じゃあ、お帰りに磐梯山で何泊かしましょう」

とか「須崎での静養が待っていますよ」とか、まるで子供をあやすように言い含めねばならない。

皇太子はそんな妻を扱いかねて、とうとう逃げ出し無関心になる始末。

皇后の見舞いにも行きたくないといえば「そうだね」

「微熱で人に会えない」といえば「そうだね」

「あんなおじさん達と一緒に食事をするのは嫌だ」といっても「そうだね」しかないので、東宮職は機能不全に陥った。

最初のうちは皇太子の登山にもいやいやついて来ていたのだが、やがてそれもやめてしまった。

不思議な事にスキーだけは大好きらしく、そのころになると元気になる。

意味不明のマサコの体調は、東宮職を振り回し続ける。

そんなわけで、天皇も皇后も「公務の委譲」など考えられない事だった。

「そのうち、もう少し慣れたらきっと」・・・それも後から考えれば「逃げ」だったのかもしれない。

 

一方、アキシノノミヤ家は、ひたすらひっそりと公務に励んでいた。

ひところに比べればマスコミに取り上げられることも少なくなり、子供達のプライバシーという点では

有難かったが、その代わり、どんな小さな針の穴でも突き抜けそうな見えない「監視」を感じる事が多くなった。

皇太子妃に対して「閉じ込められたキャリアウーマン」という報道が多ければ多い程、アキシノノミヤに関しては

「次男坊の気楽さによる恋愛結婚。キコ妃は皇族になりたくて結婚したのだ」と噂を立てられる。

一体誰が?と思っても犯人を捕まえる事など不可能だった。

「したたかで張り付いた笑顔のキコ妃」

「オールウエイズスマイル」を信条とするキコ妃にとっては、たとえ皇后が病気であっても、公務が忙しくても

体調がすぐれない時でもにこやかな笑顔を向けなくてはならない。

それが皇族の役割というものだ。

しかし、無理な笑顔は時に「はりついた」と評されて「いい子ぶってる」などと陰口をたたかれるものだ。

回りが耳に入れまいとしても、それはどうしたって入ってくる。

それだけにキコはなお一層身を固くして、対処しなくてはならないと感じていた。

 

その年の秋、アキシノノミヤ夫妻は山形へプライベートな旅行にでかけた。

プライベートとはいっても、皇太子夫妻のような「静養」ではない。

アマゾン研究の第一人者であるヤマモトノリオ紙の講演会が山形で行われる。それに出席しようというものだった。

あわせて「月山のあさひ博物館」での「アマゾン ナマズ展」をみたいという、珍しくも希望を出した。

久しぶりの二人きりの旅行に宮もキコも新婚旅行時代を思い出していた。

今は子供達がいるから、そうそう二人きりにもなれない。

けれど、今回は宮の研究旅行とはいえ堅苦しい式典もなく、楽しい旅なのだ。

二人は予定通りに山形入りし、仲良く講演会を聴講しナカムラ教授とも専門的な話に花を咲かせ

それから月山に向かった。

9月も終わりの山形は空気が澄んでいて、景色も美しかった。

まだ紅葉には早い。けれど、東北特有の凛とした冷たい空気が頬をなでる。それが何ともいえず心地いい。

山の空気はさらに冷たくはあったが、いつもと違う景色が、二人を饒舌していた。

「月山の名前の由来は何でしょうね」

「農業の神である月読を祀っているからだよ」

「まあ、月読命を。そんな神話の時代からある山なのですね。殿下は天照大神の子孫でいらっしゃるから」

「ああ、なるほど。縁が深いのだね」

二人はにこやかに笑った。

「月山は水がおいしいんだよ。だからいいお酒もある。兄様にお土産に買って行こうか」

「それはよろしいですね」

「マコやカコにも何か。そうそう、あなたは何か欲しいものはある?最近、山形はラ・フランスという

洋ナシが有名になっているんだけど」

「まあ、私は何も」

「そうだね・・いらないね」

そんな風に仲良く月山のアマゾン展を見て歩き、いよいよ宿泊施設に行った時だった。

夕食には有名な月山ワインが出てくる筈だったのに、それが出てこない。

無論、二人は酒のみではなかったから気にはしなかったのだが、迎える側の方がひどく恐縮しているので

「どうしたのですか?」と質問してみた。

宿の主人は、知事や市長も引き連れて非常にひきつった顔で現れたので余計にびっくりする。

「実は、本日、両殿下には我が月山が誇りにしているワインをお召し上がりになって頂く予定だったのですが

それが出来なくなりまして」

「うん。そうなの。何か事情があるの」

「実は・・・5日前の事でございました。ワイン製造室の貯蔵タンクの中の傍にブログリックスLという農薬の瓶が

3本転がっておりまして」

「え・・・・」最初に驚きの声を上げたのはキコだった。それを宮が目で制する。

「ブログリックスLとは?」

「除草剤の一種です」

「それがワインの中に入ったの?」

「いえ、貯蔵タンクの傍に3本ひっかけられておりました。中に液体が入れられた形跡はなかったのでございますが

いたずらにしてはあまりにも悪質で・・・いくら検出されなかったといえど、もしもの事がございますから、

付近の貯蔵タンクの中身は全部捨ててしまいました。そんなわけで、今回はワインをお出しする事が出来なくなりました。

申し訳ございません」

平謝りする彼らに対して宮は「何事もなくてよかった」といった。キコも「本当に」と答えた。

「私達の事は気にせずに。他の料理は全ておいしく頂いたし。ありがとう」

宿の主人、ワイン関係者、知事や市長に至るまで、その言葉に安堵すると共に感動した。

「それよりも捨ててしまったワインの損失の方が大きいのじゃないのかい?」

「ええ・・・けれど、もしも、他のタンクに入られらたとしたら危険ですし。何か起こるよりはまだいいかと」

「その通りだね」

「これはもしかしたらいたずらではすまないかもしれません。とにもかくにも両殿下に何事もなく安堵いたしました。

このような話をして本当に申し訳ございません。どうか山形を、月山に悪いイメージを持って頂かないように・・・」

「心配しないで。あなた方に何もなかった事が幸いです。月山の自然、アマゾンの研究、今日出してくれた料理

全てが私達にとっていい思い出になりました。これからもよいワイン作りをして下さい」

その宮の言葉にどれ程救われた事だろう。

 

しかし・・・・・一体誰がこんな事を。愉快犯?それともテロ予告なのか?

何にせよ後味の悪い旅になった事は事実である。


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