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韓国史劇風小説「天皇の母」151(ラブなフィクション)

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まぶしい程の光が御所の窓から入ってくる。

真夏の暑さに、女官達は慌ててカーテンを閉める。

「窓を開けて頂戴。自然の風の方がいいの」

皇后はそういって、温かいお茶を飲んだ。

冷たいものをとらなくなってもう何十年になるだろうか。

女性は冷えてはいけないと漢方薬の先生に言われてから、どんなに暑くても

それ以上に熱い飲み物をとっていた。

「でもあなたは冷たい方がよろしいわね」

皇后は目の前に座る医務主管に冷たい麦茶を持ってくるように指示した。

「いやはや・・・情けない事でございます。私は陛下のように覚悟が定まりませんで。

やっぱり夏は冷たいものじゃないと」

医務主管は汗をかきかき、運ばれてきた麦茶に口をつける。

「医者の不養生というものね」

皇后は少し笑った。しかし、となりの天皇は笑う事が出来ないようだった。

 

マスコミに取り上げられて大騒ぎした2度の公園デビュー。

1度は皇宮警察音楽隊の式典をサボってのものだったので

さすがに頭に来て皇太子に直々に苦言を呈した。

このような事は初めてだ。近代の皇室始まって以来の事だと。

すると、考えられない事に皇太子はうんざりと・・・・本当にうんざりとした顔をしたのだ。

「マサコがどうしてもあの日でないとと言ったので」

「妃をいさめるのが夫たる親王の役割ではないのか。ただ甘やかせばいいと

いうものではない。きちんと皇室の中で妃として生きて行けるように導くのが

夫として、皇太子としての仕事だろう」

「マサコは好きで皇室に入ったんじゃないんです」

皇太子の言葉はいつもこれだった。

「マサコは優秀な外交官でした。でも僕と結婚する為にその職を捨ててくれたんです。

子供が出来なかった事でプレッシャーに苦しんで来ました。やっと生まれた

アイコの為に色々やるのがどうしていけないんですか?」

もう何度、同じ言葉を繰り返してきたろうか。

天皇も皇后もそれ以上は何も言えなかった。

「好きで皇室に入ったんじゃない」という思いが貫いているのだとすれば

それはあまりにもひどい結婚生活だ。

だのに皇太子は嫌がるどころかマサコの肩を持ち、というよりマサコそのもののように

見える。

 

「陛下」

医務主管は声をかけた。

天皇は「ああ・・」と頷く。

「お加減がよろしくないのでしょうか?もう一度診察を?」

「いや、そうじゃないよ。そうじゃないけどね。やっぱりね。東宮に2番目は無理かね」

天皇ははるか昔を振り返っていた。

かつて自分もまた「マイホームな皇太子」と呼ばれた事があった。

結婚してすぐに授かったヒロノミヤ。その後、皇太子妃は流産し、精神的に病んで

ヒロノミヤの存在だけが唯一の救いだったのだ。

あの時、自分は妻が「憲法」と呼ばれる程こまごまとした指示を女官達に下すのを

黙ってみていた。

スポック博士の育児書片手に「こうしなくては・・・ああしなくては」と悩みつつ

最高の育児をしようと頑張りすぎる妻に口出しできるものではなかった。

最初は天才と思われていた我が息子も、大きくなるに従っておっとりとした・・・・

どことなく姉達に似ている様子で。

だからこそ「ヒロノミヤは将来天皇になるのだからプレッシャーを与えないように

甘く」育ててきた。一方のアヤノミヤは生まれた時から才気煥発で先帝にも

気に入られていた。

いわばほったらかしにしても育ってくれる子だった。

だから「アヤノミヤは将来兄を支える立場だから厳しく」育てた。

手がかかる息子ほど可愛いというのは本当で、ミチコは過保護すぎるほど

過保護に育てていたのだ。

だから、皇太子妃を責めたり出来ない。

しかし、あの頃の自分達は公務をおろそかにしてまで育児にかかりきりになる

事はなかったのだ。

どちらの息子も同じように可愛い。

しかし・・・・どうしても手がかかる方に目が行くのは自然な事だ。

そしてこの時、天皇と皇后には一つの思い込みがあった。

それは「皇太子の息子が天皇になるべきだ」という事だ。

皇室の歴史を振り返れば、長子相続の方が少ないのだが、どういうわけか

「そうでなければ争いが起こる」と思い込んでいたのである。

それは歴史を精査しての事というよりも、何となくのイメージだ。

だが、そのイメージは深く深く国民の間にも浸透している。

本当を言えば、公務を休んでまで公園デビューした皇太子夫妻の気持ちが

全くわからない。

しかし、ここで頭ごなしに怒鳴りつけても皇太子はますます意固地になるだろうし

夫婦仲も悪くなるだろいうという危惧もあった。

「どうだろうね」

「出産年齢も昔に比べれば上がって来ていますし、今は40代の出産も珍しく

なくなっています。マサコ様は40におなりで・・・不可能ではございますまい。

すでにアイコ様がいらっしゃるので、危険性もそれ程」

「あとは二人の気持ち次第だというのだね」

「はい。両殿下は第二子をお望みでないと伺っております」

医務主管は冷や汗をかきながら言った。

トシノミヤの障碍の事はそれとなく天皇には伝えた。

あの時、大騒ぎしたマサコと違って天皇も皇后もあまり驚かなかった。

皇位継承権のある男子ではなかったし、天皇の姉二人もまた「ごゆっくりさん」で

あったのだから。

だからトシノミヤも内親王としてふさわしい静かな暮らしをすればそれでよかった。

なのに世論はどんどん「女帝」の方向へ向かっているように見える。

これはもしかしたら国民の総意なのかもしれない。

やはり長子相続が・・・・・しかし、もう一度だけ、もう一度だけ挑戦して欲しかった。

「出産を強要するわけには・・・」

皇后は言葉を抑えた。

「二人の合意の元で行わなければ何とも」

確かに、トシノミヤ出産の蔭には「顕微授精」という科学的な力が大きく働いた。

いわば人工的に生まれたのがトシノミヤだ。

「神の手」を持つ医師、ツツミの元で本当は男子として生まれる筈だったトシノミヤ。

しかし男子ではなく女子だった所に、神といえども本当の神の意志には逆らえない

事実をしり、畏怖した。

医務主管は皇后のあまりにも「お優しい」その言葉に少し反感を覚えた。

一体、皇統断絶の危機だというのに何を悠長な事を言っているのか。

出産の強要が惨いというなら産児制限はどうなるのだ?

アキシノノミヤ家はもう10年近く3番目が出来ないようにしている。

あれ程子供好きで立派に二人の内親王を育てているアキシノノミヤ家の

事はどうでもいいのだろうか。

不敬だな・・と思いつつも、医務主管は天皇がのんきに構えすぎているような

気がしてならなかった。

だから思い切って「キコ様も限界が近づいておりますれば」と言った。

それを聞くと天皇は「・・そうだね」という。

それが否定なのか肯定なのかよくわからない。

「でもカコちゃんが生まれた時に・・・」と皇后がいいかけ、やめたので

その沈黙を破ってさらに医務主管はたたみかけた。

「どのようなプレッシャーにも負けない意志の強さをアキシノノミヤご夫妻は

持っていらっしゃる。何よりキコ様は健康で丈夫でいらっしゃる。

宮家にも後継ぎが必要でしょう」

天皇はちらりと皇后を見た。

皇后はつぶやくように「また女の子だったら・・・」という。

 

一体、皇后は何に拘っているのだろう。

医務主管にはさっぱりわからなかった。

ご自分はさっさと後継ぎの男子に恵まれたから何も思わないのだろうか。

むしろマサコ妃への同情の念の方が強いのだろうか。

流産のご経験があったから?

いやいや、皇后の心の中にはジェンダー思想が入っているのではないか。

だが、そんな事を根掘り葉掘り聞く立場にはない。

天皇が「いいよ」と言えばそれで全てはスタートするのだ。

「こう申し上げてはなんですが・・・・・」と医務主管は切り出した。

「私は東宮医師ではありませんから、直接診察する立場にはございません。

また最近、東宮御所の医師は遠ざけられているとの話もございます。

妃殿下が脈を取られたりするのをひどく嫌がられるからでございます。

ですからはっきりと東宮御所で何が起きているか・・・私には申しあげる権利は

ないのでございますが。

どうにも皇太子妃殿下は心を病んでいらっしゃるのではないかと」

「それはそうでしょう。トシノミヤの事などを思えば」

皇后が言った。

「もし第2子を懐妊してもまたそうだったらと思えば怖いでしょうし。だからこそ

無理じいは出来ないと思いますよ」

「二番目もそうなるという確率は高いの?」

「医学的にどうこうは申し上げられません。こればかりは。しかし、皇太子妃殿下が

お子様を産むにはあまりいい精神状態でない事だけは確かです。一方でアキシノノミヤ夫妻

は心身共に健康でいらっしゃる。お二人の内親王殿下もお健やかです」

「けれど、皇太子よりも宮家に先に男子が出来たら」

まるで先が見えるようだと言わんばかりの皇后の言葉だ。

もうこれ以上は無理かと医務主管は声を発するのをやめて、麦茶を飲んだ。

もうかなりぬるくなっていた。

「両方に子供が出来ればいいのだね」

天皇が言った。

それを実質的なゴーサインと医務主管は受け取った。

 

その頃、マサコは3度目の「公園デビュー」に挑戦していた。

どうしたって納得できなかったのだ。

何度も普通の子供のように遊ばせ、普通の子供のように扱えば

いわゆる「普通」になるのではないかと、そればかりを願っていた。

6月にレイコに男子が生まれてから、マサコの内なる焦りはますますひどく

なっていく。

今まで妹に負けた事などなかったのに・・・・・

レイコの見舞いに訪れた時、かろうじて医師達に

「ありがとう」姉らしくねぎらいの言葉をかけたものの、内心でははらわたが

煮えくり返っていた。

レイコの得意そうな顔を見るとさらに怒りは増幅した。

でも・・・レイコの子は庶民だ。天皇になれるわけではない。

そう思ってやっと溜飲を下げたのだが。

皇太子妃であること。将来の皇后である事。自分にとって価値はそれしかないと

実感せざるを得なかった。

プラス将来の「天皇の母」でなくては。

「女帝にすればいいのだ」

父の声が胸をよぎる。

そうだ。アイコは女帝になる運命なのだ。

だからこそ、どこまでも優秀でなくてはならない。

皇太子の気持ちはやがて冷めるかもしれないし、皇室が敵に回るかもしれない。

でも、アイコという「天皇の孫にして皇太子の娘」を取り込んでおけば。

それは理屈ではなかった。

マサコの、いわば本能的な生存への道がそう思わせているのだった。

 

 

 


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