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韓国史劇風小説「天皇の母」183(華燭のフィクション2)

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女官部屋がざわついているのに気付いた女官長は

そっとドアの外から様子を伺った。

いよいよ明日はノリノミヤの結婚式という日。

東宮家でも結婚の儀、その後の茶会の儀への参加

準備が進んでいた。

とはいえ、昨日の皇居での食事会にも参加しなかった皇太子夫妻は

目出度い日の前日であっても「普通」を貫き、それぞれの部屋に

引きこもっている。

マサコが食事会に出なかった理由は表向き「アイコの具合が悪い」という事だった。

確かにアイコは風邪気味ではあったが、別段気にする病状ではなかったし

ゆえに侍医も呼んでいない。

にも関わらず、アイコを盾にしての不参加は、裏から見れば

東宮夫妻が宮の結婚をあまり喜んでいないという事になる。

皇太子からすると、前年12月の突然の婚約発表はまさに寝耳に水だった。

まさか両親である天皇と皇后まで、噂一つ自分に持ってこなかった・・・という

事がショックだった。

「正式にどうなるかわからなかったの」と皇后は言い訳をしたようだが

この件に関しての英雄はアキシノノミヤだった。

よりによって弟の学友と妹が結ばれようとは。

これではやり方が「藤原氏」ではないのか・・・・などと余計な気を回す。

もっともそう吹き込んだのヒサシに他ならなかったのだが。

「弟君がご自分の学友を妹君にめあわせるという事は、皇太子殿下への

挑戦ではありませんかな。うちのマサコは学習院を出ておりませんので

学習院閥など作りようがありませんが。

アキシノノミヤは妃も学習院。後ろ盾は常盤会でしたな。学友を取り込むとは

頭のいい宮様で」

例の人格否定発言以来、東宮からは学習院関係の学友達はどんどん去っていた。

頼りになるのはOBオーケストラのみ・・・という状況下において、

アキシノノミヤ家にはいまだ、そんな連中が出入りしているのかと思うと腹が立つ。

「アキシノノミヤ様は皇位継承権第2位の方ですし、後々殿下が即位されれば

学習院閥を広げて権力を握るでしょう。後々、宮様のお子達が交流・・・という事も

ありますし。うちのアイコ様が不憫ですなあ。あちらの内親王方の方が

いい目を見るという事も考えられるし」

皇太子は心が重く沈んで行くのを感じた。

アキシノノミヤ家の2内親王の方が、アイコよりずっと利発である事は知っている。

アイコでは将来的に太刀打ちできないだろう。

「大丈夫です。所詮、あちらは地方公務員。それほどの学歴があるわけじゃなし。

華族に連なるとはいっても傍系であるし。私達がおまもりします」

ヒサシの声は少し甘くなった。

「皇后陛下をお許しになって下さい。陛下が殿下に何もおっしゃらなかったのは

多分、恥ずかしかったからですよ。親なら自分の娘には最高の縁をつけたいと

思うもの。陛下とて同じ。私共などは恵まれましたからな。最高の婿に嫁がせる

事が出来て幸せでした。庶民の私ですらそうなんですから陛下なら。

きっとイギリス王室とかベルギー王室などに縁付かせようとされていたのかも

しれませんよ。それが果たせなかったので気落ちしていらっしゃるのです」

そうかもしれないと皇太子は思った。

そうなると「恨み」の気持ちは母というより、この縁組をまとめたアキシノノミヤへ

行くもので、弟とは顔を合わせたくなかった。

ゆえに夕食会欠席は「抗議の欠席」でもあったのだ。

 

そんな雰囲気は東宮内にも広がっている。

常識派がいる一方で「アキシノノミヤ様って政治家だったのね」と

くちさがない女官達の噂にもなる。

「そもそもキコ様を選んだ時点でそうなのよ。野心家のお妃よ。いつも張り付いたように

にこにこ笑ってわざとらしい。大学に入った時から宮様狙いだったって

話しよ。好きで皇室に入ったんだもの、適応できて当たり前よね」

「そうそう、殿下のお子をおろした事があるんですってよ」

「それ、私も聞いた事ある」

と、いつの間にか信憑性のない噂話が部屋中に広がり、喧々囂々となる。

それもこれも東宮家が暇だったからなのだが。

 

しかし、今回は少し様子が違うようだった。

女官長は部屋に入り、大きな声をだした。

「一体、何を話しているの。御役目はどうなっているの?」

「申し訳ございません。女官長」

女官の一人がすぐに謝って散会しようとした。

「ちょっと待って。何を話していたの?」

女官長が引き止めると、女官達は待ってましたとばかり集まってくる。

「なんていうか・・・明日の妃殿下のドレス、本当にこれでいいのかなって」

明日のドレス。

それは結婚の儀に着る「お長服」と茶会で着る赤いドレスの事だった。

「何か変?」

「私達庶民は、結婚式とか披露宴に花嫁と同じ白は着ません。

っていうか、着ちゃいけないんです。でも皇室はいいのかなと。

皇室って私達庶民とは違ったしきたりがあるから」

「そうそう、庶民は目出度い時は紅白の幕だけど、皇室は白黒だったり」

「だから間違いではないのよ。きっと」

女官達のいう事はもっともな話しだった。

マサコが着る予定の「お長服」はゴージャスなアイボリー色だったのである。

無論、ノリノミヤの衣装も多分純白だろう。

つまり花嫁と皇太子妃が同じような衣装で式に出ると言う事なのだ。

「他の妃殿下方はどうなんですか?」

こういう場合、一応、皇后以下、各宮妃から衣装の色が教えられる。

皇后はグレー、アキシノノミヤ妃は薄いブルーの予定だった。

「ほら、やっぱり白じゃないわよね」と誰かが言った。

「花嫁と同じ色っておかしくないですか?これは白といっても

金に近い白でとても豪華なものです。下手したら花嫁さんよりゴージャスに

なってしまうのでは」

「いいんじゃないの。皇太子妃殿下の方が身分が上なんだから」

「そうよそうよ。マサコ様がそれでいいっておっしゃるんだから」

女官長は軽く頭痛を覚えた。

いいわけないのだ。女官長として一応、白はやめるべきだと進言したのだが

聞き入れなかったのはマサコ。

最近のマサコはどういうわけか白にこだわりをみせ、買う服は

みなその色目だった。

夏でも冬でも白。季節感もへったくれもない。

白が一番自分に似合うと思い込んでいるかのようだった。

「赤い方はどう?茶会は着物だって聞いたけど、どなたか洋装の予定はあるかしら?」

「さあ・・・私は着物としか」

「きっと全員着物よ。どうしてマサコ様は着物じゃないのですか?あとであれこれ

言われませんか?」

これもまたマサコ自身の希望だった。

結婚の儀の後の披露茶会では全員が着物で出席する様にとのお達しで

それは随分前から決められていた。

女官長もすぐにマサコの着物を誂えようとしたのだが

「私、着物を見ると気持ち悪くなるのよ」と言い出したのだ。

「き・・・気持ち悪くなる?」

「そう。あんなに窮屈でみっともない服ったらないわ。合理的じゃないもの。

なのに色がどうの、扇子の位置がどうのってうるさい事ばかり。

どうして日本の民族衣装はああも地味で動きにくいのかしらね。

チマチョゴリの方がよっぽど動きやすいわよね」

いくらなんでもそれは皇族のセリフではないのでは・・・・と女官長は

喉まででかかった言葉を飲み込む。

「着物は負担だって言ってもらうわ。オーノ先生に。医者の判断なら

誰も文句言えないもの」

という至極簡単な理由でドレスになったのだが。

まさか「赤」を選ぶとは女官長も思わなかった。

出来上がったドレスを見て「これではどっちが主役かわからない」と

思ったのは女官長だけではないだろう。

なんせベルベッド地の真紅のドレスだったのだから。

用意された靴はバックストラップで、おおよそ正式な場には

ふさわしくないもののように見える。

しかし、「普通のパンプスは負担」とマサコが言い出し、歩きやすいものに

代わってしまったのだ。

「皇室の常識は庶民の非常識かも」

と誰かがおどけて言ったのでみんな笑った。

「もういいから。お仕事が終わったのなら交代して。明日は忙しいのよ」

女官長は手を叩いてみなを散らばらせた。

みながいなくなった部屋に残り、衣装を見ながら女官長はため息をついた。

さっき、誰かが言った「皇室の常識は庶民の非常識」という言葉が

耳について離れなかった。

誰もがそういう目で見る事になったら皇室はどうなってしまうのだろうか。

これからマサコがやろうとしている事は、もしかしたら皇室の権威を

著しく貶める事になるのではないか。

そしてその責任は誰がとるのだろう。

女官長は帰宅するのも忘れてずっと衣装を見つめていた。

ゴージャスなアイボリーのドレスを。

 

 


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