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韓国史劇風小説「天皇の母」126(容赦ないフィクション)

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「殿下・・・・」

侍従長は意味ありげに皇太子の部屋に入った。

日本では、現役の総理大臣が突如亡くなるという不幸に見舞われていた。

バブルがはじけて幾星霜。不景気の波に飲み込まれようとしている時代、オブチ総理大臣は地域振興券を配って

何とか購買意欲を高めようとし、沖縄サミットに向けて「2000円札」を発行するなど、目先の利益に必死になっていた。

しかし、それだけではない。

オブチ総理は、落ちる一方の内閣人気をとどめ、国民の目をそらす為に、一日も早く皇太子夫妻に親王が誕生する

事を願っていた。だからこそ、カマクラ長官などと協力し、ツツミ医師を筆頭とする不妊治療メンバーを立ち上げた。

不妊治療には金がかかる。そこを「国の為」として、金に糸目をつけさせない方法を取る。

それは、同じ群馬県出身のフクダタケオ及び、その列に並んでいるオワダ外務省、公明党の後ろにいる学会の意向だった。

そう、オブチ総理は公明党と連立を組んだ初の総理だったのである。

新興宗教とつるんだ為なのか、信仰心がたりなかったのか?相手にされなかったのか?脳梗塞であっけなく亡くなり

国体はさらに弱体化していく。

 

「どうしたの」

侍従長がこんな顔を・・・つまり眉をひそめつつも恐縮した顔をする時は、何か説教がある時とか

苦情がーー東宮職員が辞めると言っているーーなどと、決していい話の時ではなかった。

最近、とみに面倒な事は嫌になってきた皇太子は聞きたくないと思い、つい、テーブルの上のウイスキーに手を伸ばす。

人の話を聞く時に酒を手に取る皇族はいない筈だが、皇太子のこんな態度に侍従長はなれきっていた。

「皇太后さまのご容体があまりよくないので」

皇太后?ああ・・おばあさまかと皇太子はやっと思い出した。

もうずいぶん前に老人特有の・・・いわゆる痴呆症で公の場から遠ざかっていた。

先帝が亡くなった事もきっと知らずにいるに違いない。

元の吹上御所。つまり吹上大宮御所でカビが生えそうな部屋の中、生きてるのか死んでるのかわからない女官長と

一緒に暮らしている筈だった。

皇太子は老人が苦手だった。

それは祖父母である先帝と皇太后も同じだった。

老人はとかく昔の話をしたがるし、小さな事に拘ったりする。しつけに厳しいし、そうか思うと突如甘やかしたり。

小さなヒロノミヤにとって先帝は怖い存在で、皇太后はけむたい存在だった。

それというのも、母を苛めた張本人だったからだ。(少なくとも彼はそう信じていた)

母が皇太后の悪口を言った事は一度もなかった。

けれど、参内する度に緊張が走り、両者の間に見えない溝と張りつめた糸が見えた。

「こちらへいらっしゃいな」と言われても、幼いヒロオミヤは素直に膝に行くという事が出来なかった。

何か・・・悪いような気がしたのだった。何がって、よくわからないけど母が多分恐れ、嫌っているだろう祖母と

仲良くするのは・・・悪いような気が。

その点、弟は屈託がなかった。あっさりと先帝の膝に乗るし、皇太后がすすめるお菓子をぱくぱくと口に運び。

妹も同じだ。手作りのお菓子なんかを作って差し入れ「味は・・・その気持ちが嬉しいわ」なんて

公で言われても褒められたと思っていた程だ。

自分にとって祖母はけむたい存在。そして元々皇族であった彼女には母ですら寄せ付けないムードがあり。

それがまた無性に悔しかったりしたのだった。

「それで」

皇太子は一口で飲み干して言った。

「殿下、そのような飲み方は」

侍従長はますます顔をしかめたが皇太子は構わなかった。氷をグラスに入れてウイスキーを注ぐ。

茶色の液体を喉の奥に流し込んだ瞬間だけ、わずらわしさから逃れられるような気がするのだから。

「それで」

「陛下より、両殿下もすぐにお見舞いに伺うようにと」

「「も」って両陛下は行かれたの?アキシノノミヤも?」

「両陛下は今年になってから何度も大宮御所に行かれておりますし、アキシノノミヤご夫妻も内親王方をお連れに

なって何度か。でもやはり東宮様が最初に行かれるべきとのご判断で。今回はアキシノノミヤ様は

控えておられます」

「・・・・・おばあさまはどこが悪いの?」

侍従長はあっけにとられて皇太子を見つめる。そのまじまじとした目に皇太子は何か変な事を言ったろうかと

誤魔化すためにまた酒を口に運んだ。

「皇太后陛下は御年97歳になれました。ご病気というより老衰であられると」

「老衰・・・じゃあ、仕方ないね」

「それはそうでございますが・・・・」

何か言いたげな侍従長。皇太子はさらに酒を飲もうとする。それをちょっと止めて侍従長はいった。

「飲み過ぎでございます。殿下」

「大丈夫だよ」

「しかし」

「マサコは何て言うかな」

うるさく言おうとしていた侍従長の口が止まる。

 

マサコは流産の一件以来、徐々に機嫌を悪くしていった。

妊娠の自覚すらない時の流産で、とにかく妊娠出来た事を喜ぶべきと言われ、気をとりなおした

矢先に騒ぎ出したのがヒサシで。

「どこがリークした!」と怒り心頭。宮内庁に怒鳴り込んだのだ。

あまりの剣幕に宮内庁長官も東宮大夫も黙っている事が出来ずに、ついついリークしたアサヒと公共放送を

けなす結果に。

さらにその事を女性週刊誌がマサコ擁護で書き立てて、すっかりマスコミは悪者になった。

そうなると、マサコ自身も「私はマスコミのせいで流産したかもしれない」と思い始める。

もし、マスコミがリークしなかったら、新聞に載らなかったら・・・・・そう思うとどんどん気分が落ち込んでいく。

さらに、ユミコやレイコが来るたびに「ここ、盗聴器でもしかけてあるんじゃない?」

などと言うから余計に疑心暗鬼になり。

女官がお茶を運んで来ただけで「毒が入っているんじゃないか」と思い、女嬬が掃除に入るというだけで

「何か盗まれているんじゃないか」と不安になる始末。

「宮内庁なんて官僚の島流しの場所よ。あなたとは立場が違うわ。勿論、学歴もね」という母の言葉をそのままに

受け取るマサコは、次第に不機嫌をあらわにするようになり、やがて、用がなければほとんど部屋から

出てこなくなった。

宮内庁が、「流産をリークされたお詫び」として、スルガ銀行や御用邸での静養を認めざるを得ず、公務を休むことも

やむなしとし、そのうちに「体調が悪い」といえば、公務を休めるようになった。

宮内庁がそこまで気をつかったのは「世継ぎの為」でしかなかったのだが、マサコはそれを「誰もが自分の言う通りになる」と勘違いしてしまった。

皇太子ですら、自分の気分に一喜一憂している様を見るのは、とても楽しかったのだ。

流産して初めてマサコは誰かに大事にされているような気がした。

それゆえ、今は気を遣う侍従や女官を手玉にとってやりたい放題。

ゆえに皇太子は「マサコは何ていうかな」と不安になったのだった。

 

「いやよ。行きたくない」

それは当然の反応だった。マサコは皇太子以上に老人が苦手だった。

最初は一緒に老人施設などを訪問していたマサコだったが、老人が所構わず自分のいいたい事を言い出すのや

手を握ろうとしたり、変に泣き出したりするのを見てすっかり嫌になってしまった。

予定された会話でないと、どうしていいかわからなくなるマサコの大きな弱点をつくのが老人だったのだ。

しかし、皇太后はほとんど意識があるかないかのごとくであるし、この期に及んで会話しろとは言わないだろうと

思われたが、それでもマサコは嫌がった。

「大宮御所って暗いし、古いし・・・陰気で・・・死にかけてる人の所なんて行きたくない。あなた、行きたいわけ?」

「いや・・僕だって行きたいわけじゃないけど。祖母だし、皇太后だし。皇太子として行かないと」

「だったら一人で行けば」

そうか・・・と皇太子は思った。一人で行けばいいのかと。

こんなに嫌がってるマサコを連れて行ったら、大宮御所で何と言われるかわからないし、天皇や皇后にも

何か言われるかもしれない。それならいっそ「体調不良」でマサコは行かないというのがベストかもしれない。

しかし、これには東宮侍従長や東宮大夫が反対した。

流産から半年が経っている。静養も十分にした。それでも公務は休みがちになっているし、

最近では何が不満なのか部屋に引きこもる。

東宮御所内では好きに怒っても泣いてもひきこもってもいいが、外部にそんな態度をしてしまったら、

皇太子夫妻の名誉にかかわるし、何より、東宮職の怠慢を疑われてしまう。

「どうして首に縄をつけてでも引っ張ってこない」と長官は怒るだろう。

プライベートと立場を分けて考えられるように導くのが東宮職の仕事だと。そう言われたら言い返せない。

なんせ、マサコは5月に来日したヨルダンの王子とはにこやかに東宮御所で挨拶をしていたし、数日前の

オブチ総理の葬儀にも参列していた。

なのに、身内である皇太后の見舞いに行かないというのは建前にしても無理がありすぎる。

変に体調不良などと言えば「妊娠か」と想像をたくましくされるし、病気なら医師の診察も必要になる。

皇太子は何を持ってマサコの言い訳を通そうとしているのか。

皇太子は何も考えていなかった。ただ、病気という事にしておけばどちらの顔も立つだろうと思っただけだった。

「それでもご夫妻て1度でいいので、大宮御所へ」

侍従長は必死に説得する。

皇太子だって見舞いに行くべきなのか知っている。

過去に遺恨があっても祖母であり、先帝の后。皇太后なのである。

皇族として、見舞うのは当然の事だった。それはわかっている・・・わかっているのだが・・・・

 

マサコは嫌だといい、東宮職は「行くべきだ」といい、天皇と皇后からは「なぜ行かない」と言われ、アキシノノミヤ家からは

「いつ?」と催促される。

本当にこういう事にどう対処したらいいのかわからない。自分にとってはマサコこそ、もっとも大事にすべき人間である。

なのになぜわざわざ波風を立てようとするのか?

皇太子は東宮職の中では権力がないのか?

 

そんなこんなでぐずぐずしている間に・・・・6月15日。

皇太后は97歳で崩御。

近代皇后の中で、唯一、皇族出身の后だった。僅かな東宮妃時代以外は常に「皇后」として歴史の中に登場した。

二男五女に恵まれた子福者でありながら、皇太子誕生までは長い道のりを歩む羽目になった。

柔らかな微笑みとふくよかな雰囲気が「皇后」として光輝いていたあの頃。

そして先帝の愛を一身に受けて、最初から最後まで仲良く幸せで、古きよき日本を体現していた皇后。

大きな大きな存在がついにこの世から去って行った。

それは「皇室」の崩壊の序章だったのかもしれない。

もっとも高貴な血筋を持ち、その血筋こそが「皇族」の証であった時代の偉大なる皇后。

一般人の皇后が出現した時、その「血筋」は幻のものとなったが、それでも「皇太后」の存在は、わずかに残った

皇室が皇室である証だった。

こののち、皇室がその証を見せるにはどうしたらいいのか・・・・悩む事になる。

そして皇太后という日本一の「血」と引き換えに、もっとも悪質な「血」が皇室を支配して行くことになるのだった。

 

 

 

 


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