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韓国史劇風小説「天皇の母」150(フィクションだと信じている)

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「ごきげんよう」

キク君は小さなマコとカコから花を受け取り、嬉しそうに笑った。

「綺麗なお花ね」

「はい。御庭に咲いた薔薇です。お母様と私がトゲを抜いたのよ」

「カコも手伝いました」

得意げなマコと可愛らしく訴えるカコにキク君は心から癒される思いだった。

「お・・お加減はいかがですか」

マコが難しい言葉を使ったのでキク君は少し笑った。ベッドサイドに優しい

風が吹き抜ける。

「ありがとう。おばあちゃまはもう歳ですからね。こんな風に体が悪くなるの。

これは自然の事だから仕方ないのよ。でもマコちゃんとカコちゃんが来て

くれたから今日は元気ね」

「よかった。お父様もお母様も心配していま・・おります。早くお元気になられる

ようにって。今日もお見舞いにいらっしゃりたい・・」

そこで舌をかんだようで、マコはイタッと言った。

みんな笑った。

「あなたたちのご両親は忙しいから」

「そうなの。とてもお忙しいの。つまんないわ」

そういったのはカコだった。まんまるな顔と目が一層愛らしさを引き立てて

将来、非常に美しくなりそうだとキク君は思った。

そしてマコの黒々として輝く髪はと賢い瞳は天の授かりものだった。

「他のお友達のお母様達みたいにもっと遊んで下さったらいいのに」

「そんな風に思っちゃいけないのよ。私達は皇族なんだから」

「皇族ってなあに。お姉ちゃま。私、なりたくないもん」

「皇族って言うのは・・・・」

マコが戸惑う様を見て、キク君は悲しそうに微笑んだ。

「ああ・・あなたたちのどちらかが男の子だったらねえ」

キク君の力ない言葉にマコは慌てて

「おばあちゃま、大丈夫?マコもカコもいい子にするわよ。カコ、

わがままを言ってはいけないのよ。私達はね・・・」

「もういいもん」

カコはちょっとぐずった。

キク君はすぐに侍女を呼んで、おいしそうなクッキーとミルクを運ばせる。

「さあさ、カコちゃん。元気に召し上がれ。若い方がおいしそうに何かを

食べている所を見るのは大好きよ。あなたたちのお父様もそうだったわ」

「お父様も?お父様も子供だったの?」

カコがへんてこな事を言うので、マコはすぐにカコのあたまを小突く。

「当たり前じゃない。みんな子供から大人になるのよ。さあ、お行儀よくして。

クッキーをぼろぼろ落とさないのよ」

カコは姉の言う通りにハンカチを膝にしき、静かに食べ始める。

うつむき加減の目は小さな頃のアヤノミヤそっくりだった。

「そう。あなたたちのお父様はいたずらが大好きでね。御習字を教えて

いたんだけれど、教える日でもないのに突然いらしてね・・・ほほ。

おばさま、お忘れになったの?今日はお邪魔する予定でしたよって。

そんな事知らないから、事務官も侍女も慌てて。

とにかく筆や墨を摺って用意しようとしたら東宮御所から電話があったりして。

アヤノミヤがお邪魔してませんかって。妃殿下が自ら。

そんな風なお子でしたよ。それにどんな字を書きたい?と聞くと

「蜥蜴」だの「鰐」だのって言うから私もわからなくなってしまってねえ。

本当にやんちゃで退屈しない子でしたよ。

マコちゃんやカコちゃんは本当にいい子ね」

父の小さい頃の話を聞いて二人は目を丸くしていた。

(ああ・・本当にこの子達が男の子だったら何の問題もないのに)

キク君は心の中でつぶやく。

東宮夫妻には最大限の気を遣って来たつもりだった。

自分にも子供がいなかったし、出来ないつらさはよくわかる。

だからこそ、「不妊治療」という最先端の技術を駆使する事に

賛成したし、頑張れとも思ってきた。

だけど、生まれたのは内親王。それでも次があると希望を持ち、

最悪なら女帝でもいいのではないかとすら発言したのに

ついに一度も宮邸にあの夫婦が来る事はなく、可愛い盛りの内親王の

顔もテレビで見るだけだ。

元々ヒロノミヤはとっつきにくい子ではあった。

一見、とても寛容な風に見えるけれど実は頑固でうちとけない。

それが結婚してからますますそういう風になってきたような気がする。

アキシノノミヤ家に3番目が出来ないのは、この小さなカコを身ごもった時の

陰口が効いているというのだろうか。

だとしたら皇后は一体何を考えているのか。

もし、これが皇太后だったら一刀両断に叱りつけるだろうに。

あの皇后は今も恨みに思っているのだろう。

自分達が結婚に反対した事を。それを後悔はしていない。

今の惨状を見ると、やっぱりあの時、反対して正解だったし、それでもなぜ

結婚が実現してしまったかと思う。

根本的な部分で皇后は「皇族」ではない。

皇族にとって、華族にとって血筋というものがどんなに大事かという事が

わかっていないのだ。

わかっていても滅びた宮家は沢山ある。自分達もいずれ滅びる。

それでも総本家だけは亡んではならないのだ。

その為の宮家なのだ。

幸いにしてチ先帝に男子が二人誕生したから、チブもタカマツも子供が出来なくても

責められる事はなかった。有難かったと思う。

しかし、今は違う。総本家に男子がいないのだ。

この事を考えると背筋が寒くなる。このままでは本当に絶えてしまうのでは

ないかと。

「おばあちゃま?」

マコが心配そうな顔で見つめる。

この子は人の感情を読み取るのが上手だ。賢い。

小さくてもすでに内親王なのだ。あのわんぱくなアーヤがいい伴侶を得て

このように素晴らしい子育てをしている事だけが救い。

 

穏やかな日差しの中でドアがあき、侍女が入ってくる。

「妃殿下、申し訳ありません。東宮大夫と宮内庁長官が御目通りを願っていますが」

「あら、予定はあった?」

「いえ・・・予定外ではありましたけど、偶然お二人の時間が空いたので

失礼ながらお見舞いをと」

宮内庁長官と東宮大夫が二人そろってやってくるとはただ事ではない。

「おばあちゃま。私達、失礼します」

マコがまだ食べているカコをせかして立たせた。

「あらいいのよ。こちらの部屋でもう少し召し上がれ。おばあちゃまが部屋を

移るから。お客が帰ったらまたおしゃべりしましょう」

キク君はマコとカコに支えられて起き上がると髪を整え、ガウンをはおって

車いすに乗った。

すっかり痩せてしまっている自分の手を見るのがつらかっった。

 

応接室では、神妙な顔で長官と大夫が待っていた。

二人とも直立不動で立ち、まるで軍人のようにお辞儀をする。

「妃殿下にはご機嫌うるわしく」

「麗しいわけないでしょう?こんなに突然やってくるなんて。私だって一応

女ですよ。男性方をお迎えするのに化粧する時間ぐらい欲しかったわね」

「も・・申し訳ございません」

平謝りの長官にキク君は表情を和らげて

「いいわ。お坐りなさい。今、アキシノノミヤ家の小さなお二人が来てるから

短めにね」

 

長官と大夫はすでに緊張しまくっていた。

彼らの年代にとって皇族は絶対の存在である。

ましてや先帝の弟君の妃で徳川宗家の血を引く正真正銘の「淑女」である。

「本日は妃殿下のお加減が悪いと聞き及び、突然とは思いましたが

お見舞いに参上いたしました。お体の具合はいかがでしょうか」

長官が代表して口上を述べる。

「ありがとう。多分、もう長くないわ」

キク君があっさりそう言ったので、二人はぎょっとして言葉を失った。

「死ぬにはちょうどいい年頃だとは思いますよ。もうセツ君もいないし

皇太后さまもいらっしゃらないし。私達の時代は終わったと思っています。

だからこの世に未練はありません・・・ありませんけれど心残りはあるわ」

「心残り」

「東宮大夫。東宮家にトシノミヤが生まれた事は大変素晴らしい事です。

でもそろそろ二人目を考えるべきではないの?」

「はあ」

東宮大夫はうなだれた。

「確か東宮妃はもうすぐ40になるのではなかった?」

「はい。その通りでございます。しかし・・・」

大夫は口ごもる。

畳み掛けるようにキク君は言った。

「最近は寝ている事が多くなったわ。だから自然とテレビをつけてしまうのよ。

そしたらある日、ワイドショーとかいうの?あれで皇太子夫妻がトシノミヤを

普通の公園に連れている姿を見てびっくりしたわ。だってあの日は

皇宮警察音楽隊の50周年の式典だったでしょう?

そもそも東宮家の姫を普通の公園に連れて行く事自体、考えられない事

だけれど、公務を休んでまでする必要があったの?

一体両陛下はなんと思し召しなのか」

「両陛下もかなりがっかりされておいでです。しかし、皇太子妃には何も

言えないのです」

「なぜ」

「皇太子妃が非常に激高して口答えをなさり、皇太子殿下もまたそれを

助長するようなご発言をするからです。今回の公園行きは私達東宮職も

反対いたしました。しかし、妃殿下はどうでもとおっしゃって。

それもこれもトシノミヤ様が・・・・」

「トシノミヤがなんだというの?」

「どうやら発達障害のようで」

「それはなに?私にもわかるように話して頂戴」

「自閉症でございます」

「何と・・・・」

キク君は急に力をなくしてしまった。

「両陛下もそれをお知りになってからは、傷ついている妃殿下に対しては

あたらずさわらずで。なにせ二言目には泣かれるので・・・」

「で・・でも、皇室にはタカツカサに嫁いだ方やイケダ家に嫁いだ方のような

ごゆっくりさんは珍しくないはずよ。それに自閉症だからって何なの?

トシノミヤは内親王ですよ。きちんと御簾のうちで療育すればすむ事では

ありませんか。どうしてわざわざ人目につく公園などへ」

「私達にもよくわかりません。妃殿下はハーバード大での才媛の筈ですが

今回の事に限って言えば、思考が定まらなくて・・・人目にさらせば治ると

信じているような雰囲気で」

「じゃあ、二人目は?また自閉症になる確率が高いの?」

「わかりません。ただ、東宮夫妻は第2子を断念されているという事で」

「何ですって?」

キク君は思わず、椅子から滑り落ちそうになり、胸をおさえた。

侍女が駆け込んでくる。支えられ、少し水を飲んで落ち着いたキク君は

今までになく厳しい目を二人に向けた。

「これがどういう事かわかっているの?アキシノノミヤ家に産児制限を強いている

黒幕は東宮家だという事くらい私は知っていますよ。

そんな意地悪をするくらいだから当然自分達で男子を得るものと思っていましたよ。

最大限その努力をするものとね。

先帝をごらんなさい。側室もとらず弟達に子供が出来なくても、きちんと

ご自分でツグノミヤを得られたわ。天皇家にとって男系を男子を得る事は

義務です。みな、歴代の天皇も皇族も後が絶えぬように努力していまに

至ったのです。

なのに、皇太子夫妻は人にも産むな、自分達も産まないと・・・そういう

わけですか?」

「トシノミヤ様が女帝になればいいと」

「いくら何でも自閉症を抱える子には無理でしょう。それに天皇家は代々

男系の男子が後を継いできたのです。中継ぎならともかく、女系へつなげようと

意図があるなら私は反対よ」

一気にしゃべってから、キク君は大きく息を吸って吐いた。

「こんな事はね。親である今上が言うべきでしょう。まさか両陛下も

東宮家のありようを容認しているというの?」

「いえ・・・そうではありませんが。医師達からはキコ様のタイムリミットの

話がいってる筈です」

「だったら迷う事はないわ。今すぐにでもアキシノノミヤ家に子供を。

産めるだけ産んで貰うのよ。ああ、こんな事ならどうしてあの時、もっと

私が守ってやれなかったのか・・・情けない。10年を無駄にしたわ」

キク君は肩を落として嘆いた。 

そしてげほげほと咳き込む。またしても侍女が飛んできて必死に背中をさする。

「妃殿下、もう帰って頂いた方が」

侍女の言葉にキク君は苦しそうに言う。

「まだ大丈夫よ。それで、長官と大夫はどうしようというの?このまま皇室が

滅びて行くのを見守るだけですか」

「いいえ」

長官が首を大きく振った。

「トシノミヤ様を女帝にという背景には様々な外戚の思惑があります。

だからこそ、ここは・・・アキシノノミヤ家に第三子をお願いしたい。

ですが、皇后陛下はキコ様がまた辛い思いをされるのではないかと

心配されているのです」

「辛い思いですって?は?何を言っているの。辛い思いをしてでも

義務を果たすのが妃の役目ではありませんか。キコはその事は

よくわかっていますよ。セツ君が大層可愛がっていらした人ですもの。

セツ君がただ同じ会津の血を引いているというだけで猫可愛がりを

するような人でしたか?違うわ。キコには資質があったのよ。

宮妃としてのね。どんなに辛い事があっても、あの子は耐えます。

そして結果を出します。マコちゃんとカコちゃんを見ていればわかるもの。

それを皇后が・・・そういう風にかばいだてをするというのは、皇后自体に

問題があるようですね」

「ひ・・妃殿下・・・・もう少し声を落として」

長官があわてふためく。まさかこんな展開になろうとは。

「いいえ。言わせてもらうわ。両陛下が義務より権利を重んじたから

今のありさまではありませんか。健康で子供が何人いても構わない

夫婦に産むなという事自体が非人間的です」

そしてぜいぜいとしながらもキク君はしっかりとした声で言った。

「私の遺言だと思ってお聞きなさい。アキシノノミヤ家の産児制限を

解くのです。その為には長官と大夫が泥をかぶる必要があります。

討死する覚悟で進言しておくれ」

 

それから数日後の東宮大夫の記者会見。

東宮大夫はなるべくさりげない口調で

「色々な考えもあると思うが、やはり東宮家に第2子を、アキシノノミヤ家に

第3子をお願いしたい」と言ったのだった。

 

 

 

 


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