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韓国史劇風小説「天皇の母」210(涙のフィクション)

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その情報がもたらされたのは7月入ってすぐの事だった。

「どこかわからないが、宮妃の暗殺を企てている」という話。

すぐには信じられなかったが、さすがに皇宮警察の長が

いうのでは信じざるを得なかった。

「一体どうして・・・・」

宮妃は蒼白になり、宮も言葉を失っている。

「巷では妃殿下が出産されるお子様は男の子であると流布されております」

「何でそんな事を」

「おそらくは妃殿下のご出産に対する反対派のしわざであると思われますが

週刊誌などでも堂々と「宮家のお子は男子」と書かれたりしています。

また、東宮家については

「実は東宮夫妻に生まれるのは男子でもよかった筈だ。今の世の中

男女産み分けは不可能ではない。にも拘わらず、なぜアイコ内親王が

お生まれになったか。それは東宮家が男女産み分けという人工的な

行いをせず、あくまで自然に任せたからだ。だが、アキシノノミヤ家は

男女産み分けに挑戦し、男子を産もうとしている。これは自然の摂理に

反する事であり、正直、そこまでするものなのか?とあきれてしまう。

皇室典範の規定によれば皇位を継げるのは男子のみであるが

原題ではそのような考え方は古い。典範を改正し、東宮の直系で

繋ぐのがよろしいのでは・・・・

というような記事が出回っております。

このような記事に対して、どなたも抗議をなさいません。だから猶更

書かれるばかりで。私どももマスコミに対処する法は心得ておりませんので。

せめて両陛下から何等かの思し召しがあれば別なのですが」

宮邸は重苦しい雰囲気になった。

宮は黙り込むし、キコも言葉を控える。

「私の部下に色々探らせておりますが、いわば、皇宮警察内部にも

敵と味方がおりまして、互いにスパイしあっているような状態で」

「それは・・・・いや、そんな事が実際にあるなんて私にはどうしても

信じられないんだけれどね」

宮は首を振った。

どんなに賢くても、所詮は皇族である。そもそもが人を疑わず誠実に

生きる事だけを望まれて生きていた。

だから長い間、兄の心の中に住む「闇」に気づかなかった程なのだ。

今だって本当は信じたくない。

兄が・・・兄夫婦が自分達を疎んじているなど。

あんなに仲がよかった兄弟ではないか。どうしてこんな事に。

「宮様方には今まで以上に身辺に気を付けて頂きたいと思います。

そして、無事にご出産され、そのお子が男子であったら」

「男子であったら」

皇宮警察長は言葉を切った。一瞬、何というべきか。何といったらいいのか。

それがわからないというような顔をした。

「東宮家ではアイコ様の真実を公表されるご意志はないようです。

最近では影武者を使って騙しにかかっているようです。

その事を両陛下は黙認されております。

陛下としては皇室典範の規定と日本国憲法の規定に矛盾が

ある事について、東宮家に対し整合性がある説明がおできにならないので

沈黙を守っているのだと思われます。

これで男子がお生まれになれば、本来は皇室にとってこんなに

めでたい事はないと思うのですが、どうもそういう流れにはいかないようで」

「男子でも女子でも私にとっては可愛い子供ですし、宮家のお子ですわ」

キコは語気を強めて言った。

「どうして子供が生まれる事を素直に喜んでは下さらないの?

子供はどの家庭にとっても大事なものではありませんか?

それは宮家にとっても東宮家でも同じでしょう?」

長官は黙ってしまった。キコの悲痛な思いは嫌というほどわかっているからだ。

「まして暗殺だなんて・・・・私はどうなってもいい。だけどこの子は

この子だけは守らなくては」

「つまり男子が生まれたらどうなると?」

長官は大きく息を吸い込んだ。

「命の危険性があります。宮様方にも生まれたお子にも」

その言葉の強烈な響きに宮もキコもショックを受けて顔色を変えた。

「あちらはそこまで考えているのか」

「あちら」がだれを指すのかはもう明白だった。

「あちらのお子がお子なので」

「そこまでして・・・・・変わられた・・・あまりにも変わられた」

宮のまつげが震えている。今にも泣きそうな顔だった。

「それで・・・どうしろと」

「出来るだけ早く入院をなさって下さい。病室には皇宮警察の者を

回します。それから申し訳ございません。ご出産の際には婦人警官を

立ち会わせて頂きます。とにかくお二方のお命を守る事が先決なので」

互いに覚悟を決めなくてはならない時期が来たようだった。

 

表面的には何も変わっていない。

マコのホームステイ準備は着々と進んでいる。

マコが行くのはオーストリア。しかもキコの友人宅である。

側衛はつくものの、ほぼ一人の状態。

それでも日本にいるよりは安心なくらいだった。

皮肉な事だと誰もが思った。

宮夫妻は予定通り、キコの弟結婚披露宴に出席し、

8月に入院を決めた。

それが東宮家がオランダに出発する前日だったので、またも

週刊誌に書かれそうだったのだが。

 

宮夫妻、マコとカコが出入りのカメラマンを呼んだのは

7月の中旬。

宮邸の庭は、夏の薔薇とハーブで輝いている。

ゆれるラベンダーやアメジストセージ、レモンタイムの香りが鼻をくすぐる。

宮邸の広間は夏仕様になっており、レースのテーブルかけが

目に飛び込んでくる。

そんな庭に面し広間に家族全員が集まって顔を寄せ合う。

「よろしいですか?もうちょっと右に寄って頂けますか?」

カメラマンの注文にマコとカコは嬉しそうに顔を寄せたり離したり。

「あ、目をつぶってしまったわ」

とマコが言えばカコも「やだ。私も」と燦めきあう。

そんな娘たちの微笑ましい会話にキコも思わず自然な微笑みを浮かべていた。

「姫宮様方、いい笑顔でお願いします。お母上に寄り添って」

「姫宮」と呼ばれた娘たちは、満面の笑みでキコの方に手を乗せる。

「殿下、もうちょっと笑顔で」

「お父様ったら笑わなくちゃダメなのよ」とカコが怒ると

「いざというと笑えないね」と宮がすまなそうな顔をする。

そこでまた家族が笑い合う。

そんな姿をカメラマンはこっそり撮影していた。

 

そして・・・・4人がやっとポートレートに収まる表情をした時

フラシュがたかれた。

キコの目はうっすらと涙で濡れていたが、一層幸せそうに

輝き、彼女の美しさを引き立てていた。

(これが最後の家族写真になるかもしれない)

子供達に知られてはならぬ。不安を与えてはならぬ。

はしゃぐ子供達を前に、宮とキコはそっと目くばせしあった。

(何があっても子供達を守る。必ず)

宮家の戦いの始まりだった。

 

 


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