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韓国史劇風小説「天皇の母」66 (フィクションです)

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「え?マサコさんと会えるの?」

思わず皇太子は腰を浮かした。

「ええ。ただし東宮御所はまずい。外務省の人間の家を借りましょう」

「そう。やっと再会出来るのか。でもマサコさんはそれでいいの?」

「お断りはなかったですから。あとは殿下次第です」

皇太子は目を輝かせて「僕だって」と言った。

ヤマシタ侍従長は(ここまで皇太子が乗り気なら、当のマサコさんも

お断りにはなるまい)と思った。

再会について天皇・皇后の了解をとったわけではない。

「でも、今、両陛下は中国訪問の準備で忙しいし。このゴタゴタの中で

全部運んでしまわなくては」

 

天皇の中国訪問。

それはパンドラの箱を開けるようなものだった。

中国は天皇を自国に呼ぶことで、共産党政権の成功と安定をアピールする

狙いがあった。もし、天皇から直接謝罪があればこれに越したことはない。

「日本鬼子」がついに中国に頭を下げる・・・・そして次は領土問題。

この件に関しては、国内でも賛成・反対の二つが議論を戦わせていたが、

マスコミ操作の為なのか「賛成派」の意見の方が大きいように感じた。

しかし、皇室内部から見ればこの訪問は大きな「問題」だった。

いわゆる「皇室外交」として中国へ行くのだが、相手国に失礼にならず

なおかつ日本の尊厳も守らなければならないという重大な使命が

あったからだ。

中国がどんな罠をしかけ「日本が謝罪した」といわせるタイミングを狙って

来るかわからない。おかしな事で因縁をつけられることもあるかもしれない。

それを考えると、天皇も皇后も眠れなくなる程悩んでしまった。

何度進講を受け、説明を受け、全ての仕事を全部頭の中に叩き込んでも

それでも心配な状態。

とても息子の結婚話どころではなかった。

 

その年の夏は暑かった。

そんな夏の真っ只中。

ヤナギヤの屋敷に最初に入ったのは皇太子だった。

私的な訪問であり、車も目立たないものを使った。

再会に東宮御所を使えない理由を考えもせず、ただひたすらスリル満点で

「秘密の恋」を演じるようなドキドキ感に喜びすら感じていた。

「いらっしゃいませ。皇太子殿下」

ヤナギヤはにこやかに出迎える。今日の為に新しい茶器を買ったし

紅茶もフォートナム&メイソンでイギリス製を強調。

調度も洋風にして、「いかにも外国好きなマサコさん」の好みに合わせた。

「頑張って下さい。殿下」

「ありがとう」

ヤナギヤやヤマシタの思惑が何か知らない皇太子は、ただただひたすら

二人に感謝していた。

 

そして・・・かなり遅れて1台の車がヤナギヤ邸に到着した。

ひらりと降りてきたのは28歳のマサコだった。

最初に会ったのはまだ22歳の頃だった・・・皇太子は待たされた事も

忘れて立ち上がった。

ああ・・全然変わらない。最初にあった頃の彼女だ。

大きな瞳が魅力的な快活ではっきりとものを言う女性。

「どうも」

マサコはにこやかに言った。

別に感慨はなかった。相変わらず背が小さい人だなあと思ったくらい。

職場で自慢してやろう。「皇太子殿下と話をした」と言ったらみんなの態度が

また変わるかもしれないし。

 

「じゃあ、私は奥におりますので」

再会から10分ほど雑談の後、ヤナギヤやヤマシタらは席を外した。

広いリビングには二人きりになってしまった。

以前もそうだが、今回も二人の間には共通の話題がない。

そもそも育ってきた環境が違うのだ。

しかし、そんな事皇太子にはどうでもよかったし、マサコにとっても問題では

なかった。お互い違う意味で同じ事を考えていたのだ。

あれこれ考えた皇太子が最初にひねり出した言葉は

「イギリス・・・イギリスはどうでした?」

だった。

「よかったですよ」

それに対しての切り返しがこれである。普通はそこで会話が途切れる筈だが

皇太子は負けなかった。

「僕もイギリスのマートン・カレッジにいたんですよ」

「ああ、知ってます」

「以前、話しましたか?」

「はい」

「オックスフォードの教授はみな優しくて親切でしょう?英語もわかりやすいし。

ああ、マサコさんは英語が堪能だったんですよね」

「はい。ロンドンにいた時はよくハロッズに買い物に行きました。やっぱり買い物は

ハロッズじゃないと。服はスローン・スクエアで買っていたんですけど、

アメリカの英語とイギリスの英語って違いますね。なかなか難しいっていうか」

「ハロッズ?僕も行った事ありますよ。といっても、買い物はあまり。

そうそうロンドンといえばパブでしょう?ノーネクタイで入り損ねたパブが

ありましてね」

「信じられない。本当ですか?皇太子なのに追い出されたんですか?

すごく笑える話ですね。パブではビールを飲むんですか?」

「大体ビールでした」

「私も。パブで飲むのってすごく楽しくないですか?」

「楽しくない?」

「あ、すいません。楽しいですよね?って意味です。時々有名人なんか

来たりして。ああ、殿下もそうですよね」

「ええまあ・・・」

「夏休みはベルギーとかスイスに行ってたんです。妹がスイスにいたので。

日本と違ってヨーロッパの夏は過ごし易いし、遊ぶところも多いし。

断然ヨーロッパですよね」

「そうですね」

正直、皇太子はマサコの言葉の半分も理解できていなかった。

何が断然ヨーロッパなんだろう。登山は好きだし、アルプスなどは上りたいと

思うけど。他にはスポーツだろうか?

多分、湿気がある分、日本の夏は過ごしにくいといいたいのだろう。

そんな風に理解した。

 

ただ皇太子は別の所で感動していた。

マサコが自分に対して全く気後れしていないという事に。

非常に「普通」に話すのだ。

学友だってこんなにフレンドリーに話す人はいいないだろう。

それでつい聞き役に回ってしまう。

何とか話題の共通点を見つけようと、学生時代の話をふったら

「デンフタって礼拝堂があるんですけど、そこのホスチアを盗み食いして。

どんな味か調べてみたかったんです。でも全然おいしくなかったわ。

同級生にねずみみたいな顔の子がいて「ねずかあさん」って呼んでいたんです。

高校の時、先生にあだなをつけるのが得意で。それから防犯ベルを

わざと鳴らしたりとか、いたずらばかりやってました。スポーツはソフトボール部で

野球が好きなんですよ。追っかけした事もありました」

「お・・おっかけ?」

「そうです。好きになった選手の練習場所に駆けつけるんです。で、一緒に

写真をとってもらったり」

よくしゃべり、よくお茶を飲む。そこにマサコがいるだけで熱気が伝わって

来る。やっぱり自分が選んだ人に間違いはないと思った。

マサコはいちいち皇太子が目を丸くして聞いてくれるのが嬉しくて

仕方ないようだった。笑うマサコは勝利の女神に見える。

 

一足先に帰ったマサコの余韻を確かめつつ、皇太子は席を立った。

「今日は場所を提供してくれてありがとう。とても楽しい一日でした」

「ようございました。それで感触は・・いや、つい下品な言葉を」

ヤナギヤはわくわくしながら尋ねた。

リビングからは時折笑い声が漏れ、本当に楽しそうに感じたからだ。

「まるで夢みたいだよ。本当に再会できると思わなかったから。

今度は東宮御所にお呼びしましょう。ねえ?」

振り返ったヤマシタの顔は一瞬ゆがんだが、次には笑顔になった。

「はい。そうですね」

ヤマシタにはついさっき帰ったマサコが、ヤナギヤに何の礼も言わずに

帰ったことが気になっていた。

今日、ここで会う事は彼女も承知の筈だったのに。

しょせん、父親の部下などは眼中にないという事だろうか。

まだ若い娘のくせに随分と高飛車な。

ヤマシタには不安が募った。

あの女性は本当に皇室でやっていけるのだろうか?

「マサコさんはフカヒレが好きなんだそうです。だから次に会う時は

最高の料理をお出しすると約束しました。ヤマシタ、それでいいよね?」

「え?はい。大膳によく言いましょう」

「食べ物の話で盛り上がったりしたんです」

ちょっと照れた顔で皇太子は言った。

この無邪気な純粋な将来の天皇の結婚は間違いであってはならない。

間違いであっては・・でも・・・ヤマシタは一人悩み始めたのだった。

 

 

 


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