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韓国史劇風小説「天皇の母」138(おもてなしのフィクション)

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マサコは環境の変化に驚いていた。

アイコ一人を産んだだけで、みんなが「内親王の母」として立ててくれる。

今まで皇室の中で自分が馬鹿にされているような気がしたものだが

子供を産んだ瞬間、全ての皇族より上に立ったような気がする。

あのキコよりも。

キコが産んだのは娘2人。しかし、あくまでそれは皇位継承権2位、弟の娘にすぎない。

しかしアイコは「皇太子の娘」だ。将来は「天皇の娘」になる。

その母の立場というものがいかに強いか・・・

それは7年ぶりにニュージランド・オーストラリア公式訪問が決まった事でもわかる。

つまり、やっぱり「子供を産むまで」海外旅行をさせないという宮内庁の意地悪だったのだ。

 

マサコはどこにでもアイコを連れて行くようになった。

ただでさえも皇太子一家の静養は他の皇族より多かったが、どこにでもマスコミを

招いて露出するのでこの年は特に際立っていた。

那須・御料牧場・葉山・・・時には皇太子がアイコを背負って歩くこともある。

嬉々としてそんな行動をとる皇太子についていくマスコミも驚きをかくせなかった。

アイコはいわば「錦の御旗」だった。

どんな時にも同伴する事で、マサコ自身の存在価値を知らしめてくれる。

 

ただ・・・気がかりな事もあった。

寝返りやお座り、言葉という、普通の子供がたどる過程がちょっと遅いような気がしたからだ。

自分の娘である以上、誰よりも早く誰よりもよく出来なくてはならない。

時折、そんな強迫観念が押し寄せてきて自分を怯えさせるのだが、

その度にマサコは自分の頭に蘇る、かつての記憶を打ち消す。

そう、勉強が出来ないと父はとてもがっかりした顔になった。

成績が悪いとがっかりして、自分が何気なくした行動にがっかりする。

小さい頃、父に愛されたくて必死に頑張った時の記憶がまざまざとよみがえってくる。

アイコはそういう意味でいえばマサコよりずっと幸せな子だった。

何と言っても皇太子は娘を無条件で愛しているし、発達がゆっくりであっても

何でも構わなかったからだ。

それを羨ましいと思いつつ、そんなんじゃダメだと思う。

そういう甘やかしが娘の将来をダメにしてしまうのだ。

マサコはまだ言葉の「こ」の字も知らない娘に向かって

「A・・・B・・・・C・・・」と教え始めた。

我が娘は英語が堪能でなければならない。

英語力というのがマサコの「学力優秀」の一つの判断基準だ。

「英語よりまず日本を教えて下さい」と東宮大夫に言われた時はむっとして

暫く口をきかなかった。

日本語なんてその国に住んでいるのだから教えなくたってわかる。

でも英語は・・・・・

また、マサコはアイコを公務にも同伴した。

生後七か月の娘を沖縄豆記者に会わせたのだ。

これは大々的に週刊誌に「ダイアナ風子育て」だと絶賛され、マサコは得意になった。

さらに書道展の見学にも同伴した。

アイコは不思議そうに書の数々を見つめ、額縁に興味をしめし、ばんばんと叩いてみる。

そんな様子を見ると、「アイコはこんなに小さいのにもう書に興味を示すのね」と

さらに優越感に浸る。

まさに今のマサコにとってアイコはアイデンティティの全てになりつつあった。

  

この年、ワールドカップが日韓共同開催され、タカマドノミヤ夫妻が皇族として

初めてソウルの地に降り立った。

「とうとうやりましたね」

ワールドカップ終了後の慰労会に出席した皇太子はタカマドノミヤに羨望のまなざしを

向けた。

宮邸は関係者で賑やかだった。

日本側の関係者と同様に韓国側の関係者も招いているので、日本語と韓国語が

飛び交っているような雰囲気だった。

宮は皇太子に韓国産の焼酎をついだ。

「チャミスル(楽しい)という意味の焼酎だよ。ソウルにいくとこればかりさ。

かなり強いけど甘いね。東宮さんは辛口の方がよかったかい?」

宮は上機嫌だった。皇族にしてはやたら派手なパーティを開き、テーブルには

沢山の料理が並んでいる。

真夏の宮邸の一室はエアコンをきかせていても、人の体温で蒸し暑いくらいだ。

料理もホテルの料理人を呼び、数々の珍しい料理を振る舞ったが、その中には

キムチや参鶏湯もあった。

「いや、とにかく無事に終わってほっとしたよ。宮内庁の連中は僕が暗殺される

んじゃないかと内心ハラハラしていたらしいけどね」

「そんなに危険な?」

「世の中には色々な人種がいるという事さ。でも僕は平気だったよ。日韓友好の

為に尽くしている僕達をなぜ暗殺する必要があるというんだい?

これからの韓国は経済的にも発展していく。日本が韓国に追い抜かされる日も

あるかもしれない。そんな時の為にも日本は韓国と仲良くしなくてはね」

そうは言っても、実はワールドカップにおける韓国の評判は世界的に悪かったのだ。

そもそもが日本単独開催だったのを「歴史認識」を盾にして、無理無理共同開催に

持ち込んだのは在日韓国人たち。

共同開催したはいいが、反則はするわ、審判を買収するわ、選手の宿泊先は

なってないわで「二度と来たくない」と言い出す選手まで現れる始末。

そんな事を知っているのか知らないのか、とにかくタカマドノミヤ夫妻は

ソウルの地を踏んでワールドカップの開会式でテレビに出演までしてしまった。

まさに「日韓のかけはし」

韓国への通用門・・になったようだった。

今日はヒサコも思い切りおしゃれな姿でみなの酒の相手を務めている。

こういう時は語学に秀で、社交的なヒサコは抜群の存在感を見せる。

そんな宮妃をみながら皇太子はふと「マサコもこんな事をしたいのかな」と

思ってみたりした。宮妃に許されてなぜ皇太子妃に許されないのか・・・・

アイコが生まれたのだから、今後は少しは変わるだろうか。

 

皇太子はそもそも日韓の歴史には興味がなかったし、新聞で知る程度でしか

知らなかったので偏見や思い込みはなかった。

だから宮が「日韓が手をたずさえて東アジアのリーダーにならねば」などと

いうセリフをそのまま受け取っていた。

「お兄様は誰にでも出来る事ではない事をおやりになったのですから。

素晴らしいですよ。大殿下もお喜びでしょうね」

「どうかなあ」と宮はちょっと言葉を濁す。

「大体ね。父や兄と僕らは立場が違う。わかるかい?僕らは所詮は末端宮家だよ。

血のスペアのスペアのスペア。それでも兄2人の所には男子が生まれなかったから

僕にだって希望はあったけどね。結果的には女3人で打ち止めさ。

後継ぎじゃない皇族の存在価値って何だかわかるかい?

ないよ。そんなもの。ただの税金の無駄遣いだと思われているだけさ。

それが悔しくてねえ。小さい頃からそんな思いで生きて来たんだよ。

でも今回、やっと兄達に一矢報いた気がするね」

「日韓だけではなく、広い意味で文化交流のお仕事をなさっているお兄様は

注目度が高いですよ。僕達など足元にも及ばない」

「長かったなあ。ここまで来るの」

宮は少し酔ったようだった。さっきからチャミスルをあおっている。

チャミスルは非常に強い酒だ。だからアルコール耐性の弱い日本人には強すぎるの

だが。真っ赤になった宮の横で同じものを飲んでいる皇太子は顔色一つ変えなかった。

「結婚してからもう何年だろうねえ。色々な所にコネクションを見つけて、必死に

ご機嫌取りしてさ。皇族の僕が・・だよ。これでも皇族さ。偉大なる今上陛下の

従兄弟だぜ?その僕が媚を売るなんてねえ。でもそうでもしないと。ほら

内廷外皇族はわびしい存在だから。予算だって内廷皇族の半分以下さ。

うちは3人も娘がいて金がかかるのに。おまけに席次は常に最後だよなあ」

「でもこれからはお兄様の存在感が増しますよ。僕も何とかおいつきたいと

思っています」

「だったらまず男子を産む事だね」

宮はにやりと笑った。

「それが無理なら。トシノミヤを女帝にすればいい」

「女帝・・・・って」

「出来ない事はないさ。その時は僕が応援するよ。僕はいつだって殿下の味方だ」

「殿下。東宮様を独り占めなさらないで」

ヒサコが笑いながら皇太子の袖をつかんだ。

「みな、殿下にお会いできるのを楽しみにしていたんですよ。どうぞお言葉をかけて

あげて下さいな」

ヒサコは人々の輪の中に皇太子を放り込んだ。

「殿下。宮様は相当酔っておられるのです。お気になさらずに」

ヒサコは微笑んだ。

宮は・・・いつの間にか眠っていた。

 

 

 


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