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韓国史劇風小説「天皇の母」193(その後のフィクション)

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年末の都会はキラキラしている。

クリスマスの余韻があちらこちらに残っているのだ。

きらびやかな光の輪は、冷たい空気に触れてなお一層明るくなる。

そして年末の慌ただしさは、心を浮き立たせる。

 

「フレイカ」では毎年恒例の食事会が行われていた。

広い一部屋を貸し切って、まるで密談でもするように人を排除している。

テーブルの上には、一般人が一生かかっても食べる事のできないような

高級で珍しい料理が並び、大人だけでなく、子供たちも次々と食い散らかして

いく。

子供にとってそこにある食べ物が高級かどうかは問題ではない。

おいしいと思えばがんがん食べるし、まずければ食べない。

しかし、小さい頃から贅沢になれた舌にとってフレイカの料理は

どれもこれもおいしいものらしい。

アイコも夢中になって食べている。

なかなか箸を使うことが出来ないので、フォークやスプーンが置かれているが

それすら面倒になったのか、今や手づかみである。

 あるいは隣に座ったユミコがせっせと食べさせていた。

皇太子は紹興酒で顔が真っ赤になったが、いい気分のようで

にこにこしていた。

ヒサシはそんな皇太子に小難しい政治論をぶっており、皇太子は

陶酔のまなざしを向ける。それがまた非常に気分のいいものだった。

 

「さあ、おばあちゃまからプレゼントよ」

ユミコがバカでかい紙袋をアイコの前に置いた。

「なあに?これ」

マサコがいぶかしげにいうと、ユミコは得意げに袋の中から

箱を取り出す。

そこには真っ赤な着物と、帯など一そろいがセットになって入っている。

「七五三の着物?」

「違うわよ。わざわざアイコの為に注文して取り寄せたのよ」

ユミコはちょっと怒って言った。

「だってあなた、アイコちゃんがカコちゃんの着物を見てぐずったんでしょう?

可哀そうに。不憫だわ。どんなに着たかったか。

女の子だもの、綺麗な恰好が好きよね。

ましてアイコちゃんは将来の天皇陛下になるんだものね。

レイちゃんの処も早く女の子ができるといいわね。

男の子より女の子の方が親としては楽しいわよ」

「あら、イケダ家の跡取りを産んだ私にそんな事いうわけ?」

レイコの言葉は半分はマサコに対する皮肉である。

マサコはふんと顔をそらしてワインを一口飲んだ。

「高かったんじゃないの?」

着物のことをよく知らないマサコは、それでも生地がかなり高級そうな

着物を見て言った。

「ええ。それなりよ。当たり前でしょ。アイコちゃんが着るんだものね。

呉服屋にはつてがあるし、私の顔を見たら随分おまけしてくれたわよ。

私からアイコちゃんに渡るって気が付いたのね」

「ありがとう。お母さま。お正月はこれで参内させるわ」

「皇后陛下も冷たいわよね。アイコちゃんに着物の一枚もくれた事あった?

お誕生の時の白羽二重と張り子の犬でしたっけ?

それだけよ。おもちゃを買ってくれるでもないし」

「アキシノノミヤ家の子が着てた着物は皇后陛下が贈ったものよ。

皇室にはそういうしきたりがあるんだって」

「あら、じゃあなんで」

「だって私、着物が嫌いだし。だから御用達の呉服屋から催促が来ても

無視してたの」

「あらあら。皇太子殿下。そういう時は代わりに注文してやってください。

マサコは皇室に入ってまだ10年です。わからない事も多々あるんです。

どうか助けてやってくださいな」

「はい。お義母さん。申し訳ありませんでした」

皇太子は相変わらずにこにこといい、頭を下げた。

ユミコの言葉が理に合わないなどとは考えもしないのだった。

 

「それにしても天皇誕生日の時はびっくりしたわ」

レイコが料理をつまみながら笑い出した。

「突然、お姉さまがアイコを連れてやってくるんだもん。私達

出かける所だったのよ」

「その話を聞いた時はびっくりしたわ」

ユミコも頷いた。

「まさか、まーちゃんが東宮御所に戻らずにレイちゃんの家に来るなんてね」

「だって、アイコが煩かったんだもの。それに東宮御所は人が出払ってるし。

私、もう戻る気なかったからレイコの所に行こうと思って」

「すぐに戻るって言ったんでしょう?」

「言ってないわよ。そんな事。ねえ?」

マサコは皇太子に顔を向けた。

「え?」

ふられた皇太子はちょっと考えて

「言ってないけど、あの場はやっぱりすぐに帰って来るとみんな

思っていたよ。アイコには女官がついていればいいんだし。

なかなか戻って来ないんで、僕もどうしたらいいかわからなくなったよ」

「適当に話をして、マサコは気分が悪いので今日はもう来ませんって

言えばよかったじゃない。何を馬鹿みたいにずっと食堂で

一緒になって待ってたわけ?」

「だってそれは・・・・」

「マサコ」

横から口を出したのはヒサシだった。

「あの日は天皇誕生日の祝いの食事会で、いわば公務と同じだ。

アイコを口実にしてさっさと自分だけ帰るとは誰も思わんさ。

あまり殿下を困らせるものではない」

ぴしゃりと言われてマサコはちょっと黙った。

「大変だったのよーーワゴン車1台で来たものと思ってたら、しっかり

皇宮警察もついてきてたし。近所にバレたら困るからあっち行けって

お姉さま、随分怒ってたでしょ」

「そうなのよ。なのにちっとも消えてくれないの。おまけに千代田から

私を探しまくってるとかいう連絡があったらしくてね。

若い護衛官つかって、さかんにマンションのブザーを押すから

頭きちゃった」

「それは携帯を切ってたお姉さまが悪い」

酔った勢いでレイコがちょっと大声になった。

「あんまりしつこいからドアあけて、そいつの頭叩いてやったわ。

泣きそうな顔して「お願いですから戻って戴けませんか」なんて

いうのよ。生意気にも。私を誰だと思っているのかしらね」

「マサコ、あの時、みんな必死にマサコを探してたんだよ。

東宮御所の部屋から出てこないとかいう言い訳に、陛下も不審な

顔をされていたし、それぞれマサコを助けようと思って」

「本当に私のことを考えるならほっておいてくれたらいいじゃない!」

マサコは怒鳴った。

場がしんとなる。

また始まった・・・・・家族はみんなうんざりした目を向けた。

子供たちもびくついてレイコにくっつく。

アイコだけが慣れているのか、知らん顔で食べている。

「一々やる事が恩着せがましいっていうか、うざいというか。

せっかくレイコの所で食事してテレビ見てってやろうと思ってたのに

散々せっつかれて、やっと東宮御所に戻ったら早く皇居へ行けって

言うじゃない。

そして戻ったら・・・・アキシノノミヤ妃と妹が廊下に立って待ってたのよ。

信じられる?あの恩着せがましさ」

「ひどいわね。皇太子妃に罪悪感を植え付けるって寸法よ」

ご機嫌をとるようにレイコが大真面目に言った。

こういう時は持ち上げるしかないのだ。

「それも皇后が言い出したことなんですって。頭来たから「どうも」とだけ

言ってやったわ。そしたら廊下であの二人、こそこそと。ああ、思い出す

だけでも不愉快。皇室って本当にへんな場所だわ」

「あなた、マスコミの方は大丈夫なの?」

ユミコが心配そうに聞いた。

「ああ、大丈夫。充分に鼻薬をかがせたし、なんせお抱えライターが

うちにはいるからな。そんな言い訳を書こうが、それが真実となるのだ」

ヒサシはゆっくりと紹興酒を飲み、頷いた。

「両陛下に叱られなかった?」

レイコが聞いた。

「ええ。叱られなかったわよ。怒るなんて出来ないわよ。私、病気なんだもの」

「そう!じゃあ、これからはお姉さまの天下ね。好きな事できるんじゃない?」

「そうね。これからは我慢しないわ。ヨーロッパの王様みたいに好きな事するから」

マサコは張り切ってそう言った。

張り切っている妻にほっと一息の皇太子は、背中に憂鬱感が残るのを

必死にごまかしていた。

「わしも90までは司法裁判所にいるつもりだ。互いに健康に気を付けて

長生きしないといけないな。可愛い孫達の為に」

そしてみんなで乾杯の盃を上げ、大笑いした。

 


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