Quantcast
Channel: ふぶきの部屋
Viewing all articles
Browse latest Browse all 5842

韓国史劇風小説「天皇の母」147(嵐のフィクション)

$
0
0

那須は雨が降り続いた。

だから・・・という理由でひきこもりになったマサコは自室から

出てこなかった。

娘の顔もろくに見る事もなく、ひたすら閉じこもる妻に皇太子は戸惑い

うろたえ、しかしどうすることも出来なかった。

癇癪を起すマサコも怖いが、だんまりを決め込むマサコも怖い。

皇太子が生まれてこの方、付き合って来た人々にこのような性格の者はいなかった。

ゆえにどう対処していいかわからなかったのだ。

女官も部屋の前でただおろおろとするばかり。

マサコは急激に何に対しても関心を失ったかのようだった。

 

東宮大夫も侍従長も女官長も、アイコの障碍がわかったのだから

一国も早く療育を開始すべきだと考えた。

その為にはまず天皇と皇后に報告し、特別な医師ないし教育者を選び

今後に備える。

公式発表も必要かもしれない。

この先、特別な支援を受けるにあたっては国民にも承知させないといけないから。

けれど、皇太子は一人で決断する事が出来ない。

「もうちょっと待って。マサコと相談するから」と取り合わない。

相変わらず、アイコとは一緒に風呂に入ったり食事をさせたりと

父親としては珍しいくらいの面倒見のよさではあったが

娘にとって何が最善なのかという観点はなかったらしい。

観点がなかったというより、それは現実逃避だった。

皇太子ははるか10年前の出来事を思い出していた。

周囲が反対するのに無理に結婚してしまった事を。

家柄や性格をあれこれ言い募って反対する周囲に皇太子は心から

怒っていた。

心の底では、それほどマサコを愛していたというわけではなかったのに

反対されればされる程、プライドが傷つき、ゆえに意固地になっていったのは

事実。

生まれた時から皇位継承権1位という事で、弟とは差別されて育てられてきた。

母にとって自分の存在は希望そのものだった。

だからその期待に応えるべく、嫌いな事も我慢してきたのだ。

もっと自由になりたいと思っても我慢したのだ。

それが皇太子という地位の重さであり、運命だと思ったから。

でも、結婚だけは好きにしたかった。

両親がそうであったように、いや両親以上の「世紀の恋」が必要だったのだ。

ハーバード大出の才媛、オワダマサコとの結婚はプライドを十分に満たし

誰からも「さすが皇太子さま」と言われる。

その「さすが」が欲しくて結婚に突き進んだようなものだった。

その考えが間違っているとは思わない。今も。

「マサコを守る」

「娘を守る」

その信念に彼は酔いしれていた。

自分との結婚が妻にとって幸せだったのか・・などという考えは一切なかった。

それはマサコとて同じだった。

「殿下をお幸せにしたい」

などと婚約会見で喋った事などとっくの昔に忘れていた。

今の自分は被害者だ。

娘にまで裏切られたような気分だ。

これからどうしたらいいのか。

 

「妃殿下、両陛下にご報告を」

せかす側近にマサコは「絶対に言わないで」とくぎを刺した。

「言ったら命はないと思って」

あまりの剣幕に侍従長も女官長も怯えて後ずさる。

那須から帰京して以来、公務への意欲がどんどん減っている。

どんな場でもマサコの瞳はどんよりとし、心ここにあらずといった風情で

それではあまりにも相手方に失礼ではないかと心配される程。

マサコにしてみればやりたくない公務に出てやっているのだからと

いう気分だったかもしれない。

アイコがあんな状態である以上、結婚生活を続ける事は無意味に思えた。

回りは第二子を望んでいたが、マサコはもうこりごりだと思った。

好きで結婚したわけじゃない。

好きで出産したわけじゃない。

私は悪くない。絶対に悪くない。

本当は、私のような人間は世界で一番幸せになるべきだった。

人も羨むハイソな家で育ち、日本最高の家柄を誇る所に嫁ぎ

将来は皇后なのだから。

なのに、なぜここまで敗北感と挫折感を味わわなくてはならないのか。

それは・・・

私が悪いのではない。

オワダ家にいた時はこんな思いはした事がなかった。

(しても母が全部処理してくれた)

こうなったのは天皇家のせいだ。

天皇家の存在こそが私にここまで恥をかかせ、障碍者を産ませ

プライドをズタズタにしたのだ。

その思い込みは、女官長も女官達も想像がつかない執念深さだった。

彼らは単に

「たった一人の子供がそういう状態ならショックだろう」と思い、

「可哀想」だと思っていた。

受け入れるには時間がかかるだろうという事も。

ゆえにそっとしていたのだが、よもやマサコの頭の中では

「被害者意識が」根を生やしていたとは。夢にも思わなかった。

アイコは母親に何日会わなくても悲しんだりしなかった。

泣くでもなく、悲しむでもなく。かといって顔を合わせても嬉しそうでもない。

そんな娘を見ると余計にイライラとする。

 

しかし、もしかしたら・・・・と思った。

これは東宮御所という閉鎖された空間で育てているからなのかもしれない。

人というのは刺激がないと生きていけない。

アイコは大人の中にたった一人子供として置かれ、回りは静かだ。

だからアイコも大人になってしまったのだ。

そう考えると、マサコは少しすっきりする。

悪いのはアイコではなく東宮御所という閉鎖空間であり、大人しかいない環境だ。

「内親王」という立場ゆえに一般の子供達のような

楽しい事が経験出来ない。可哀想な我が子。

そういう目で娘を見ると、やっと失いかけていた「愛情」がにじみ出てくる。

そうだ・・・庶民の子供達と同じ経験をさせてみよう。

そう思い立つといてもたってもいられない。

マサコは急に生き生きと立ち上がり、ドアをバンと開け、女官長を呼びつけた。

「公園に行きたいの。アイコを連れて」

女官長始め、女官達も・・・皇太子も、マサコが何を言っているのか理解できなかった。 

 

 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 5842

Trending Articles