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韓国史劇風小説「天皇の母」137(さらりとフィクション)

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ヤマシナ鳥類研究所はノリノミヤの職場であり、アキシノノミヤの職場でもある。

その昔、ヤマシナノミヤ家の2男坊が皇籍離脱して鳥の研究に打ち込んでしまった。

その彼が設立したのが鳥類研究所で、皇室と深い関わりがある。

アキシノノミヤは総裁であり、ノリノミヤは職員だった。

時折は一緒になる時もあったが、互いの公務の都合もあり、滅多に顔を合わす事はない。

 

だから今日は、小春日和の暖かさも手伝って、久しぶりの兄と妹の団らんだった。

二人は図鑑を開いて、それぞれの研究テーマを論じ合ったり、次に野鳥の観察に

行く時には宮邸に泊まるようにといった打ち合わせまでやっていた。

 

「マコちゃんもカコちゃんもそれは気の毒だったわね」

ノリノミヤは図鑑を整理しながら言った。

新しいもの、古いものを整理しつつ、自分が好きな鳥の絵や写真を集中的に

集めて回ったり、学者の論文をコピーしたり。

手は忙しく動いている。

一方の宮は、柔らかい光がさす部屋の中でゆったりとくつろいていた。

普段は公務が忙しく、こういう時でもないと休めない・・・本当は煙草・・・と

言いたかったが頭の中にキコが浮かんでやめた。

「まあねえ。でもいずれ会えるだろうから」

「あら、赤ちゃんというのは一日一日大きくなっていくものよ。

きっとマコちゃん達は、小さなトシノミヤを見たかったのよ。あやしたり抱っこしたり。

なのに断るなんて東宮のお姉さまは一体どうされたのかしらね」

「僕は男だからそこらへんはわからないけど、キコはマタニティブルーだろうって」

「え?なあに?そういう病気があるの?」

「出産前後に女性の心が不安定になる事だよ。子供を産むと防衛本能が強くなって

誰も子供を会わせたくなくなったりとか」

「まあ。お兄様、よく御存じね」

ノリノミヤはくすっと笑った。

全てキコの受け売りなのに、いかにも自分が知っている風に語るのが

おかしかったのだ。

結婚していないノリノミヤにとっては妊娠も出産も全てが未知の世界。

「お姉さまもそんなだったかしら?私は普通にマコちゃんもカコちゃんも会えたし」

「キコはまあ・・どっしり型だからな」

今度はアキシノノミヤが笑った。

「まあ、そんなおっしゃりよう、お姉さまに失礼よ」

「いいつけないでくれよ。あれは怖いんだから」

「そうねえ・・・・考えてあげてもよろしくてよ。この本の整理を手伝って下さったら」

「はいはい。そう来ると思ったよ」

宮は立ち上がり、次々と本のタイトルを読んでいく。でもすぐに興味をひかれて

中身を読み始めてしまい、少しも仕事にならないのだった。

「でも、傷ついたでしょうね。マコちゃん達にとっては初めてのいとこだったわけだし。

生まれたばかりの可愛い赤ちゃんを見たいと思うのは当然だわ。

なのに玄関で追い返すなんて・・・寝ているからなんてわざとらしい返事だわ。

寝顔を見せてあげればよかったんんですものね」

「まあね」

「あの時は東宮のお兄様もいらっしゃったんでしょう?どうして姪達を東宮御所に

入れないのよ。おかしいわ」

「・・・・・どうにもわからないな。兄様は少しずつ変わっているんだろうよ」

宮は言葉を濁すように言った。

「だから僕は正直、兄様がイギリスに行く事は反対だったよ。影響されやすい人だ。

どんな事を覚えて帰って来るんだろうと心配になったさ。そしたらこの通り」

「何を覚えて帰っていらしたというの」

「自由だよ」

宮は言った。

「自分の思い通りに行動できる自由。という事は日々の生活は不自由だという事だ」

「そうね。私達の生活ってそんなに自由とはいえないわね。でも、それは私達

だけではなく、人ってみんなそうなんじゃない?何かしらの不自由さを感じながら

生きているものよ」

「だけど兄様には、「行動したい」自由願望があったんだろうなあ。東宮妃はそこらへん

とてもはっきりものを言うし、それがまた通るし。小気味いいんだろうよ」

「そう」

妹はちょっと沈んだ顔で図鑑を眺めた。

「何だか理解の範疇を超えているのね。私にはわからないわ。わからないといえば・・

どうして東宮のお姉さまは記者会見で泣いたのかしら?」

「泣いたって?」

アキシノノミヤはちょっと驚いた顔で言った。

皇族が人前で涙を見せる事などある筈がなかったからだ。

「あら、テレビをご覧に・・・ならなかったわね。ごめんなさい。ほら、先日、

トシノミヤが生まれたという事で記者会見があったでしょう?

あの時のお兄様達の言葉が何とも・・・・もう」

ノリノミヤは思い出しながら言った。

「まずお兄様がすごい事をおっしゃったの。

『地球上に人類が誕生してからこの方,絶えることもなく受け継がれている

この命の営みの流れの中に,今私たちが入ったということ,

そういうことに新たな感動を覚えました』って」

「壮大だね」

宮は何の感慨もないようだった。

「それから妃殿下は

『無事に出産できましたときには,ほっといたしますと同時に,

初めて私の胸元に連れてこられる生まれたての子供の姿を見て,

本当に生まれてきてありがとうという気持ちで一杯になりました。

今でも,その光景は,はっきりと目に焼き付いております。

生命の誕生,初めておなかの中に小さな生命が宿って,育まれて,

そして時が満ちると持てるだけの力を持って誕生してくる,

そして,外の世界での営みを始めるということは,なんて神秘的で素晴らしいこと

なのかということを実感いたしました』って。

泣かれたのは「生まれてきてくれてありがとう」の時ね」

「それほど感動したという事じゃないのかい?なんせ8年も待っていたんだから」

「そういうものかしら。お兄様達もそう?地球上の生命の営みとか考えた?」

「いや、育てるのが大変でそんな事を考える暇がなかったよ」

宮は、小さい頃のマコやカコを思い出した。

そういえば葉山の海岸でマコは「うみへびうるわねーーお父様」と何度も叫んで

マスコミを笑わせたっけ。何でそこにうみへびなんだ?と思ったけれど

とりあえず「いるねーー」って答えた。

カコはいつもマコの後ろに隠れて。人見知りの激しいこだし。

どちらが生まれた時も素直に「可愛い」と思ったし、「すくすく育って欲しい」とは

思ったけれど、命の営み?までは思ったろうか。

それよりも、トシノミヤが生まれた事でさらに宮家の第3子が先送りになった

事の方がショックだった。

皇太子家に後継ぎが必要なように宮家にも後継ぎが必要なのだ。

しかし、だからといって皇室典範を変えて女帝を容認するわけにはいかない。

これは差別でもなんでもない。伝統なのだから。

 

「私はね。あの涙は感動ではなかったと思うの」

兄とは全く別の事をノリノミヤは考えていたのだった。

「あれは自分へのご褒美の涙よ」

「何だって?」

その言葉に宮は驚いてノリノミヤを見つめた。

「自分へのご褒美?」

「そうよ。赤ちゃんを産んだ自分と言うものに感激なさったの。出産は女性にとって

大きなお仕事ですものね。でも、両陛下が「おめでとう」としかおっしゃらなかった事に

妃殿下は非常にご不満だったのよ」

「なんとまあ・・・・」

全く理解に苦しむ兄嫁の姿だった。

「おめでとう」の他にどう言いようがあるのだろう。

「よくやった」とか「さすがだ」とか・・・そんな言葉を期待していたのだろうか。

ただちに皇室典範を改正せよと言わなかった事だろうか。

トシノミヤの誕生で皇室の混迷はさらに深まるような気がした。

「それだけ妃殿下は孤独だという事なんだろうよ」

アキシノノミヤは一定の理解を示した。

「そんな事よりも、お前の結婚だけどね」

宮は話題をそらした。するとノリノミヤはぷっとほっぺを膨らませる。

「私の事なんか別に・・・・」

「いいわけない。兄としては妹に幸せな結婚をしてほしいと思っているんだよ。

妻として母として幸せに。それなのに少しも積極的にならない。困ったものだ。

どんな男性がお好みなんだい?」

それに対してノリノミヤは即座に

「ルパン三世」と答えた。宮は目をぱちくりさせる。

「ルパン・・・三世?」

「そうよ。私、ルパンは全部好きだけど「カリオストロの城」が一番好き。

クラリスみたいなドレスで「おじさま」って言いながらお嫁に行きたいわ」

クラリス?カリオストロ?おじさま?

アニメを見ないアキシノノミヤにはさっぱりわけがわからなかった。

アルセーヌ・ルパンとは違うのか?

「わかるように話してくれよ」

「だから、一緒にいて肩が凝らず楽しくてちょっと軽薄で、それいて優しく守ってくれる。

そんな人がいいのよ」

宮は頭を抱えた。

妹は現実の世界に生きていないのではないか?

というか、箱入り娘にしすぎたツケが今、回って来ている気がした。

「思えば、皇后陛下がご不例の時からずっとお前に頼りっぱなしで悪かったよ。

お前はお前の人生を生きるべきだ。家族の犠牲になる事はない」

「犠牲だなんて私・・・・・」

「両陛下といると楽なのもわかる。だけどそれじゃいけない。いつか親元を

離れて生きなくては。とりこまれちゃダメなんだよ」

宮は図鑑をばたんと閉じた。大きな音がした。少し埃が舞う。

「次のサンマの会には絶対に来なさい」

「私、テニスはあまり・・・・」

「いいから来なさい」

「お兄様のお友達から選ぶの?」

「そうは言ってないが、選択肢を広げる事は重要だ。それにみな学習院出身の

身元のしっかりした人ばかりだから安心出来る。そういう交際なら両陛下も

何もおっしゃらないだろう」

天皇も皇后もまだ独り身の娘の身を案じてはいるが、一方では手放したくない

思いも強い。ついつい日々の忙しさに紛れて「もう少ししたら考えよう」と

言っている間に今日まで来てしまったのだ。

しかし、このままでは完全に行かず後家になってしまう。

この先、皇室にどんな風が吹くかわからない。この妹だけは俗世のようなもの

から守ってやりたかった。

「とにかく来なさい」

宮は真顔でそういうと、次々と本の整理を始めたのだった。

 


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