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韓国史劇風小説「天皇の母」120 (考えてみればフィクション)

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「何っ!」

長官室の外まで声が聞こえた・・・かもしれない。ついでに机をバン!と叩く音も。

「ついに懐妊かっ!」とカマクラの声が響く。

部屋にはカワグチ侍医長、フルカワ東宮大夫、タカギ女官長らが顔をそろえていた。

「そうか・・そうか・・・よかった・・・」

カマクラは今にも泣きそうな声を出す。誰にとっても感慨無量の筈だった。6年も待ったのだから。

しかし、明るい顔をしているのはカマクラ一人で、他の面々は厳しい顔つきで彼を見つめる。

「どうしたんだ?なんでそんな暗い顔を・・・?」

「両殿下はベルギーに行かれるつもりです」

東宮大夫の言葉にカマクラは一瞬「?」という表情をする。

「両殿下?皇太子殿下の間違いだろう?ご懐妊されたんだから飛行機なんて乗るべきじゃない事は

男の私にだってわかる。宮内庁はそこまでして公務をしろとはいわんぞ」

「違います。妃殿下がどうしても行きたいとおっしゃっているのです」

たまらず女官長が口をはさむ。

カマクラはあんぐりと口をあけて、言葉を失った。

「え?そんな・・・だって懐妊したんだぞ。皇孫殿下が生まれるんだぞ。そうなんだろう?侍医長」

ふられた侍医長は目線を泳がし、そして顔をそむける。

「違うのか?」

「いえ、ご懐妊だと思います。ただ現時点では妃殿下の体調にはなんら変化もないという事で、いわゆるご自覚が

ないのです。また、現在7週目くらいかと思うのですが、まだ安心して発表できる段階ではございませんので。

非常に・・・その微妙な時期なんです。普通は10週目くらいまで気づかない場合もありますし。

せめてもう1週くらい経てば、エコー上ももう少しはっきりとその兆候が見えると思うのですが」

「何が言いたいのかさっぱりわからん」

カマクラは言い募った。

「つまり」仕方ないのでタカギ女官長が続ける。

「両殿下は何が何でもベルギー王太子殿下の結婚式に行かれるというのです」

「それは無理だと言っている。あっちの慶事よりこっちの慶事の方が大事だろう。今回は皇太子殿下だけで」

「ですから、妃殿下は承知されません・・・・と申し上げているのです」

さすがのタカギもカマクラの飲み込みの悪さに苛立った。

「妃殿下は、ご結婚以来、中東訪問したきりで外国訪問をされておりません。その事にとても恨みつらみがあるのです。

フランスもドイツも行かせて貰えなかったと、それはそれはお怒りで。ヨルダンの国王葬儀は別ですが、

あの時はとんぼ帰りでした。それでも妃殿下はとても嬉しそうで・・・」

「つまり、妃殿下は海外に行きたいと。懐妊しているがそんな事はお構いなくという意識なんだな」

全員、口をつぐんだ。

「ご自分の中に皇統が育っているというご自覚がないのか?」

「確かに検査で陽性反応もありましたし、エコーでも一応確認しましたが、妃殿下にしてみればお腹の中で

お子様が育っているという感覚がないのでございます。

自分には変わりがないから飛行機に乗っても大丈夫だと言い張るばかりで。もし、今度、海外旅行を中止させられたら・・・」

「されたら?」

「・・・・死んでやると」

カマクラはがっくりと椅子に腰をおろし、頭を抱え込んだ。

「そこまでして外国に行きたい気持ちがわからん。というか、妃殿下に母性はないのか?殿下は何と?」

東宮大夫は首を振った。

「マサコが大丈夫というならきっとそうだろうと」

「この時期に海外に出ても、飛行機に乗っても大丈夫なのか?」

侍医長は微妙な顔をした。

「お勧めはしませんが、100%流産するのかといわれれば大丈夫な場合もあればダメな場合もあり。

そもそも流産は飛行機に乗っても乗らなくてもするときはしますので。私達は絶対にダメだとは言えないのです。

自己責任とでもいいましょうか。妃殿下に100%ダメだと言い切れるのかと迫られますと私としましても」

「それに、ここで急にベルギー行きをやめたらまた「ご懐妊か」とい噂がたってしまいます。侍医としては安定期までは

秘密にしておきたい・・んですよね?」

タカギの言葉にカワグチは黙って頷いた。

「今の時期が一番流産しやすい・・・という事はありますが、下手に騒がれたらまた・・・」

「ならどうすればいいのだ」

カマクラは今度は怒りで机をたたく。

またも口をつぐむ全員。

カマクラは東宮職の戦々恐々とした顔つきにため息をついた。

結婚以来、東宮御所はすっかり変わってしまったという。誰もがマサコの顔色を見て行動するようになった。

それは夫である皇太子も同じで。皇太子自らが率先してマサコの言いなりになっているのだから、

他の職員が口を出せるはずない。

(ああまで気の強い女をお好みだったとは・・・・誰の影響なのか)と不思議に思うが、ふと思い当たる。

皇后だ。皇后の気の強さは並ではない。

だからこそ、民間出身と言われつつもここまで皇室で頑張ってこられたのだ。

しかし、皇后の強さは上昇志向によるもの。マサコ妃のそれは自分の殻に閉じこもろうとするマイナス面だ。

プラスかマイナスか・・・あの皇太子ならわからないだろうなあ。

そんな冷静に人を見る目があったら、今頃こんなていたらくは。

「両陛下にご報告して・・・」

「それはダメです!」

言いかけたカマクラをタカギが遮った。

「そんな事をなさったら、ますます状況が悪くなります。両陛下がこの事をお知りになったら、必ず両殿下をお止めになるでしょう。

そしたら妃殿下は何をなさるかわかりません」

「何をなさるって・・死ぬとかいうやつか?」

「本当にそうなさりかねない怖さが妃殿下にはあるのです。信じて下さい。両陛下にはまだ・・・まだご報告しないで」

タカギの必死な形相にカマクラは言葉を失い、まじまじと見つめた。

どうやら東宮大夫も同じ意見のようだ。

カマクラは腕を組み、暫く考え込む。

この所の皇太子妃の「もしかしてご懐妊か?」報道は過熱気味だ。

理由は、マサコが太った事にある。

規則正しい生活をし、きちんと公務をやっていれば太る筈がないのだが、皇太子夫妻は夜型で間食も多いと聞く。

マサコは元々太りやすいたちなのだろう。

結婚当初こそ痩せていたが、それが元に戻ったという程度なのだろう。

しかし、マスコミはそれを「懐妊」と騒ぎ立てている。やれヒールの高さがどうのとか、お腹を隠すデザインの服を着ているとか。

それもこれも、国民が待ち望んでいる事だから・・・とおおらかに受け止められないのが皇太子妃の性格。

「プライバシーの侵害」といつも怒っているらしい。

ここで機嫌をそこねると、本当に何をしだすか。

「わかった」カマクラは答えた。

「両陛下への報告は12月。両殿下がベルギーに御立ちになってからにする。そしてベルギーへは侍医団を同行させよう。

あちらでのスケジュールは?」

「はい。結婚式にご出席の他、プライベートでヂュルビュイという村に行かれる予定がありますが」

東宮大夫がノートを開いた。

「その村には極力お出ましを控えるように・・・他に気をつける事は?侍医長」

「飛行機の気圧は、しょうがないとして。とにかくお体を冷やさないようにしなくてはなりません。

刺激が強いものを召し上がるのも控えて頂きます」

「わかった。では、その方向で・・・」

今の自分の判断が果たして正しいかどうか。それは・・・神のみぞ知る。

 

懐妊の兆候があったのが11月の下旬。

そして11月29日には、マサコの36歳の誕生日会見が行われた。

一見、普通の誕生日記者会見に見えたが、東宮職の気の使いようは並大抵ではなかった。

部屋の温度に気を配り、躓きそうなものが本当にないかどうか、入念に調べる。

東宮女官達はマサコの一挙手一投足に視線を配り、ぴりぴりとしたムードが漂う。

当の本人は、ベルギーへ行ける喜びで上機嫌のまま記者会見に臨んでいるのだが、

(何か変だ)と、マスコミは気づき始めていた。

(マサコ妃が極秘に宮内庁病院に行ったそうだ)

(病気か?懐妊?どっちだろう)

(別に入院したわけじゃないし、病気なら侍医を呼ぶんじゃないか?)

(じゃあ、懐妊かも・・・・)

噂というのはこんな風に広がっていくものだ。その中にわずかな真実を掴めば、記者達は情報集めに動く。

すでに、東宮職内部にコネを持ち、情報を集めている新聞社があった。

それはアサヒ。そして国営放送・・・・

 

12月に入ると、慌ただしく皇太子夫妻は天皇・皇后へ出発の挨拶をした。

「懐妊」の「か」の字も報告しなかった。

二人はただただ早く日本の地を離れたかったに違いない。

そして12月3日。皇太子夫妻は真冬のベルギーへ旅立ったのだった。

 

 

 

 


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