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韓国史劇風小説「天皇の母」119 (そりゃフィクション)

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 ヒサシは娘達の不甲斐なさに、なぜ我が家には男子が授からなかったのかと神を(どの神かはわからないが)

恨んだ。自分には男兄弟が何人もいるのに。

マサコはまだ子供に恵まれない。これは絶対に皇室の「血」のせいだと思った。

しかし、セツコの男選びは?二股をかけられていたとは。全く。

本来なら孫の一人もいて、穏やかな老後を過ごしている筈が、いまだに娘達の尻拭いをさせられる。

娘など持つものではない。こんなにも手がかかるなんて。

女など、結婚して後継ぎを産むだけの存在なのに、その一つも果たせない皇太子妃。

やっぱり双子の片割れあたりにしておけばよかったのだろうか。

ヒサシの中にわきあがるマサコへの不信感。

 

普段はどんな事も察する事が出来ないマサコだったが、父が自分に向ける視線が厳しくなりつつある事は

わかっていた。

セツコも結婚の事で父を怒らせた。暫くの間、怒りの矛先はセツコに向いていたのでマサコはほっとしていた。

叱られないならまあいいと。でも、父の期待はレイコの婿に向けられている事を知ると、急に心がざわつきだす。

何でもセツコと同じ轍を踏まないようにと、レイコには外務省・オオトリ会を通じて国際弁護士を紹介したとか。

オオトリ会。外務省内にある新興宗教信者の集まりだ。

自分も以前、ここに出入りした事がある。父とオオトリ会の繋がりは深く、利害関係の一致というより

「信仰」ではないかと思う。

教義を聞いていると成程と思う部分も多いし、なぜ自分が今、このような理不尽な立場にいるのか

とてもよくわかる。全ては先祖からの「因縁」なのである。

「因縁」を断ち切る為には題目を唱え続けなくてはならないし、少しでも布教活動をして信者を増やさなくてはならない。

ただ自然の神を崇め奉る神道など、こちらの教えに比べると子供の「ごっこ遊び」に見える。

そもそも天照大神なんて存在するわけないのに、馬鹿みたいに賢所で毎日祭祀を行う神官達。

そして1年中、宮中祭祀に追われる天皇家はおかしいんじゃないかとすら思う。

マサコは新婚当初に伊勢神宮に行ったきり、足を向ける事はなかった。

結婚当初、「本当に神様なんていると思うの?」と皇太子に質問したら、当の皇太子は絶句していた。

「そりゃあいるでしょう・・・」

「本当に?どこにいるの?伊勢とか熊野とか色々神社があるけど、そもそも神道って偶像崇拝と同じよね?

そんなものをもうすぐ21世紀になろうとしている今も信じてやってるわけ?おかしいんじゃないの?」

「そうなのかな。変・・なのかな」

「絶対に変よ。本当に神が守る国だったら何で戦争で負けたの?」

これはいつも父が口にしていた事だ。 マサコはその世代の子供達の多くと同じように、太平洋戦争の事も

日本の立場があの時どうだったかについても、学んだ事がなかった。

学ばなかった代わりに父が教えてくれた。

日本が中国や韓国を侵略した為に戦争が起き、それに日本は負けたのだと。

だから日本はとても悪い国で、自分達がそんな国の国民である事を常に自覚し行動しなくてはいけないと。

常に自覚し、行動するとはどういう事か。

それは侵略された国の人達を思うという事だし、さらに自分は「多くの日本人とは違う」と思い込む事だ。

神道=神国日本。軍国主義の日本の象徴。

そういえば、いつかの総理大臣が「日本は天皇がおさめる神の国」と発言して大バッシングされたっけ。

国民主権の日本において「天皇がおさめる国」なわけないし、ましてや「神の国」だなんて、そんな言葉を聞いた

人達がトラウマに苦しむ事がわからないのだろうか。

いわゆる右翼の人達は本当にバカだと思う。

皇太子は、そんなマサコの言葉にうんうんと頷いて話を聞き、

「でも、僕は神道の家の後継ぎだから、どんなに疑問を持ってもやらないわけにはいかないんだ。

両陛下も同じだと思うよ」

「そんなの、やめちゃえばいいのよ。誰も反対しないわよ」

「いや、反対するよ。神社には神社庁というのがあって、天皇家はいわば総帥だから。マサコ、あのね。

僕はその神道の総帥の後継ぎなんだよ」

「でもこの現代に無駄な事するのはおかしいわ。時間の無駄。何かを信じるなら自分にとって得になるものにすべきよ」

「それってなんだい?」

「私の父が懇意にしているオオトリ会っていうのはね」

そこでマサコは自分の信じている事について話をしたのだが・・・おかげで、祭祀は「体調が悪くて」と休みがちになって

しまったのだが。そもそも、本当に信じる者であれば鳥居をくぐってはいけないのだ。

どんな宗教も、異教を認めるわけがなく。

それはともかくとして。

父がそのオオトリ会の教祖の親戚をレイコに紹介した事は、マサコにとって青天の霹靂というか、大変なショックだったのだ。

一見、そんな教祖の親戚より皇太子妃の立場の方が上に見えるが、父の肩の入れようは皇太子よりもそっちに見えた。

父は私よりもレイコが可愛いのだろうか。

レイコに期待し、レイコを大事にしている。

それを思うと、マサコは自分が「姉」である事を忘れてレイコに嫉妬した。

そのうち、セツコに子供が出来たら。その子が男の子だったら、父の愛情はそちらに向くかもしれず。

そんな事をほんの少し考えるだけでマサコの額には冷や汗が出てくる。

 

セツコの夫の不祥事には正直、ざまあみろと思ったけれど。

要領のいいレイコはさらっと手柄を奪っていくかもしれない。

マサコは一日も早く妊娠しなくてはならないと思った。

それを考えるにつけ、隣でへらへら笑っている夫が恨めしい。

 

そんな時に出てきたのがベルギー王太子の結婚話である。

ベルギー王室と日本の皇室の交友は深い。

当然、招待状が来る。そうなれば皇太子夫妻が出席する方向で行く筈だ。

葬式じゃない。結婚式だ。

本当に久しぶりの海外旅行なのだ。

それが正式発表になると、本当に海外旅行に行けるのだと小躍りする程嬉しかった。

ヨルダン国王の葬儀はすぐに帰って来たけど、今回は結婚式だ。

目出度い事だし、色々楽しい事があるに違いない。

東宮御所はいきなり、唐突に華やかなムードに包まれた。

慌ただしい結婚式出席の準備。皇太子妃の服や装飾品を選ぶ事。

マサコ自身はファッションなどにあまり興味はなかったが、女官達が嬉しそうにあれやこれや選ぶのを

見て、本人もとてもいい気持ちになった。

ただ、いつも自分の機嫌がよければ東宮御所も住みやすくなるという事実を、マサコは知ろうとしなかったのだが。

 

宮内庁では、マサコがきっちりと結婚式でプロトコロルに従って行動できるか否か、それが心配の種だった。

いまだに立ち位置すらきちんと守らない妃なのである。

ベルギーとの友好関係に水をさすような事になったら大変だ。

しかし、ここらで本当に外国に行かせないと何を言い出し、何をやらかすかわからない爆弾のような女である。

カマクラ長官は、東宮女官長にくれぐれも、マサコが逸脱した行動をしないように徹底して監視しろと

言うしかなかった。

 

季節は秋を迎え、やがて晩秋になろうとしていた。12月がくればマサコは36歳である。 

ヒサシの焦った顔が脳裏に浮かぶものの、やはり外国に行きたい誘惑には勝てない。

マサコは「懐妊」の二文字を心の中にしまいこんだ。

父の事はあとで考えよう。

そして、あと1週間程でベルギーへ・・・・という時である。

それは単に数値だった。妊娠反応に「陽性」が出た事。

確かに生理が遅れているような気がしたが、それはいつもの事であったし、特別体調が悪いとかそういう事はなかった。

いわゆる「つわり」もまだない。

この「陽性」反応はただの数値。全く自覚のない数値に他ならなかった。

しかし、東宮職はそうではなかった。

何度も「陽性」反応に目をこらし、それが夢ではない事を確認する。

いくら本人が「別に変った事なんかない」と言い募っても東宮大夫も女官長も

侍医団まで「いや、これは間違いなくご懐妊です。だるいとかめまいがするとか・・・微熱があるとかありませんか?」

と聞いてくる。

微熱といえば・・・確かにそんな気もするけど基礎体温なんか真面目にはからないし。

そもそももうすぐベルギーに行かなくてはならないのに、なぜ今「懐妊」なの?

「本当に?マサコが本当に懐妊したの?」

皇太子は珍しく声をうわずらせて言った。顔面に喜びがあふれている。

侍医はそんな皇太子に「いえ、まだはっきりとわかったわけでは。まだお喜びにならないでください。

詳しい検査をしなくてはなりません。まずはエコーを」

「うんうん。何でも早くやって下さい」

正式に不妊治療を始めて、わずかな期間だった。それなのにもう結果が出るとは。

「ちょっと待って。ベルギーはどうなるの」

マサコの声は全然喜んでいなかった。

「もちろん、本当にご懐妊でしたら海外渡航はキャンセルに」

「なんですって?」

マサコの目が医師をにらみつける。にらまれた医師達はびくっとして、思わず顔を伏せた。

待ちに待った懐妊だった。

日本で最も高度な不妊治療を施されている皇太子妃の懐妊は国民の希望の星だ。

医師団としても結果を出さなくては信用にかかわる事。

そんなあれやこれやの思惑の中。待ちにまった・・・いや、今まで一度も経験していない結果が出たのだ。

海外なんて言ってる場合じゃない。

マサコの睨みに恐れをなした医師団は

「と・・とにかく、間違いかどうか。エコーで詳しく見てみましょう」というしかなかった。

皇太子はうきうきわくわくしながら、そしてマサコは不機嫌状態で宮内庁病院に極秘に行く。

とても子供が出来なくて悩んできた夫婦とは思えない、微妙な雰囲気が皇太子夫妻からは漂っている。

エコーの結果は。

はやり懐妊だった。まだ2か月の段階だったが、とりあえず「懐妊」は事実。

これから「つわり」も始まるだろうし、体調に変化が出てくるだろう。

「おめでとうございます。ご懐妊です」

その言葉に皇太子は目を輝かせ「ありがとう」と答えた。本当にうれしそうだった。その表情に医師団もほっとする。

しかし、マサコの方はただただ呆然としているばかりだった。

「どうしたの?」

マサコが一言も発しない事に皇太子はちょっと不思議になって声をかけた。あまりの喜びに言葉を失っているのかも

しれない。

しかし、くるりと皇太子をみたマサコの表情は母になる喜びに輝いてはいなかった。

「ベルギーはどうなるの」

第一声はそれだった。

 

 

 

 


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