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韓国史劇風小説「天皇の母」55 (ふぃっくしょん)

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新潟はそろそろ秋の気配が濃厚になっていた。

東京はこのところ、いつまでたっても夏が終わらず、特にビルに囲まれた

丸の内界隈はフェーン現象のせいで、なお一層暑い。

それでも暦上は秋なのだからと、人々はスーツの色を暗くしてみたり、早い者に

至ってはセーターなどを着てみたりする。

だから山から吹いてくる風が心地いい田舎は、東京から集まった人達にとっては

ほっとする一瞬なのだった。

ムラカミ市の自宅は、空き家になっている。

オワダ家の両親は共に老人ホームでの余生をよぎなくされていた。

子供達が何人いても結局面倒を見る人間は誰もおらず、兄弟が金を出し合って

高級有料老人ホームに入れたのだった。

外務省に務めるヒサシ以外はみな、金にならない学者ばかり。

(全く・・・不甲斐ないというか。そういう俺だって結果的には施設に親を送り込んだ

張本人なわけだけどな。俺は嫌だなあ。もし人生最後の日が訪れるとしたら

世界で一番高いレストランで最高級のステーキを食べ、ワインを飲んでから

死にたい。大理石の御殿の中で。施設で朽ち果てるなんざまっぴらだ)

 

法事に訪れた人々は僧侶の読経を聞きながら神妙な顔をしている。

考えてみると新潟にオワダの墓はない。

兄も弟も東京に墓を作った。自分は・・・・まだ、そんなものは必要ないと思っていたが。

「こっちに墓を買うのは高いのかな」

ちらっと、隣に座る親戚の一人に言ってみる。

彼は声を潜めて「東京さ比べたら高いって事はないだろうけど、でも色々しきたりが

あるから。お寺さんに相談してみたら」

そう・・檀家になれば毎年檀家料を払って、法事を定期的に行い、墓参りのついでに

寺に布施をして・・・と、面倒な事が多々ある。

しかし。あくまでもオワダの本拠地は新潟のムラカミ市という事になれば、墓の一つ

もなければ格好がつかないだろう。

それも兄達のよりも立派で威厳がある墓を。

 

「こりゃ、珍しいこと。ヒサシ君が来るとは。仕事、忙しくねえのかい?

お父さん達は元気?奥さんは?お嬢さん、何人いたっけか」

法事の後の食事会で、古くからの親族に矢継ぎ早に尋ねられて、ヒサシは言葉を

濁した。

ユミコはまだ入院している。時々ヒステリーを起こす以外は別にどうってことは

ないのだが。

レイコとセツコはそれぞれスイスとパリに留学している。この双子が双子でさえ

なければ事はもっとスムーズに運んだかもしれない。

「マサコちゃんは?」

「ああ・・今、ロンドンの大学に留学していますよ」

「前に雑誌に載ってたって。何でも外務省に入ったって?優秀なお父さんの子は

やっぱり優秀なんだなあ」

「マサコちゃん、皇太子妃候補になったって?すごいねえ。美人で頭がいいと

いいねえ。そしたらあたしたちも親戚だわ」

「いや、それは単なる噂で」

「そうよねーー皇室に入るのには3代前までさかのぼって調べられるっていうし

難しいってば」

「キコさんみたいなおっとりしたお嬢さんの方が向いてるって」

その言葉にヒサシはカチンときた。それでも我慢して黙っている。

「でも、嫁さんはどうしたの?何で来ないの?」

「いや、ちょっと具合を悪くしておりまして」

「そら大変だ。まあ、あんたは次男だからそれでもいいけど、長男の嫁ったら

ほら病気している暇もないから」

「あんた、何いってるの。ヒサシ君の嫁さんは箱入り一人娘だ。婿養子とおんなじ。

気を遣ってるんだーーヒサシ君。今時流行りの逆玉?いやいや、それも大変だな」

ああ・・・くだらない。

いつもならこんな法事には顔を出さないものを。

 

「なのに、なぜ来た?」

目の前で酒をついでくれたのは兄だった。

「いや、爺さんの100回忌だから来ただけ」

「お前にとって爺さんなんてどうでもいい事じゃないのか?それとも何か

利用できることでもあるのか?」

「失礼だな。私だってオワダの人間だ。法事に来る権利くらいあるだろう」

ついかっとなってしまい、「兄さん・・・」と妹にたしなめられる。

「いつも来ない人が来るから珍しがられているだけよ」

「そうそう、兄さんは外国暮らしで忙しいし、子供達もみな優秀で、私達とは

身分が違うから」

「何が身分だよ。努力した結果がこうなっただけだ。ひがむ必要はあるまい」

「ひがんでなんかないわよ。でも、新潟より近い静岡のホームにだって滅多に顔を

出さないじゃない?寂しがってたわよ。お父さんもお母さんも」

まるでうるさい雀のように妹達はなんやかやと言い出した。

回りは興味深げに見ている。

ここまで憎まれ口をきかれても仕方ない理由がヒサシにはあった。

 

ユミコと結婚して以来、付き合うのはもっぱらエガシラ家の人間ばかり。

ユミコはマサコが生まれた時の母の言葉をまだ恨んでいるらしく、絶対に

オワダ家と近寄ろうとはしない。

それを見て来た娘達もまたオワダ家には近寄らない。自然に親戚とは疎遠になる。

甥や姪達に会うこともなければ祝い事にも招かれない。

親族からすると、数年に一度会うか会わないかの我が娘達が奇異に見えると

言われたことがあった。

「いつも姉妹で固まって他の人と話が出来ない」と。

季節の挨拶も、社交辞令も娘達には無縁だった。勿論ユミコにも。

他人とうまく関わりあう必要などなかったから。

頂点に立つのは常に自分達で自分達が基準だと思えば、たとえ周りと会話が

出来なくても落ち込む必要はないし、超然としていられる。

そう思ってやってきたのだ。

 

ヒサシにとって近いのは職場・政府の人脈であり、金であり、自分の部下だった。

「お前どんな人生を生きようと知った事ではないが、オワダの名前を利用する

ようなことはするなよ。俺達を巻き込むな」

「兄は憮然としていった。

「どういう事だよ」

「学者の一人としてはお前が唱えたハンディキャップ論には大いに反対だ。

そんな考えを弟が持っていた事自体ぞっとする。もう一つは機密費流用の話だ」

「は・・兄さんも新聞報道を信じているのか」

「信じるも何も事実だろう。お前ならやりかねないさ。小さい頃から計算高くて

ケチなお前なら。どんな時も自分の利益しか考えない。お前が国会に引き出されても

たとえ逮捕されても俺達とは関係ないから」

「へえ・・・全く寂しい話だな。身内が・・・それも兄弟が信じてくれないとは」

「何が兄弟だよ。お前達のような汚い政治まみれの人間と一緒にするな。

お前が東京に出て以来、滅多に顔を合わさないし、親戚付き合いもしないし

ずっと無関心だったのに、今になってここに姿を現したという事実が、俺は不思議だ。

いや、不信感を持っている」

「墓を買おうかと思っただけだ」

「墓?お前の信じる宗教に墓なんぞ必要だったか?白地に題目書いたたすきと

長ったらしい数珠さえあればいいんじゃないのか?」

「いい加減にしろ」

ヒサシは思わず兄の顔を殴りつけた。

殴られた兄は座ったまま倒れこんでしまう。一斉に回りが駆け寄ってきた。

「どうしたの?今日は法事で大切な日だっていうのに」

「いい歳してみっともない」

叔母が仲裁に入った。

「ヒサシ君。お兄ちゃんに何を言ったの?」

「悪いのは兄貴だろう。人を侮辱しやがって。たかが大学教授のくせに」

「お兄ちゃんに向かってそれはないでしょ。ヒサシ君、謝りなさい。こういう時は

若い方が先に謝るの。お兄ちゃんは今日の法事の為に散々尽くしてくれた

んだよ。日を決めたりお寺さんにお礼したり食事の世話まで。そりゃあもう。

長男だから当たり前かもしれないけど、今時家族総出でこういう法事をきっちり

やってくれるってなかなかないんだよ。だからあたしらだってこうやって久しぶりに

集まって楽しい時間を過ごしているんじゃないの。ねえ?」

「いいか、ヒサシ。無心論者のお前が今更ここに墓なんて、どんな企みが裏に

あるのかわからんが、たいがいにしとけよ。そうでないと今にオワダ家全体に

災いをもたらすようになる」

「どういう意味が・・・」

「お前んとこの長女。皇太子妃候補だと?いくら外交官の娘でも

由緒正しい家の娘しか皇太子妃になんかなれん。お前の娘にそんな資格が

あると思うのか?もし、こんな事が実現したら日本は終わりだ。お前の娘は

ミナマタ病を引き起こしたチッソ会長の血が流れているんだからな」

兄の言葉にヒサシは顔変え、ぶるぶると震え始めた。

「ミナマタ病がなんだ。それと私達に何の関係がある?マサコはあんた達の

子供と違って出来がいいんだよ。え?ハーバード出の子供なんか、あんたらの

中にいるか?外務省勤めして東大に入ってオックスフォードに留学した奴が

いるか?皇太子なんか手の平に載せてやる。三顧の礼で迎えさせて見せる」

その台詞に一同はただ黙るしかなかった。

 

 

 


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