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韓国史劇風小説「天皇の母」90(フィクションよねえ)

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結婚1年目の夏。

皇太子とマサコは葉山の御用邸に滞在していた。

「海辺を歩きませんか?」

皇太子がそっと誘ってくる。マサコは返事をしなかった。

「皇太子殿下がお誘いでございます」と女官が注意したが、それも無視した。

途方にくれた皇太子は諦めて、自分の部屋に入る。

「あの・・・僭越ながら。皇太子殿下の問いかけにはきちんとお答えになるべきでございます。

でないと失礼になります」

「何様のつもり?私に指図するわけ?」

マサコは鋭い視線を女官に投げかけ、ぷいっと立ち上がるとわなわなと震え始めた。

女官はびっくりして「今、お医者様を」と叫び、部屋を飛び出していく。

 

怒りで体が震えるとはこの事だった。

皇室に入ればイギリスのダイアナ妃のように、毎日おいしいものを食べて海外旅行出来て

みんなにちやほやされると思っていたのに、求められる事と言ったら「お世継ぎを」とこればかり。

「静かな環境が必要なんだよ」と皇太子が言えば、海外旅行はもってのほかだといわんばかりに

国内の公務ばかり増やされる。

マサコは正直、児童福祉、老人福祉、障碍者福祉には全く興味がなかったし、赤十字活動にも

関心がなかった。関心がないのに公務に参加させられ、その為にやれ説明だの進講だのと

言われたら退屈のあまりに死にそうになる。

「生涯学習のようなものをお持ち下さい。アキシノノミヤ妃殿下は現在、学習院の大学院で心理学を

専攻していらっしゃいますし、手話も続けていらっしゃいます。ろうあ連盟から公務に呼ばれることも

多いですし。皇后陛下は和歌と文学をご趣味にされていますし、ノリノミヤ様は盲導犬の指導に

熱心に取り組んでいらっしゃいます」

「そういうものには興味がありません」とマサコは答えた。

「だったら外交をやらせて下さい。外国に行かせて」

「皇室における外交とは、外務省のそれとは全く異なるものでございます」

「だって皇太子殿下は皇室でする外交も外務省でする外交も同じって言ったのよ」

「それは言葉のあやというものでしょう。厳密に皇室に外交という仕事はございません」

「両陛下はしょっちゅう外国に行ってるじゃないの」

「それは招待されるからでございます。両陛下は長い年月をかけて各国の王室と友好を温められ

招待したりされたり・・・という事になるのでございます。行きたいから行くというようなものでは」

「約束が違うじゃない。何よ。晩さん会で通訳なしでしゃべったら注意されるし、話す内容は制限

されるし。私が勉強して来た事もやってきたものも全然いかせないじゃない」

「皇室は特殊な環境でございます。外国要人をお迎えするにも政治家とは違うおもてないしの

お気づかいが必要なのです。それはおいおい学んでいって頂ければ」

「私を馬鹿にしているの?今さら何を学べというの?約束が違う」

約束が違う・・・マサコの心の中はその言葉だけが渦をまき始める。

そうなると自分でも収拾がつかなくなるのだが、その事しか考えられず、それがきちんと解決

されないと次の段階にいけないのだ。

延々と皇太子に「約束が違う」と言い続けた。

皇太子は困り果てる。「マサコさんはまだ皇室に入ったばかりだから。僕も協力しますから

一緒に頑張っていきましょう」

「私が頑張りたい事はそういう事じゃないの。私は外交官になる人間だったの。あなたと結婚したら

海外へ行かせてもらえる約束だったでしょうと言ってるの。

なのに、結婚して1年経つのにそういう話はないじゃない。みんな二言目には子供を産めってそればかり。

毎日、SEXしろって言われているようなものよ」

あまりのどぎつさに皇太子は言葉を失い、まじまじとマサコを見つめた。

「そもそも人のSEXライフに口を出すなんてプライバシーの侵害。宮内庁も東宮職も何様よ」

「みな、僕達の事を考えて・・・・」

「もういいわ」

マサコは黙り込む。ここ数か月、こんな会話が続いていた。

皇太子は折に触れ、オペラやクラシックの世界にマサコを誘うのだが、彼女はそういう事には全く

興味がなかった。ゆえに演目も知らないし誰それの指揮がどうの・・などという話は退屈きわまりない

わだいで。そういう話に花を咲かせる皇太子と学友達の図は頭に血が昇るだけだった。

皇太子の登山の趣味も理解できない。そもそも山登りして何が楽しいのか。

静養したって、せいぜい海辺や付近の農家を散策するくらい。

葉山なら有名レストランはどこだとか、箱根の旅館に泊まるとか温泉を貸切するとか・・・そういう

楽しみが全くない。

 

そして今もまた「海辺の散歩」ときた。

海辺で一般人とすれ違って声をかけて、それをマスコミが取り上げて・・・ああ、うんざり。

東宮御所に戻ったら、また敵的に参内sてアキシノノミヤ妃達と一緒に食事をしなくてはならない。

キコ妃のいいこぶってる顔を見るだけでぞっとする。

話も、どこそこの施設を訪問した事だとか、アキシノノミヤのなまずや鶏の研究の話だとか

つまらない話題ばかり。

皇族というのはみんなそうなのだろうか。

皇太子と回りの学友達もおおむねそんなもので。

クラシックもオペラもテニスも乗馬も・・・無論福祉も。そんな話題についていけない自分は

陰で笑われているような気がして「もうあの人たちとは会わない」と宣言した。

皇太子の困った顔を見る時は、ちょっとすっきりした。

最初は口うるさくしきたりやマナーなどについて注意してきた皇后や女官達。

彼らにも皇太子を通じて抗議させたら黙った。

そんなささやかな「しかえし」ひどく楽しくなるほど、マサコは退屈し切っていたし、皇室に

自分の居場所がない事を痛感していた。

 

侍医が飛んできて、マサコの脈を取る。

「わなわなとお震えになって・・・それはもう」

女官のドキドキした声に侍医は耳を傾け、そしておもむろに言った。

「安定剤をお出しいたしましょう。軽いものですから落ち着きます。そして少しお休みください」

その言葉通り、マサコは薬を飲むと自室にこもり、昼も夜もなくベッドで眠り始めた。

食事の時間も眠いので、起きるのが面倒になりベッドに運ばせた。

普通ならそんな行儀の悪い事は許されないのだが、医者が

「妃殿下は精神的に不安定になっていらっしゃいます。おからだの震えもそこから来るもので。

あまり興奮させないように。お好きに過ごして頂くように」

と言ってくれたので、腫れ物に触るようにちやほやしてくれる。

特に皇太子のうろたえっぷりははたから見てても面白い。

自分が怒りをぶつける度にオタオタする皇太子の姿に溜飲を下げる自分に疑問を持つ事もなく

マサコは時々癇癪を起しては回りを狼狽させた。

 

葉山からの帰り、皇太子とマサコはほとんど会話をしなかった。

マサコは車の中で半分姿勢を崩して寝ていたし、皇太子は無表情で前を見据えるのみ。

そんな空気に、回りの者はみな戦々恐々とし始める。

 

そんなマサコの実態は、実は国民にはほとんど知られていなかった。

女性週刊誌は「マサコ様は人身御供だった」とか「かごのとり」という論調で

「マサコ様お可哀想」報道をしてくれたからだ。

「優れた能力を持ち、最高の学歴を持っている美しい女性が皇室という旧弊な世界に入り

かごの鳥にされて閉じ込められ、個性を潰されている」

この論調は、ヒサシが機密費をばらまいて女性週刊誌を買収し、盛んに書かせているもの。

さすがのヒサシも娘がここまで無能力だとは思わなかったらしく、アキシノノミヤ妃の懐妊を

きっかけにマサコを援護しなくては、国民の反感を買うと直感した。

「キコ様は先帝の喪中にアキシノノミヤと恋愛結婚。無理を通したキコ妃は皇室に入りたくて仕方なかった。

でもいざ入ってみたら、常識はずれな事ばかりして皇后を怒らせた」

系の報道も相次ぐ。

「キコ様の張り付いた笑顔は皇后さまの真似。学生結婚して社会に出た経験のない妃は、何をするでも

皇后の真似をしなくてはならなかった」とか

「子供を産む事だけが幸せではない」論調。

 

そんな報道が毎日なされるうちに、皇室ではすでにマサコに何も言えない空気が

出来上がりつつあった。

 

 


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