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韓国史劇風小説「天皇の母」77(フィクションなのよ)

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厳しい冬が過ぎ、世の中は春になっていた。

国民にとっての慶事である皇太子成婚は6月9日に決まっていた。

納采の儀も終わり、今頃はお妃教育を頑張っている時期・・誰もが「その日」を待っている筈。

国民は忘れていない。

今上が結婚した時の、あのすばらしく晴れ渡った空を。

日本中が幸せに酔いしれ、「世紀のご成婚」に拍手をおしまなかった。

あの時は、軒下の花ですらお祝いの為に咲いたのではないかと言われたものだ。

いわば今上・・当時の皇太子夫妻の結婚は「日本の復興のシンボル」の一つだったのだ。

あれから30数年。あの夢をもう一度。きっと誰もそう考えている筈。

 

「東宮職は大変らしいですよ」

元附育官だったハマオの元には年に数回、宮内庁及び東宮職OBが集まって

ささやかに酒を飲む習慣があった。

昔懐かしい先帝陛下の時代をしのびつつ、過去の栄光に酔う・・・・というのが主な目的。

しかしながら、今回はとてもそんな雰囲気ではなかった。

無論、「あのころのヒロノミヤ様はおとなしくて」

「いやいやアーヤの突拍子のなさといったら」などという「じいや」達の自慢話もあるにはあったが

話題はいつも一方方向に流れ、やがて全員がため息をつき、黙り込むといった感じだ。

 

「正直、今、東宮職に勤めていなくてよかったと思いますよ」と誰かが言うと

「その通り。宮仕えは気を使うけど、先例通りにやればいい部分もあって楽といえば楽だった」

と誰かが目を細め、するともう一人が「今の東宮職は常識が通じなくなっているらしいから」と言う。

「一体、みなさん、どこからそんな情報を?」

ハマオは興味深げに言った。自分は一線を退いてからは静かにくらしている。

年に一度か二度、たとえば皇太子の誕生日のお茶会などに招かれる以外は皇室との縁も切れている。

「各省庁から色々と。いやはやオワダマサコという女性は理解に苦しむらしい。

お妃教育一つにしてもねーー皇后陛下やキコ妃の半分の時間にしたそうですよ」

「ハーバード大出だから必要ないくらいなんじゃないの?」

「そう思うでしょう?ところが・・・これがなかなか。神道を学ぶのに英語のテキストを用意しろとか、

宮中の作法についていちいち「そんな事をする意味がどこにあるんですか?」と口答えして

なかなか進まず、とうとう教師の方が音を上げたという話です」

「理屈っぽいのは高学歴女性にはありがちな事でしょう。かくいう皇后陛下だって・・・」

「皇后さまは素直でいらしゃった。キコ妃などは砂が水を吸うようにと言われた程ですよ。ところがオワダさんは

いちいち水を跳ね返してくる。なぜそんな事を覚えなくてはならないのか。何の為にやるのか。必要ないのでは

ないか・・・とか。思うに彼女は宮中を馬鹿にしているんじゃないかと」

「言いすぎですよ」

ハマオはちょっとたしなめた。敬虔なクリスチャンとして人の悪口は言ってはならない。

神の前では誰であれ平等なのだから。

「それだけじゃないですよ」別の一人が憮然として言った。

「これは悪口でも噂でもなく事実ですよ。オワダ嬢は東宮御所をレストランと勘違いしているんじゃないかって話」

「レストランとはまた・・・・」

「大膳課が言うんだから間違いないでしょう。オワダ嬢が東宮御所に来るときはたいてい夕食時。

その時はフランス料理か中華料理のフルコースを出さなくてはならず、ワインも晩餐会用を何本もあける。

それでも2時間程度で帰ってくれるならいいですが、夜中までいる。当然酒のつまみは出さなきゃならないし」

「嫁入り前の娘が夜中まで?」

「ハマオさん。今や同棲すら当たり前の世の中ではありますがね。でも皇室にあってはやっぱり時間厳守と

帰り時を図るというのは常識の一つでしょう。オワダ嬢の場合、東宮職員がさりげなく時間を言っても帰らない。

延々と皇太子としゃべっている。皇太子は皇太子で話題が尽きても帰れとは言わないし」

「マサコさんの態度が人を食ったようだというのは外務省から聞いた事がありますよ。彼女、何でも外務省を辞める時

「皇室外交をしてまいります」と言ったそうじゃありませんか。「私は国家と結婚する」とも。みんな拍手したけど内心では

「有給使いまくりで休んでばかりいたくせによくいうなあ」と思った連中多数」

みな、どっと笑った。

「すごいなあ。記者会見での「オーケストラ」に匹敵するよ。自分じゃそれが大言壮語だって知らないのか?」

「知らないでしょ。あれは父親の教育のたまものでしょうね。で、宮内庁職員に対してもそんなだから、誰からも嫌われてる」

「嫌われてるといえば・・ほら、2月の陛下主催の晩さん会。あれはひどいものでしたなあ」

2月の晩さん会とは、今上がオワダ家を紹介する為に全皇族と臣籍降下した元皇族・親族を招いたものだった。

しかし、1月の電撃婚約内定報道が尾を引いていたのか、皇族で出席したのはアキシノノミヤだけだったという話。

「長老のお怒りようといったら、そりゃあ大変なもので。お上もああみえて気が強いから、過ぎた事をいつまでも言われて

頭にきたらしくて。皇后がとりなしたという話」

「根回しを怠るなんて陛下らしくないけど・・・長老もしつこい。あんな形で復讐しなくても」

「そう?僕は長老の味方もしますね。オワダ家は官僚のもっともも悪い例を表現しているような気がする。たとえば・・ほら、

ミキモトからパールをプレゼントされて、慌てて返却した事があった。地位の高さにあこつけてあれこれ受け取るのが

当然だと思っている」

「それは金箔箪笥の時もそうだった。皇室御用達を紹介したのにわざわざつてを頼って安く上げようとした・・・筈なのに

金額そのままで金箔をはれときたもんだ」

「あの金箔箪笥事件、オワダ家は被害者じゃなかったの?箪笥業者が勝手にお祝いの気持ちで全部に金箔をはったって」

「そう思いますか?私はそう思いませんね。いくらお祝い心があっても単価が数百万も上がるような事しますか?

あれは無言の脅しがあったと思いますよ。その証拠にオワダの細君が何て言ったと思います?

「オワダ家としては100万くらいのものを買うつもりだった」と。桐の箪笥が100万で買えると思いますか。あれは多分

最初から一銭も払う気はなかったのかもしれない」

「ああ、金を払う気なしってのはあるかも。うちの女房がキミジマのドレスが好きで。とはいってもあそこの服は高いでしょう。

年に1着がせいぜいですよ。ところがオワダ家はここ半年で数着以上注文しているんだそうです。

でも、一銭も支払していない」

「ええ?それ、ほんとうですか?」

「本当だそうですよ。キミジマも心配になってオワダの奥さんに聞かざるを得なくて。そしたら「皇室に入ってしまえば

どうとでもなる」と言ったそうで。万事が万事そんな調子だ」

「一言でいうなら金に汚いんでしょうな。どんな過去がそこにあったのやら?チッソは金持ちでしょうに」

「金持ちほどケチですよ」

またみんな笑った。OBが集う場がこんなに下世話になっている事にハマオは驚いてしまった。

それでちょっと不愉快そうな顔をすると、一人がすまなそうに言った。

「我々もこんな話をする為に集まったのではないのですが」

「そうでしょうとも。もうすぐ皇太子妃になる女性をあれこれというなんて。姑根性ですよ。まるで・・・大昔の宮中のようだ」

「そうはいってもハマオさん。オワダが異質なのは確かです。そして皇族方はみんな反対している。なのに皇太子は

決めてしまったという事です。我らがヒロノミヤ様は間違った選択をしたのです」

間違った選択。

ハマオは胸が痛くなった。

かつてイリエ侍従長が言っていた。

「ヒロノミヤはご優秀。アヤノミヤはやんちゃ。常に兄宮をたてて優秀の仮面をつけておかないと皇位継承に関して

災いが起こる」と。

だから自分としては殊更に「ヒロノミヤ様は誰にでも平等で優しく、慎重なご性格」といい、「アヤノミヤ様はやんちゃで

元気すぎる」と言ってきたのだ。

実際、ヒロノミヤは臆病ではあったけど素直で側近の言われるがままにきちんと行動してくれた。

それが・・・・・妃選びで思わぬ我を発揮してしまった事でこのような事態に。

その責任は自分にもあるのではないかとハマオは思った。

「回りの言う事をよくお聞きください。聞き分けの悪い事をおっしゃってはいけません。皇族は常に平等に。贅沢を言っては

いけません。質素倹約こそ美徳です」と教え込んできた事が、無言のプレッシャーになってきたのか。

オワダマサコという女性は真逆なのかもしれない。

あの記者会見を見て暗澹たる気分になった。

30にもなろうとするいい歳をした女性が「殿下は人間ができている」などと生意気な口をきき、「マサコさんの事は

全力でお守りすると言って下さいました」と言質を取るような真似をする。

場をわきまえぬ、そういうしつけをうけた事のない・・・・・これが新しい女性なのか。これが外交官になろうとした女性なのか。

(おーちゃん)

幼いヒロノミヤの顔が浮かんだ。

今も幼くていらしたら自分が軌道修正して差し上げるのに。

ああ・・・これからどうなっていくのだろうか。

ハマオの心は痛んだ。

 

 


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