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韓国史劇風小説「天皇の母」35(フィクションよね)

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「イリエさん。皇后陛下が・・・女官長さんが困ってます」

部下からの報告にイリエは重い腰を上げた。

「皇后さん・・・ボケてしまわれたんやろか・・多分そうやろうなあ」

彼はぼんやりと考えた。

その原因を「腰椎骨折の時に外科手術をしなかったせい」と言われたのは知っている。

その責任を自分に追及されていることも。

外科手術させなかった張本人は自分なのだから。

(しかたないやないか。皇后さんは皇族や、神聖なお体なんや。なのにメスを入れる

なんてそんな事あってはならん。どうしてもダメや)

イリエの私室がノックされて、車椅子姿の皇后が入ってきた。

相変わらずふくよかで可愛らしい。不敬ながらも可愛らしさは昔と同じや。

こんなに可愛らしくあれるのは穢れがないから。童女のように清らかだから。

「イリエ」

皇后は自分の名前は覚えているみたいだった。

「はい。陛下」

「女官長が私の服装を注意するの。古い宮廷服は着ないでって。でも仕方ない。

今は非常時なんだもの。贅沢を言ってる時代じゃないわね」

「・・・・・・」

どうやら皇后の意識は戦時中へ飛んでいるようだ。

「陛下、今は平和ですよ。戦後40年ですからね。40年も日本は戦争をせずに

頑張ってきたのです。それもこれもみなお上のご威光でございましょう」

「そうね。きっと。そういえばお上はどこ?お上の所に連れて行ってね」

車椅子は静かに部屋を出て行った。

 

戦後40年・・・・・民主主義の下、「人間宣言」した天皇は40年も君臨出来たのだ。

戦争が終わった直後、天皇は「大元帥陛下」でも「現人神」でもない「人間」に

なった瞬間、皇室は終わったと思った。

11宮家が臣籍降下し、華族制度がなくなった時、今度こそもうだめかもと思った。

でも戦後の皇室は「戦後」という世相に合わせて努力して変わってきた。

その最大たる功績が民間から皇太子妃を迎えたことだろう。

あの時の皇后様達の反対っぷりと言ったら・・・・でも、あんな元気な頃が懐かしい。

民間出身の皇太子妃の評判は上々というかそれ以上。

ゆえに旧華族・皇族らからは憎まれ、結果的に皇太子夫妻と彼らとの絆を断ち切った

結果になった。

「ミチコの悪口を言うあの人たちは一体何者だというんだろう。考えが古すぎる。

いずれミチコの方が位が上になるというのに」

皇太子はそう呟いた。新しい時代の申し子である皇太子は「開かれた皇室」の

実践には積極的で、また「国民と共に歩む」というスローガンを掲げ、次から次へと

公務を増やしており、またそれは非常に好評だ。

天皇はそんな皇太子に「東宮ちゃんがいるから大丈夫」と太鼓判を押した。

まあ、「大元帥陛下」だった天皇にはそこまでやるか?という思いも多分にある。

けれど、「今は時代が違うのだから」と口を挟まない。

天皇自身、「自分は古い人間だしね」とおっしゃる。

けれど・・・とイリエは思う。

「皇室に古いも新しいもあるか」と。

古代より皇室は万世一系として脈々と受け継がれてきた。戦、内乱、不正、闘争が

あっても皇室は男系で繋がって着た。その歴史は2000年にもなる。

世界一の血筋と歴史を持つ皇室の長にいるのが陛下で、次世代は皇太子。

無論、時代によって皇室の役割も様々に変わってきた。

でも、ただ一つ「神聖」という意味では絶対に変わっていないと思う。

皇室は神道の総帥であり、神がやどる場所である。

本当に存在を脅かすような者が現れたら自浄作用が働き、排除されてきた。

かの、光明皇后・・・あれもまた藤原の娘として初めて皇后になりそれまでの慣例を

打ち破った。

いわば藤原氏と時の天皇の思惑が一致したのだ。

さらに、その血筋を天皇の座につけんと、阿部内親王を無理やり皇太子に立てて

二度も天皇の座につけた。

しかし・・・結果的に女系になる事はなかった。藤原4兄弟の野望は家柄といい血筋

といい聖武天皇よりずっとよかった長屋王の死によって濯がれた。

家康の孫が無理無理後水尾天皇に嫁いだ時もそうだった。

間に生まれた女一ノ宮は早々に皇位についただ結局はそれ1代に終わった。

皇室とはそういう場所なのだ。

 

しかし・・・そのことを皇太子はわかっているだろうか。

民間出身の皇后が産んだ男子の血が今後とも脈々と続いていくかどうか。

それは神のみぞ知るだ。

11宮家の中でも断絶した家は多い。けれど降下するときの

「もし一朝事があった時にはいつでも皇籍に復帰できるように身を慎むこと」

という天皇の言葉を守り、今もって清い生活をして男系をつないでいる家もある。

それらをいっしょくたに「何者か」というのは、皇太子のあさはかな考えではない

だろうか。確かに皇太子には2人の男系男子がいる。

しかし、二人とも結婚し子供が出来る保証はどこにもない。

天皇の弟は3人いたけど、子供が生まれたのは末っ子のミカサノミヤケのみ。

ミカサノミヤケには男子が3人生まれたが、長男のトモヒトはガン。次男も病気がちで

しかもいまだに独身。三男のタカマドノミヤには3人の娘しかいない。

ヒタチノミヤは元々子種がない。

何よりも皇太子は自分がどのようにして生まれてきたかを自覚すべきだ。

要するに先細り。いずれ旧皇族に復帰を願って男系をつながなくてはならない時代が

やってくるのではないだろうか。

確率的には二人の兄と弟に男子が生まれる可能性は低い。

ゆえに・・・・と、イリエは思う。

やっぱり東宮さんはもう少し旧皇族・華族連合とは仲良くしなくてはならない。

皇室には藩屏が必要だ。これがなければ自浄作用は働かない。

もしかして知らず知らずのうちに禍々しいものが入り込んでしまったら・・・・・

 

何だか疲れた。

お上はわかっていらっしゃらない。皇室の危機だという事を。

今こそ、「皇統」に関してお上の考えを表に出すべきなのに。

重い足取りで帰路につく。宮内庁の庁舎を振り返り、宮内庁病院を振り返った。

何もかもむなしいなあ・・・・

二重橋。かつて華やかな馬車の音が鳴り響いた・・・・馬こそがふさわしい二重橋。

でも、馬は馬糞を出すから使わないらしい。

馬糞ごとき掃除をすればいいじゃないかと思うが、それすら困難な世の中。

一体戦後の繁栄とはなんだったのだ?

 

イリエは自宅へ帰り、眠りについた。永遠の。

 

 

 


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