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韓国史劇風小説「天皇の母」186(時限爆弾のフィクション1)

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マサコの怒りは静まらなかった。

怒り・・・というより「悲しみ」だった。

オーノが言うように、悪いのは自分じゃない。

みんなが私を嫌ってる。だから意地悪をするのだ。

生まれた時からずっとそうだったような気がする。

小学校でも中学校でも大学に入ってさえ・・・・どうして誰もかれも

私に意地悪をするんだろう。

どうして嫌がらせをするんだろう。

「それはまあちゃんが綺麗で頭がいいからなのよ」と母は言った。

「みんな嫉妬しているの。辛いわよね。あなたみたいに何もかも揃っていると

やっかまれて」

そうなのかも。

妹達もおおむねそんな状況だったらしい。とはいっても、あちらは2人だから

互いに助け合って来たのだろうが。

日本最高の家でナンバー2の自分が、よりによって使用人に嫌がらせされるとは。

誰がそんな事を許すのか。

皇太子妃ってそんなに権力がないの?

考えれば考える程わけがわからない。とにかくみんな信用できない。

マサコは部屋にひきこもった。

こうなるともう誰も手を出す事は出来ない。

ただただ天の岩戸が開く時を待つしか。

皇太子はどうすることも出来ず、彼もまた自分の部屋にひきこもり

気持ちを落ち着ける為にヴィオラを弾いてみたり、昼間からウイスキーを

飲んでみたりしたが、どうにもならない。

結婚式から2日後、クロダサヤコが夫と共に挨拶に来た。

目の前に立つ妹はまるで別人のように生き生きとしていた。

だけど、平民になってしまったのだ。

「おめでとう」と皇太子は乾いた声で言った。

「ありがとうございます」ヨシキはサヤコを守るように一歩前に出る。

「これからは二人で力を合わせ、よい夫婦になりたいと思います」

「そうだね。サーヤは幸せなの?」

二日しかたっていないのにこの質問。二人は顔を見合わせた。

「ええ・・・勿論」とサヤコは平静を装って言った。

「あの・・・お姉さまとトシノミヤは」

「マサコもアイコも風邪をひいてね。移したらいけないから遠慮させてもらうよ」

「まあ。大変」

 見透かすようなサヤコの視線が、元は正直者の皇太子の心をざわつかせた。

「お兄様もお元気で」

帰って行く二人を見送り、皇太子はため息をついた。

自分だって新婚の頃はあんな風に穏やかな顔をする時があったのに。

 

結果的に頼るのは義父しかいない。

皇太子は恥も外聞もなくオランダに電話をかける。

時差なんか考えている暇はない。

マサコの気鬱をどうしたらいいのか相談したい。

「オーノ医師がいるんじゃないかね」

電話の向こうのヒサシは時差もあってイライラしていた。

こんな時間に電話をかけてくるとは・・・・といういら立ちのよう。

皇太子は「すみません」と言いながら

「でも、先生でもどうしようもないんです」

「まず、そうだな。事の発端の女官を辞めさせたらどうでしょうね」

事の発端の女官なんて存在しない。

「誰でもいいんですよ。女儒なら大事にならないだろうし。退職金を弾んで。

それから今月中に有識者会議が「長子優先、女帝容認」の決議書を

提出します。間違いなく国会を通過しますから。だから機嫌を直せと

言ってやってください」

「本当に皇室典範が変るのですか」

「ああ。確かだ。総理も腹が決まったよ。今やみな殿下の味方です。

どうか安心して下さい。私は孫の為ならどんな事だってするんですよ」

「はあ・・」

皇太子はまだよくわかっていなかった。「どんな事でも」というのはどんな事を

やったらそういう結果になるのだろうか。

自分もまたそんな権力を持てるのだろうか。

「それから来年の人事で、こっちの息がかかった人物を東宮大夫に推しますから」

「え?」

「マサコのわがままは本当に困った事です。父としてお詫び申し上げますよ。

お詫びの印といってはなんですが、マサコのお守りをする人間をやります。

そしたら殿下も楽になるでしょう」

「はい・・・」

「私もそうですが、男というものはいつも妻や娘に翻弄されるものです。

まあ、それが男の甲斐性というものでしょうかね」

笑ったヒサシの声が急に厳しくなる。

「殿下。しっかりして下さいよ。何と言っても殿下は将来の天皇陛下なんですから。

その日もすぐに来るでしょう。アイコが皇太子になりさえすれば全ての憂いは消えます。

そうしたらマサコだって元気になります。それまでの我慢です。ああそれから

極め付けの手を使いますから、殿下、ご安心を」

電話を切った皇太子は暫くぼやーーとしていた。

ヒサシと会話をするといつも催眠術にかけられたような気になる。あまりにも確信的で

決めつけるその物言いが妙な安心感を与えるのだった。

「極め付けの手」とは一体何だろう。

何であれ、ヒサシに任せておけば大丈夫なのだ。

そして有識者会議が書類を提出し、女性皇太子と女性天皇が決まれば・・・・

決まれば・・・・

落ち込んでいた皇太子の顔に生気が戻り、もう一度部屋に戻ってヴィオラを奏でる。

「何かよい事が?」

内舎人がウイスキーを持ってきて、さっきと違って妙に機嫌のいい皇太子を

いぶかしんだ。

皇太子はにこにこと笑って

「何でもないよ。マサコの調子はどう?」

「まだお部屋に・・・」

といいかけた所に「失礼します」と女官が入ってきた。

「どうしたの」

「妃殿下のご伝言です」

女官は一枚の紙を差し出した。

それには「明日のこどもの城、送りと迎えお願いします」と書いてあった。

アイコは最近、リトミックと治療を兼てそんな子供が集まる施設に通っていたのだった。

表向きは「プレ幼稚園」という名目だったのだが。

通常は女官が付き添いをするものだが、マサコは「信用できない」と言って

自ら送りや迎えをやっていた。

それが次第に「迎え」だけになり、とうとう両方を皇太子に頼むという事にしたのか。

「それはこちらで」

内舎人が言うと、皇太子は紙をくしゃっとしてから首を振った。

「いや、僕が送り迎えをするよ」

回りが信用できないというよりは、心底娘が可愛かったから。

不憫な娘に対して、皇太子の自分が出来る事といったら送り迎えだけだ。

義父のように道筋を整えてやることも出来ない。

アイコの将来を考えるとひどく落ち込んでくるのだが、しかし・・・女帝になれれば。

「マサコの様子はどう?」

「あの・・申し訳ありません。その紙はドアの下から出てきて・・お目にかかっておりません」

「そうか」

「あ、でも、食欲がお出になったようで、今、食事を用意させております」

「じゃあ食堂にいるんだね」

「いえ、お部屋に」

出て来ないのか。せめて娘と一緒に食事くらいすればいいのに。

「先ほど、長いお時間。電話をされていたようです」

「電話の相手は?」

「さあ・・・」

どうせオーノだろう。あの結婚式の夜も夜中まであの医師は部屋にいた。

その後も電話で随分長いこと話し込んでいた。

夫よりも医者の方が頼りになるのか・・・・・晴れかけた心がまた沈んでいく。

皇太子はごまかすようにぐいっとウイスキーを飲み干した。

 

女儒をくびにする必要はなかった。

女官数名が年度末を待たずに退職していった。

それで一応、マサコの気もおさまった。

11月20日。ベルリンフィルのコンサートに皇太子とマサコは

二人で出席予定だったのが、わずか10分前にマサコは行かないと

言って部屋に引きこもった。

東宮大夫や侍従は慌てて説得にあたったが、公演時間が迫っているので

結果的には皇太子が単独で出席する事になった。

皇宮警察にその知らせが入ったのは、皇太子が出発したあとで

現場は混乱・・・というより情報が交錯して右往左往していた。

東宮大夫は記者会見で「お加減が急に悪くなったので」と言い訳したが

マスコミは「具体的にどういう状態なのか」と追及する。

「侍医の判断」で押し切った東宮大夫の顔には疲労の色が濃くうつっていた。

そして11月25日。

ついに有識者会議が「長子優先、女帝容認」の報告書を提出した。

歴史上、例をみない「女系天皇」が承認される寸前だった。

 

 

 

 


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