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韓国史劇風小説「天皇の母」84

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御所の庭ではセミの声が響いていた。まるで合唱のようである。

そんなセミの声を聞くと、慰められるようでもあり、または夏の様々な行事の事で追い立てられているような

気もする。

皇室にとって夏は特別なもの。

6月23日、8月6日、9日、15日と忘れてはならない4つの日があり、「慎みの日」としている。

この日は外出を控え、静かに黙とうし祈る。

それが今上の決めたおきてだった。

いまだに「戦争責任」という言葉を使う者がいる。先帝は戦犯だと堂々と言うものがいる。

そんな声が聞こえつつも、静かに祈りそして黙とうし・・・・そんな夏。

勿論、楽しい事もある。

葉山や那須で息子夫婦や娘、孫などと過ごすのは本当に楽しい。

心の慰めであり、「今まで生きていてよかった」と思える瞬間である。

思えば、その「瞬間」の為だけに子育てをしてきたようなものだと思う。

それは皇族だろうと庶民だろうと同じだろう。

子供が生まれた瞬間から、数々の心配と努力と悲しみや苦しみを乗り越えて一人前にして

ほっと一息ついたその時、「ああよかった」と思うのだ。

そういう意味では皇后は半ば夢がかなえられたといっていい。

後は皇太子夫妻に子供が生まれ、ノリノミヤが結婚すれば。

ノリノミヤは生来おっとりとした性格で自分から行動しない。

本当はたくさんの能力と才能にあふれているというのに、それを殊更表に出さず黒子に徹する。

それは体が弱い自分のせいだと皇后は思った。

体調を崩したり、落ち込んだりするとすぐに娘を頼ってしまう。

ノリノミヤは辛抱強く母を看病し、愚痴の聞き役になり。そんな生活に慣れてしまい、気が付いたらもう

嫁に行く年齢になってしまっている。

しかし、婿選びは遅々として進まない。

皇太子の結婚に時間がかかりすぎたのも原因の一で、「恋愛結婚こそよい」とされる現代では、昔のように

回りが勝手に人を選んで見合いさせるわけにもいかない。

ノリノミヤはプライベートで外出することもほとんどないし、出会いは限定されてくる。

どうしたものか・・・・本当に頭の痛い問題だ。

本人がそれほどでもないのが救いではあるが。

今はノリノミヤはマコ内親王に夢中である。

姪っこが可愛くて仕方ないらしく、しょっちゅうアキシノノミヤ家へ行っては遊び相手になっているらしい。

普通の嫁なら嫌がるものだが、キコ妃は喜んで迎え姉妹のように仲良くしているらしい。

「この間、野鳥の観察に行く時にお寄りしたらお弁当を作って下さったのよ」と喜んでいたし。

でもいい年した娘が兄の家に入りびたりというのもいかがなものか。

さりげなく宮にはよい人を紹介するようにと言ってあるが・・・・

週刊誌等でもノリノミヤの結婚は関心事らしく、次から次へと婿候補の名前が挙がっている。

有力候補はボウジョウ家の長男。

いつも歌会始めで歌を詠む・・・・そういう家柄の由緒正しい貴公子。

一時期、ノリノミヤも夢中になったらしいが今はそれほどでもない。

公家の家柄に嫁ぐのはいいことではあるけれど。

複雑な心境になる母に考慮したのだろうか。気にしなくてもいいのに。

ともあれ、娘の結婚は母の仕事。何とかせねばとは思う。

思うがこのままずっと手元においておきたい気もして。

ノリノミヤはそれがわかるのだろう。

「あたあさまと一緒の時が一番好きよ」という。すると陛下が

「私じゃないの?」と笑っておっしゃる。宮は慌てて「おもうさまも一番ですけど。私がお嫁に行ったら悲しいでしょう?」

と逆襲すると陛下は

「そうだね。慣れるように努力するよ。サーヤが幸せならいいさ」とおっしゃる。

こんな微笑ましい会話がいつまで続くのだろうか。

 

後は皇太子に一日も早く男子が生まれること。最初は女子でもいい。

マサコの年齢が年齢なのだから一日も早くと思っていたのだが。

先日、参内してきたマサコは堂々と「3年間は子供はいりません」と発言したので、今上も皇后もあっけにとられて

しばらく言葉が出なかった。

「どうして」とやんわり聞いたら

「すぐに子供が生まれたら楽しめないでしょう」

と言った。

楽しめないって・・・何を?

皇太子は横でにこにこ笑っている。意味がわからないので「どういう意味かしら」と聞いたら

マサコではなく皇太子が答えた。

「二人きりの時間が欲しいのです。マサコはまだ皇室に慣れていませんし。もう少ししてから」

これが現代的な考え方なのだろうか。

世継ぎが大切な事は皇太子が一番知っている筈なのに、どうしてそんな発言をするのか。

「皇太子ご夫妻はまだご一緒のお部屋でお休みではありません」

こっそり報告してくれた東宮女官長の言葉に皇后は色を失った。

「どうして?」

「妃殿下が」

「妃殿下がなに」

「殿下と妃殿下は行動する時間帯が違うのです。朝はきちんと6時には起床される殿下。でも妃殿下は8時すぎまで

起きていらっしゃいません。当然、お休みになる時間も別々ですから・・・妃殿下は夜中までご自分の部屋に

いらっしゃって、他のものを寄せ付けません。下手に「そろそろお休みの時間で」などと申し上げようものなら

「プライバシーの侵害」とお怒りになります。そんな妃殿下に殿下は何もおっしゃいません。朝は妃殿下が起きて

いらっしゃるまで朝食を食べずにお待ちになっていらっしゃいます。これまた下手に部屋に行こうものなら

「プライバシーの侵害」と叱られてしまいますので。ご公務の時はそれなりに早くお起こししますが、せんだってなどは

岩手県でしたか、壇上で居眠りされて・・・」

最後まで聞いていられなかった。

東宮御所には60人もの職員が詰めて交代制で規則正しい生活を送っているのだ。

それなのに、なぜ夜更かしや朝寝が許されるのだろうか。

「皇太子は怒ったりしないの?」

「殿下は黙っていらっしゃいます。どんな時でも。ただ黙って。一言おっしゃれば3言返ってくるだけじゃすまないのです。

すぐに泣きだされたりご実家に帰りたいとおっしゃったり「こんな筈じゃなかった。約束が違う」とそれはもう・・・

そのうち、職員が何か申し上げるのもはばかられるような雰囲気になり。妃殿下がいらっしゃってわずか2か月ですが

東宮御所の雰囲気が変わってしまいました」

何と・・・・・

妃がきちんと公務を果たす事が出来るようにしつけるのが夫である皇太子の仕事だ。

それなのに何もかもやりたい放題にさせているとは。

「最初の数日はそれなりにきちんとした生活を送られていたのですが。伊勢からお帰りになってからオワダ家の母君様が

よくおいでになり、それからだんだん崩れていったという印象でしょうか。オワダ家の母君様は「私が妃殿下を助ける」と

おっしゃって頻繁に東宮御所にいらっしゃり、あれやこれやと女官に指図なさいます。調度品などをよくご覧になり

「いくらくらいするの」とお尋ねになる事も。母君様がいらっしゃる時だけ妃殿下はよくお笑いになるので、殿下もダメとは

おっしゃれないのでしょう。儀式とかしきたりとか、そういった事がたいそう苦手で、強制されているとお感じになるようで。

特に祭祀は・・・屈辱的なお顔をなさるので」

「わかったわ」

皇后はため息をついた。まだ慣れない事とはいえ・・・マサコの非常識さは群を抜いているような気がする。

そういえば先日も、懇意にしている作家に頼んで二人の為にウエディングケーキを焼いてもらった。

7段重ねの、それはそれは素晴らしいケーキで、これは皇族方が集まる時に出す予定だった。

その前にケーキを見せたらなんと、二人で「おやつ」代わりに食べてしまったというではないか。

呆れて言葉も出なかったが、仕方ないのでもう一度作り直して貰った。

結婚式の後の祝宴ではシャンパンを飲み干すし、立たなくていい場所で立ち上がったり、立ち位置を間違えるのも

一度や二度ではない。あまりに頻繁にやるのでわざとではないかと疑いすら持つ。

家族で食事をする時にもノリノミヤはキコは気を利かせてあれこれと動くのに皇太子妃だけはでんと座ったまま動かず。

しゃべらずもくもくと食事をする。

無頓着なのかおおらかなのか・・・・・

 

本音を聞き出すには参内させねばなるまい。

そこで皇后は「ケーキ作り」を提案した。

皇后、ノリノミヤ、アキシノノミヤ妃、そしてマサコを呼んでケーキを作ってお茶をするのだ。

そうすれば色々話の中で見えてくるかもしれない。

 

何がいいかしら・・・まだ夏だし、フルーツたっぷりのミルフィーユがいいかしらね。

皇后は一時、楽しいケーキ作りを思い浮かべて微笑んだ。

 

 


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