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韓国史劇風小説「天皇の母」82(絶対にフィクション)

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皇室を敬うもの、貶めるもの、さまざまな思惑に彩られた朝がやってきた。

その日は朝からひどいどしゃぶりだった。

「何だか不吉な」と感じたのは誰だったろう。

天皇と皇后は粛々と式の段どりに入り、ノリノミヤは無口だった。ただ、大好きな兄宮の結婚式に

雨が降った事、自分がこの結婚を少しも喜んでいない事に自己嫌悪になっていた。

アキシノノミヤ家でも粛々と準備を始めていた。

雨音が激しく、小さな内親王はしきりに窓際を見る。庭の土がドロドロになって

流れを作りやがて水がたまって池のようになっているのを、面白そうに眺めていた。

若い筆頭宮家の夫婦はあまり口をきかなかった。

天気と同じように重苦しく、そして湿った空気が流れていた。

 

東宮御所では皇太子が一世一代の晴れの日を迎え、得意満面・・・の筈だった。

6年越しの恋とか、一途な愛とか十分に持ち上げられたし、この結婚に対する自分の思いが

きちんと通じた事は一種の「勝利」だったと思う。

ふと、この結婚は「戦い」だったのだろうかと思う。

自分はオワダマサコを欲し、最初はそれが先帝や宮内庁によって阻止されかけた。

それを覆し、あくまでも彼女に拘った自分。

彼女は弟宮の妃よりも学歴があり美人で金持ちで。いわば「皇太子妃」にふさわしい女性だ。

今でも思い出す。

弟が結婚した日の朝の妙なうきうき感と家族の笑顔を。

自分よりも6歳も年下なのに、妃問題をあれこれいわれていたのは自分なのに、その合間をするっと

通り抜けてさっさと結婚を決めてしまった。

まさに遠慮も何もない行動。でもあの時は素直にめでたいと思ったし、キコ妃はとてもよくできた女性だった。

でも、内親王が生まれたあたりから考えたりする。

「もし自分が結婚できず世継ぎに恵まれなかったら、弟の子供が次世代になるのだろうか」と。

生まれたのが内親王でよかった。これがもし親王だったら自分は心の動揺を隠せなかったろう。

そんな思いもあって、自分はオワダマサコを選んだのだと思う。

彼女がチッソの血筋だとか、気が強くてダメだとか、家柄が・・・とかいろいろ言われる程意地になったのは事実。

反対されればされる程、さらに意固地になった。

そして今、勝利の朝が明けたのだ。

それと同時に、皇太子の心に微妙な空気が流れる。

結婚を決めた達成感なのか、今一つ盛り上がらないのだ。

これから彼女と結婚して幸せになるというのに、その姿が想像できない。

なぜなんだろう。

「殿下、そろそろ準備にかかりませんと」

侍従長が呼びに来た。みな、心なしか嬉しそうな顔だ。当然だ。

自分の結婚は東宮職すべての望みだったのだから。

ゆえに、今、自分は幸せにならなければと思う。マサコと理想の「東宮家」を作っていくのだ。

 

オワダ家では朝からの雨にも関わらず、華やかな雰囲気が包んでいた。

朝の3時にたたき起こされたマサコは母の「まーちゃん、今日は晴れの日なんだからしっかりしなくちゃだめよ」

というセリフを何度も聞かされ、少々うんざりしていた。

妹達は早起きが苦ではないらしい。

自分よりも早く洗面をすませ、テーブルについている。

この日のとっておきの衣装に身を包んで化粧をする。母がつききりだった。

一つ一つの事がイベントのように華やかで面白い。まるで他人事だった。

「いい?皇太子妃になるんですからね。しっかりしないとダメよ。みんなを見返してやるの」

「皇太子妃よ!私は皇太子妃の母ですって。これってすごいじゃない?」

「これからは何だってできるわね。なんだって」

母のセリフは意味不明だったけれど、マサコは嬉しかった。

「お姉さま、おめでとうございます。今日は頑張ってね」

レイコもセツコも笑顔が絶えないようだった。

「ありがと、頑張るわ」

マサコはそう答えてテーブルについた。小さなグラスにシャンペンが注がれる。

父はおごそかに真顔で乾杯の音頭をとった。

「今日の式が終われば皇太子妃殿下だ。しかし、どんな時でもオワダ家の娘であることを忘れるなよ」

そのセリフに家族はしーんとなった。

「今こそオワダ家は家族として一丸となってマサコを盛り立てていかなくてはならん。ユミコもレイコもセツコも

いいな?オワダ家の栄えある皇太子妃を盛り立てる。それが我々の義務だ」

マサコは思わず涙ぐんだ。

小さい頃から父に認められる事だけを夢見て頑張ってきた。

成績優秀な子が好きな父、その期待に応える為に一生懸命に勉強をした。

父と同じ外務省に入ることも躊躇した事はない。

勉強でも仕事でも常に父が一緒にいてくれれば心の安定があったから。

皇太子妃になる事も父の希望だ。本当はあんな背が低い面白味のない男なんて

まっぴらごめんなのだが、父が結婚しろというから・・・・彼の妻になれば間違いはないと。

多分そうなんだろう。何がどう間違いはないのかよくわからないけど、とにかく父の言う事を

聞いていれば間違いはないのだ。

そう思って、ここ数か月蛆虫のように張り付いてくるマスコミにも笑顔を向けてきたし

意味があるのかないのかさっぱりわからないお妃教育も受け、しきたり等にも従って

来たのだ。

「皇太子妃になってしまえば全部こっちのものよ」

心が折れそうになるたびに母はそういって慰めてくれた。

そうか・・皇太子妃になってしまえば・・・・我慢してきたのだ。

けれど。ふと不安がよぎる。

本当にこれでいいのだろうか・・・・・・・と。

父の言うとおりに行動することが「幸せ」だと信じてきた。そしてそれは常に正しかったと思う。

父は自分を日本で最も高い家の妻にしてくれる。

皇太子妃になれば将来は皇后だ。日本でもっとも地位が高い女性になるのだ。

それがどんなに恵まれて幸せな事か、自分はまだよくわかっていないのだと思う。

なんせ実感がないし。

でもそれがきっと「幸せ」なんだと言われればそうなのだろう。

 

宮内庁差し回しの車が到着した。

大雨がふりしきる中、オワダ邸の前には大勢のマスコミが詰めかけている。

今、日本中の視線が自分に向けられているのだ。

どの局も「お祝いコメント」一色で、すでに「日本一かっこいい女性」として紹介されている。

誰がそれを想像したろうか。

留学して修士論文を出せなかった事から始まって、ハーバードでのみじめな一人ぼっちの自分や

部を立ち上げたはいいがうまくいかず逃げ出した事など・・ネガティブな思い出がよみがえる。

それらの人々に(自分をみじめにさせた人々)に対してみせつけてやりたい。

「皇太子妃」である自分の姿を。

 

「両陛下のおぼしめしにより・・・・お迎えに上がりました」

宮内庁の口上が始まり、マサコは両親と共にうつむいてそれを受け、玄関先に出た。

ふりしきる雨は一段と強くなっている。

妹達はすでに雨のように涙目になっている。どうして泣くのかしら?めでたいのに。

マサコは近所の小さな子から花束を受け取った。

満面の笑みで手を振るとみな「わあ」と言った。なんて誇らしいのか。

お手ふり一つでこんなに喜ぶなんて。やぱり自分は特別な存在なのだ。

両親にあいさつし、車に乗り込む。

さあ、頑張らなくちゃ。

その時、雷が鳴った。雨はひどくふりしきり、記者たちのコメントもかき消す勢いだった。

「何だか不吉な」

その場に居合わせた人々はみな一瞬そう思って、それを慌てて打ち消した。

でも多分心のそこで

「自分の結婚式がこんなに土砂降りだったら嫌だな」

「こんなに日に結婚式なんて気の毒な」

思っていたに違いない。

「雨でも式は賢所ですし、朝見の義は皇居ですから問題ありません」とレポーターは

カメラの前で話していた。

この時からすでに本心を隠した報道を余儀なくされている事にまだ誰も気づいていなかった。

雨の中、宮内庁の車はマサコを乗せて皇居へ向かった。

 


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