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韓国史劇風小説「天皇の母」79(フィクション?)

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その報道は突然始まった。

しかもセンセーショナルに。

「女帝と呼ばれ始めたミチコ皇后に囁かれる宮中独裁支配の内情」

皇太子の結婚式が近づいているまさにその時に週刊誌が書き立てたのだ。

・ 今上は皇后の尻に敷かれていていいなり

・ オワダマサコ嬢が着ていた異様な黄色の皇室ファッションは皇后のさしがね

・ 皇后は衣装代などに贅沢三昧

・ 宵っ張りで夜中に女官を呼んでインスタントラーメンを作らせることも

・ 皇太后を今までの吹上御所に置き、あらたに新吹上御所を建築。

  皇后の希望で皇太后とは同居しない。

・ 新御所の間取りなどに一々こまごまと口出し。それだけではなく女官や侍従の

  仕事にも口を出す。

・ かつて宮中改革者だった皇后が時代を経て、誰よりも保守派になりマサコさんと

  対立するのでは。

・ 皇后のあだ名は「女帝」・・・・・証言はオウウチタダス。

・ ハマオ氏「今の皇室は楽だけを国民と共有しているのではないか」

 

この記事を目にした時、皇后はあまりのショックの為、口がきけなかった。

オオウチタダスとは誰なのか?なぜこのような根も葉もない事を?

誰が許可し、誰が取材し、どういう経緯で書かれたのか。

記事の内容の一つ一つが全て皇后の人生を全否定していた。

「これはひどいね」

さすがに天皇も顔をしかめた。

「一体、オオウチタダスって誰なの?おたあさまをそんなによく知っている

宮内庁職員がいるという事なの?どこの誰よ。ハマオさんが本当にこんな事を

言ったの?」

ノリノミヤは怒り心頭で言い放った。珍しくきつい口調だ。

「サーヤ、言葉が悪い」

天皇は週刊誌を置き、少し考える。

「内部にそういう話をする人間がいるという事だろうか」

先帝の時代、戦後になって宮内庁職員が全員国家公務員の持ち回り制になっても

イリエやトクガワのように戦前から皇室に仕える内なる者がいた。

彼らは「オモテ」の宮内庁に対して「オク」と言われ、オクの権力ははかりしれないもの

があった。

「陛下のご意向です」といえば、全てが通るような空気があった。

しかし、新しい時代になりそういう者たちがいなくなり、宮内庁は官僚の

赴任先の一つとなり、かつてのような「命をかけて陛下をお守りする」

というような人間はいなくなっている。

宮内庁というのは一種の特殊な職場で、箔付には持って来いの場。

そんな場所になりつつあるのが時代の流れだった。

しかし、内側から皇后を告発するような人間が出てくるとは思えなかったのも

事実。

宮内庁長官、侍従長、女官長、誰に聞いても知らないというし、彼らを疑いの目で

見る事は天皇にも皇后にもできなかった。

しかしながら、この記事を境目に疑心暗鬼の空気が流れ始めたのも事実で。

「抗議をすべきかどうか」

侍従職、女官職を通して相談したが、誰もそうした方がいいともしない方がいいとも

言わない。

何か言えば白状したように見えるのだろうか。

「抗議をすればよけいに事は大きくなりますゆえ、ここは黙っていた方が」

やっとのことで長官が言う。確かにその通りだ。

「嫌です。きちんというべき事は言った方がよろしいのでは?

だって事実ではありませんもの。それに、もし内部の人間が本当にこんな事を

雑誌に話したのだとしたら大問題でしょう」

珍しく皇后が興奮して叫ぶように言った。

「その件については内部で調査いたしますので」

「調査ってどのようにするのですか?結果、どうするのですか?」

「ミー」

天皇がたしなめる。皇后の気の強さと我慢強さ、そして完璧主義は

時折相手を追及してしまう。

「長官がそのようにいうのだから任せよう」

天皇の言葉に誰もが黙り込んだ。

しかし、雑誌を通して大っぴらにバッシングされた皇后は深く傷ついた。

贅沢?鉛筆を一本使うにも神経をとがらせてきたのに?

宵っ張り?インスタントラーメン?誰の話をしているのか。

衣装代がかかる?御所の建築も皇后のせい?

誰が何の為にそんな事を。

「今は慶事を控えておりますので、あまり騒ぐ事は。所詮、雑誌の記事に

すぎません。忘れられるかと」

慰めるように長官は言った。

「おたあさま、ドンマーインよ」

娘の慰めも今の皇后には悲しかった。

今まで、自分の味方は国民であったし雑誌であったし、つまらない事で

バッシングされたりしないように一生懸命に生きてきたのに。

立ち居振る舞、服装、表情に至るまで完璧に「ミチコ」を演じてきたのだ。

もはや「素」の自分が何であるかさえ、わからない程に「皇族」になりきって

きたつもり。

それなのに、ここにきてまだ自分は「皇族」ではないといわれているのだろうか。

本当に皇族として見られているなら、このような記事は書かれる筈がない。

このような事を書かれるからには、自分が一段低く、軽く見られているという事だ。

もしこれが皇太后なら、絶対にこんな記事が出る筈がない。

それを考えると胸がつぶれそうだ。

所詮は「ショウダミチコ」のままなのか?皇后の地位にあってさえ。

何より悲しかったのは、夫である天皇が「事なかれ」で流そうとした事だ。

昔なら・・・・皇太子時代なら・・・・

孤独が皇后の心をむしばんでいった。

 

巷の「マサコさんフィーバー」は少しも盛り上がらなかった。

女性週刊誌を始め、ワイドショーは懸命に「スーパーキャリアウーマン」で

「学歴優秀・才色兼備のオワダマサコさん」を特集して、毎日のように報じるが

それでも関連グッズが売れるわけでもなければ、株価が上昇するわけでもない。

「あんなに嫌だって言ってたのに」

というのが国民の素直な意見だったろう。

それでなのか、「皇太子とマサコさんの恋」の話はいつしか

「国家の為に泣く泣く嫁ぐオワダマサコ」という戦略に変わっていった。

・皇太子の度重なる要請に逆らえず

・皇太子の初恋が実った

・三顧の礼をもって迎えられた

・キャリアを捨てて日本一保守的な皇室に嫁ぐいたいけなプリンセス

そんなイメージ戦略だ。

 

正直、ヒサシは自分たちがここまで皇室に適応出来ないものだとは思っていなかった。

皇室なんか、入ってしまえばどうにでもなる。

外務省の機密費を流用し、入内する費用にはこと欠かなかったし、政府もそれを

後押ししてくれている。

外務省のオオトリ会を通して学会もバックにつき、同和も味方。

何も怖いものはないはずだった。

それなのに、晴れの婚約記者会見ではマサコが着ていた黄色のスーツが

「妃殿下きどり」と揶揄され、言葉遣いがどうのとか生意気だと言われた。

その後に参内した時のユミコの着物の帯が失笑を買った。

ミキモトからパールを贈られれば即刻返却を求められ、金箔箪笥は品がない

と言われた。

3代前が不詳と言われた時にはさすがに肝が冷えたが、同和の介入で

出自を調べるのを中止させることが出来た。

しかし、「墓参り」くらいしなければ恰好がつかず、結果的に新潟に急きょ

先祖の一人?を目当てに作った。

それなのにオワダ本家からは「うちとは関係ありません」などと言われ、大恥を

かいた。確かにその通りなのだが天下の皇太子妃の家と縁続きになるのだから

そこらへんは調子を合わせてくれてもよかったのに。

着物一枚、箪笥一つにしても「皇室御用達」を使う事を強要された。

正規の値段で買うなんて馬鹿馬鹿しいから、色々画策したのに品格を問われるとは。

 

何より当のマサコが、少しもお妃教育が進まない。

今まで着物を着た事がないから「嫌だ」と言い張り、それでも納采の儀には

何とか振袖を調達し着せたものの、歩き方を注意しただけで自信をなくして

「もう着ない」と言い張った。

お妃教育では立ち居振る舞いや言葉遣いをかなり注意されているようで、それが

面白くないのか「くだらない」と一蹴し、いつまでたっても優雅な振る舞いにならない。

皇室に入るにはあたっては旧皇族、皇族、元華族などの親戚回りも重要な仕事

なのだが、マサコは緊張しすぎて顔は真っ赤になるわ、首にアトピーが出るわ

大騒ぎだ。だんだん煩わしくなって来たのだろう。

不機嫌な顔をすることも珍しくなくなった。

娘をなだめすかし、おだてて毎日外に引っ張り出すユミコは

慣れない社交としきたりに四苦八苦し、事あるごとに「私たちをばかにして」と

目に見えない相手をののしった。

「あいつら、私たちが何も知らないと思って心の中では馬鹿にして笑っているのよ。

宮内庁の偉そうな事ったらないわ。何様のつもりよ。まーちゃんが可哀そうだわ」

何十年たっても癒されない「恨」

日本最高の家に娘が嫁ぐというのに、突き刺さるようなコンプレックスの数々。

悔しさと無様さに歯噛みする。

 

そんな折に出てきたオオウチタダス。

実はヒサシと外務省・・そして裏のオオトリ会が関わった空想の人物の

言いがかり的な話。

雑誌の買収など朝飯前だ。

マスコミを制したものの勝ちだ。

ヒサシはほんの少しだけ溜飲を下げた。

 


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