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韓国史劇風小説「天皇の母」165 (衝撃のフィクション)

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マサコがアイコを連れて東宮御所に戻ってきた時、にこやかに迎えたのは

皇太子ただ一人だった。

侍従も女官も、ただ黙って頭を下げているだけだ。

「お帰りなさいませ」と小さく女官長が言った。

決して歓迎している風には聞こえない。

マサコは腹を立て

「帰って来たくてきたんじゃないわよ」と言い捨て、部屋に入り、大きな音を立てて

ドアをバタンと閉めた。

ドアの向こうから「妃殿下。とりあえずお着替えを」という女官の声が

聞こえたが無視した。

もう誰かに命令されるのは沢山だった。

静かな部屋の中でマサコは孤独だった。

這い上がるような孤独に寒さを感じる。

どうして自分が今孤独なのか、何をどうしたいのか・・・もうわからない。

ただ一つ言えること。

それは、この東宮御所で生きていく為には切り札が必要である事。

皇位継承権舎を産めなかった自分にとっての切り札は・・・・アイコだけだ。

アイコを立太子させなくては。

アイコを天皇の座につけなくては、自分はまた誰かに支配されてしまう。

命令されてしまう。

したくない事をさせられてしまう。

もう嫌だ、嫌だ、いやだ!

思い出すのはいつも独身時代の事。

自由に外で遊んで飲んで恋をしていた頃の事。

(私が失ったのは永遠の自由なのだ)

マサコは心から自分を可哀想に思った。可哀想で悲しくて

辛くてしょうがなかった。

誰もこの苦しみはわかるまいと・・・・・

マサコは思い切ってドアを開けた。

びくびくと立っている女官がいた。

「今すぐアイコに食事をさせて。アイコはイタリアンが好きなの。

パスタ以外は食べないから」

慌てて走って行く女官達。

少し溜飲が下がった。

これからは全てこの手で行こうではないか。

 

その一方で。

ヒサシの計略は着々と進んで行った。

毎週のように出る雑誌や新聞には「女帝論」が登場するようになり

「アイコ内親王に皇位継承権がないのは男女差別ではないか」との議論を強調する。

ヨーロッパのほとんどの王室が「女王」を認めている以上、日本だって・・・・というのが

こちらの言い分。

戦前の家父長制の否定。夫婦同姓の否定、そして男女である事の否定。

先進国は女性の大臣の数が多いのに、日本は最下位であるとか、封建制が残っているとか

それはもう、書きたい放題書かせている。

男女雇用機会均等法世代のマサコが心を病んだのは、全てにおいて

旧弊な皇室による差別意識が元になっていると。

コイズミ総理はその気になっている。

彼は拉致被害者を5人帰国させたことで大手柄を上げた。

この調子で皇室典範改正まで着手すれば大いに株があがるだろう。

 

さらにヒサシはセツコの夫に条件を出す。

「もし離婚しないでくれたら、外で女を作ろうが黙っている」と。

そして「こちらの言う事を聞いてくれる精神科医を知らないか?出来れば

後ろ暗い過去を持って、いつもびくびくしているような・・・・

紹介してくれたら、君の将来は保証しよう」と持ちかける。

ヒサシにとって、娘の嘆きも悲しみも大したことではなかった。

とにかく、今、離婚されたら困るのである。

何事もなくひっそりと夫婦生活を続けて行って貰い、さらに言う事を聞かせるには

「そっちの自由も尊重」とエサを播くしかない。

そして報酬と言う名の人参を与えて、こちらに心酔させるのだ。

ヒサシにとってマサコ以上に大事な「皇太子」と「アイコ」だ。

なにせ、全ての資金は「皇太子が即位したら」「アイコ天皇が誕生したら」

という信用貸しに他ならないのだ。

何が何でも実現しなければ身が危ういのである。

 

ヒサシはヨーロッパ歴訪記者会見をする皇太子の為に、記者達の質問に対する答えを

用意していた。

「でも殿下。これは侍従や内舎人に見られてはいけません。推敲もさせてはいけません。

もし、出来上がった原稿を見せて欲しいと東宮大夫が言ったら、こっちの方を出して下さい」

皇太子は、何だかドキドキした。

自分が実際に読む原稿と、東宮大夫らに見せるものが違うなんて

今まで一度もなかった事だ。

そんな事をして、後から色々言われないか心配だった。

「ご心配には及びません。皇太子殿下は東宮御所のトップですよ。殿下に逆らう方が

悪いのです。もしあれこれ言われたら、その時は毅然と対処なさってください。毅然と」

その「毅然と」という言葉が非常に心に響いた皇太子は、大きくうなずき

湧き上がってくる高揚感に震えた。

自分は今、大きな事をしようとしている。

もしかしたら歴史的にすごい事かもしれない。

 

皇太子は、その原稿を受け取ると、入念に隠す。

無論、言われた通り、東宮大夫には偽の原稿を見せた。

自分がやっている事が、後々どんな影響を与えるかなど考えもしなかった。

ただ、マサコが可哀想で仕方なかった。出来上がった文章を読むにつけ

どれ程の人がマサコを傷つけたのかと、腹が立って仕方ない。

これは言わなければならない。

自分が言う事によって突破口を開くのだ。

それこそが自分とマサコを救う道であると・・・・皇太子は信じていた。

 

その日。

集まった記者達はいつものように記者会見場に入り

いつものようにカメラをスタンバイした。

皇太子が外国へ行く。対して珍しい事ではない。

ただ、今回は一人というだけだ。

あんなに外国へ行きたがっていたマサコ妃を置いてヨーロッパに出発する事に対して

皇太子はどんな感慨を持つのだろうか。

部屋に入ってきた皇太子は、これまたいつものように記者達を一瞥し席に座った。

おもむろに原稿を開く。

出来上がった質問。出来上がった答え。

単純に今回の訪問についてどう思うかと質問したのだが、記者達は皇太子の答えに

ふと違和感を持った。

「ところで,5月1日にEUは25か国に拡大されました。

今回の3国は従来からEUの加盟国ですが,これらの国々が新しいEUの中でどのように進んでいくか

ということも今回感じ取ることができればと思っています。

また3国とも伝統的な海運国でありますので,私の専門としています海上交通あるいは河川交通の

面からも何か新しい知識が得られればと思っています

ヨルダンについては,

9年前に訪問しておりますけれどもその際は日程を大幅に短縮することとなりながら,

当時のフセイン国王陛下を始め大変心のこもったおもてなしを頂きました。

その後フセイン国王陛下には残念ながら亡くなられ,

ご葬儀に参列させていただいたことも大変感慨深く思い出します。

その意味でも,日本で以前にお会いしたこともあるハムザ皇太子殿下のご結婚に伴う祝宴に出席して,

そしてお祝いをお伝えすることができればと思っておりましたけれども,

今回は諸般の事情で訪問することができずに誠に残念です。

お二方の末永いお幸せをお祈りするとともに,お会いする機会を楽しみにしています」

これは本当に皇太子の言葉なのだろうか。

今まで政治的な事に触れた事はなかったのに。EUを出してくるとは。

しかも・・・「葬儀に参列させて頂いたことも大変感慨深い」?

そういえば、今回の言葉には「ありがたい」という言葉がいたる所に散らばっている。

 

記者達は少しざわめいたものの、冷静さを保っていた。

しかし、部屋の後ろ側では東宮大夫が血相を変えていた。

「今回,皇太子妃殿下のご訪問については,ぎりぎりまで検討されましたが,

最終的には見送られました。

殿下お一方でご訪問されることに至った経緯,結果についての殿下,妃殿下のお気持ちをお聞かせください。

妃殿下の現在のご様子,ご回復の見通しについても改めて伺えればと思います」

そらきた・・・・

皇太子は、回りをぐるっと見渡すと背中をぐぐっとそらせた。

「今回の外国訪問については,

私も雅子も是非二人で各国を訪問できればと考えておりましたけれども,

雅子の健康の回復が十分ではなく,お医者様とも相談して,私が単独で行くこととなりました。

雅子には各国からのご招待に対し,深く感謝し,体調の回復に努めてきたにもかかわらず,

結局,ご招待をお受けすることができなかったことを心底残念に思っています。

殊に雅子には,外交官としての仕事を断念して皇室に入り,

国際親善を皇族として,大変な,重要な役目と思いながらも,

外国訪問をなかなか許されなかったことに大変苦悩しておりました。

今回は,体調が十分ではなく,皇太子妃としてご結婚式に出席できる貴重な機会を失ってしまうことを,

本人も大変残念がっております。

私も本当に残念で,出発に当たって,後ろ髪を引かれる思いです。

私たちには,ヨーロッパの王室の方々から,いつも温かく接していただいており,

フレデリック,フェリペ両皇太子殿下とは,限られた機会の中ではありますけれども,

楽しい思い出が多くあるため,今回のことはとても残念に思っているようです。

雅子の長野県での静養のための滞在は,幸い多くの方々のご協力を得て,

静かな中で過ごすことができました。この場をお借りして,

協力してくださった皆さんに雅子と共に心からお礼を申し上げます。

雅子からも皆さんにくれぐれもよろしくと申しておりました。

長野県での滞在は,とても有益なものではあったと思いますが,

まだ,雅子には依然として体調に波がある状態です。

誕生日の会見の折にもお話しましたが,雅子にはこの10年,自分を一生懸命,

皇室の環境に適応させようと思いつつ努力してきましたが,

私が見るところ,そのことで疲れ切ってしまっているように見えます。

それまでの雅子のキャリアや,そのことに基づいた雅子の人格を否定するような動きがあったことも事実です。

最近は公務を休ませていただき,以前,公務と育児を両立させようとして苦労していたころには

子供にしてあげられなかったようなことを,最近はしてあげることに,

そういったことを励みに日々を過ごしております。

そういう意味で,少しずつ自信を取り戻しつつあるようにも見えますけれども,

公務復帰に当たって必要な本来の充実した気力と体力を取り戻すためには,

今後,いろいろな方策や工夫が必要であると思われ,

公務復帰までには,当初考えられていたよりは多く時間が掛かるかもしれません。

早く本来の元気な自分自身を取り戻すことができるよう,周囲の理解も得ながら,

私としてもでき得る限りの協力とサポートをしていきたいと思っています。

今後,医師の意見によって,公務復帰に向けては足慣らしのために,

静かな形でのプライベートな外出の機会を作っていくことも必要であるかと考えています。

引き続き,静かな環境を保たれることを心から希望いたします」

 

突然、天井に笑い声が響いたような気がした。

記者達は水を打ったように静かになった。

それは・・・まるで魔法にかけられたかのような静寂。

笑い声は最初は高らかに、そして次第に低くなり、さらに長く長く続いていた。

誰かが天井を見上げたけれど、そこには何もいなかった。

記者達の沈黙に、皇太子は静かに笑みを浮かべた。

誰かがやっと・・・質問する。その声は震えていた。

「殿下,大変,ちょっと失礼な質問になってしまうかもしれませんが,

先ほどお答えになった時にですね,妃殿下のキャリアや人格を否定するような動きがあるとおっしゃいましたが,

差し支えない範囲でどのようなことを念頭に置かれたお話なのか質問させていただきたいのですが」

皇太子は少し考えた風に答える。

「そうですね,細かいことはちょっと控えたいと思うんですけれど,

外国訪問もできなかったということなども含めてですね,

そのことで雅子もそうですけれど,私もとても悩んだということ,そのことを一言お伝えしようと思います」

意味がわからなかった。

「キャリアや人格を否定する動き」と「外国訪問も出来なかった」の間には何の繋がりも見いだせなかったから。

それでもマサコが外国に行きたがっていたという事はよくわかった。

 

東宮大夫は真っ青になっている。

「殿下は何だってあんなことを・・・・誰か、今日の原稿を見たか」

誰も何も答えなかった。

もう止められない。公に発表してしまった以上、発言を取り下げる事は出来ない。

目の前に大きな闇が広がるのが見えた。

これは・・・終わりの始まりではないか。

深い絶望があたりを覆っていった。


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